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第87話 反間の計
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「報告します、ただいま咸陽に赴いておりました使者様がお戻りになりました!」
この言葉を聞いたレッドキャップは急いで執務室に呼び寄せる。
しかし、執務室に入ってきた使者の従弟熊は、ボロボロになった服での登場となる。
「どうしたその姿は?一体何があった?」
レッドキャップの質問に、従弟熊は亜父を睨みつけて言い放つ。
「はい大王、私は咸陽から命からがら逃げて参りました」
「最初はウサギ共の丞相たちに賓客として扱ってもらいましたが」
「私が亜父殿の使者でないと分かった途端、私を殺そうとしてきたのです!」
「なんだと?どういう事だ!」
感情高ぶるレッドキャップに従弟熊は真相を告げる。
「そこの亜父と古参の熊武将たちが、大王を裏切りラビットたちと裏で繋がっておったのです!」
「亜父が?馬鹿を申せ!」
憤慨するレッドキャップに、従弟熊は証拠があったことを説明する。
「間違いありません大王!」
「敵の丞相が持った書簡には、上層部しか知りえない各砦の戦力や咸陽の戦力、援軍の配置先や数まで事細かに書いてありました!」
「あれは知らないものに書けるものではありません!」
断言する従弟熊に、レッドキャップはついに亜父を責めだす。
「亜父、これはどういうことだ!」
亜父は冷静に大王に進言する。
「大王様、従弟熊殿、騙されてはいけません」
「これは反間計(はんかんのけい)の離間策でございます」
「我らは決して大王様を裏切ってはおりませぬ!」
「しかし、私が見せてもらった書簡には、上層部にしかわからないことが書いてあったぞ」
従弟熊の反論にも亜父は冷静に対応する。
「では聞くが、その書簡は間違いなく私の字であったか?私の印は押してあったか?」
「使者というものはそこまで把握して、冷静に事を見極めねばならぬのだ」
この言葉に従弟熊は逆上する。
「そんな時間はなかった!俺はその場で殺されそうになったのだぞ!」
「俺じゃなかったらあの場で捕まっておったわ!」
亜父は心の中で呟く。
だからこいつには使者は務まらぬといったのだ!
目先の事ばかりに囚われて、大事な本質を見落としてしまう。
そこを諫めれば自分は悪くないとばかりに反論する。
こやつは大王家の悪いところばかりを引き継いでおる…
黙って聞いていたレッドキャップは、亜父に口を開く。
「亜父の言葉もわかるが、従弟熊の言うことも尤もだ」
「なぜ上層部しか知らぬ機密をウサギ共が知っておる?」
「それは…」
亜父は言葉に詰まる。
亜父には分かっていた。
古参の者たちの中に本当に裏切っている者がいるということを。
しかし、それを自分ではないと証明する術はない。
「大王、どうかわたしを信じてください」
頭を下げる亜父に、従弟熊は詰め寄る。
「大王!証拠がないものを信じてはなりませぬ!」
レッドキャップは困っていた。
亜父を信用したいが、証拠はない。
しかし、裏切り者がいるのも確か。
しばしの沈黙に、亜父は思う
(そうか、長年使えてきた私の言葉だけでは信用に値せぬか)
亜父はふっと息を吐き話す。
「わかりました大王様」
「もし宜しければ、私の生まれ育った森で、少し休ませて頂いて宜しいでしょうか?」
亜父の言葉にレッドキャップは何もいわなかった、いや言えなかった。
すっと頭を下げ、亜父は退廷する。
そのまま自室にも寄らずに、亜父は砦を出ていった。
自身が生まれ育った森の方向ではなく、韓信領を隔てる川のほとりに着くと、何者かが声をかける。
「レッドキャップの丞相、亜父であるな!」
亜父はすっと振り返ると、カマキリたちが立っていた。
「お前の顔は見覚えがあるぞ」
「確か鴻門の会におった大酒呑みの母里太兵衛だな?」
「いかにも、母里太兵衛である!」
亜父は思った。
(そうか…己の知恵と生涯を費やして、大王様を覇者にしようとした結果がこれか…)
(私はいったいどこで間違ってしまったのだろうか?)
(いや、これは天命なのだろうな…)
亜父は腰につけた刀を抜く。
「よいか!お前たちの主人ピットに伝えよ!」
「私はここで散り逝くが、貴様がこれからどのような政を行っていくか、あの世で見ておいてやるわ!」
「お前の王も漢王のようにならねば良いがのう」
そう話すと、自身の腹を刺し川の中に身を投げた。
「しまった!亜父を助け出せ!」
慌てて動き出す黒田家臣たちだったが、亜父の体は濁流に吞み込まれていった。
この言葉を聞いたレッドキャップは急いで執務室に呼び寄せる。
しかし、執務室に入ってきた使者の従弟熊は、ボロボロになった服での登場となる。
「どうしたその姿は?一体何があった?」
レッドキャップの質問に、従弟熊は亜父を睨みつけて言い放つ。
「はい大王、私は咸陽から命からがら逃げて参りました」
「最初はウサギ共の丞相たちに賓客として扱ってもらいましたが」
「私が亜父殿の使者でないと分かった途端、私を殺そうとしてきたのです!」
「なんだと?どういう事だ!」
感情高ぶるレッドキャップに従弟熊は真相を告げる。
「そこの亜父と古参の熊武将たちが、大王を裏切りラビットたちと裏で繋がっておったのです!」
「亜父が?馬鹿を申せ!」
憤慨するレッドキャップに、従弟熊は証拠があったことを説明する。
「間違いありません大王!」
「敵の丞相が持った書簡には、上層部しか知りえない各砦の戦力や咸陽の戦力、援軍の配置先や数まで事細かに書いてありました!」
「あれは知らないものに書けるものではありません!」
断言する従弟熊に、レッドキャップはついに亜父を責めだす。
「亜父、これはどういうことだ!」
亜父は冷静に大王に進言する。
「大王様、従弟熊殿、騙されてはいけません」
「これは反間計(はんかんのけい)の離間策でございます」
「我らは決して大王様を裏切ってはおりませぬ!」
「しかし、私が見せてもらった書簡には、上層部にしかわからないことが書いてあったぞ」
従弟熊の反論にも亜父は冷静に対応する。
「では聞くが、その書簡は間違いなく私の字であったか?私の印は押してあったか?」
「使者というものはそこまで把握して、冷静に事を見極めねばならぬのだ」
この言葉に従弟熊は逆上する。
「そんな時間はなかった!俺はその場で殺されそうになったのだぞ!」
「俺じゃなかったらあの場で捕まっておったわ!」
亜父は心の中で呟く。
だからこいつには使者は務まらぬといったのだ!
目先の事ばかりに囚われて、大事な本質を見落としてしまう。
そこを諫めれば自分は悪くないとばかりに反論する。
こやつは大王家の悪いところばかりを引き継いでおる…
黙って聞いていたレッドキャップは、亜父に口を開く。
「亜父の言葉もわかるが、従弟熊の言うことも尤もだ」
「なぜ上層部しか知らぬ機密をウサギ共が知っておる?」
「それは…」
亜父は言葉に詰まる。
亜父には分かっていた。
古参の者たちの中に本当に裏切っている者がいるということを。
しかし、それを自分ではないと証明する術はない。
「大王、どうかわたしを信じてください」
頭を下げる亜父に、従弟熊は詰め寄る。
「大王!証拠がないものを信じてはなりませぬ!」
レッドキャップは困っていた。
亜父を信用したいが、証拠はない。
しかし、裏切り者がいるのも確か。
しばしの沈黙に、亜父は思う
(そうか、長年使えてきた私の言葉だけでは信用に値せぬか)
亜父はふっと息を吐き話す。
「わかりました大王様」
「もし宜しければ、私の生まれ育った森で、少し休ませて頂いて宜しいでしょうか?」
亜父の言葉にレッドキャップは何もいわなかった、いや言えなかった。
すっと頭を下げ、亜父は退廷する。
そのまま自室にも寄らずに、亜父は砦を出ていった。
自身が生まれ育った森の方向ではなく、韓信領を隔てる川のほとりに着くと、何者かが声をかける。
「レッドキャップの丞相、亜父であるな!」
亜父はすっと振り返ると、カマキリたちが立っていた。
「お前の顔は見覚えがあるぞ」
「確か鴻門の会におった大酒呑みの母里太兵衛だな?」
「いかにも、母里太兵衛である!」
亜父は思った。
(そうか…己の知恵と生涯を費やして、大王様を覇者にしようとした結果がこれか…)
(私はいったいどこで間違ってしまったのだろうか?)
(いや、これは天命なのだろうな…)
亜父は腰につけた刀を抜く。
「よいか!お前たちの主人ピットに伝えよ!」
「私はここで散り逝くが、貴様がこれからどのような政を行っていくか、あの世で見ておいてやるわ!」
「お前の王も漢王のようにならねば良いがのう」
そう話すと、自身の腹を刺し川の中に身を投げた。
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