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第18話 ナインテールは振り向かない
しおりを挟む静かな庵で本を顔に被り眠る九尾の狐。
そこに白い眉の狐が、あきれ顔で起こしに来る。
「ナインテール様!こんなところで寝ていると風邪をひきますよ?」
本の隙間からちらりと狐の顔を見て、やれやれと体を起こす。
「どうやら私には昼寝をする時間も許されないようですね?」
皮肉めいた言葉に、白い眉の狐はやれやれと言い返す。
「ナインテール様は、私に何か言わないと気が済まないのですね」
「そんなことはありませんよ?」
ナインテールは体を起こし、執務用のいすに座る。
「それで白眉、ただ私の安眠を邪魔しに来たわけじゃないのでしょう?」
すまし顔で話すナインテールに、白眉は報告を行う。
「はい、ナインテール様がお話されていた通り、ゴブリン軍がラビット村に接触してきました」
「それで?」
「ゴブリン軍は一夜にして消えてしまったようです」
「そうですか」
ナインテールのそっけない態度に白眉は驚く。
「一夜にしてゴブリン軍2000が消滅ですよ?調査によればロードもシャーマンもいたとか」
「正確にはロードにシャーマン4名、ホブ20名ですね、あとは下級ゴブリンです」
白眉は、偵察隊よりつい先ほど報告を受けた自分よりも、より正確な情報をつかんでいる主君に驚愕する。
「驚くことはありませんよ?レッドキャップが我らに戦争を仕掛ける前に把握していただけなのですから」
白眉はもう笑うしかない。
「先生にかかればすべてお見通しですね、もしかして戦い方もお分かりで?」
ナインテールは引き出しから一枚の紙を取り出し、白眉に渡す。
「これは…今回の戦い方がそのまま書いてあるようです!まさか先に情報が届いたのですか?」
「いいえ、これはもし自分ならこう戦うのであろうシミュレーションを書いていただけです」
もはや何でもありだなと白眉は思う。
「ただ、それを実行するにはそれなりの人材が必要です」
「残念ながら私にはそれを行う人材が足りない」
「私たちでは力不足でしょうか?」
白眉は悲しそうに主君に話すが、ナインテールはゆっくりと首を振る。
「数が足りないのです」
「それも私が思うことを理解して動いてくれる人材です」
「私や平襄侯ではだめなのですか?」
「2人だけではすべてに対応することは不可能です」
「では、ラビット村の者たちを招き入れるのですか?」
白眉の答えに
「それは彼らが決めるでしょう」
と、軽く答えた。
「このままでは他国が接触して取り入ろうと考えます。少なくとも使者だけでも送るべきでは?」
「その必要はありません」
「なぜです?」
「きっと彼らからこちらに接触してくるからです」
「そんな根拠…どこにあるのです?」
やや語尾を強める白眉にも、ナインテールはすまし顔で、
「わたしならそうするからです」
ナインテールのその言葉に、白眉は何も言えなくなった。
「わかりました、先生がそうお考えであれば私はそれに従うだけです」
白眉はすっと頭を下げて退出した。
「今、この小さな森の三つ巴状態に、ラビット村という小さな石が投げ込まれた。その波紋はこの森を飛び出し、この世界全体に広がっていくのか?」
「さてさて、今後どうなるか楽しみですね…」
ナインテールは静かに笑う。
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