神となった俺の世界で、信者たちが国を興す

のりつま

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第1話 俺の担当は使えない

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俺の名前は『吉田正義(よしだまさよし)』36歳。

早くに両親を失くし、優しいおじさん夫婦に面倒を見てもらいながら、そこそこの大学卒業後は建築関係の会社で身を粉にして働いている。

深夜残業、休日出勤も当たり前のこの会社、一応新入社員も入ってくるが、あまりのブラックさにすぐやめてしまう。

こんな生活を送っている俺に当然出会いなどなく、年齢=彼女いない歴となってしまった。

そんな俺の唯一の楽しみは、歴史の本を読みその世界に感情移入をすること。

その人物たちのいろいろなifを妄想することだ。

坂本龍馬がもし暗殺されなかったら?本能寺の変で信長が生きていたら?項羽と呂布が同じ時代で戦ったらどちらの方が強かったのか?桓楚の戦いで韓信が天下三分の計を受け入れていたら…。

忙しい中でも、そんな妄想を描いていると、つらい毎日もなんとかやっていける。

そして久しぶりの休みの日、突然俺の人生は終わろうとしている。

「ここは…どこだ?」

気が付くと俺はすべてが真っ白な空間に佇んでいた。

「あぁそうか、俺、本を買った帰りに事故にあって死んだのか…」

そういえば誰かを助けようとして車にひかれたのをおぼろげに思い出した。

とすれば、ここは死後の世界ってことだな…そう考えながら暫く付近を歩き回るが、どこまで行っても白い空間が続くだけだった。

「何もないなここ、俺はこれからどうなるのだろう?」

不安げに暫く上を眺めていると、突然何もない空間から声が聞こえてきた。

「…佐藤、お前一人一人に時間かけすぎ!後が閊えているから巻いて説明!わかった?」

「承知しました!チーフ!」

良い返事の後、少しの間沈黙が続く

えっ?どこかの会社?佐藤って人が怒られてる?

そう言えば俺の会社にも要領が悪い部下たちをよく怒鳴っていた上司がいたな。

そんな俺の生前のことを思い出していると、何もない空間から俺に呼び掛けた。

「お待ちしていました、吉田正義(よしだまさよし)様!」

うん?待っていたのは俺のほうだった気がするが…

そんなことを考えている中、佐藤さんは超早口でいまの状況を説明してくれる。

「あなたは現世で交通事故にあい、現在意識不明の状態になっています。そして今、魂だけがこの空間に存在している状態です。」
「このまま離脱したままだと、魂は1年ほどで消滅しまうでしょう。」
「そんな状況の中、我々『管理者』は、あなたが無事意識を取り戻せるのを条件に一つ提案をさせて頂きます。」
「それは、これから行く世界で『神』となり、皆を導いてほしいのです!」

ここまでを15秒で説明した佐藤さん。

もはや何を言っているのか分からなかった。

「何か質問はありますか?なければマニュアルをお渡ししますので、早速旅立っていただきます!」

ちょっと待て!この人上司の圧に負けて、ろくな説明もせずに俺を異世界に送り込もうとしている! 

「待て待て、佐藤さん!」

俺は空間の声を遮り質問をした。

「佐藤さん、上司に急かされているのはわかります。ただ私も初めての事なのでもう少し丁寧に説明していただけますか?まずここは死後の世界とは違うのですか?でなければ私は今入院しているってことですよね?あと『神』って何…」

「ストップ、ストーップ!!」

俺は丁寧に佐藤さんへ質問をしていたのだが、その質問を遮り怒った声で返事をする。

「まず、私は『管理者』であって『佐藤』ではありません!」

いやいや、時間がないって言ってるのにそこ否定してる場合じゃないでしょ?

「じゃあ管理者さんでいいので。私の質問に答えて頂けます?」

俺の回答に「ぐっ」といった管理者は話し出す。

「詳細はいちいち説明しませんので、自分でプレイしながら調べてください!」

俺は出来る限り大人の対応をしていたのだが、このクソみたいな返事に少しイラついた。

「あのですね、理由があって自分を別の世界の神にさせたいんですよね?」

「こんな何も知らない神様が突然現れたら、その世界の人も迷惑すると思いますよ?」

「その世界の人たちの為にも、もう少し詳しく教えてくださいよ」

俺と佐藤が言い争っていると、突然怒鳴り声が空間に響く。

「おい佐藤!後が閊えているって言っているじゃねぇか!さっさと終わらせろ!」

「すみませんチーフ!すみません!すぐ終わりますので!」

「ったく、マジ使えねーな、お前!」

先輩の声が舌打ちして去ったあと、俺と佐藤の間に短い沈黙が流れた。

「管理者さん、なんかすげー嫌な上司ですね」
「私の会社にも似たような上司がいましたので…負けずに頑張ってくださいね」

俺が励ますと、涙ぐんだ声が返ってくる。

「ありがとうございます。あの人皆に嫌われているんですよ…性格悪いし…。」

俺は同情しつつも、軽く悪口入れてくる管理者に、そういう性格だからチーフにいびられるんだぞ?と、心の中で突っ込んだ。

「….じゃあ、送りますね。」「いってらっしゃい。」

佐藤の声を合図に俺の足元に魔法陣が現れる。

「ちょ、本気で説明なしで送り飛ばす気かよ!佐藤マジでダメ社員じゃねーか!」

「私はダメ社員でも佐藤でもありません!管理者です!後でマニュアルを転送しますのでよく読んで…」

話が終わる前に俺はどこかに飛ばされてしまった。
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