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ヒロイン襲来したらしいよ

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ドスッという音を立てながら前に倒れこんできたのは縄でグルグル巻きにされた、ガゼボ周辺を警備している護衛だ。

「護衛というのは普通、お金など持っているはずないの。身につけているのは剣と防具。それから、ごく稀に魔道具ね。それ以外はこの学園の護衛だったら一旦学園側が預かる約束になっているわ

それなのに、ほら」

シリルの研修生たちが護衛の靴を脱がせて逆さまにすると銀貨が数枚ジャラという音を立てて落ちる。
へえ、知らなかったなあ。持ち物全部没収されちゃうのね。あ、だからこないだ食堂行った時に護衛の人がご飯貰ってたんだ。なるほどね。

「ねぇ、これは誰から貰ったの?正直に言ったら見逃してやらないこともないのよ?」

「………あ、…あの、金髪の……娘に…」

「金髪?あら、マリーさんのことかしら」

シリルがマリーちゃんを指差すと護衛は動かしずらそうな首を縦にふる。ありゃりゃ言わんこっちゃない。それにしても怖いな~うちの補佐官たちは。まるで魔女狩りではないか。かわいそうに。これはさすがに助けてあげないと。ヒロインいないと結局私が困る羽目になるからね。

「まぁまぁ、お責めにならないであげて。つい、出来心でやってしまったのよね?人間誰でも間違いはあるわ。見逃してあげましょう」

「出来心で男爵令嬢風情が護衛を買収するなどどうかしていますが」

た、助かにぃぃぃぃぃぃ。鋭いなシリル補佐官。そして風情。完全にバカにしているな。
他の生徒達は顔を真っ青にして目を背けている。マリーちゃんと仲良くしていた女の子達ですらだ。廊下にはたくさんの野次馬が集まっており時折可哀想~という嘲笑の混じった声が聞こえる。もちろん援護する声などなく、どうしようかと、こちらが戸惑っている始末だ。

「…………って、……だって可笑しいでしょ?私よりブスなあいつが私よりモテるなんて。生まれてこのかたここまで無視されたことはなかったわ。妬まれたり絡まれたりすることはあっても放って置かれるなんてことはね!あんたなんか、今がピークよ。せいぜい浮かれているといいわ」

ありゃりゃ。実は性悪系ヒロインでしたか。あら?じゃあ第二王子様にぴったりじゃ………!?しかし、時すでに遅し。あいつは帰った上にこれからヒロインの立場は悪くなり当分は婚約などできないだろう。そんなァァァァァァァ。あぁ、さっきガゼボに落ちてたハンカチ渡さなければよかった。そしたらこんなことにならなかったのに…とほほ。まさか自分で自分の首を絞めるなんてね………

「なんですって!?」

「まぁまぁ。で、貴方は一体全体何がしたかったんですの?」

「何よその言い方!」

「……はぁ…結局のところ誰かに構ってもらいたかったんでしょう?権力ある方々に」

「はぁ!?」

「誰だってそうよ。貴方は異常じゃないわ。ただちょっと事が大きくなってしまっただけ。何にも減るわけじゃないんだしこんなことで騒ぐなんて馬鹿馬鹿しいわ。もう授業時間が始まっているし、座りましょう」

とりあえず、これで平気かな?覗き見くらいでここまで事が大きくなるなんてね。現に今野次馬している人達も覗き見の分類に入るだろうし、私としては女帝すげーなどと言ってる男どもの方が魔女狩りしてもらいたい。今回は私が絡んでしまったのが悪かったし、これで終わり。次からはお互い気をつけようね。なんて思って自分で決着をつけようとしていたら、ダメだったみたいです。いきなりバシッと頬を叩かれました。

「………いた…い」

「貴方!自分が何をしたかわかっているんですの!?」

「シーニュ様、大丈夫?」

「う、え、えぇ。平気よ」

可愛いカレアたんがすぐにパタパタと寄ってきて心配してくれる。ああ可愛い。癒し。

「もういいわ!こんな学校こっちから願い下げよ。苦労もしたことがない惚けもの達の集まりじゃない」

「っシーニュ様!」

心配そうに見つめてくるシリルに何も返事ができない。ただひたすらぽけーっと惚けてる。まさに、マリーちゃんが言っていたように惚けものだ。

叩かれた………惚けもの………

「シーニュ様?」

「いえ、先生が困っていらっしゃるわ。授業に戻りましょう」

久しぶりに言われたなぁ。焦りの混じった先生の怒りの声を聞きながらもうじき雨が降りそうな暗い空を見上げた。
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