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2人
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時は2年後。
伸一と悦子は結婚した。
同時に伸一は、営業から経営企画室に異動になった。
五反田の本社の8階に席がある。
晴美は、カード募集のアルバイトを辞めて近所の銀行窓口の派遣社員として働いていた。
バブル景気の崩壊と共に、アチコチから悲しい出来事がボコボコ出てきた。
リストラ、倒産、自殺など新聞でも悲観的なニュースは絶えなかった。
伸一は営業と連携した部署に配置された。
悦子の叔父が不動産事業の経営者で、昔から可愛がられていた。
伸一もえらく気に入られ、大崎に経営するマンションの一室を格安で貸してくれた。
山手線内の3LDKで、月5万という破格値だ。
他の住人には内緒だぞ、釘をさされてる。
スーパーやコンビニ、公園もあり環境がとてもいい方だ。
伸一が悦子に驚いた事があった。
ハワイの新婚旅行から戻り、これからの生活で悦子が要望を聞いてきた。
伸一はイタズラ心で、無茶な要求を出した時である。
「何か要望ありますか?」
「うーん…家では常にミニスカ!」
「はい、分かりました」
(えっ?)
「下着は毎日オレ好みをつける!」
「はい、もうしてます」
(はい?)
「家事は任せていい?」
「お任せください!」
「えーと…なんだろ?」
「もう終わりですか?」
「あっ、キレイでいてくれ」
「最大限に努力します」
「相談あれば何でもする事」
「それは大いに頼ります」
「えー…ふふ」
「はい?」
「朝と帰りはキスの出迎え」
「当たり前です」
(うおっ!)
伸一は何かギャフン!と言う事を探した。
閃いた。
(ふふふ…これは出来まい)
「朝と帰りに下着を見せる事」
「必ずします!」
「ちょ!ちょい待った!」
「はい?」
「いや、最後のは…冗談なんだけど」
「ダメです!男が一度口にした言葉を撤回してはいけません!」
「いや、使い所が違わない?」
「イヤなんですか?」
「いえ…お願いします」
「はい、もちろんです」
(あれ?おかしいなぁ…)
悦子の尽くし度合いが凄過ぎた。
それから、要望は毎日欠かさず果たした。
朝のキス。
玄関で「伸一さん」と艶かしい声。
「ん?」
ミニスカとTシャツを捲りあげて、ブラとパンティを見せた。
「いってらっしゃい。気をつけてね」
「刺激強いなぁ…我慢出来なくなるよ」
「ふふふ…はい、お弁当」
とにかく楽しんでるのは分かった。
悦子もパートの仕事をしていた。
毎日5時間だが、会社事務の仕事をしていた。高校時代に簿記の資格が活きた。
人妻でもモテた。
飲み会の誘いもあったが、最低限の付き合いだけの参加で、伸一を全てに優先した。
「ただいまぁ~」
「おかえりなさい」とキス。
そして下着の閲覧。
いつも先に食事をする。
プロポーズをされてから、悦子は料理教室に通い、様々なレシピをモノにした。
「お仕事どうですか?」
「アブラぎった連中だからね、決して楽じゃないよ。ボンクラなオレにはキツイかな」
これが口癖になった。
「そーいえば、この間の代休の時に奥様会に呼ばれたんです」
「へー、そんなのあるんだ」
「もう、根ほり聞かれて大変でした」
「何聞かれたの?」
「馴れ初めとか、伸一さんの仕事の事とか」
「それで、今度の日曜に食事会をしないかって言われたんですけど…」
「ふぅん、悦子はどうなの?」
「変な人たちではないから、いいのかなって思ったんですけど主人に相談しますって答えました…」
「いいよ、オレ出かけてようか?」
「いや、それが伸一さんにも会いたいって」
「ふぇっ?オレも?…まぁ、いいけどね」
「ごめんなさい」
「構わないよ、ご近所付き合いも大事だしね」
日曜。
昼から食材を持ち寄って、立木波子と佐々木明子が訪れた。
「おじゃましまーす」
4人でランチを食べながらの談笑が始まった。
明子はファイオスのライバルである、キャスカードの元秘書をしていた。
お腹には5ヶ月の子供がいた。
「ファイオスなんですか?」
「はい、ライバルでしたね」
「部署はどちら?」
「経営企画室ですよ」
波子が驚いた。
「もしかしてエリート?」
「まさか!ボンクラな社員です」
「伸一さん、これ食べますか?」
「えっ!悦子さん敬語なの?」
「はい、ずっとそうですよ」
明子と波子が目を合わせた。
「亭主関白かしら?」
「いえ、主人は普通でいいと言ってくれましたけど、私的には敬語の方が話しやすくて」
「へぇ…そんなもんかしら」
「うちなんて、オイ!だけよ」
「うちなんて昨日、メシだ風呂だ煩いから勝手に食えば?って言っちゃった…」
ランチも楽しく終わり、悦子と明子が洗い物をしてる時に耳打ちしてきた。
「旦那さん、ボンクラなんてとんでもないわよ」
「えっ?」
「ファイオスの経営企画室って優秀な人材が多いって、私も聞いたことあるもの」
「そうなんですか?」
「自分をボンクラなんて言う人ほど優秀なものよ。秘書のアタシが言うから間違いないわ。デキた人ほど隠すものよ…」
悦子は内心で納得した。
晴美を影山から救った計画は、ボンボン連中でさえ感心していた。
同時に自慢でもあった。
「これ、失礼な話なんだけど、見た目で言えば、悦子さんみたいな人と釣り合わないなって思ってたの。でも、分かるわ。アナタが選んだワケが。いい人見つけたね」
「ありがとうございます」
午後になり、2人は買い物と散歩に出かけた。
車はもう売ってしまった。
都会の駐車場は高くて手が出ない。
歩いてると、男は悦子を必ず見る。
そして伸一を見て「なんで?」という顔をする。自覚してるから伸一も気にしない。
今日は伸一の夏物を買いに来た。
「どれがいいですか?」
「服のセンスは無いから任せるよ」
「そーですねぇ…コレは?」
「派手すぎない?」
「あら、そうでもないですよ。お任せくださいね」
「ヘイ」
3点ほど選んでから、悦子は思い出したように下着売り場に向かった。
さすがについていくのは照れる。
「これ、似合います?」
「うん…なぁ悦子…」
「はい?」
「ちょい照れるわ…」
「あはっ、そうでしたね。ごめんなさい」
そんな日常のやり取りがとても幸せだと、悦子はしみじみ感じた。
スーパーの帰り道。
「ところで下田さんどうしてる?」
「あぁっ、今のところ普通に暮らしてるみたいです。この間の電話も明るい声でした」
「そっか…結局、悦子の紹介した…嵯峨さんだっけ?続いてるの?」
「はい、上手くいってるって言ってました」
「なら、いいか…」
悦子がピッタリとくっ付く。
理由は伸一の匂いが好きだったからだ。
二の腕には悦子の胸が当たる。
「今日の晩飯は?」
「ふふっ…楽しみにしてて下さい」
夕方。
悦子は晩御飯の下ごしらえ、伸一はソファーでうたた寝をしていた。
少し時間があり、悦子は伸一の傍に座ってジッと見つめた。
(可愛い…)
ソッとキスをした。
目を覚ました。
「ゴメン、寝てたね」
悦子はそのまま伸一の上に乗り、濃いキスを続けた。
「ん…ん…んんっ!」
唾液の音が聞こえる。
「悦子…止まらなくなるよ」
「ん…ダメです…んんっ…止めたくない…です」
伸一はお尻を痴漢のように触り、ミニスカを捲った。
パンティが露わになる。
その上から弄った。
「あん…ん…」
「ダンナを挑発して…悪い奥さんだなぁ」
悦子は伸一の前でTシャツを捲った。
「悪い子になっちゃいます…」
そのまま、ブラを外して乳房を愛撫する。
「はぁっ…あっ、あん」
「途中じゃないのか?」
「いや…言わないで下さい」
パンティの股間は、もう濡れていた。
脇から指を入れる。
愛液にまみれた指が中に入る。
「んっ!あうっ…」
悦子の口を塞いで、指がいつものポイントを刺激した。
「んっんっ!…ぅん!ん、ん、ん」
目を瞑って耐えるような顔。
乳首も舐める。
「んんん!んっ!んっんっんっんっ!」
「一回だけだぞ」
肉棒を出して、パンティをずらして入れた。
「あうっ!い、いきなり…あっ」
ソファーで正常位のままピストンする。
「あっあっ!あん!はぁっ!いい!」
パンパンと夕方の部屋にこだまする。
「いや!あっあっ、いくいく!だめぇ!」
体が震える。
ビクビクする。
その瞬間に肉棒を口にねじ込んだ。
(ドクッ!ドクドク)
濃い白濁の液が悦子の口に注がれる。
「ん!ん…んっ…ぅん…」
喉が飲み込むのを喜んだ。
丹念に肉棒を舐め、ショートセックスの余韻に浸った。
「欲情しすぎ!」
「だって…伸一さんの寝顔が可愛いから…」
「夜どーすんの?」
「あっ…でも…がんばります」
チラッと上目遣いで見てきた。
2人は風呂に入り晩御飯を食べた。
「あのね…なんかニンニク料理多くない?」
「でも、元気出ますよ?」
(これ食って夜も頑張れってことね…)
また、夜にしてしまう男の性欲も時に厄介なものだと感じた。
伸一は、社長の目黒と営業統括の中村専務とランチをしていた。
バブル崩壊後も、ファイオスは黒字経営を続けていた。
理由は企業融資をほとんど、してないからである。色に合わないと断ったのが功を奏した。企業融資をやっていたところは軒並み、苦しい経営を続けている。
「なんか、新しい開拓先は無いものか?」
目黒が弁当を摘みながら中村を見た。
ファイオスは売上の殆どが、親会社のスーパーでの利用とキャッシングによるものだ。
取扱先を開拓したいが、不況の中ではどこも感触は今ひとつであった。
「中々新しい相手が見つかりませんね」
伸一は兼ねてから思っていた事を話してみた。
「コンビニはどうですか?」
「コンビニ?」
目黒がポカンとしている。
「はい、コンビニはこれから伸びますよ。たぶん、生活の基盤になりますよ」
「コンビニで何するんだ?」
「カード決済を可能にするんですよ。1人当たりは小さくても全国で換算すれば、かなりの取扱になるかと…」
中村が目を輝かせた。
「なるほど…コンビニかぁ…」
「伸ちゃん、続けてくれ」
「コンビニと提携して、加盟店手数料を格安にするんです。1%でも良いかと。それからもう一つ…」
「なんだい?」
「公共料金もカード決済させるとか」
「えっ?」
「水道、電気、ガス代をカード決済にしてポイント付けて上げるんですよ。現金払いよりお得なプランを提供する」
「そりゃいいなぁ!」
「それ至急で検討してくれ」
中村は急いで弁当を始末して出て行った。
「よく思いついたな」
「前から思ってまして…コンビニの需要は減らないだろうと思ってましたからね」
「伸ちゃんも営業部と詰めてくれ」
「分かりました」
「ところで、再来週の社内パーティーの件だが、伸ちゃん出ないか?」
「でも、課長以上ですよね?」
「そうなんだが、経企の連中はみんな対象にしようか、と思ってな…」
「そうなんですか…」
「それで、パーティーなんだが同伴なんだよ」
「えっ!同伴ですか?」
「うん、まぁ、普段から支えてくれる奥さん連中にも労いはいるだろう。君んとこどうする?奥さんダメなら秘書から充てがうぞ」
「いや、まぁ…聞いてみますけど」
「なんでも、エラく美人の嫁らしいな、俺にも拝ませてくれんか?あはは!」
「はぁ…」
社長室を出ると、秘書の佐伯 奈緒美が近寄ってきた。
「パーティーの事聞きました?」
「今ね」
「奥様と参加されるんですか?」
「聞きてみないとなぁ…なんとも」
「もし、奥様がダメならアタシをエスコートしてもらえますか?」
「えぇっ?」
「ふふっ…」
「オレは妻帯者だぞ、どっか社内の独身者にでも頼んだら?てか、君なら誘いはたくさんあるだろう?」
「あら、魅力的な人は奥様いても魅力的なんですよ」
「ボンクラなオレに魅力なんてないよ」
伸一は家に戻り、悦子に聞いてみた。
今日は、生姜焼きと菜の花のおひたし、焼きナスだ。
「パーティー…ですか?」
「うん、まぁ社長主催の慰労会みたいなもんなんだ。課長以上が対象なんだが、経企はみんな呼びたいらしい…で、ご婦人同伴なんだそうだ…」
「そうなんですね」
「行かなくてもいいよ」
「もし、行かないとどうなるんですか?」
「なんか、社長は秘書から選べって言ってたなぁ…」
悦子はカチンときた。
単なる嫉妬だ。
「行きます!」
「いいのか?」
「イヤですか?」
「いや、その方がいい」
「分かりました。絶対行きます!」
悦子は次の日から用意を始めた。
まずはドレス探しだ。
ドレッサーの中を見ても、パーティー用はあまりない。
大人の場だから、昔のは着ていけない。
「おかーさん!ドレスない?」
「どうしたのよ?」
訳を話したら、レンタルのドレスを教えられた。
(秘書と腕組みなんかさせない!)
パーティー当日。
悦子は予約していた同級生 カナの美容院にいた。
「久しぶりね、悦子」
「ちょっと気合い入れてね」
「任せて!街中のオトコが振り向くようにするわ」
「アタシは旦那様だけよ」
「…アンタ変わったよね、そんな事言うキャラじゃなかったのに…」
「だって秘書と腕組みなんてさせたくないでしょう?」
「はは…変わるものね。了解よ」
髪とメイク、そしてムダ毛処理までフルコースを注文した。
レンタルだがドレスを纏い、出てきた悦子の姿には、美容院の客も目を奪われた。
薄紫のワンピースドレス。
シースルーで肩出し、胸あたりはレース模様のデザインだ。
背中もそれなりに開いている。
セクシーと大人の気品さが表れたドレスだ。
首には大きめのダイヤネックレス。
これは母からの贈り物だ。
誰もが芸能人、モデルと見間違うのも無理はない。
「ねぇ…すごいキレイ」
「モデルさん?」
そんな声が聞こえた。
待ち合わせの有楽町にある インフィニティホテルのロビーで伸一は待っていた。
玄関のドアボーイがガラスドアを開ける。
悦子が歩いてきた。
「お待たせしました」
「すごくキレイだよ」
「ありがとうございます、ふふっ」
薄いローブを預けて、すでに多数いる会場に入る。
スッと悦子が腕組みをしてきた。
そして軽くウインクしてた。
「それ、反則です」
「うふふ」
2人が入る。
悦子を見た連中が、ザワザワしだして目を惹きつけていた。
中央のテーブルには目黒が、数人に囲まれていた。
2人を見て目黒は手招きした。
「社長、お疲れ様です。家内の悦子です」
「悦子と申します。いつも主人が大変お世話になっております」
丁寧なお辞儀に目黒は感心した。
「こりゃすごく美人の奥さんだなぁ!なるほど、こんなキレイならウチの秘書なんて必要ないなぁ!」
「山ちゃん、噂には聞いてたけどさ、それ以上だろう?」
「なんで、キミとくっ付いたの?」
中村や常務の内田からも声が飛び交った。
そして、伸一に声をかけた佐伯 奈緒美は呆然とした。
(メチャメチャ綺麗じゃない!)
悦子は奈緒美に気付くと軽く会釈した。
男連中は悦子の周りに群がった。
確かに、昔はこういうパーティーにも何度か出た事があり、一応の嗜みは心得てる。
他の連れてきた奥さん連中も、見惚れている。
「奥さん、伸ちゃんには随分と助けられてるんですよ」
目黒と伸一と3人で話してた時に、悦子は初めて仕事の中身を聞いた。
「そうなんですか?いつも主人はボンクラだからダメなんだって言ってます」
「はははっ…そりゃ謙遜ですよ。この間も新しい売上先の開拓先の案を出してくれましてね、私も期待してるんですよ!」
「私もお役に立てれば嬉しい限りです。これからもよろしくお願いいたします」
伸一は黙って照れていた。
「ところで、伸ちゃんが口説いたのか?」
「それは私も聞きたいねぇ、こんな美人さんをどうやって口説いたのか…」
中村も入ってきた。
「いや…まぁ…」
「奥さん、決め手は?どうやって口説かれたんですか?」
「ふふっ、逆なんです」
「えっ?」
「主人の頼れるところと男性らしいところに私が惹かれたんです」
「はぁぁぁっ…そうなんだ…」
「はい、言うなら私が口説いたんです」
「おいおい!伸ちゃん、男冥利につきるな」
「まぁ、はい…」
「奥さん、なんならウチの秘書にどうですか?」
「えっ?」
「いやいや、冗談ですよ!そんなことしたら俺が怒られるな」
「ありがとうございます」
一通りの挨拶や談笑の後、伸一と悦子は2人でソファーに座った。
「しかし、今日は特にキレイだよ」
「伸一さんに言ってもらうのが、1番嬉しいです」
「この中でダントツだね」
「ふふっ…でも、お仕事の話も聞けて良かったです」
「そうかな…」
「だっていつもボンクラなんて言うからちょっとだけ心配してたんですよ」
「ははは、オレはそう思ってるけどね」
「でも、違ってましたよ」
「まぁ、リップサービスだよ」
パーティーもお開きの時間になった。
帰りがけに佐伯が寄ってきた。
伸一はトイレに行ってた。
「奥様、私は秘書の佐伯 奈緒美と申します」
「あっ、いつも主人がお世話になっております」
「山咲さんとも、お仕事でお世話になってます。こんなキレイな奥様とは存じませんでした…これからもよろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
悦子は感じた。
この奈緒美は伸一に好意を寄せている、と。
目が笑ってなかった。
帰りのタクシーで、悦子は伸一の手を握った。
「今日はありがとう」
「いえ、妻として当然です」
「鼻が高いよ」
「あの、秘書の佐伯さんて伸一さんの事好きみたいですね」
「なんだって?そんなワケないよ。オレは妻帯者だぞ」
「目が笑ってなかった…」
「そうなの?」
「もう、お仕事ではキレるのに、女の気持ちには鈍感なんですね」
「そんな必要ないだろう?」
「どうしてですか?」
「オレは悦子だけ見てればいい、そうだろ?」
「……はい!」
伸一はあまり計算してないが、こういう返し方が悦子には心地良かった。
(ずるいですよ…)
翌週。
伸一は仕事に追われていた。
コンビニでの展開に営業部と、何度も打ち合わせを重ねていた。
秘書室で佐伯に目黒のスケジュールを確認してた時に、ボソッと呟かれた。
「すごくキレイな奥様ですね」
「そうかい?伝えておくよ」
「でも、山咲さんも心配ですね、あんなにキレイな方だと1人にしておけないでしょう?」
「佐伯さんて独身だっけ?」
「はい」
「なら、教えておくけど夫婦は信頼と感謝が大事なんだ。オレは悦子を信頼してるから、言われるほど心配はしてないよ」
「…ごちそうさまです」
そのまま、伸一は目黒の部屋に入っていった。
同僚の桑田 貴子が寄ってきた。
「やられたわね」
「何が?」
「スキがないじゃない」
「そんなものどうにでもなるわよ、愛なんて脆いんだから!」
佐伯は既婚者や彼女持ちが欲しくなる、という厄介な癖がある。
「いい加減にしなさいよ。この間だって、酒井さん捨てて大変だったじゃない」
「…ふん!」
佐伯はプライドが高く、自分より目立つ女が嫌いだった。
当然、悦子は敵でしかない。
「相手は妻なんだから、勝ち目ないわよ」
「関係ないもん!」
「どうだ?コンビニ展開は?」
「はい、チェーンのブリックスがいい感触ですね。全国で1500店ありますから…」
「予測は?」
「今のところ、ブリックスの試算だと年間で200億はイケるかと思うと…」
「そりゃ朗報だな」
「詰めは沢山ありますが、手数料で5億、ここに公共料金も含めると手数料は計10億は固いですね。後は年会費で1.5億、キャッシングで8億の利益試算となります」
「なんやかんやで20億か…悪くないな」
「はい、オンラインで繋げば、我々の手間も無いですし…あとは、他のコンビニもターゲットにすれば…」
「分かった!引き続き頼む」
「はい、ではこれで」
「あっ、そうそう!奥さんて仕事してるのか?」
「はい、パートですが…何か?」
「いや、室田君がえらく気に入ったらしくてさ、秘書室にどうか?って」
「悦子がですか?いやぁ…どうかな?」
「キミはどうなんだ?」
「なんか、こそばい気分ですね。それに年齢もかなり上になりますから…」
「だよなぁ…いやね、今度さ、経団連のパーティーがあって、そこに連れて行きたいって言うもんだからさ」
「でも、社員じゃないですよ。何にも知らないですし…」
「気分悪くしないで欲しいのだが、パーティーでは連れてくる女性のランクで、話が上手く進む事もあるんだ。どうかな?もちろん、キミも同伴して、の話だが…」
「まぁ、一応聞いておきます」
「頼むよ」
変な方向に話が進みだした。
(なんて言うかな…)
「えーっ!私が経団連のパーティーですか?」
「まぁ、そーなんだ。室田室長がえらくお気に入りでね」
「でも、私なんか役に立たないですよ」
「社員でもないからね」
「それっていいんですか?」
「初めてのことだよ、悦子が引き受けるならオレも同伴になるけどね」
「伸一さんのお役に立てるなら、いいですけど…大丈夫なんでしょうか?」
テーブルには肉詰めピーマンと、鯖とタマネギのマリネ、漬物が並ぶ。
「まぁ、明日にでも室田さんと話してみるよ」
「なんか、おかしな話ですね」
「うん、パーティーに行かなきゃ良かったかなぁ…」
「でも、伸一さんに褒められたから、私的には嬉しいですけどね」
「行くにしても、費用は出してもらうから」
「はい」
翌日。
伸一と室田が話していた。
「室長、いいんですか?」
「いや、オレも奥さん見て驚いたんだよ。あれだけの華がある人ならパーティーで注目を集めるよ」
「でも、経団連ですよね?そんな同伴の女性なんて必要ないでしょう?」
「それがさ、最近はパーティーをもっと華やかにして柔らかい雰囲気が出てきたんだよ。まぁ、商談もそんな雰囲気の方が上手く行く事も多い。それに…今回はちょっとね」
「何ですか?」
「実はさ、東西銀行の矢島頭取なんだけど、社長と大学の同級でね、今度のパーティーには、かなりの美人秘書を連れて来るって話が来たんだよ」
「それで?」
「ほら、銀行はウチらノンバンクを格下に見てるだろう?いつも煮え湯を飲まされてるから、見返したくて堪らないんだ」
「はぁ?それ…悦子は関係ないじゃないですか?」
「そう!そんなんだよ、単なる男の見栄でしかない、オレも無視してくれって言ってんだけどさ…」
「なんか、客寄せパンダですよね。飾り物自慢でしょ?」
「うん、まぁ一回限りだからさ、なんとか奥さんを説得してくれないか?」
「バカバカしいですよ。ここで社長のポイント稼げばキミにも悪い話じゃないし…」
「別にそれでポイント稼がなくてもいいんですけどね…」
「まぁ、我々サラリーマンの辛いとこだが、無理強いは出来ないのも理解してる。一応、聞いてみてくれないか?」
「いつなんですか?」
「来月の3日だ」
あと2週間後である。
「一応聞きますが、期待しないで下さい」
佐伯はこのやり取りを聞いてムカついてた。
なんでワザワザ、そんな理由で外部の人妻を使わなければならないのか?
むしろ、自分に声がかからない事に腹を立てていた。
だが、佐伯はまだ若い。
そういうパーティーには、ある程度の大人で礼儀もソツなくこなせる方がいい。
言うなれば、高級クラブのホステス並みの機転の良さが求められる。
「ただいま~」
「おかえりなさい」
悦子は小走りで迎えに来た。
お約束のキスと下着閲覧も忘れてない。
「今日も似合うのつけてるな」
「はい、だって伸一さん好みですから」
「あのさ、パーティーの話なんだけど…」
伸一は室田との会話を全て話した。
悦子は怒る事なく聞いている。
「そんな勝負してるんですね、ふふ…」
「おかしいかい?」
「だって、大の社長さん達が女性自慢するって事ですよね?なんか子供っぽいなって…」
「はは…確かにそうだね、で、どうする?もちろん断るのもアリだよ。第一に気分良くないだろう?」
「ん~…伸一さんが一緒なら構いませんよ」
「はい?」
「私でお役に立てるなら構いません」
「マジで?」
「はい」
「なんで?」
「もしかしたら、伸一さんの人脈が広がるかも知れないし、経団連のパーティーなんて私が出る機会も無いので…いい経験かなって」
「悦子もそういう考えするんだねぇ」
「あらぁ、これは伸一さんの影響ですよ」
「そうか…じゃあ、オーケーの返事をしておくよ」
「はい…」
室田はホッとしていた。
目黒は喜び、パーティーを楽しみにした。
「費用は社長がお願いしますよ」
「伸ちゃん、大丈夫だ!それは全額払うから心配しなくていいよ」
晴美は、地味に仕事をこなしていた。
影山から離れて、嵯峨 勝と付き合い出して半年になる。
実に平穏な日々だった。
3日前にプロポーズされ、晴美はそれを受けた。
年は2つ上で税務署の職員だ。
とても優しいし、大事にされてると感じさせてくれる相手だ。
「晴美、式はどうしようか?」
「うん、あんまり派手なのは…」
「身内と知り合いにだけ集めるようにしようか?」
「そうだね、若くないし…」
「まぁ、そうだね」
ある日、晴美の支店に頭取の矢島が訪れた。
時々、支店の様子を見に来てるが、窓口の晴美に目が止まった。
「あの人は?」
「窓口の派遣ですね」
支店長の野口が愛想笑いしている。
「いいねぇ!あの子さ、独身?」
「確か…独身かと」
「ちょっと呼んでくれるかな?」
野口は意図を掴めないでいた。
行員でもなく、派遣社員に何の用事があるのか?
応接室で待つ矢島のもとに、晴美がオドオドしながら入ってきた。
「失礼します」
「やぁ、忙しいとこ済まないね」
「いえ、何かお話しとか?」
「まぁ、座ってくれ」
立派な革張りのソファーだ。
「実はさ、今度の土曜日に経団連のパーティーがあってね」
「はぁ…」
「最近は婦人同伴が多くてね。私は独身だから、いつも秘書に頼んでたんだけど、もし良ければ、キミ参加してみないか?」
「えっ!私が…ですか?」
「まぁ、怒らないでほしいがね。大概の会社のトップは見栄っ張りなんだよ、同伴する女性の格みたいなモノがあってね。キミなら間違いなく注目を集めれる。つまり、仕事の話なんかもスムーズに進むことがあるんだ」
「あんまり、関係ないようにも思いますが…」
「かかる費用は私が出すから、考えてみてくれないか?支店長に伝えてくれればいい」
「はぁ…」
突飛な話に晴美は笑ってしまった。
帰りの電車で、その事を考えていた。
(最近、だれてるからなぁ…)
女として、また磨きをかけるにはいいかもしれないと思い始めていた。
自室でゆっくりしてる時に、悦子に電話した。
「晴美です」
「久しぶりね、嵯峨さんとは上手くいってる?」
「うん、悦子も旦那さんとは?」
「ラブラブよ」
「そーなんだ…」
「どしたの?」
「ちょっと聞いてほしい事があって」
「いいわよ、なんなの?」
「最近さ、私って女としてどうなのかな?って考えちゃって…」
「それって磨きかけてるか、ってこと?」
「うん、嵯峨さんからプロポーズされて嬉しいんだけど、魅力ある女としてはどうなのかな?って思うの」
「そうねぇ…なんならナンパ待ちでもしてみる?」
「それはイヤ!」
「冗談よ、パーティーとか出てみたら?」
「パーティー…」
「そ、男の目を釘付けに出来れば、まだまだ晴美もいけるんじゃない?もともと美人だから、金持ちから声をかけられるかもよ」
「…そうね、うん、分かった」
「落ち着いたら、またご飯行こうね」
「うん」
影山の一件以来、晴美は自分に自信を無くしていた。
嵯峨はとても良くしてくれる。
安定とか安心なら、充分に満たされてる。
だが、地味な服や生活を好む嵯峨といると、女としての自信が薄れていた。
これは自分への好奇心だった。
パーティー当日。
悦子は、前回以上に気合いを入れた。
本屋でマナーや振舞いの教本を買い、勉強も身に付けた。
ドレスは、鮮やかなワインレッドのロングワンピースを選んだ。
肩を出して、黒の刺繍が胸に入ってる。
ストレートの黒髪にカールをかけて、メイクもそれに合わせた。
赤のヒールも色気を誘う。
伸一は時間をズラして、美容院に向かった。
出てきた悦子を見て息を飲んだ。
「こりゃ、すごい!」
「どうですか?」
「こりゃ、他の女性が霞むかもね」
「ふふふっ…出ましょうか」
待たせていたタクシーに乗り込む。
経団連のパーティーは、かなりの規模である。
各業界のトップが集まる。
水面下では、商談や役人との交渉材料を探したり、提携などの新たなビジネスを画策したり、人脈を広げる大事な場でもある。
主なトップは秘書や妻を同伴させる。
会長の挨拶が終わると談笑に入る。
「オォッ!」
入り口で歓声が上がった。
矢島が晴美を伴って登場した。
ライトブルーのドレスで、所々にラメが入っている。V字に開いた胸と背中が開いて一気に注目を集めた。
矢島に腕組みしながら、晴美は初めての雰囲気に飲まれそうになった。
「あの…頭取、私なんかで大丈夫ですか?」
「大丈夫!見てごらん、周りの連中がみんな見てるだろう?」
確かに、鋭い眼光が晴美を見ていた。
かなり恥ずかしい。
2人は目黒を探した。
すると、反対側のドアから声がした。
「こりゃ美人だねぇ!」
「あー、目黒社長だろ?」
「キレイ!」
矢島と晴美が声の方を見た。
「オォッ!目黒社長!」
「これは矢島頭取!」
そして、腕組みする悦子を見て矢島も息が止まりそうになった。
「こりゃ美しい!」
そして晴美も悦子もお互いの存在に驚愕した。
「は、晴美?」
「悦子…」
タイプの違う美人2人に、周りの連中が視線を浴びせた。
「えっ…どうして悦子がいるの?」
「晴美こそ!えっ?」
目黒は2人の会話に入った。
「もしかして知り合い?」
「友人です」
「あららら…そうなの!」
晴美が悦子のそばに来た。
ワインレッドとライトブルーの対象的なドレスと美人2人は、パーティーの主役になってしまった。
「下田さん!」
伸一も驚いて2人に駆け寄った。
「山咲さん!お久しぶりです」
「ビックリしましたよ」
目黒も矢島も3人のやり取りを見て驚いた。
「いやいや、2人が友達なんてすごい偶然ですなぁ!」
悦子と晴美は、お互いにパーティーに参加した経緯を話した。
「悦子、すごくキレイ…」
「ううん、晴美の方がキレイよ。ドレスがすごく似合ってるわ」
「でも、おかしな話ね」
「そうね、どっちも会社の上から頼まれて参加してるなんて…ふふっ」
目黒と矢島も笑いながら談笑した。
「さすがだな…あんなキレイどころ連れてくるとはな…」
「目黒よ、オマエだって、すごい隠し球出してきたよな…」
「まぁ、引き分けってとこか?」
「おう!」
アホな2人だが、悦子と晴美は思わぬ再会に喜びを感じていた。
目黒は、悦子と晴美に頼んで写真を撮ってもらうことにした。
まさに両手に華である。
2人に腕組みされて、ご満悦な顔に矢島にもお願いされた。
その後、何人かの社長連中にもお願いされて、2人は苦笑いしながら引き受けた。
伸一と悦子、そして晴美はホテルのバーで飲み直す事にした。
バーに入ると周りから一斉に注目された。
それぐらい、悦子と晴美は異彩を放っていた。
「社長達の気持ちも分かるな…」
「そうなんですか?」
「だって、こんなキレイな2人を従えてたら、気分は最高だしね」
「山咲さん、悦子に叱られますよ」
悦子は笑ってる。
「頭取も社長も満足してたし、2人にお礼言われましたよ。なんか、今後はファイオスと東西銀行で仕事が出来ないか、模索するって言ってました。これも2人のおかげかな?」
「へぇ、そうなんですか?」
悦子がキールを飲みながら、目を大きくしていた。
「最初はアホらしいと思ってたけど、効果はあるもんだな、と勉強しましたよ」
「ふふっ…でも、男の人って幾つになっても子供っぽいですね」
晴美はモスコーミュールを飲んでた。
「しかし、2人を見てると女性の美しさはパワーある事を知らされましたね」
「でも、面白かったわ」
「そうね、違う世界も観れたしね。いい勉強になったかもね」
「ところでさ、晴美はいつ結婚するの?」
「うん、まだ未定だけどね。ひっそりと挙げようか、て話してる」
「私たちは呼んでくれるのかしら?」
「もちろんよ!」
「悦子!じゃあ、下田さん食っちゃう服で行ったら?」
「うふふ…それいいですね」
「悦子!」
「嵯峨さんは?」
「お仕事で九州に行ってるの。それから色々考えようって話してる」
晴美も最後の大人としての、交流や社会での出来事を自分なりに見て、結婚への決意が固まった気がした。
2時間ほど話して解散となった。
伸一と悦子は、マンションに戻り2人で浴室に入った。
「晴美…キレイでしたね」
「うん、でも悦子の方がキレイだった」
「ふふっ…」
伸一の座イスに座り、悦子はその上に跨った。
ボディーソープで泡だてて、悦子の体を手で洗う。
お互いに泡まみれになり、悦子は伸一の太ももを股間で挟んだ。
「動いてごらん」
「こうですか?」
体が前後に動く。
陰部の柔らかさが伝わる。
そのまま、肉棒を手でしごきながらキスを交わす。
「ん…ん。ぅん!んっ!」
今度は悦子を壁に手をつかせ、お尻を突き出させた。
「こんな…」
アナルから会陰、そして陰部へと指を這わせる。
「あぁっ…あっ、そんなぁ…あん!」
もう陰部は愛液とソープの泡が混ざってた。
「今日は前戯はいらないね」
「えっ?」
その瞬間に固い肉棒が悦子を貫いた。
「あうっ!あっ!それ…あうっ!」
耳元で伸一が囁いた。
「妻を犯すよ…」
(あぁっ…そんな…)
ヌチャッ!ヌチャッ!と音が浴室に響く。
「あぁっ!あぁっ!はぁっ…あん!あっ」
心に刺さる声で「犯す」なんて言われたら頭がおかしくなってしまう。
「あっ!あっ!あっ!あん!」
バックで腰を打ちつけ、腕を引き寄せる。
何度も何度も悦子を犯した。
「あっ!しんいちさぁん!好き!大好きぃ、あん!あぁっ!」
犯される喜びを堪能した悦子は、オーガズムが上がるのを感じた。
だめぇ!そう頭が叫んでた。
「いくいく!いっちゃう!だめぇ!」
そのままピクピクしながら果てた。
崩れた悦子の顔に、伸一の精子が打ちつけるようにかけられた。
「あっ…ん…」
熱い液を感じ、それを口に運んだ。
ベッドでビールを飲みながら、伸一にもたれかかる。
「今日は、いきなりなんですね…」
「たまにはいいかなってね」
「もう…ヒドイです」
「その割に喜んでませんか?」
「ふふっ…ナイショです」
伸一と悦子は結婚した。
同時に伸一は、営業から経営企画室に異動になった。
五反田の本社の8階に席がある。
晴美は、カード募集のアルバイトを辞めて近所の銀行窓口の派遣社員として働いていた。
バブル景気の崩壊と共に、アチコチから悲しい出来事がボコボコ出てきた。
リストラ、倒産、自殺など新聞でも悲観的なニュースは絶えなかった。
伸一は営業と連携した部署に配置された。
悦子の叔父が不動産事業の経営者で、昔から可愛がられていた。
伸一もえらく気に入られ、大崎に経営するマンションの一室を格安で貸してくれた。
山手線内の3LDKで、月5万という破格値だ。
他の住人には内緒だぞ、釘をさされてる。
スーパーやコンビニ、公園もあり環境がとてもいい方だ。
伸一が悦子に驚いた事があった。
ハワイの新婚旅行から戻り、これからの生活で悦子が要望を聞いてきた。
伸一はイタズラ心で、無茶な要求を出した時である。
「何か要望ありますか?」
「うーん…家では常にミニスカ!」
「はい、分かりました」
(えっ?)
「下着は毎日オレ好みをつける!」
「はい、もうしてます」
(はい?)
「家事は任せていい?」
「お任せください!」
「えーと…なんだろ?」
「もう終わりですか?」
「あっ、キレイでいてくれ」
「最大限に努力します」
「相談あれば何でもする事」
「それは大いに頼ります」
「えー…ふふ」
「はい?」
「朝と帰りはキスの出迎え」
「当たり前です」
(うおっ!)
伸一は何かギャフン!と言う事を探した。
閃いた。
(ふふふ…これは出来まい)
「朝と帰りに下着を見せる事」
「必ずします!」
「ちょ!ちょい待った!」
「はい?」
「いや、最後のは…冗談なんだけど」
「ダメです!男が一度口にした言葉を撤回してはいけません!」
「いや、使い所が違わない?」
「イヤなんですか?」
「いえ…お願いします」
「はい、もちろんです」
(あれ?おかしいなぁ…)
悦子の尽くし度合いが凄過ぎた。
それから、要望は毎日欠かさず果たした。
朝のキス。
玄関で「伸一さん」と艶かしい声。
「ん?」
ミニスカとTシャツを捲りあげて、ブラとパンティを見せた。
「いってらっしゃい。気をつけてね」
「刺激強いなぁ…我慢出来なくなるよ」
「ふふふ…はい、お弁当」
とにかく楽しんでるのは分かった。
悦子もパートの仕事をしていた。
毎日5時間だが、会社事務の仕事をしていた。高校時代に簿記の資格が活きた。
人妻でもモテた。
飲み会の誘いもあったが、最低限の付き合いだけの参加で、伸一を全てに優先した。
「ただいまぁ~」
「おかえりなさい」とキス。
そして下着の閲覧。
いつも先に食事をする。
プロポーズをされてから、悦子は料理教室に通い、様々なレシピをモノにした。
「お仕事どうですか?」
「アブラぎった連中だからね、決して楽じゃないよ。ボンクラなオレにはキツイかな」
これが口癖になった。
「そーいえば、この間の代休の時に奥様会に呼ばれたんです」
「へー、そんなのあるんだ」
「もう、根ほり聞かれて大変でした」
「何聞かれたの?」
「馴れ初めとか、伸一さんの仕事の事とか」
「それで、今度の日曜に食事会をしないかって言われたんですけど…」
「ふぅん、悦子はどうなの?」
「変な人たちではないから、いいのかなって思ったんですけど主人に相談しますって答えました…」
「いいよ、オレ出かけてようか?」
「いや、それが伸一さんにも会いたいって」
「ふぇっ?オレも?…まぁ、いいけどね」
「ごめんなさい」
「構わないよ、ご近所付き合いも大事だしね」
日曜。
昼から食材を持ち寄って、立木波子と佐々木明子が訪れた。
「おじゃましまーす」
4人でランチを食べながらの談笑が始まった。
明子はファイオスのライバルである、キャスカードの元秘書をしていた。
お腹には5ヶ月の子供がいた。
「ファイオスなんですか?」
「はい、ライバルでしたね」
「部署はどちら?」
「経営企画室ですよ」
波子が驚いた。
「もしかしてエリート?」
「まさか!ボンクラな社員です」
「伸一さん、これ食べますか?」
「えっ!悦子さん敬語なの?」
「はい、ずっとそうですよ」
明子と波子が目を合わせた。
「亭主関白かしら?」
「いえ、主人は普通でいいと言ってくれましたけど、私的には敬語の方が話しやすくて」
「へぇ…そんなもんかしら」
「うちなんて、オイ!だけよ」
「うちなんて昨日、メシだ風呂だ煩いから勝手に食えば?って言っちゃった…」
ランチも楽しく終わり、悦子と明子が洗い物をしてる時に耳打ちしてきた。
「旦那さん、ボンクラなんてとんでもないわよ」
「えっ?」
「ファイオスの経営企画室って優秀な人材が多いって、私も聞いたことあるもの」
「そうなんですか?」
「自分をボンクラなんて言う人ほど優秀なものよ。秘書のアタシが言うから間違いないわ。デキた人ほど隠すものよ…」
悦子は内心で納得した。
晴美を影山から救った計画は、ボンボン連中でさえ感心していた。
同時に自慢でもあった。
「これ、失礼な話なんだけど、見た目で言えば、悦子さんみたいな人と釣り合わないなって思ってたの。でも、分かるわ。アナタが選んだワケが。いい人見つけたね」
「ありがとうございます」
午後になり、2人は買い物と散歩に出かけた。
車はもう売ってしまった。
都会の駐車場は高くて手が出ない。
歩いてると、男は悦子を必ず見る。
そして伸一を見て「なんで?」という顔をする。自覚してるから伸一も気にしない。
今日は伸一の夏物を買いに来た。
「どれがいいですか?」
「服のセンスは無いから任せるよ」
「そーですねぇ…コレは?」
「派手すぎない?」
「あら、そうでもないですよ。お任せくださいね」
「ヘイ」
3点ほど選んでから、悦子は思い出したように下着売り場に向かった。
さすがについていくのは照れる。
「これ、似合います?」
「うん…なぁ悦子…」
「はい?」
「ちょい照れるわ…」
「あはっ、そうでしたね。ごめんなさい」
そんな日常のやり取りがとても幸せだと、悦子はしみじみ感じた。
スーパーの帰り道。
「ところで下田さんどうしてる?」
「あぁっ、今のところ普通に暮らしてるみたいです。この間の電話も明るい声でした」
「そっか…結局、悦子の紹介した…嵯峨さんだっけ?続いてるの?」
「はい、上手くいってるって言ってました」
「なら、いいか…」
悦子がピッタリとくっ付く。
理由は伸一の匂いが好きだったからだ。
二の腕には悦子の胸が当たる。
「今日の晩飯は?」
「ふふっ…楽しみにしてて下さい」
夕方。
悦子は晩御飯の下ごしらえ、伸一はソファーでうたた寝をしていた。
少し時間があり、悦子は伸一の傍に座ってジッと見つめた。
(可愛い…)
ソッとキスをした。
目を覚ました。
「ゴメン、寝てたね」
悦子はそのまま伸一の上に乗り、濃いキスを続けた。
「ん…ん…んんっ!」
唾液の音が聞こえる。
「悦子…止まらなくなるよ」
「ん…ダメです…んんっ…止めたくない…です」
伸一はお尻を痴漢のように触り、ミニスカを捲った。
パンティが露わになる。
その上から弄った。
「あん…ん…」
「ダンナを挑発して…悪い奥さんだなぁ」
悦子は伸一の前でTシャツを捲った。
「悪い子になっちゃいます…」
そのまま、ブラを外して乳房を愛撫する。
「はぁっ…あっ、あん」
「途中じゃないのか?」
「いや…言わないで下さい」
パンティの股間は、もう濡れていた。
脇から指を入れる。
愛液にまみれた指が中に入る。
「んっ!あうっ…」
悦子の口を塞いで、指がいつものポイントを刺激した。
「んっんっ!…ぅん!ん、ん、ん」
目を瞑って耐えるような顔。
乳首も舐める。
「んんん!んっ!んっんっんっんっ!」
「一回だけだぞ」
肉棒を出して、パンティをずらして入れた。
「あうっ!い、いきなり…あっ」
ソファーで正常位のままピストンする。
「あっあっ!あん!はぁっ!いい!」
パンパンと夕方の部屋にこだまする。
「いや!あっあっ、いくいく!だめぇ!」
体が震える。
ビクビクする。
その瞬間に肉棒を口にねじ込んだ。
(ドクッ!ドクドク)
濃い白濁の液が悦子の口に注がれる。
「ん!ん…んっ…ぅん…」
喉が飲み込むのを喜んだ。
丹念に肉棒を舐め、ショートセックスの余韻に浸った。
「欲情しすぎ!」
「だって…伸一さんの寝顔が可愛いから…」
「夜どーすんの?」
「あっ…でも…がんばります」
チラッと上目遣いで見てきた。
2人は風呂に入り晩御飯を食べた。
「あのね…なんかニンニク料理多くない?」
「でも、元気出ますよ?」
(これ食って夜も頑張れってことね…)
また、夜にしてしまう男の性欲も時に厄介なものだと感じた。
伸一は、社長の目黒と営業統括の中村専務とランチをしていた。
バブル崩壊後も、ファイオスは黒字経営を続けていた。
理由は企業融資をほとんど、してないからである。色に合わないと断ったのが功を奏した。企業融資をやっていたところは軒並み、苦しい経営を続けている。
「なんか、新しい開拓先は無いものか?」
目黒が弁当を摘みながら中村を見た。
ファイオスは売上の殆どが、親会社のスーパーでの利用とキャッシングによるものだ。
取扱先を開拓したいが、不況の中ではどこも感触は今ひとつであった。
「中々新しい相手が見つかりませんね」
伸一は兼ねてから思っていた事を話してみた。
「コンビニはどうですか?」
「コンビニ?」
目黒がポカンとしている。
「はい、コンビニはこれから伸びますよ。たぶん、生活の基盤になりますよ」
「コンビニで何するんだ?」
「カード決済を可能にするんですよ。1人当たりは小さくても全国で換算すれば、かなりの取扱になるかと…」
中村が目を輝かせた。
「なるほど…コンビニかぁ…」
「伸ちゃん、続けてくれ」
「コンビニと提携して、加盟店手数料を格安にするんです。1%でも良いかと。それからもう一つ…」
「なんだい?」
「公共料金もカード決済させるとか」
「えっ?」
「水道、電気、ガス代をカード決済にしてポイント付けて上げるんですよ。現金払いよりお得なプランを提供する」
「そりゃいいなぁ!」
「それ至急で検討してくれ」
中村は急いで弁当を始末して出て行った。
「よく思いついたな」
「前から思ってまして…コンビニの需要は減らないだろうと思ってましたからね」
「伸ちゃんも営業部と詰めてくれ」
「分かりました」
「ところで、再来週の社内パーティーの件だが、伸ちゃん出ないか?」
「でも、課長以上ですよね?」
「そうなんだが、経企の連中はみんな対象にしようか、と思ってな…」
「そうなんですか…」
「それで、パーティーなんだが同伴なんだよ」
「えっ!同伴ですか?」
「うん、まぁ、普段から支えてくれる奥さん連中にも労いはいるだろう。君んとこどうする?奥さんダメなら秘書から充てがうぞ」
「いや、まぁ…聞いてみますけど」
「なんでも、エラく美人の嫁らしいな、俺にも拝ませてくれんか?あはは!」
「はぁ…」
社長室を出ると、秘書の佐伯 奈緒美が近寄ってきた。
「パーティーの事聞きました?」
「今ね」
「奥様と参加されるんですか?」
「聞きてみないとなぁ…なんとも」
「もし、奥様がダメならアタシをエスコートしてもらえますか?」
「えぇっ?」
「ふふっ…」
「オレは妻帯者だぞ、どっか社内の独身者にでも頼んだら?てか、君なら誘いはたくさんあるだろう?」
「あら、魅力的な人は奥様いても魅力的なんですよ」
「ボンクラなオレに魅力なんてないよ」
伸一は家に戻り、悦子に聞いてみた。
今日は、生姜焼きと菜の花のおひたし、焼きナスだ。
「パーティー…ですか?」
「うん、まぁ社長主催の慰労会みたいなもんなんだ。課長以上が対象なんだが、経企はみんな呼びたいらしい…で、ご婦人同伴なんだそうだ…」
「そうなんですね」
「行かなくてもいいよ」
「もし、行かないとどうなるんですか?」
「なんか、社長は秘書から選べって言ってたなぁ…」
悦子はカチンときた。
単なる嫉妬だ。
「行きます!」
「いいのか?」
「イヤですか?」
「いや、その方がいい」
「分かりました。絶対行きます!」
悦子は次の日から用意を始めた。
まずはドレス探しだ。
ドレッサーの中を見ても、パーティー用はあまりない。
大人の場だから、昔のは着ていけない。
「おかーさん!ドレスない?」
「どうしたのよ?」
訳を話したら、レンタルのドレスを教えられた。
(秘書と腕組みなんかさせない!)
パーティー当日。
悦子は予約していた同級生 カナの美容院にいた。
「久しぶりね、悦子」
「ちょっと気合い入れてね」
「任せて!街中のオトコが振り向くようにするわ」
「アタシは旦那様だけよ」
「…アンタ変わったよね、そんな事言うキャラじゃなかったのに…」
「だって秘書と腕組みなんてさせたくないでしょう?」
「はは…変わるものね。了解よ」
髪とメイク、そしてムダ毛処理までフルコースを注文した。
レンタルだがドレスを纏い、出てきた悦子の姿には、美容院の客も目を奪われた。
薄紫のワンピースドレス。
シースルーで肩出し、胸あたりはレース模様のデザインだ。
背中もそれなりに開いている。
セクシーと大人の気品さが表れたドレスだ。
首には大きめのダイヤネックレス。
これは母からの贈り物だ。
誰もが芸能人、モデルと見間違うのも無理はない。
「ねぇ…すごいキレイ」
「モデルさん?」
そんな声が聞こえた。
待ち合わせの有楽町にある インフィニティホテルのロビーで伸一は待っていた。
玄関のドアボーイがガラスドアを開ける。
悦子が歩いてきた。
「お待たせしました」
「すごくキレイだよ」
「ありがとうございます、ふふっ」
薄いローブを預けて、すでに多数いる会場に入る。
スッと悦子が腕組みをしてきた。
そして軽くウインクしてた。
「それ、反則です」
「うふふ」
2人が入る。
悦子を見た連中が、ザワザワしだして目を惹きつけていた。
中央のテーブルには目黒が、数人に囲まれていた。
2人を見て目黒は手招きした。
「社長、お疲れ様です。家内の悦子です」
「悦子と申します。いつも主人が大変お世話になっております」
丁寧なお辞儀に目黒は感心した。
「こりゃすごく美人の奥さんだなぁ!なるほど、こんなキレイならウチの秘書なんて必要ないなぁ!」
「山ちゃん、噂には聞いてたけどさ、それ以上だろう?」
「なんで、キミとくっ付いたの?」
中村や常務の内田からも声が飛び交った。
そして、伸一に声をかけた佐伯 奈緒美は呆然とした。
(メチャメチャ綺麗じゃない!)
悦子は奈緒美に気付くと軽く会釈した。
男連中は悦子の周りに群がった。
確かに、昔はこういうパーティーにも何度か出た事があり、一応の嗜みは心得てる。
他の連れてきた奥さん連中も、見惚れている。
「奥さん、伸ちゃんには随分と助けられてるんですよ」
目黒と伸一と3人で話してた時に、悦子は初めて仕事の中身を聞いた。
「そうなんですか?いつも主人はボンクラだからダメなんだって言ってます」
「はははっ…そりゃ謙遜ですよ。この間も新しい売上先の開拓先の案を出してくれましてね、私も期待してるんですよ!」
「私もお役に立てれば嬉しい限りです。これからもよろしくお願いいたします」
伸一は黙って照れていた。
「ところで、伸ちゃんが口説いたのか?」
「それは私も聞きたいねぇ、こんな美人さんをどうやって口説いたのか…」
中村も入ってきた。
「いや…まぁ…」
「奥さん、決め手は?どうやって口説かれたんですか?」
「ふふっ、逆なんです」
「えっ?」
「主人の頼れるところと男性らしいところに私が惹かれたんです」
「はぁぁぁっ…そうなんだ…」
「はい、言うなら私が口説いたんです」
「おいおい!伸ちゃん、男冥利につきるな」
「まぁ、はい…」
「奥さん、なんならウチの秘書にどうですか?」
「えっ?」
「いやいや、冗談ですよ!そんなことしたら俺が怒られるな」
「ありがとうございます」
一通りの挨拶や談笑の後、伸一と悦子は2人でソファーに座った。
「しかし、今日は特にキレイだよ」
「伸一さんに言ってもらうのが、1番嬉しいです」
「この中でダントツだね」
「ふふっ…でも、お仕事の話も聞けて良かったです」
「そうかな…」
「だっていつもボンクラなんて言うからちょっとだけ心配してたんですよ」
「ははは、オレはそう思ってるけどね」
「でも、違ってましたよ」
「まぁ、リップサービスだよ」
パーティーもお開きの時間になった。
帰りがけに佐伯が寄ってきた。
伸一はトイレに行ってた。
「奥様、私は秘書の佐伯 奈緒美と申します」
「あっ、いつも主人がお世話になっております」
「山咲さんとも、お仕事でお世話になってます。こんなキレイな奥様とは存じませんでした…これからもよろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
悦子は感じた。
この奈緒美は伸一に好意を寄せている、と。
目が笑ってなかった。
帰りのタクシーで、悦子は伸一の手を握った。
「今日はありがとう」
「いえ、妻として当然です」
「鼻が高いよ」
「あの、秘書の佐伯さんて伸一さんの事好きみたいですね」
「なんだって?そんなワケないよ。オレは妻帯者だぞ」
「目が笑ってなかった…」
「そうなの?」
「もう、お仕事ではキレるのに、女の気持ちには鈍感なんですね」
「そんな必要ないだろう?」
「どうしてですか?」
「オレは悦子だけ見てればいい、そうだろ?」
「……はい!」
伸一はあまり計算してないが、こういう返し方が悦子には心地良かった。
(ずるいですよ…)
翌週。
伸一は仕事に追われていた。
コンビニでの展開に営業部と、何度も打ち合わせを重ねていた。
秘書室で佐伯に目黒のスケジュールを確認してた時に、ボソッと呟かれた。
「すごくキレイな奥様ですね」
「そうかい?伝えておくよ」
「でも、山咲さんも心配ですね、あんなにキレイな方だと1人にしておけないでしょう?」
「佐伯さんて独身だっけ?」
「はい」
「なら、教えておくけど夫婦は信頼と感謝が大事なんだ。オレは悦子を信頼してるから、言われるほど心配はしてないよ」
「…ごちそうさまです」
そのまま、伸一は目黒の部屋に入っていった。
同僚の桑田 貴子が寄ってきた。
「やられたわね」
「何が?」
「スキがないじゃない」
「そんなものどうにでもなるわよ、愛なんて脆いんだから!」
佐伯は既婚者や彼女持ちが欲しくなる、という厄介な癖がある。
「いい加減にしなさいよ。この間だって、酒井さん捨てて大変だったじゃない」
「…ふん!」
佐伯はプライドが高く、自分より目立つ女が嫌いだった。
当然、悦子は敵でしかない。
「相手は妻なんだから、勝ち目ないわよ」
「関係ないもん!」
「どうだ?コンビニ展開は?」
「はい、チェーンのブリックスがいい感触ですね。全国で1500店ありますから…」
「予測は?」
「今のところ、ブリックスの試算だと年間で200億はイケるかと思うと…」
「そりゃ朗報だな」
「詰めは沢山ありますが、手数料で5億、ここに公共料金も含めると手数料は計10億は固いですね。後は年会費で1.5億、キャッシングで8億の利益試算となります」
「なんやかんやで20億か…悪くないな」
「はい、オンラインで繋げば、我々の手間も無いですし…あとは、他のコンビニもターゲットにすれば…」
「分かった!引き続き頼む」
「はい、ではこれで」
「あっ、そうそう!奥さんて仕事してるのか?」
「はい、パートですが…何か?」
「いや、室田君がえらく気に入ったらしくてさ、秘書室にどうか?って」
「悦子がですか?いやぁ…どうかな?」
「キミはどうなんだ?」
「なんか、こそばい気分ですね。それに年齢もかなり上になりますから…」
「だよなぁ…いやね、今度さ、経団連のパーティーがあって、そこに連れて行きたいって言うもんだからさ」
「でも、社員じゃないですよ。何にも知らないですし…」
「気分悪くしないで欲しいのだが、パーティーでは連れてくる女性のランクで、話が上手く進む事もあるんだ。どうかな?もちろん、キミも同伴して、の話だが…」
「まぁ、一応聞いておきます」
「頼むよ」
変な方向に話が進みだした。
(なんて言うかな…)
「えーっ!私が経団連のパーティーですか?」
「まぁ、そーなんだ。室田室長がえらくお気に入りでね」
「でも、私なんか役に立たないですよ」
「社員でもないからね」
「それっていいんですか?」
「初めてのことだよ、悦子が引き受けるならオレも同伴になるけどね」
「伸一さんのお役に立てるなら、いいですけど…大丈夫なんでしょうか?」
テーブルには肉詰めピーマンと、鯖とタマネギのマリネ、漬物が並ぶ。
「まぁ、明日にでも室田さんと話してみるよ」
「なんか、おかしな話ですね」
「うん、パーティーに行かなきゃ良かったかなぁ…」
「でも、伸一さんに褒められたから、私的には嬉しいですけどね」
「行くにしても、費用は出してもらうから」
「はい」
翌日。
伸一と室田が話していた。
「室長、いいんですか?」
「いや、オレも奥さん見て驚いたんだよ。あれだけの華がある人ならパーティーで注目を集めるよ」
「でも、経団連ですよね?そんな同伴の女性なんて必要ないでしょう?」
「それがさ、最近はパーティーをもっと華やかにして柔らかい雰囲気が出てきたんだよ。まぁ、商談もそんな雰囲気の方が上手く行く事も多い。それに…今回はちょっとね」
「何ですか?」
「実はさ、東西銀行の矢島頭取なんだけど、社長と大学の同級でね、今度のパーティーには、かなりの美人秘書を連れて来るって話が来たんだよ」
「それで?」
「ほら、銀行はウチらノンバンクを格下に見てるだろう?いつも煮え湯を飲まされてるから、見返したくて堪らないんだ」
「はぁ?それ…悦子は関係ないじゃないですか?」
「そう!そんなんだよ、単なる男の見栄でしかない、オレも無視してくれって言ってんだけどさ…」
「なんか、客寄せパンダですよね。飾り物自慢でしょ?」
「うん、まぁ一回限りだからさ、なんとか奥さんを説得してくれないか?」
「バカバカしいですよ。ここで社長のポイント稼げばキミにも悪い話じゃないし…」
「別にそれでポイント稼がなくてもいいんですけどね…」
「まぁ、我々サラリーマンの辛いとこだが、無理強いは出来ないのも理解してる。一応、聞いてみてくれないか?」
「いつなんですか?」
「来月の3日だ」
あと2週間後である。
「一応聞きますが、期待しないで下さい」
佐伯はこのやり取りを聞いてムカついてた。
なんでワザワザ、そんな理由で外部の人妻を使わなければならないのか?
むしろ、自分に声がかからない事に腹を立てていた。
だが、佐伯はまだ若い。
そういうパーティーには、ある程度の大人で礼儀もソツなくこなせる方がいい。
言うなれば、高級クラブのホステス並みの機転の良さが求められる。
「ただいま~」
「おかえりなさい」
悦子は小走りで迎えに来た。
お約束のキスと下着閲覧も忘れてない。
「今日も似合うのつけてるな」
「はい、だって伸一さん好みですから」
「あのさ、パーティーの話なんだけど…」
伸一は室田との会話を全て話した。
悦子は怒る事なく聞いている。
「そんな勝負してるんですね、ふふ…」
「おかしいかい?」
「だって、大の社長さん達が女性自慢するって事ですよね?なんか子供っぽいなって…」
「はは…確かにそうだね、で、どうする?もちろん断るのもアリだよ。第一に気分良くないだろう?」
「ん~…伸一さんが一緒なら構いませんよ」
「はい?」
「私でお役に立てるなら構いません」
「マジで?」
「はい」
「なんで?」
「もしかしたら、伸一さんの人脈が広がるかも知れないし、経団連のパーティーなんて私が出る機会も無いので…いい経験かなって」
「悦子もそういう考えするんだねぇ」
「あらぁ、これは伸一さんの影響ですよ」
「そうか…じゃあ、オーケーの返事をしておくよ」
「はい…」
室田はホッとしていた。
目黒は喜び、パーティーを楽しみにした。
「費用は社長がお願いしますよ」
「伸ちゃん、大丈夫だ!それは全額払うから心配しなくていいよ」
晴美は、地味に仕事をこなしていた。
影山から離れて、嵯峨 勝と付き合い出して半年になる。
実に平穏な日々だった。
3日前にプロポーズされ、晴美はそれを受けた。
年は2つ上で税務署の職員だ。
とても優しいし、大事にされてると感じさせてくれる相手だ。
「晴美、式はどうしようか?」
「うん、あんまり派手なのは…」
「身内と知り合いにだけ集めるようにしようか?」
「そうだね、若くないし…」
「まぁ、そうだね」
ある日、晴美の支店に頭取の矢島が訪れた。
時々、支店の様子を見に来てるが、窓口の晴美に目が止まった。
「あの人は?」
「窓口の派遣ですね」
支店長の野口が愛想笑いしている。
「いいねぇ!あの子さ、独身?」
「確か…独身かと」
「ちょっと呼んでくれるかな?」
野口は意図を掴めないでいた。
行員でもなく、派遣社員に何の用事があるのか?
応接室で待つ矢島のもとに、晴美がオドオドしながら入ってきた。
「失礼します」
「やぁ、忙しいとこ済まないね」
「いえ、何かお話しとか?」
「まぁ、座ってくれ」
立派な革張りのソファーだ。
「実はさ、今度の土曜日に経団連のパーティーがあってね」
「はぁ…」
「最近は婦人同伴が多くてね。私は独身だから、いつも秘書に頼んでたんだけど、もし良ければ、キミ参加してみないか?」
「えっ!私が…ですか?」
「まぁ、怒らないでほしいがね。大概の会社のトップは見栄っ張りなんだよ、同伴する女性の格みたいなモノがあってね。キミなら間違いなく注目を集めれる。つまり、仕事の話なんかもスムーズに進むことがあるんだ」
「あんまり、関係ないようにも思いますが…」
「かかる費用は私が出すから、考えてみてくれないか?支店長に伝えてくれればいい」
「はぁ…」
突飛な話に晴美は笑ってしまった。
帰りの電車で、その事を考えていた。
(最近、だれてるからなぁ…)
女として、また磨きをかけるにはいいかもしれないと思い始めていた。
自室でゆっくりしてる時に、悦子に電話した。
「晴美です」
「久しぶりね、嵯峨さんとは上手くいってる?」
「うん、悦子も旦那さんとは?」
「ラブラブよ」
「そーなんだ…」
「どしたの?」
「ちょっと聞いてほしい事があって」
「いいわよ、なんなの?」
「最近さ、私って女としてどうなのかな?って考えちゃって…」
「それって磨きかけてるか、ってこと?」
「うん、嵯峨さんからプロポーズされて嬉しいんだけど、魅力ある女としてはどうなのかな?って思うの」
「そうねぇ…なんならナンパ待ちでもしてみる?」
「それはイヤ!」
「冗談よ、パーティーとか出てみたら?」
「パーティー…」
「そ、男の目を釘付けに出来れば、まだまだ晴美もいけるんじゃない?もともと美人だから、金持ちから声をかけられるかもよ」
「…そうね、うん、分かった」
「落ち着いたら、またご飯行こうね」
「うん」
影山の一件以来、晴美は自分に自信を無くしていた。
嵯峨はとても良くしてくれる。
安定とか安心なら、充分に満たされてる。
だが、地味な服や生活を好む嵯峨といると、女としての自信が薄れていた。
これは自分への好奇心だった。
パーティー当日。
悦子は、前回以上に気合いを入れた。
本屋でマナーや振舞いの教本を買い、勉強も身に付けた。
ドレスは、鮮やかなワインレッドのロングワンピースを選んだ。
肩を出して、黒の刺繍が胸に入ってる。
ストレートの黒髪にカールをかけて、メイクもそれに合わせた。
赤のヒールも色気を誘う。
伸一は時間をズラして、美容院に向かった。
出てきた悦子を見て息を飲んだ。
「こりゃ、すごい!」
「どうですか?」
「こりゃ、他の女性が霞むかもね」
「ふふふっ…出ましょうか」
待たせていたタクシーに乗り込む。
経団連のパーティーは、かなりの規模である。
各業界のトップが集まる。
水面下では、商談や役人との交渉材料を探したり、提携などの新たなビジネスを画策したり、人脈を広げる大事な場でもある。
主なトップは秘書や妻を同伴させる。
会長の挨拶が終わると談笑に入る。
「オォッ!」
入り口で歓声が上がった。
矢島が晴美を伴って登場した。
ライトブルーのドレスで、所々にラメが入っている。V字に開いた胸と背中が開いて一気に注目を集めた。
矢島に腕組みしながら、晴美は初めての雰囲気に飲まれそうになった。
「あの…頭取、私なんかで大丈夫ですか?」
「大丈夫!見てごらん、周りの連中がみんな見てるだろう?」
確かに、鋭い眼光が晴美を見ていた。
かなり恥ずかしい。
2人は目黒を探した。
すると、反対側のドアから声がした。
「こりゃ美人だねぇ!」
「あー、目黒社長だろ?」
「キレイ!」
矢島と晴美が声の方を見た。
「オォッ!目黒社長!」
「これは矢島頭取!」
そして、腕組みする悦子を見て矢島も息が止まりそうになった。
「こりゃ美しい!」
そして晴美も悦子もお互いの存在に驚愕した。
「は、晴美?」
「悦子…」
タイプの違う美人2人に、周りの連中が視線を浴びせた。
「えっ…どうして悦子がいるの?」
「晴美こそ!えっ?」
目黒は2人の会話に入った。
「もしかして知り合い?」
「友人です」
「あららら…そうなの!」
晴美が悦子のそばに来た。
ワインレッドとライトブルーの対象的なドレスと美人2人は、パーティーの主役になってしまった。
「下田さん!」
伸一も驚いて2人に駆け寄った。
「山咲さん!お久しぶりです」
「ビックリしましたよ」
目黒も矢島も3人のやり取りを見て驚いた。
「いやいや、2人が友達なんてすごい偶然ですなぁ!」
悦子と晴美は、お互いにパーティーに参加した経緯を話した。
「悦子、すごくキレイ…」
「ううん、晴美の方がキレイよ。ドレスがすごく似合ってるわ」
「でも、おかしな話ね」
「そうね、どっちも会社の上から頼まれて参加してるなんて…ふふっ」
目黒と矢島も笑いながら談笑した。
「さすがだな…あんなキレイどころ連れてくるとはな…」
「目黒よ、オマエだって、すごい隠し球出してきたよな…」
「まぁ、引き分けってとこか?」
「おう!」
アホな2人だが、悦子と晴美は思わぬ再会に喜びを感じていた。
目黒は、悦子と晴美に頼んで写真を撮ってもらうことにした。
まさに両手に華である。
2人に腕組みされて、ご満悦な顔に矢島にもお願いされた。
その後、何人かの社長連中にもお願いされて、2人は苦笑いしながら引き受けた。
伸一と悦子、そして晴美はホテルのバーで飲み直す事にした。
バーに入ると周りから一斉に注目された。
それぐらい、悦子と晴美は異彩を放っていた。
「社長達の気持ちも分かるな…」
「そうなんですか?」
「だって、こんなキレイな2人を従えてたら、気分は最高だしね」
「山咲さん、悦子に叱られますよ」
悦子は笑ってる。
「頭取も社長も満足してたし、2人にお礼言われましたよ。なんか、今後はファイオスと東西銀行で仕事が出来ないか、模索するって言ってました。これも2人のおかげかな?」
「へぇ、そうなんですか?」
悦子がキールを飲みながら、目を大きくしていた。
「最初はアホらしいと思ってたけど、効果はあるもんだな、と勉強しましたよ」
「ふふっ…でも、男の人って幾つになっても子供っぽいですね」
晴美はモスコーミュールを飲んでた。
「しかし、2人を見てると女性の美しさはパワーある事を知らされましたね」
「でも、面白かったわ」
「そうね、違う世界も観れたしね。いい勉強になったかもね」
「ところでさ、晴美はいつ結婚するの?」
「うん、まだ未定だけどね。ひっそりと挙げようか、て話してる」
「私たちは呼んでくれるのかしら?」
「もちろんよ!」
「悦子!じゃあ、下田さん食っちゃう服で行ったら?」
「うふふ…それいいですね」
「悦子!」
「嵯峨さんは?」
「お仕事で九州に行ってるの。それから色々考えようって話してる」
晴美も最後の大人としての、交流や社会での出来事を自分なりに見て、結婚への決意が固まった気がした。
2時間ほど話して解散となった。
伸一と悦子は、マンションに戻り2人で浴室に入った。
「晴美…キレイでしたね」
「うん、でも悦子の方がキレイだった」
「ふふっ…」
伸一の座イスに座り、悦子はその上に跨った。
ボディーソープで泡だてて、悦子の体を手で洗う。
お互いに泡まみれになり、悦子は伸一の太ももを股間で挟んだ。
「動いてごらん」
「こうですか?」
体が前後に動く。
陰部の柔らかさが伝わる。
そのまま、肉棒を手でしごきながらキスを交わす。
「ん…ん。ぅん!んっ!」
今度は悦子を壁に手をつかせ、お尻を突き出させた。
「こんな…」
アナルから会陰、そして陰部へと指を這わせる。
「あぁっ…あっ、そんなぁ…あん!」
もう陰部は愛液とソープの泡が混ざってた。
「今日は前戯はいらないね」
「えっ?」
その瞬間に固い肉棒が悦子を貫いた。
「あうっ!あっ!それ…あうっ!」
耳元で伸一が囁いた。
「妻を犯すよ…」
(あぁっ…そんな…)
ヌチャッ!ヌチャッ!と音が浴室に響く。
「あぁっ!あぁっ!はぁっ…あん!あっ」
心に刺さる声で「犯す」なんて言われたら頭がおかしくなってしまう。
「あっ!あっ!あっ!あん!」
バックで腰を打ちつけ、腕を引き寄せる。
何度も何度も悦子を犯した。
「あっ!しんいちさぁん!好き!大好きぃ、あん!あぁっ!」
犯される喜びを堪能した悦子は、オーガズムが上がるのを感じた。
だめぇ!そう頭が叫んでた。
「いくいく!いっちゃう!だめぇ!」
そのままピクピクしながら果てた。
崩れた悦子の顔に、伸一の精子が打ちつけるようにかけられた。
「あっ…ん…」
熱い液を感じ、それを口に運んだ。
ベッドでビールを飲みながら、伸一にもたれかかる。
「今日は、いきなりなんですね…」
「たまにはいいかなってね」
「もう…ヒドイです」
「その割に喜んでませんか?」
「ふふっ…ナイショです」
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