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監禁前夜
三話・変えられなかったモノ②
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圭吾の反応はいつも分かりやすかった。怒りも、困惑も、好意すらも。そのすべてが素直で実直で友人としては好ましい。だから、彼のことは名前で呼んでやるし、他者と比べれば比較的素に近い一面も見せられる。なにより、アイネの体を知っても態度をあまり変えなかったことは好ましかった。
だが、素直すぎる彼はアイネにとって恋愛対象にはなり得なかった。どれだけ好意を向けられようと、どれだけ理解を示されようと。彼の愛情表現がアイネを満たすことは無かった。
ゆえに、アイネは代わりに身体をあげた。
彼は好きなだけアイネを愛し、アイネは好きなだけ愛される。
つまるところ、ヤってることは変わらず『いつも通り』だ。そして、残念ながら彼という存在すらも他の奴らとなんら変わりはしなかった。与えた権利を何度も自主的に使い、アイネを金で買って犯す雄でしかない。抱かれた回数を数えるのは5回を過ぎたあたりで面倒になってやめた。
「…………今日、空いてるのか」
「空いてるけど」
「なら、いつもの場所、どう?」
こちらを窺い問うような口ぶりで、されど鋭い光が差す瞳は嫉妬の炎をごうごうと燃え立たせている。分かりやすい彼のことだ。昼間見たというメアのスキンシップが余程気に食わなかったのだろう。
哀れな男である。抱擁の比にならない行為を日々さまざまな男どもと交わしているような存在相手に嫉妬するなんて。その愚かさが滑稽で、別段断る理由もないからと肯定を口に、
「…………」
した筈だった。
良いよ、と紡ぐはずの唇が動きを躊躇った。
嗚呼、まただ。また、あの悩みが主張をする。
「穢れた体をメアの前に晒すのか」と悩みが言う。
脳裏を過るは、貼り付けられた問題と昼間に見たメアの穢れない笑顔。誰にでも抱かれ、すっかり汚れ切った身体をなにも知らないが故に躊躇なく抱擁した筋肉質で心地よい温もり。
(ここで、受け入れたら……コイツに抱かせたら、また、汚れる……。でも、どうせオレはとっくに汚れてる。シャワーや洗剤程度じゃ落とせない汚れがこびり付いてる。それに――)
頭の中にいつだったかの夜が蘇る。藍色に染まった暗い部屋と抉られる内部の快感、押し挿ってくる圭吾の大きく育った熱い楔は何度も最奥を叩いてアイネを天辺に引き摺り上げる。
何度も与えられたモノを思い出した体はぞくりと痺れ、じゅくりと子宮は甘く震えた。とろとろいやらしい蜜がそこから分泌され始めたのが分かって、アイネはわずかに唇を噛む。
圭吾との行為を記憶している身体が「愛して」と訴える。セックスの快楽を知っている脳が「求めろ」と短絡的な答えを述べる。淫猥な衝動の合間から幼い顔をした自分が「ヤメテ」と叫ぶ。
嫌だ、穢れてしまう、また穢してしまう、体が、心が、汚れて、メアに合わせる顔が……――
(…………合わせる顔なんて、最初からあったっけ……?)
その疑問が浮かんだまさにその時、すこんと躊躇いが抜け落ちたのをアイネは感じた。
フラッシュバックするのは今までのこと。女性器があるからと女のように犯され、己を産んだ母からも否定され、得られぬものを補うために自主的に足を開いてきたこの数年。昨日今日程度の時間では生まれぬ白濁の湖に身を浸している事実。
――合わせる顔なんて、最初から無かった。
空虚な絶望が肌を這って、抜け落ちた場所を埋めるように体は快楽を求め始める。
「…………いいよ。行こ」
「よし。それじゃ、」
「圭吾がよかったらさぁ。……今から、付き合って?」
偽りの微笑みで艶やかに表情を彩り甘言を弄すると、いまだアイネの腕を掴んだままの圭吾の手に自身の片手を這わせた。幼い頃から眉目秀麗と評されるその相貌は、圭吾の視線をするりと絡めとる。そして、男にしては細身な体を少しばかり彼に近づけると、周囲からは目立たぬ程度に淫らにすり寄った。
そうやって、今日も今日とてアイネは男をかどわかす。
(……メアと会って、こんな姿見せたくない、穢したくないって思っても……結局オレは変われない。拒めない。……欲しい、犯してほしい)
与えられる快楽が、愛が、たとえ泡沫の夢であれど。
大切に思う誰かへの裏切りになると思っていても。
「オレ、……今めちゃくちゃに突かれたい気分なんだ」
いくら心に浮かべた冷たい笑みで自身を責めるように蔑んでも、愛してほしいという願いだけは、どうしても手放せなかった。
だが、素直すぎる彼はアイネにとって恋愛対象にはなり得なかった。どれだけ好意を向けられようと、どれだけ理解を示されようと。彼の愛情表現がアイネを満たすことは無かった。
ゆえに、アイネは代わりに身体をあげた。
彼は好きなだけアイネを愛し、アイネは好きなだけ愛される。
つまるところ、ヤってることは変わらず『いつも通り』だ。そして、残念ながら彼という存在すらも他の奴らとなんら変わりはしなかった。与えた権利を何度も自主的に使い、アイネを金で買って犯す雄でしかない。抱かれた回数を数えるのは5回を過ぎたあたりで面倒になってやめた。
「…………今日、空いてるのか」
「空いてるけど」
「なら、いつもの場所、どう?」
こちらを窺い問うような口ぶりで、されど鋭い光が差す瞳は嫉妬の炎をごうごうと燃え立たせている。分かりやすい彼のことだ。昼間見たというメアのスキンシップが余程気に食わなかったのだろう。
哀れな男である。抱擁の比にならない行為を日々さまざまな男どもと交わしているような存在相手に嫉妬するなんて。その愚かさが滑稽で、別段断る理由もないからと肯定を口に、
「…………」
した筈だった。
良いよ、と紡ぐはずの唇が動きを躊躇った。
嗚呼、まただ。また、あの悩みが主張をする。
「穢れた体をメアの前に晒すのか」と悩みが言う。
脳裏を過るは、貼り付けられた問題と昼間に見たメアの穢れない笑顔。誰にでも抱かれ、すっかり汚れ切った身体をなにも知らないが故に躊躇なく抱擁した筋肉質で心地よい温もり。
(ここで、受け入れたら……コイツに抱かせたら、また、汚れる……。でも、どうせオレはとっくに汚れてる。シャワーや洗剤程度じゃ落とせない汚れがこびり付いてる。それに――)
頭の中にいつだったかの夜が蘇る。藍色に染まった暗い部屋と抉られる内部の快感、押し挿ってくる圭吾の大きく育った熱い楔は何度も最奥を叩いてアイネを天辺に引き摺り上げる。
何度も与えられたモノを思い出した体はぞくりと痺れ、じゅくりと子宮は甘く震えた。とろとろいやらしい蜜がそこから分泌され始めたのが分かって、アイネはわずかに唇を噛む。
圭吾との行為を記憶している身体が「愛して」と訴える。セックスの快楽を知っている脳が「求めろ」と短絡的な答えを述べる。淫猥な衝動の合間から幼い顔をした自分が「ヤメテ」と叫ぶ。
嫌だ、穢れてしまう、また穢してしまう、体が、心が、汚れて、メアに合わせる顔が……――
(…………合わせる顔なんて、最初からあったっけ……?)
その疑問が浮かんだまさにその時、すこんと躊躇いが抜け落ちたのをアイネは感じた。
フラッシュバックするのは今までのこと。女性器があるからと女のように犯され、己を産んだ母からも否定され、得られぬものを補うために自主的に足を開いてきたこの数年。昨日今日程度の時間では生まれぬ白濁の湖に身を浸している事実。
――合わせる顔なんて、最初から無かった。
空虚な絶望が肌を這って、抜け落ちた場所を埋めるように体は快楽を求め始める。
「…………いいよ。行こ」
「よし。それじゃ、」
「圭吾がよかったらさぁ。……今から、付き合って?」
偽りの微笑みで艶やかに表情を彩り甘言を弄すると、いまだアイネの腕を掴んだままの圭吾の手に自身の片手を這わせた。幼い頃から眉目秀麗と評されるその相貌は、圭吾の視線をするりと絡めとる。そして、男にしては細身な体を少しばかり彼に近づけると、周囲からは目立たぬ程度に淫らにすり寄った。
そうやって、今日も今日とてアイネは男をかどわかす。
(……メアと会って、こんな姿見せたくない、穢したくないって思っても……結局オレは変われない。拒めない。……欲しい、犯してほしい)
与えられる快楽が、愛が、たとえ泡沫の夢であれど。
大切に思う誰かへの裏切りになると思っていても。
「オレ、……今めちゃくちゃに突かれたい気分なんだ」
いくら心に浮かべた冷たい笑みで自身を責めるように蔑んでも、愛してほしいという願いだけは、どうしても手放せなかった。
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