8 / 19
監禁前夜
三話・変えられなかったモノ②
しおりを挟む
圭吾の反応はいつも分かりやすかった。怒りも、困惑も、好意すらも。そのすべてが素直で実直で友人としては好ましい。だから、彼のことは名前で呼んでやるし、他者と比べれば比較的素に近い一面も見せられる。なにより、アイネの体を知っても態度をあまり変えなかったことは好ましかった。
だが、素直すぎる彼はアイネにとって恋愛対象にはなり得なかった。どれだけ好意を向けられようと、どれだけ理解を示されようと。彼の愛情表現がアイネを満たすことは無かった。
ゆえに、アイネは代わりに身体をあげた。
彼は好きなだけアイネを愛し、アイネは好きなだけ愛される。
つまるところ、ヤってることは変わらず『いつも通り』だ。そして、残念ながら彼という存在すらも他の奴らとなんら変わりはしなかった。与えた権利を何度も自主的に使い、アイネを金で買って犯す雄でしかない。抱かれた回数を数えるのは5回を過ぎたあたりで面倒になってやめた。
「…………今日、空いてるのか」
「空いてるけど」
「なら、いつもの場所、どう?」
こちらを窺い問うような口ぶりで、されど鋭い光が差す瞳は嫉妬の炎をごうごうと燃え立たせている。分かりやすい彼のことだ。昼間見たというメアのスキンシップが余程気に食わなかったのだろう。
哀れな男である。抱擁の比にならない行為を日々さまざまな男どもと交わしているような存在相手に嫉妬するなんて。その愚かさが滑稽で、別段断る理由もないからと肯定を口に、
「…………」
した筈だった。
良いよ、と紡ぐはずの唇が動きを躊躇った。
嗚呼、まただ。また、あの悩みが主張をする。
「穢れた体をメアの前に晒すのか」と悩みが言う。
脳裏を過るは、貼り付けられた問題と昼間に見たメアの穢れない笑顔。誰にでも抱かれ、すっかり汚れ切った身体をなにも知らないが故に躊躇なく抱擁した筋肉質で心地よい温もり。
(ここで、受け入れたら……コイツに抱かせたら、また、汚れる……。でも、どうせオレはとっくに汚れてる。シャワーや洗剤程度じゃ落とせない汚れがこびり付いてる。それに――)
頭の中にいつだったかの夜が蘇る。藍色に染まった暗い部屋と抉られる内部の快感、押し挿ってくる圭吾の大きく育った熱い楔は何度も最奥を叩いてアイネを天辺に引き摺り上げる。
何度も与えられたモノを思い出した体はぞくりと痺れ、じゅくりと子宮は甘く震えた。とろとろいやらしい蜜がそこから分泌され始めたのが分かって、アイネはわずかに唇を噛む。
圭吾との行為を記憶している身体が「愛して」と訴える。セックスの快楽を知っている脳が「求めろ」と短絡的な答えを述べる。淫猥な衝動の合間から幼い顔をした自分が「ヤメテ」と叫ぶ。
嫌だ、穢れてしまう、また穢してしまう、体が、心が、汚れて、メアに合わせる顔が……――
(…………合わせる顔なんて、最初からあったっけ……?)
その疑問が浮かんだまさにその時、すこんと躊躇いが抜け落ちたのをアイネは感じた。
フラッシュバックするのは今までのこと。女性器があるからと女のように犯され、己を産んだ母からも否定され、得られぬものを補うために自主的に足を開いてきたこの数年。昨日今日程度の時間では生まれぬ白濁の湖に身を浸している事実。
――合わせる顔なんて、最初から無かった。
空虚な絶望が肌を這って、抜け落ちた場所を埋めるように体は快楽を求め始める。
「…………いいよ。行こ」
「よし。それじゃ、」
「圭吾がよかったらさぁ。……今から、付き合って?」
偽りの微笑みで艶やかに表情を彩り甘言を弄すると、いまだアイネの腕を掴んだままの圭吾の手に自身の片手を這わせた。幼い頃から眉目秀麗と評されるその相貌は、圭吾の視線をするりと絡めとる。そして、男にしては細身な体を少しばかり彼に近づけると、周囲からは目立たぬ程度に淫らにすり寄った。
そうやって、今日も今日とてアイネは男をかどわかす。
(……メアと会って、こんな姿見せたくない、穢したくないって思っても……結局オレは変われない。拒めない。……欲しい、犯してほしい)
与えられる快楽が、愛が、たとえ泡沫の夢であれど。
大切に思う誰かへの裏切りになると思っていても。
「オレ、……今めちゃくちゃに突かれたい気分なんだ」
いくら心に浮かべた冷たい笑みで自身を責めるように蔑んでも、愛してほしいという願いだけは、どうしても手放せなかった。
だが、素直すぎる彼はアイネにとって恋愛対象にはなり得なかった。どれだけ好意を向けられようと、どれだけ理解を示されようと。彼の愛情表現がアイネを満たすことは無かった。
ゆえに、アイネは代わりに身体をあげた。
彼は好きなだけアイネを愛し、アイネは好きなだけ愛される。
つまるところ、ヤってることは変わらず『いつも通り』だ。そして、残念ながら彼という存在すらも他の奴らとなんら変わりはしなかった。与えた権利を何度も自主的に使い、アイネを金で買って犯す雄でしかない。抱かれた回数を数えるのは5回を過ぎたあたりで面倒になってやめた。
「…………今日、空いてるのか」
「空いてるけど」
「なら、いつもの場所、どう?」
こちらを窺い問うような口ぶりで、されど鋭い光が差す瞳は嫉妬の炎をごうごうと燃え立たせている。分かりやすい彼のことだ。昼間見たというメアのスキンシップが余程気に食わなかったのだろう。
哀れな男である。抱擁の比にならない行為を日々さまざまな男どもと交わしているような存在相手に嫉妬するなんて。その愚かさが滑稽で、別段断る理由もないからと肯定を口に、
「…………」
した筈だった。
良いよ、と紡ぐはずの唇が動きを躊躇った。
嗚呼、まただ。また、あの悩みが主張をする。
「穢れた体をメアの前に晒すのか」と悩みが言う。
脳裏を過るは、貼り付けられた問題と昼間に見たメアの穢れない笑顔。誰にでも抱かれ、すっかり汚れ切った身体をなにも知らないが故に躊躇なく抱擁した筋肉質で心地よい温もり。
(ここで、受け入れたら……コイツに抱かせたら、また、汚れる……。でも、どうせオレはとっくに汚れてる。シャワーや洗剤程度じゃ落とせない汚れがこびり付いてる。それに――)
頭の中にいつだったかの夜が蘇る。藍色に染まった暗い部屋と抉られる内部の快感、押し挿ってくる圭吾の大きく育った熱い楔は何度も最奥を叩いてアイネを天辺に引き摺り上げる。
何度も与えられたモノを思い出した体はぞくりと痺れ、じゅくりと子宮は甘く震えた。とろとろいやらしい蜜がそこから分泌され始めたのが分かって、アイネはわずかに唇を噛む。
圭吾との行為を記憶している身体が「愛して」と訴える。セックスの快楽を知っている脳が「求めろ」と短絡的な答えを述べる。淫猥な衝動の合間から幼い顔をした自分が「ヤメテ」と叫ぶ。
嫌だ、穢れてしまう、また穢してしまう、体が、心が、汚れて、メアに合わせる顔が……――
(…………合わせる顔なんて、最初からあったっけ……?)
その疑問が浮かんだまさにその時、すこんと躊躇いが抜け落ちたのをアイネは感じた。
フラッシュバックするのは今までのこと。女性器があるからと女のように犯され、己を産んだ母からも否定され、得られぬものを補うために自主的に足を開いてきたこの数年。昨日今日程度の時間では生まれぬ白濁の湖に身を浸している事実。
――合わせる顔なんて、最初から無かった。
空虚な絶望が肌を這って、抜け落ちた場所を埋めるように体は快楽を求め始める。
「…………いいよ。行こ」
「よし。それじゃ、」
「圭吾がよかったらさぁ。……今から、付き合って?」
偽りの微笑みで艶やかに表情を彩り甘言を弄すると、いまだアイネの腕を掴んだままの圭吾の手に自身の片手を這わせた。幼い頃から眉目秀麗と評されるその相貌は、圭吾の視線をするりと絡めとる。そして、男にしては細身な体を少しばかり彼に近づけると、周囲からは目立たぬ程度に淫らにすり寄った。
そうやって、今日も今日とてアイネは男をかどわかす。
(……メアと会って、こんな姿見せたくない、穢したくないって思っても……結局オレは変われない。拒めない。……欲しい、犯してほしい)
与えられる快楽が、愛が、たとえ泡沫の夢であれど。
大切に思う誰かへの裏切りになると思っていても。
「オレ、……今めちゃくちゃに突かれたい気分なんだ」
いくら心に浮かべた冷たい笑みで自身を責めるように蔑んでも、愛してほしいという願いだけは、どうしても手放せなかった。
3
一言メモ(更新:2024/06/24)更新が一年振りと気付いて自分でドン引きました……申し訳ない……。ゆっくり更新にもほどがある!
お気に入りに追加
184
あなたにおすすめの小説
中華マフィア若頭の寵愛が重すぎて頭を抱えています
橋本しら子
BL
あの時、あの場所に近づかなければ、変わらない日常の中にいることができたのかもしれない。居酒屋でアルバイトをしながら学費を稼ぐ苦学生の桃瀬朱兎(ももせあやと)は、バイト終わりに自宅近くの裏路地で怪我をしていた一人の男を助けた。その男こそ、朱龍会日本支部を取り仕切っている中華マフィアの若頭【鼬瓏(ゆうろん)】その人。彼に関わったことから事件に巻き込まれてしまい、気づけば闇オークションで人身売買に掛けられていた。偶然居合わせた鼬瓏に買われたことにより普通の日常から一変、非日常へ身を置くことになってしまったが……
想像していたような酷い扱いなどなく、ただ鼬瓏に甘やかされながら何時も通りの生活を送っていた。
※付きのお話は18指定になります。ご注意ください。
更新は不定期です。

身体検査
RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、
選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。
平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです
おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの)
BDSM要素はほぼ無し。
甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。
順次スケベパートも追加していきます


王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?
名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。
そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________
※
・非王道気味
・固定カプ予定は無い
・悲しい過去🐜のたまにシリアス
・話の流れが遅い

普通の男の子がヤンデレや変態に愛されるだけの短編集、はじめました。
山田ハメ太郎
BL
タイトル通りです。
お話ごとに章分けしており、ひとつの章が大体1万文字以下のショート詰め合わせです。
サクッと読めますので、お好きなお話からどうぞ。

頭の上に現れた数字が平凡な俺で抜いた数って冗談ですよね?
いぶぷろふぇ
BL
ある日突然頭の上に謎の数字が見えるようになったごくごく普通の高校生、佐藤栄司。何やら規則性があるらしい数字だが、その意味は分からないまま。
ところが、数字が頭上にある事にも慣れたある日、クラス替えによって隣の席になった学年一のイケメン白田慶は数字に何やら心当たりがあるようで……?
頭上の数字を発端に、普通のはずの高校生がヤンデレ達の愛に巻き込まれていく!?
「白田君!? っていうか、和真も!? 慎吾まで!? ちょ、やめて! そんな目で見つめてこないで!」
美形ヤンデレ攻め×平凡受け
※この作品は以前ぷらいべったーに載せた作品を改題・改稿したものです
※物語は高校生から始まりますが、主人公が成人する後半まで性描写はありません

男子高校に入学したらハーレムでした!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
ゆっくり書いていきます。
毎日19時更新です。
よろしくお願い致します。
2022.04.28
お気に入り、栞ありがとうございます。
とても励みになります。
引き続き宜しくお願いします。
2022.05.01
近々番外編SSをあげます。
よければ覗いてみてください。
2022.05.10
お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。
精一杯書いていきます。
2022.05.15
閲覧、お気に入り、ありがとうございます。
読んでいただけてとても嬉しいです。
近々番外編をあげます。
良ければ覗いてみてください。
2022.05.28
今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。
次作も頑張って書きます。
よろしくおねがいします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる