3 / 19
監禁前夜
一話・思い出の中にあるモノ②
しおりを挟む「俺達に話を聞きに来たんですか?」
「いや、懐かしかったから見学に来ただけ」
「え……」
「俺、ここの卒業生だから」
紘彬が部室を見回しながら答えた。
「先輩ってことですか?」
「そ。可愛い後輩達の顔見に来たんだ」
紘彬の言葉に反応に困った一史達は顔を見合わせた。
「ここんとこ部活出来なかったんだって? これ以上邪魔しちゃ悪いから帰るよ」
紘彬はそう言ってから、
「あ、でも、それ渡してもらえるか?」
聖子が持っていた紙を指した。
差し出された紙を如月が手袋を嵌めた手で受け取ると部室を後にした。
「あんなこと言ってたけど、刑事さんがあれ持って行ったってことはホントに見立て殺人って事?」
弥奈が不安そうに言った。
「ここの部員が狙われ……」
「バカなこと言うんじゃない!」
垂水が厳しい声で弥奈の言葉を遮る。
「でも、ここの部員の名字、被枕にある名前ばかりだよねぇ」
弥奈がそう言うと、
「え、朝霞に掛かる枕詞ってあった?」
耕太が言った。
「朝霞は聞いたことないけど……」
「じゃあ、朝霞さんだけは大丈夫ってこと?」
弥奈と耕太の言葉に部員達の疑うような視線が由衣に集まる。
「わ、わたしは……」
由衣が慌てる。
「見立てが出来るほど和歌に詳しいのに自分だけ被害者から外れたら疑ってくれって言うようなものでしょ。それに結城だってないし」
聖子がバカバカしいというように言った。
「え、あたしですか!?」
今度は結城が狼狽えたように言った。
「他にも無い人がいるって意味よ」
聖子はぴしゃりと言って結城の言葉を遮った。
「…………」
一史は何も言わずに全員の表情を見ていた。
「いい加減にしろ。部活を始めるぞ」
垂水がそう言ったが部員達は心ここにあらずと言った様子で皆集中出来なかった。
部活が終わり、垂水が職員室に戻ると紘彬と如月が職員室に入ってきた。
「学校を見て回られてたんですか?」
垂水が訊ねた。
紘彬のさっきの言葉を間に受けたようだ。
母校というのは事実だが。
「いえ、署に戻ってたんです」
小野以外に死亡した生徒がいるという話は聞いていなかった。
警察署は近くだし、教師達に話を聞くにしても詳しいことは署で調べた方が確実である。
それで一旦戻って調べてきたのだ。
「見立て殺人と言ってましたね。詳しい話を聞いても?」
「あ、いや、あれは生徒達の冗談で……」
「冗談なら話しても問題ありませんよね」
如月にそう返されて垂水は言葉に詰まった。
垂水は如月に促されて渋々部活の一環として枕詞を書いた紙のことを説明した。
「その紙、まだありますか?」
話を聞いた紘彬が垂水に訊ねた。
垂水は一瞬迷ってから、机の引き出しから紙を取り出す。
「紙に書いてあったのが『あさじうの』で、倒れていた生徒が小野ですか」
そして今日、部室の机に『ももしきの』と書かれた紙が置いてあった。
被枕は『大宮』
「小野は棚の下敷きになったんですから事故でしょう?」
垂水が言った。
「棚を固定している器具が古かったそうですし、細工した後もなかったと聞いてます」
紘彬は否定も肯定もせずに、
「箱もお預かりしたいんですが」
と言った。
「桜井さん、どう思いますか?」
校門から離れたところで如月が紘彬に訊ねた。
これから警察署に帰るのである。
如月は枕詞の紙が入っている箱を抱えていた。
この箱は証拠品である。
「小野と大宮に接点があるかだな。それと大宮が殺人なのかどうか」
そうなのだ。
調べてみたが大宮は階段から落ちたのが死因だった。
駅の階段だから突き飛ばされた可能性もなくはないのだが――。
わざわざ殺人を示すような紙を置いて連続殺人だと思わせたところでメリットがあるとは思えなかった。
五月二十一日――鞍馬の山――
垂水は授業を終えて職員室の自分の席に戻った。
椅子に座るとサプリを出して机の上のペットボトルの水でカプセルを飲み込む。
「それは?」
カプセルを嚥下した時、背後から声が聞こえた。
振り返ると紘彬と如月がいた。
「これはビタミン剤ですよ」
垂水はそう答えてから、
「何か?」
と紘彬達に訊ねた。
「確認したいことがありまして」
如月が答える。
「なんでしょうか」
「この箱と紙、先生が作った時のままですか?」
如月が箱と証拠袋に入った大量の紙を置いた。
垂水は箱を手に取って改めた。
箱に変わった点はなかった。
が――。
「『はるひの』は入れてない」
垂水が言った。
「どうしてですか?」
「『はるひの』は『万葉集』にしか使用例がないから入れなかったんです」
「『はるのひの』なら……」
「間に『の』が入る場合、被枕は『春日』じゃなくなるんです。ですが生徒達には授業で『はるひの』の被枕は『春日』だって教えてるので……」
垂水が入れなかったというのが事実なら誰かが入れたと言うことだ。
と言うことは――。
「部員に春日がいるんですか?」
そう訊ねると垂水が深刻そうな表情で頷いた。
紘彬と如月が顔を見合わせる。
昨日紹介された中にはいない。
「最近休んでたので……」
垂水が弁解するように答えた。
「いや、懐かしかったから見学に来ただけ」
「え……」
「俺、ここの卒業生だから」
紘彬が部室を見回しながら答えた。
「先輩ってことですか?」
「そ。可愛い後輩達の顔見に来たんだ」
紘彬の言葉に反応に困った一史達は顔を見合わせた。
「ここんとこ部活出来なかったんだって? これ以上邪魔しちゃ悪いから帰るよ」
紘彬はそう言ってから、
「あ、でも、それ渡してもらえるか?」
聖子が持っていた紙を指した。
差し出された紙を如月が手袋を嵌めた手で受け取ると部室を後にした。
「あんなこと言ってたけど、刑事さんがあれ持って行ったってことはホントに見立て殺人って事?」
弥奈が不安そうに言った。
「ここの部員が狙われ……」
「バカなこと言うんじゃない!」
垂水が厳しい声で弥奈の言葉を遮る。
「でも、ここの部員の名字、被枕にある名前ばかりだよねぇ」
弥奈がそう言うと、
「え、朝霞に掛かる枕詞ってあった?」
耕太が言った。
「朝霞は聞いたことないけど……」
「じゃあ、朝霞さんだけは大丈夫ってこと?」
弥奈と耕太の言葉に部員達の疑うような視線が由衣に集まる。
「わ、わたしは……」
由衣が慌てる。
「見立てが出来るほど和歌に詳しいのに自分だけ被害者から外れたら疑ってくれって言うようなものでしょ。それに結城だってないし」
聖子がバカバカしいというように言った。
「え、あたしですか!?」
今度は結城が狼狽えたように言った。
「他にも無い人がいるって意味よ」
聖子はぴしゃりと言って結城の言葉を遮った。
「…………」
一史は何も言わずに全員の表情を見ていた。
「いい加減にしろ。部活を始めるぞ」
垂水がそう言ったが部員達は心ここにあらずと言った様子で皆集中出来なかった。
部活が終わり、垂水が職員室に戻ると紘彬と如月が職員室に入ってきた。
「学校を見て回られてたんですか?」
垂水が訊ねた。
紘彬のさっきの言葉を間に受けたようだ。
母校というのは事実だが。
「いえ、署に戻ってたんです」
小野以外に死亡した生徒がいるという話は聞いていなかった。
警察署は近くだし、教師達に話を聞くにしても詳しいことは署で調べた方が確実である。
それで一旦戻って調べてきたのだ。
「見立て殺人と言ってましたね。詳しい話を聞いても?」
「あ、いや、あれは生徒達の冗談で……」
「冗談なら話しても問題ありませんよね」
如月にそう返されて垂水は言葉に詰まった。
垂水は如月に促されて渋々部活の一環として枕詞を書いた紙のことを説明した。
「その紙、まだありますか?」
話を聞いた紘彬が垂水に訊ねた。
垂水は一瞬迷ってから、机の引き出しから紙を取り出す。
「紙に書いてあったのが『あさじうの』で、倒れていた生徒が小野ですか」
そして今日、部室の机に『ももしきの』と書かれた紙が置いてあった。
被枕は『大宮』
「小野は棚の下敷きになったんですから事故でしょう?」
垂水が言った。
「棚を固定している器具が古かったそうですし、細工した後もなかったと聞いてます」
紘彬は否定も肯定もせずに、
「箱もお預かりしたいんですが」
と言った。
「桜井さん、どう思いますか?」
校門から離れたところで如月が紘彬に訊ねた。
これから警察署に帰るのである。
如月は枕詞の紙が入っている箱を抱えていた。
この箱は証拠品である。
「小野と大宮に接点があるかだな。それと大宮が殺人なのかどうか」
そうなのだ。
調べてみたが大宮は階段から落ちたのが死因だった。
駅の階段だから突き飛ばされた可能性もなくはないのだが――。
わざわざ殺人を示すような紙を置いて連続殺人だと思わせたところでメリットがあるとは思えなかった。
五月二十一日――鞍馬の山――
垂水は授業を終えて職員室の自分の席に戻った。
椅子に座るとサプリを出して机の上のペットボトルの水でカプセルを飲み込む。
「それは?」
カプセルを嚥下した時、背後から声が聞こえた。
振り返ると紘彬と如月がいた。
「これはビタミン剤ですよ」
垂水はそう答えてから、
「何か?」
と紘彬達に訊ねた。
「確認したいことがありまして」
如月が答える。
「なんでしょうか」
「この箱と紙、先生が作った時のままですか?」
如月が箱と証拠袋に入った大量の紙を置いた。
垂水は箱を手に取って改めた。
箱に変わった点はなかった。
が――。
「『はるひの』は入れてない」
垂水が言った。
「どうしてですか?」
「『はるひの』は『万葉集』にしか使用例がないから入れなかったんです」
「『はるのひの』なら……」
「間に『の』が入る場合、被枕は『春日』じゃなくなるんです。ですが生徒達には授業で『はるひの』の被枕は『春日』だって教えてるので……」
垂水が入れなかったというのが事実なら誰かが入れたと言うことだ。
と言うことは――。
「部員に春日がいるんですか?」
そう訊ねると垂水が深刻そうな表情で頷いた。
紘彬と如月が顔を見合わせる。
昨日紹介された中にはいない。
「最近休んでたので……」
垂水が弁解するように答えた。
2
一言メモ(更新:2024/06/24)更新が一年振りと気付いて自分でドン引きました……申し訳ない……。ゆっくり更新にもほどがある!
お気に入りに追加
184
あなたにおすすめの小説
中華マフィア若頭の寵愛が重すぎて頭を抱えています
橋本しら子
BL
あの時、あの場所に近づかなければ、変わらない日常の中にいることができたのかもしれない。居酒屋でアルバイトをしながら学費を稼ぐ苦学生の桃瀬朱兎(ももせあやと)は、バイト終わりに自宅近くの裏路地で怪我をしていた一人の男を助けた。その男こそ、朱龍会日本支部を取り仕切っている中華マフィアの若頭【鼬瓏(ゆうろん)】その人。彼に関わったことから事件に巻き込まれてしまい、気づけば闇オークションで人身売買に掛けられていた。偶然居合わせた鼬瓏に買われたことにより普通の日常から一変、非日常へ身を置くことになってしまったが……
想像していたような酷い扱いなどなく、ただ鼬瓏に甘やかされながら何時も通りの生活を送っていた。
※付きのお話は18指定になります。ご注意ください。
更新は不定期です。

身体検査
RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、
選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。
平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです
おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの)
BDSM要素はほぼ無し。
甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。
順次スケベパートも追加していきます


王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?
名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。
そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________
※
・非王道気味
・固定カプ予定は無い
・悲しい過去🐜のたまにシリアス
・話の流れが遅い

普通の男の子がヤンデレや変態に愛されるだけの短編集、はじめました。
山田ハメ太郎
BL
タイトル通りです。
お話ごとに章分けしており、ひとつの章が大体1万文字以下のショート詰め合わせです。
サクッと読めますので、お好きなお話からどうぞ。

頭の上に現れた数字が平凡な俺で抜いた数って冗談ですよね?
いぶぷろふぇ
BL
ある日突然頭の上に謎の数字が見えるようになったごくごく普通の高校生、佐藤栄司。何やら規則性があるらしい数字だが、その意味は分からないまま。
ところが、数字が頭上にある事にも慣れたある日、クラス替えによって隣の席になった学年一のイケメン白田慶は数字に何やら心当たりがあるようで……?
頭上の数字を発端に、普通のはずの高校生がヤンデレ達の愛に巻き込まれていく!?
「白田君!? っていうか、和真も!? 慎吾まで!? ちょ、やめて! そんな目で見つめてこないで!」
美形ヤンデレ攻め×平凡受け
※この作品は以前ぷらいべったーに載せた作品を改題・改稿したものです
※物語は高校生から始まりますが、主人公が成人する後半まで性描写はありません

男子高校に入学したらハーレムでした!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
ゆっくり書いていきます。
毎日19時更新です。
よろしくお願い致します。
2022.04.28
お気に入り、栞ありがとうございます。
とても励みになります。
引き続き宜しくお願いします。
2022.05.01
近々番外編SSをあげます。
よければ覗いてみてください。
2022.05.10
お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。
精一杯書いていきます。
2022.05.15
閲覧、お気に入り、ありがとうございます。
読んでいただけてとても嬉しいです。
近々番外編をあげます。
良ければ覗いてみてください。
2022.05.28
今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。
次作も頑張って書きます。
よろしくおねがいします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる