夜霧の怪談短編集

夜霧の筆跡

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第五十四話 予知された運命の記録

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私事なんですけど、先日誕生日を迎えまして35歳になりました。

ああ、ありがとうございます。
別にお祝いの言葉を催促するつもりではなかったんですけど……
これからお話しする内容に関連しているものでして。

怪談の場で夢の話をすると白けてしまうかもしれませんけど、ぜひ聞いてください。
僕はその夢が本当に怖くて、もしかすると自分の命をも奪ってしまうかもしれないと思っているんです。





もういつの頃からか覚えてないんですけど、若い頃からずっと見続けている夢があるんです。

『ずっと』といっても毎日それを見るわけではないんです。
普段は夢を見たり見なかったり、普通の睡眠をとって普通の生活を送っています。
ただ毎年、誕生日を過ぎた頃に同じ夢を見るな、と気付いたんです。

その内容自体は特に恐ろしいものでもなく、ただホテルに宿泊する夢です。

毎年同じホテルを夢に見るので、もしかするとハッキリとは覚えていないけど古い記憶の引き出しに残っている場所かなって思いました。
幼い頃に行ったことがあるとか、テレビか何かで見たことがあって行ってみたいと思っていたとか。
でも、結構調べてみたんですけど該当するホテルが存在するって情報は見つかりませんでした。

ひとつだけ毎年違うことがあって、それは通されるホテルの部屋番号です。
これもわりと最近になってやっと気付いたことなんですけど、通される部屋番号が毎年1ずつ増えてるんです。





実は、ちょうど昨日…… 夢を見まして。
36号室に通されました。

『それの何が怖いか』ですって?
ああ、まだ詳しい内容をお話していませんからね。

その夢の内容は、毎年同じホテルに宿泊して、通される部屋の番号は年々増えて、そして、その通された部屋ではテレビを見るんです。
怖いならテレビを見なければいいと思うかもしれませんが…… 見ずに済ませることもまた恐ろしくて、どうしても見ずにはいられないんです。

そのテレビの内容はなんの変哲もないニュース番組です。
普通と違うことといえば、必ず僕自身の不幸にまつわることが報道されているんです。

有名人でもない一般個人の僕の身の回りのことがニュースになるなんて、通常ならありえないことですけどね。
夢の中ってありえないことが起きていても、なぜか違和感を感じることがなくてそれに気付けなかったりするじゃないですか。

それで、ですね…… そのニュースの内容が、翌年一年以内に必ず起きるんです。
そう、予知夢ってやつですよ。





ひとつひとつの内容は本当にちょっとしたことなんです。

例えば、去年はインフルエンザに感染してちょっと寝込みましたけど、まあ命に関わることはありませんでしたし、後遺症が残るようなことでもありませんでした。
34号室で見たニュースではこんなことを言っていましたよ。

「速報が入りました。
本日、あなたが突如として体調不良を訴え、病院に搬送されました。
診察の結果インフルエンザに感染していたことが確認されました。
数日前に感染していましたが、自覚症状が出ていなかったため、満員電車を利用してしまいました。
周囲の乗客への感染拡大が懸念されます。
あなたは寝込むことを余儀なくされ、現在は安静にしているとのことです。
周囲の同僚や関係者は驚きと心配の声を上げており、あなたの早い回復を祈っています」

おととしは…… 足をくじいたんだったかな? ちょっとした捻挫のようなケガをして、少しの間足をひきずって歩くハメになったけど、杖つきになるほどでもなかったし、湿布を貼っておけばそのうち治ったし。
33号室で聞いたニュースの内容はたしかこんな感じだったかな。

「次のニュースです。
重大な出来事が発生いたしました。
今日の朝、通勤途中にあなたが足を捻挫するという痛ましい出来事がありました。
捻挫の原因は、駅構内での段差を踏み外したことによるものです。
該当の駅は段差が多く、車椅子やベビーカーに対する配慮のなさが問題視されていました。
今回の事故により、その事実が浮き彫りになった形です。
詳細な状況は現在明らかになっていませんが、急な事故によりあなたは痛みに苦しんでいるとのことです。
関係者やご家族は一刻も早い回復をとお祈りしています」

ほんと、ここまで聞いてもそれの何が怖いんだって思いますよね。
いや、もちろん自分が予知夢を見るなんていう事実自体ちょっと怖くはありますけど。

確かにそれだけなら大した怖がることでもないんですよ、ええ、お話ししますね。





先程、僕は35歳になったって言ったじゃないですか。
そして例の夢…… 36号室に通された夢を見たと。

そこで見たニュースの内容も大したことではありませんでした。
僕はどうやら来年、36歳の間に人生初のギックリ腰を経験するみたいですよ。
それもまた、その日一日は起き上がれなくなるし寝てても座っててもどうあっても激痛に悩まされる夜を過ごすし、次の日にはなんとか自力でトイレには行けるようになるけど、数日間は会社を休むハメになるらしいです。

もちろん、そんな予知も怖いわけはありません。





僕が本当に恐れているのは、ですね……。

毎年毎年、ずっと34号室、35号室、36号室と並ぶ廊下がずっと先まで長く続いているのを見ていたはずだったんですけど……
今年見た夢ではその廊下に突き当たりができていて、37号室までしかなかったんです。





僕、38歳まで生きられないんですかねえ……?
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