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第三十五話 霊感のない配信者
しおりを挟むどうも。心霊系Youtuberやってます。
僕の活動スタイルは…… 怪談の朗読動画上げたり、降霊術の配信したり、って感じです。
まあ基本インドアなのでね、あまり普段はやらないんですけど……
あるとき心霊スポットに突撃配信したんですよ。
活動を続けるうちに、ありがたいことにだんだんとリスナーも増えてきまして。
そうするとリクエストが来ることも、そこそこあるんですよね。
「あれをやってくれ」
「これをやってくれ」
みたいなね。
で、結構リクエストが多かったのが『心霊スポットに突撃してくれ』ってやつだったんで……
気が進まなかったんですけど、行ってきました。
ところで僕あんまり霊感はないみたいなんですよね。
よく、心霊系で活動してると『寄せ付けちゃう』みたいな話って聞くじゃないですか。
怪談会なんかしててもよく寄ってくるって言いますよね。
でも今まで心霊体験一度もしたことないんです、僕。
もしかしたらそれって、本当は寄ってきてるしそこにいるのに、僕に見えてないだけなんじゃないかって……。
あ、突然話が飛んですみません。
僕に霊感がないんじゃないかって思うようになった、そのきっかけがこれから話す体験談なんですよ。
じゃあ話を戻しますね。
生配信で心霊スポットに行ったんですよ、リスナーのリクエストで。
僕もともとそういう配信してるタイプじゃないから
「外でしかも夜間に配信する用の機材なんか持ってないし、無理」
って最初は言ったんですけど。
暗いところでも使えるカメラとか、風の音みたいな雑音をカットして人間の声だけ拾ってくれるマイクとか……
そういうのが必要だと思ってたんです。でも
「スマホ1台で大丈夫だよ! 設定次第でうまくできるしやり方教えるし!」
って(そこまで言われたら引き下がれないな)と思って。
僕だって心霊系Youtuberのはしくれとしてプライドがありますからね。
『怖いから行きたくないだけ』
『機材がないのを言い訳にしてる』
なんて思われたくないですもん、それで結局行っちゃったわけですよ。
目的地は、心霊写真が撮れる確率が高いとウワサのとある商業ビル。
結構有名なスポットでね、僕も心霊スポット紹介動画で扱ったことありますし。
行ったことはなかったんですけどね、うはは。
基本的にネットで拾った情報まとめてるだけですもん、まとめ動画は。
で、生配信ですね、20時ぐらいには開始しました。
心霊系の撮影だったら深夜2時とかが『いかにも』でいいと思われるかもしれませんけどね……
なにせ現役バリバリ営業中の商業ビルですからね、営業時間の壁がありますもん。
あ、撮影は禁止されてないとこなんでそのへんは大丈夫。
施設内には『映えスポット』として装飾された一角なんかもあるんですよ。
撮影される機会が多かったせいで『心霊写真がよく撮れる』って評判になっちゃったんだから皮肉ですよね。
あの…… ここだけの話、廃虚探索が趣味の人の体験談あったでしょ。【※第三十三話】
あれ(許可取ってやってんのかなー)ってちょっと心配になりながら聞いてました。
話の中で『警察から感謝状もらった』くだりがあったけど……
その前にまず『不法侵入について怒られた』部分もあったと思いますよ、彼は語らなかったけど。
へへ、小声ですんません、ここだけの話ね。
また話それちゃったな、それで、配信始めたんですよ。
雑談しながら、たまにコメント欄のリスナーに返答したりして、目的もなくぶらぶら歩いてました。
しばらく歩いてると、リスナーのコメントにだんだん不穏なものが増えてきたんですよ。
「今何か変なのいなかった?」
「気味悪い声聞こえるんだけど……」
「オーブ見える」
といったものです。
注目されたいがために盛ったコメントしたり、僕をからかうためにウソを書くリスナーもいるんですよ。
だから、最初はそういうのだと思って気にも留めてませんでした。実際
「何も見えないけど」
「ウソ乙」
みたいなコメントもチラホラあって……。
僕は「コメントでケンカしないでね~」なんて仲裁しながら配信を続けてたんですよ。
ところがね、だんだん様子がおかしくなってきたんです。
リスナーの中でも古参も古参、最古参の常連がいるんですけど……
僕は基本的に彼のことは全面的に信用してるんです。
あ、いつも配信見に来てくれてコメントくれるだけの関係なんで、実際の性別はわかんないんですけど。
その最古参までもがそういうコメントし始めたんですよ。
「そこヤバイ」
「早く逃げて」
って。少なくともイタズラや自己顕示欲でそういうこと書き込むような人じゃないんですよ。
否定的なコメントもまあまああったんですけど『見える』派の書き込みが圧倒的に増えました。
「本当にいるって」
「信じろ」
常連をはじめ、僕を心配するような必死なメッセージが目立つんです。
配信が進むにつれ、コメント欄の書き込みはますます過激になり、だんだんと荒れはじめました。
『見える』派と『見えない』派が言い争いを始めてしまったんです。
必死に「ケンカしないで」と訴えましたが、どうにも収まる気配がありません。
僕は『見える』派のコメント数と熱意から、何かが起こっているのではないかと不安になっていたこともあり……
配信を強引に終了させて、その場を後にしました。
帰宅してから確認すると、アーカイブのコメント欄でまだ言い争いが続いていました。
(こんなに荒れたのは初めてだ……)
僕はライン超えの過激な発言をした人を非表示処理する作業をしながら、ため息をつきました。
ただ、今までになく盛り上がったことも事実です。
あの配信は、過去最高の同時接続数をたたき出しました。
我ながら現金だとは思いますが、数字が伸びたことで僕のやる気はさらに増したんですよね。
『もっと伸びたい』って気持ちはありますからね、せっかくだから徹底的に擦ってやろうと思いました。
後日、あの配信のアーカイブを振り返る配信をしたんですよ。
その時のコメント欄もやっぱり荒れに荒れました。
でも、ひとりのリスナーが放ったひとことで、流れが変わったんです。
「少なからず霊感のある人だけに見えてるんじゃないですか?」
この一言が決め手となり、リスナーの中に霊感がある人がいることが発覚したんです。
霊感を持っている人は意外に多くて、数人が名乗り出てくれました。
そして、みんな口をそろえて言うんです。
「配信するうちにどんどん集まってきてやばかった」
と。中には見てるうちに体調が悪くなった人もいるようで、僕はぞっとしてしまいました。
つまり、こういうことですよね。
霊って見られてることに気付くと、喜んでつきまとってくるようになるんですよ。
だから霊が見えたとしても、気付いてないフリしなきゃいけない。
僕はまったく見えてなかったんだけど、配信画面ごしに見てる人のなかには『見えてる』人がたくさんいた。
それに気付いた霊が集まってきてたみたいなんですよ。
コメント欄では言い争いになるぐらい『見えてる』『聞こえてる』ってアピールする人であふれてましたからね。
そりゃあ霊は嬉しくなっちゃうでしょうよ。
(あのまま配信を続けていたら僕は霊に埋もれてしまっていたのかも)
そう思うと、背筋が凍りそうでした。
それ以来、僕は生配信や動画撮影を行うのは主に外を選ぶようにしました。
どうしてって?
都合の悪いコメントを非表示にすることはできても、基本的にコメント欄の流れを誘導することって不可能なんですよ。
何かがいたとしても『いる』って指摘しないでほしいけど、完全に止めるのは無理。
自分でわからないのに、もし『自分の部屋に何かいる』って判明しちゃうのももちろんイヤだし……
リスナーの主張に寄せられてどんどん集まってきて、自分の部屋が霊の吹きだまりになるのも絶対イヤですもん。
『配信で降霊術までやっておいて何をいまさら』って思われるかもしれませんけどね。
今まで何も起きなかったからこそ、そういうこともできたんですよ。
それが『何か起きてたとしても自分にはわかってなかっただけ』ってことかもしれないなんて……
降霊術系は今後やめます!!
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