28 / 60
第二十七話 タイムカプセル
しおりを挟むじゃ、あたしから学校の怪談を話すね。
どこの学校でも七不思議みたいなのってありがちでしょ?
もちろん、うちの学校にもそういうのはあったんだ。
うちの学校にあったのはね、開かずの廊下。
普通『開かず』っていうと部屋だと思うじゃない。
でもうちの学校では教室じゃないんだよね、なぜか封鎖されてる廊下があるの。
そのせいで、移動教室のときすごく遠回りになるんだよ。
でね、ある日「なんで封鎖されてるのか調べてやろうぜ」って言い出した子がいたの。
だけどその廊下、七不思議のひとつになってるぐらいだから、幽霊のウワサはあったんだ。
みんなビビっちゃってさあ、誰もノらないの。
まあ単純に先生に怒られるのが怖いって人のほうが多かったのかもだけどね。
結局、言い出しっぺとそいつの親友、そしてあたしとあたしの親友の4人で行くことになったんだ。
なんでって? そいつが
「調べてやろうぜ」
なんて言い出した発端がそもそもあたしだったから。あたしが移動のときに
「ここさえ通れればすぐなのにね~」
って愚痴ってて、そっから始まった話だったんだよね。
それで放課後こっそり行ってみることにしたんだ。
まず、その日掃除当番だった人に
「今日の当番代わってあげる」
って帰らせて、あたしたちだけで教室の掃除を始めたの。
わざとダラダラいつもしないような所まで丁寧に掃除して、なるべく他の生徒が学校に残ってない時間までいても不自然じゃないようにね。
下校時間になったら先生が見回りするじゃん。そのタイミングで
「めちゃめちゃ気合入れて掃除してたら時間かかっちゃって~」
とかなんとかごまかして
「先生さよなら~」
って。そうやって別れた後、ダッシュで例の廊下に向かったわけ。
そこは封鎖されてるとはいっても廊下だから、扉があるわけでもないし当然カギがかけられてるわけでもないの。
ただ通行できないように机が積み上げてあるだけ。
実は通ろうと思えば一番下の机を四つんばいでくぐって簡単に入り込めるの。
「足元に気をつけろよ。
実際に塞がれてるのは先生たちが『ここを使わない』って決めたってことだからな。
幽霊が出るなんてウワサだけで大人がここまですると思えないじゃん。
ってことはだ、この廊下が幽霊とは関係ない理由でヤバい可能性があるってことだ。
床が崩れるとかさ」
全員が無事侵入できたらさっそく、言い出しっぺの男子が場を仕切り始めたんだ。
でももう結構薄暗くてさぁ…… だって、まず使われてない廊下だから電灯もついてないんだよね。
窓もあるし普段使われてる廊下ともつながってるから、多少の明かりは入ってくるけど…… もう夕方だもん。
懐中電灯なんか持ってなかったし、仕方なくスマホのライトだけを頼りに進むことにしたんだ。
でもちょっとワクワク感もあったんだ。
「こういうの、あの名探偵アニメに出てくる少年探偵団みたいじゃない?」
「そうだぞ。幽霊が出るのか、他の理由で廊下が使えないのか、それを調査しにきたんだからな」
なんてコソコソワイワイ言い合ってた。
廊下自体は普通の学校の廊下。他の通路と変わらない感じだったな。
一応気をつけながら進んだんだけど、床も壁も崩れなかったしなんの危険もなかったよ。
じゃあなんで封鎖されてるんだろ? ってなるじゃん。
(やっぱり幽霊が出るから……!?)
そう思えば、とたんに怖くなってきちゃったんだけど……
(ここまで来て何の成果もなく引き返すのもなあ)
って、もう半分意地みたいな気持ちもあって、先に進んだんだ。
それに気付いたのはあたしだけだった。
廊下の窓の外は中庭なんだけど、ふと、そこに誰かいる気がしたの。
「ねえ、中庭に誰かいない……?」
あたしが小声でそう伝えると、全員立ち止まって身を屈めたよ。
だって、もし先生だったら見つかったら怒られるじゃん。
でも、あたし以外誰も人影を見てないみたいだった。
「え、マジで? どこだよ」
「どこ? どこ?」
「いねーじゃん」
みんなはヒソヒソ言い合いながら、見つからないように中庭を探したんだけど……
どれだけ探しても誰も見つからないから安心して立ち上がってね、あたしも
(確かに人がいたと思ったんだけど……)
なんて思いながら、みんなに続いて立ち上がったの。
そしたらね、いたんだ、確かに。中庭に、人!
「いるじゃん! ほら!」
って、慌ててみんなをもっかい屈ませたんだけどね。
「なんだよ、もうそのネタはいいって」
「見え見えなんだよなあ」
なんて、やっぱりみんなには見えてないの。
あたし、もうパニックになっちゃってさあ。
半分腰抜かして、四つんばいのまま机の山をくぐって廊下を抜け出して、そのまま走って帰っちゃった。
学校から家まで、ずっとダッシュ。
あたし体育あんまり得意じゃなくて、体力なんかぜんぜんないほうなんだけど、さ。
あのときは疲れよりも怖さのほうが大きくて…… あんなに長い距離を全力で駆け抜けたのなんか初めてだった。
家に帰ってからしばらくスマホが鳴ったりしてたけど、見るのも怖くて。
電源切って、その日はそのまま寝ちゃったよ。
次の日男子ふたりにはめちゃ詰められたけど、親友はあたしのことかばってくれた。
あたしは男子も親友も置いてひとりで逃げちゃったっていうのにね…… なんか恥ずかしいや。
後から聞いた話では、残った3人は『もうポカーン状態だった』って。
「やっぱり中庭には誰も見えないし、あんたとも連絡付かないしで、白けちゃってすぐ解散にしたよ」
って言ってた。
それ以来、ちょっと元気のなくなったあたしを心配してか、親友が他のクラスから友達を連れてきたんだ。
その子は『年の離れたお兄ちゃんがいて、お兄ちゃんもこの学校通ってた』んだって。
「だから、なんかわかるかもしれない」
って話聞きに行く約束とりつけてくれたの。
放課後に待ち合わせて、その子の家に向かったんだ。
その子のお兄ちゃんから聞いた話。
「俺も大した情報ないんだけどな……
だってあの開かずの廊下、俺の頃から開かずだったんだよ。
先生も理由なんか教えてくれないしさあ。
ただ、クラスに一人ぐらいは自称『霊感強い』やつっているじゃん。
俺のクラスにもいたよ、そういうやつ。
ホントかどうかは誰にもわからんからな。
で、そいつが言うには『中庭にいた』って」
その話を聞いてゾッとしちゃった!
だって、あたしが中庭で人影を見た話は、このお兄ちゃんにはしてないんだもん。
(やっぱりあれは見間違いでもなんでもなかったんだ。
あたしは自分が霊感強いなんて思ってなかったけど、あたしには見えてたのに他の3人には見えてなかったんだもん、そういうことだよね)
「じゃあ…… あの廊下が開かずになったのは、中庭の幽霊を生徒に見せないため?」
「うーん、でもそんなことのためにあんな大げさに机積み上げて通行禁止にするかなあ」
「先生が何も教えてくれないってのも怪しいよね! 何か隠してるんじゃない?」
親友とその子、それからそのお兄ちゃんと4人でいろいろ話し合ったんだけど、結局結論は出なかった。
出るわけないよね、誰もそれ以上のこと何もわかってないんだもん。
それで、みんな開かずの廊下についてあれこれ言うことに飽きてきちゃったみたい。
移動教室も、ずっと遠回りのルート通ってたら慣れてそれが普通になってくるしね。
そのうち誰も気にも留めなくなって、話題にもあがらなくなったんだ。
事態が動いたのは三学期の終わり頃。
あたしたちの中学では、二年生から三年生にあがるときにはクラス替えはないんだ。
だから、二年生のクラスのメンバーでそのまま三年生になるの。でね、
「三年生になったらもう受験でそれどころじゃなくなるだろうから、
今このクラスのメンバーでタイムカプセルを埋めよう」
って話が持ち上がったんだ。
言い出しっぺは相変わらずのアイツ。
でさ、学校の敷地を勝手に穴ほって物埋めるのはダメだから、ちゃんと先生に許可取りに行くじゃん。
「校庭や校門近くでなければ大丈夫だよ。
でも、おとなになってから掘り返すときにどこだったかわからなくならないように、ちゃんと場所を覚えておいてね。
結構あるんだよ、同窓生がタイムカプセルを掘り返しに来て見つからなかったってこと」
って言われたからさ、
「じゃあ中庭かな~。覚えやすいし、正確な場所忘れても範囲が狭いから探すのも楽そうだし」
って誰かが言ったとたんに、先生がかぶせ気味に
「中庭はダメだ」
なんて言ったんだよ。
んで、放課後校舎裏に集まって、どこに埋めようか相談してたんだ。
そこへ用務員さんが通りかかって話しかけてきたの。
「お、なつかしいな。タイムカプセルか」
「はい。中庭に埋めようと思ったら先生がダメだって言うから、どこがいいかなって……」
「ああ、そうか。中庭は…… もう『埋まってる』からな」
こうしてあたしたちは、思いがけないところから、忘れかけていた開かずの廊下の謎に迫ることになったんだ。
──そもそも君ら、どうやって中庭に出るつもりだった?
だって、中庭に出る唯一の扉は開かずの廊下内にあるじゃないか。
本当に『開かず』にしたかったのは…… 廊下じゃない、中庭だったんだよ。
用務員の俺でさえ中庭に入ることは許されてないんだ。
それ以外は学校中のあらゆる芝生、花壇の手入れをしてるにもかかわらず、だ。
そんなん「何か秘密があります」って言ってるようなもんだろ。
先生たちはなにがなんでも隠し通したいみたいだけどな…… 俺は調べたさ。
まあ、あんまり情報は残ってなかったし当時のことを知る人も少なくてな…… それが真実かどうかはわからん。
誰かの作り話がまことしやかに伝えられただけのものかもしれない。
それでも聞くか? ……そうか。
もうずっと昔、君らが生まれるより前の話だ。
今の君らと同じように、タイムカプセルを学校に埋めようって生徒は結構いたんだ。
やっぱり中庭は人気のスポットだったそうだ。
ところで、昔は中庭に井戸があったらしくてなあ。
水が枯れてしまってからは生徒が転落として亡くなったり大ケガをする事故が相次いだことがあった。
そこで学校側は井戸をつぶしてしまうことにしたんだ。
でも知ってるか? 井戸ってのは精霊とか妖怪とか神様とか、とにかく何らかの人外のものが住み着きやすいんだ。
だから井戸をつぶすときには細心の注意が必要で、きちんとした専門の拝み屋に頼む必要がある。
それでも失敗して祟られることも多いらしいぞ。
だけどこの学校はそれをしないで土木工事だけで井戸を埋めちまったんだよ。
しかも、その工事のときに中庭を掘り返して出てきた大量のタイムカプセルをまとめて井戸に放り込んで、それごと埋めたらしい。
タイムカプセルに込められた無数の卒業生たちの思い入れ、井戸に住み着いていたかもしれない何らかの存在。
それらが埋められた恨みを懐いてひとかたまりになって、中庭に、ずっといるんだろうな。
その後のことはよくわからんが、学校側があれだけ生徒を遠ざけようとするところを見ると……
何か障りはあるんだろうな──
そんな話聞いたら、あたしたちはもう学校に埋めることなんかできなくなっちゃったよ。
でね、タイムカプセルを預けておいて、数年後あたしたちが大人になるころに学校に届けてくれるサービスがあるの、知ってる?
それ利用することにしたんだ。
だって、妖怪と一緒に埋められたらやだもん!
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説

会社の上司の妻との禁断の関係に溺れた男の物語
六角
恋愛
日本の大都市で働くサラリーマンが、偶然出会った上司の妻に一目惚れしてしまう。彼女に強く引き寄せられるように、彼女との禁断の関係に溺れていく。しかし、会社に知られてしまい、別れを余儀なくされる。彼女との別れに苦しみ、彼女を忘れることができずにいる。彼女との関係は、運命的なものであり、彼女との愛は一生忘れることができない。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
【短編】怖い話のけいじばん【体験談】
松本うみ(意味怖ちゃん)
ホラー
1分で読める、様々な怖い体験談が書き込まれていく掲示板です。全て1話で完結するように書き込むので、どこから読み始めても大丈夫。
スキマ時間にも読める、シンプルなプチホラーとしてどうぞ。
【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】
絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。
下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。
※全話オリジナル作品です。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる