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第二十話 雨の呪縛
しおりを挟むね、雨女とか雨男ってあるでしょ?
その人が出かけるときは雨が降るってやつ。
あたしね、前はそれだったんだ。
うん、今はそうじゃなくなったの。
そのときのお話、するね。
あたし、小学生のときによく神社の境内で遊んでたの。
お友達と鬼ごっこしたり、かくれんぼしたり、だるまさんが転んだとかもやったなあ。
いつものように夕方まで遊んで
「そろそろ帰ろう」
ってときに、すごくキレイな石を見つけたの。
いっぺんに気に入っちゃって、それ持って帰ったんだよね。
それから、宝物入れにしてたクッキーの空き缶に入れて、大切にしてた。
でも、それから急に変なことが起こり始めたんだよ。
あたしが神社に行くと、絶対に雨が降り出すようになったの。
最初は偶然だと思ったんだけど、毎日続くようになってさすがにおかしいなって思ったよ。
そのうち、神社だけじゃなくて、公園で遊んでても、校庭で遊んでても、あたしがいるときだけ絶対雨が降るの。
しかもあたしがいる場所だけ。
公園なら公園だけ、校庭なら校庭だけ、あたしがいる時間だけ。
そんなの絶対おかしいでしょ。
周りのお友達もだんだんそれに気付いてきて……
気味悪がって離れていっちゃう子もいたり、あたしと遊ぶと絶対雨が降るのをいやがった子もいたり。
あたしはお友達がどんどん少なくなっていっちゃった。
まあ、仕方ないかなって思ってたけど。
だってみんなにも迷惑かけちゃってるしさ。
だから一人でいることが多くて、いっつもぼっちになってたかな。
あたしにはもうこの石しか残ってなかったから、それを握り締めながら寂しい気持ちを我慢して過ごしてたの。
学校行ってもひとりで、家帰ってもひとりで。
もう、そんな風になっちゃったきっかけも忘れて、まるで最初からずっとそうだったみたいに。
残りの小学校生活、ずっとそんな風に過ごしてた。
でもね……中学にあがったら、そういうあたしのウワサ知らない子もいてね。
最初は友達になろうとしてくれるんだよね。
でもあたし、小学校ずっとそんなんだったからさ……
(どうせすぐあたしの雨に嫌気がさして離れていっちゃうくせに)
なんて思って、話しかけてくれる人たちのこと受け入れられなかったの。
中学生活はひとりぼっちから始まったし、ひとりぼっちのまま終わると思ってた。
でもね、諦めずにずっと友達になろうとしてくれた子がいたの。
あとになって教えてくれたんだけど、あたしが人を遠ざけようとしてる様子をみてて
(なんかおかしいな)
って思って、なんとしても近づいて友達になろうって思ってくれたんだって。
でもあたしは期待したぶん裏切られるのがよけいに怖かったから……
「あたしと一緒にいるといつも雨に降られちゃうから、それが嫌なら最初から近づかないで」
ってハッキリ拒絶しちゃったんだ。
そしたらその子は
「あたし、雨別に嫌いじゃないよ」
って言ってくれたの。
あたしだって本当は友達ができなくて寂しかったし、拒絶したかったわけじゃない。
だからね、そう言ってくれて本当に嬉しかったし、泣いちゃった。
あたし達は友達になったんだ。
それが、それ以来の親友の美咲。
普通のお友達と放課後に遊んだり休日に出かけたり、そんな普通のことがあたしにはキラキラの毎日だった。
まあ、いつも雨は降ってたけどね。
美咲が言ってくれたように、あたしも雨を嫌いじゃなくなった。
一緒におそろいの雨具を買ったりしたんだよ。
傘、レインコート、レインブーツ。
おそろいのものを持ってるとね、それだけでつながってるような気持ちになれたの。
相変わらずクラスのみんなには疎まれてたけどね。
遠足、体育祭、学園祭、修学旅行。
行事という行事が全部あたしのせいで雨になるんだもん。
美咲はみんなにも
「降るかどうかわかんない曖昧な予報で折り畳み傘持ち歩かされるより、100%雨!のほうがわかりやすくていいじゃん」
って言ってくれたんだ。
それで納得する子もいた。まあ
「雨なんか降らないほうがいいに決まってる」
って大半は言ってたけどね。
「でも、さすがに的中率100%なのやばくない?」
「どんな気象予報士もあたしの前では雑魚、雑魚」
なんて冗談で言い合ってた。
あたしもちょっと調子に乗ってたかも。
ごめんなさい。あたしがバカでした。
その年に上陸した大型台風が本気でヤバかったんだ。
あちこちで土砂崩れがおきて川が氾濫して街が水没して。
大勢の人が亡くなった大災害。
(もしかして、この嵐もあたしのせいかも)
って思っちゃって、さすがに落ち込んだよね。
だって、死人が出るのはシャレにならないでしょ。
もう『行事が台無し』とかのレベルじゃないんだよ。
学校での風当たりもますます強くなった。
『あの台風があたしのせいなんじゃないか』
って言い出した子がいて、もう完全にあたしは魔女裁判にかけられてるようなもんだった。
だから、美咲を巻き添えにしたくなくて……
これ以上あたしと一緒にいたら、罪のない美咲までみんなから嫌われちゃうからさ……
あたし、絶交しようとしたんだ。
でも、美咲は絶対に納得しようとはしなかった。
「友達やめるなんて絶対にイヤだ!」
って泣きながら言われて、あたしも一緒に泣いちゃった。
結局、あたしも意志が弱かったんだと思う。
絶交できないままふたりきりでクラスから孤立して、中学生活を過ごしてたんだ。
そんな風に過ごしてるあたし達を、はたからずっと見てた子がいたの。
小学生の頃、仲良かった子。
あたしが雨女になっちゃってから、離れていった子。
それが、由美。
あたしがどれだけクラスじゅうから嫌われても、絶対にあたしから離れようとしない美咲を見て、思うところがあったのかもね。
由美があたし達に近づいてきたんだ。
あたしは、小学生の頃には雨女じゃなかった事なんてすっかり忘れてたの。
もうずっとこうだった気がしてた。
だから、友達が離れていった理由もきっかけも忘れて、ただただ
『仲良かった友達が突然あたしから離れていった』
って恨みだけを抱いて生きてきたんだよね。
由美のことだって許せなかったし、いまさらなんだって思ったよ、最初。
でも、由美もさすがになんかおかしいなって思ってくれたみたいなんだよね。
「昔はそんなんじゃなかったじゃん」
って。あたしが忘れちゃってたことを、由美はちゃんと覚えてたみたい。
「なんで急にそんな全自動雨乞い発動状態になっちゃったの?
自分でおかしいと思わなかったの?」
そう言われてやっと、小学生の頃普通に外で遊べてたことを思い出したんだ。
美咲は中学からの付き合いだから、小学生の頃のあたしを知らなくてさ。
「そうなの?急にそんな風になったの?」
って問われても、あたしも記憶が曖昧で。
「う、うん……そういえば、そう、だったかも……」
なんて返答しかできなかった。
そしてあたし達は由美も交えた3人で、小学生の頃について話し合ったんだ。
由美と話すうちに、昔の記憶もだんだんとよみがえってきた。
小学生の頃はいつも外で遊んでたこと。
その頃は雨に遭遇する確率が他の普通の人とそう変わらなかったこと。
ある時から突然雨女になってしまったこと。
それから友達がどんどん離れてしまってひとりぼっちになったこと。
そのへんの話をする頃にはあたしは記憶とともにつらかった感情までよみがえっちゃって……
ほとんど涙声で話し続けた。
由美も泣きながら
「ゴメン、ほんとにゴメン」
って謝り続けてたな。
そして、それ以降は神社で拾ったキレイな石を宝物ボックスにしまい込んで、それだけを心の支えにして毎日過ごしてたこと。
そこまで話したとき、美咲が突然立ち上がったの。
「神社で石を拾って持ち帰った!?そうなの!?」
ってすごいけんまくで、あたし、なんかビビっちゃって
「えっ、あ、うん」
そう返事するのがやっとだった。
そしたら美咲はあたしにつかみかかる勢いでまくし立てたんだ。
「ダメだよ、神社のものを勝手に持ち帰るのは絶対ダメ。
神社にあるものは全部神様のものなんだよ。
それから、自然にある石もダメ。
石はいろんなものが宿りやすいから、何かが憑いてたらそのまま連れて帰っちゃう」
そう言いながら、学校指定の学生カバンからある本を取り出したの。
その表紙にはこう書いてあった。
『オカルト大百科日本の神様』
『オカルト大百科心霊入門』
美咲がこういうの好きなのは知ってたけど、あたしはそんなに興味なくて……
知らなかったんだけど、どうやらあたしが石を持ち帰ったことはかなりのタブーだったみたい。
オカルト好きにとっては常識なんだって。
あと、あたしホントに知らなかったんだけど……
そこにある石ってのはその土地の所有者のものだから、勝手に持ち帰るのは窃盗になるんだって。
何かが憑いてるかどうか以前に、そういう意味でもダメだったみたい。
もう、何年も前のことだけど、知らなかったことだけど……
『ダメなことだった』
って知っちゃったからには、そのままにはしておけないよね。
あたしは宝物の石を持って、神社に返しに行ったの。
小学生の頃よく遊んでたときの神主さんはまだ現役だった。
あたしのことも覚えてたみたい。
神主さんに、事情を説明して、謝って、そして石を返したの。
もちろんその日も雨が降ってたんだけど……
石を返した、その途端に雨が止んだんだ!
雨が降ってない空を数年ぶりに見たんだよ。
その空には、まるで石を返したことで『許す』って言ってくれてるみたいに、虹がかかってたんだ。
あの光景はずっと忘れないと思う、すごくキレイだった……
それ以来、あたしは雨女じゃなくなったの。
今までずっと背負ってきた荷物を下ろせたような気持ちだった。
あたしのことを邪険にしてたクラスの子も、今までの態度を謝ってくれたりして、だんだん打ち解けられるようになってきた。
そうしてやっと、あたしは普通の中学生になっていけたんだ。
ただ、ちょっと残念なこともあるかな。
100%雨を降らせる能力を生かして、雨が降らなくて困ってる地域に行って報酬をもらう仕事が、将来できるんじゃないかなって……
実を言うとね、ちょっとそういう気持ちもあったから。
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