吹き抜けるは真紅の風

もちぷに

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第三章

婚約者候補

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ミルディリアはカイルからの壊滅的に下手くそな絵を眺めては込み上げてくる笑いを堪えていた時、お父様とお母様に呼び出された。
二人はソファーに座り真剣な眼差しをしている。

「ミルディリア、お前はもうすぐ19歳になるな」

「誕生日プレゼントですか?!」

「………違う」

頭を抱えるお父様をお母様が慰める
「あなたは前置きが長いのよ」
慰めになったかは分からないが。

ベルンハルドはコホンと小さく咳払いをして胸を張った。
「では単刀直入に言おう。婚約の契りを結びたいと言ってる者がいる」

(ん?今何て言った?)
その言葉の意味を理解しないまま、二人の名前が告げられた。
(誰それ。えーと……南の国の王子だったかなぁ?)
三人目になった時にようやく理解した。

「トレデキム国の国王トレデキム十三世」

「はぁ?!ってか婚約って言いましたよね?カエルと?!絶っ対嫌です!」

「……イグニスで会ったんだったな。まぁ、最後まで聞きなさい」

ベルンハルドはミルディリアを真っ直ぐに捉えたまま話し続ける

「カイル・ウィルバーフォース」

「!!」

その名前を聞くと途端に鼓動が速くなった。
「ほ、本当に…?」

「ああ」

無表情のままゆっくりと頷く父と微笑む母を見ると何故か涙が出そうだった。
(ほ、本気なんだ……お父様に断りを入れるってことは愛人じゃなくて……正妻に……)

「それともう一人。フレドリック・ウィルバーフォース」

「……………………………………え?」
ミルディリアの時が止まった。
確かにフレッドが以前来た時、お父様と何か話していた。その話しの内容を聞くとはにかんだように笑うだけだった。
「フ、フレドリック?ですか?」

「そうだ」

「え?え?同姓同名?」

正面に座る父は溜め息をついてはっきりと告げた
「ソルムの国王フレドリック・ウィルバーフォースがミルディリアと結婚したいと申し入れしてきている」

「………」
改めて言われてもミルディリアは理解できなかった。自分から見たフレドリックは兄のようなものだ。フレドリックの態度も表情も行動も昔からずっと変わらないのに、好意を抱かれているなんて理解できなかった。
(まさかアデラに嗾けられたんじゃ……そうに違いない!)

ミルディリアの異変に気付いた母は優しい瞳で話し始めた
「ミルディリア、お父様と私は貴女の意思を尊重したいと思っているの。ウェントゥスを発展させる事や、誰かの為を思って一生を決めないで頂戴。貴女が一生を添い遂げたいと思う相手を選びなさい」

母の言葉にミルディリアは迷いもなく答えた

「カイル様の側にいたいです」

お父様は眉間に皺を寄せて何か言い掛けたが、お母様がそれを止めた。二人はしばし目で会話して深く頷いた。

「分かった」

あっさり了承され、ミルディリアは夢の中にいるようだった。

(こんなに幸せな事が起こるとは思ってもみなかったんですけども!!)

カイル様を選び、承諾された事に喜びはあるものの…

「だから私にフレッドの側にいろと仰ったんですね」
(お父様もクラーク様もフレッドが私を好きだと思ってんのかな?アデラに政略結婚を嗾けられてるって気付かないもんかね)

「ああ。だが勿論ただの友人として支えてやるだけでいい」

「はあ…」(そりゃそうだろうよ)

「それから当然ながらアランの結婚と即位の件が先だ。ミルディリアの婚約は暫く発表は控えるつもりだ。いいな?」

「ええ」
(そりゃそうだろうよ)
「でも私の気持ちだけはカイル様に言ってもいいんですよね?」

「ならん」

「は?何故ですか?」

「発表まではまだ日がある。その前に気が変わるかもしれんだろ?大体あんな男のどこがいいんだ……」
父はぶつぶつ何か言い始めた。

「気が変わるわけないじゃないですか!」

「あなた、みっともないですわよ」

母に咎められてようやく父は落ち着きを取り戻した…というか諦めたようだ。
「分かった分かった。もう好きにしろ。カイルに口止めするんだぞ。それとフレドリックにはまだ断りを入れる必要は無い。彼は一度に三人も失う事になってしまうからな」

「……………はい」
(フレッドが私に恋愛感情を抱いているとは思えないけど、カイル様の事を良く思ってないからな…カイル様と結婚なんて言ったら反対されるに決まってる。とにかくアデラの悪事を暴いてフレッドを自由にしてあげないと)

父は続いてこう言った。
「他の者には時が来たら私から断りを入れる。それまでは他言無用だ」

「え?ま、待って下さい!お父様から?何故ですか?」

「当然だ。アランが国王になっても私はお前の父親…」

「そうじゃなくて!」

「なんだ?」

「フレッドには私から話させて下さい」

ずっとずっと友達だと思っていた。彼が例え政略結婚として申し込んだとしても、自分が不在のまま全てを終わらせたくない。カイルの事もあるし、ファイの時のように自分で答えればきっと今までのように良い関係を作れるはず。そう思った。

「ミルディリア、貴女には荷が重いわ」

母の言葉でミルディリアの頭に血が昇る。

「私もう大人です!二人には分からないフレッドと築いた関係があります!自分の事は自分でできます!!」

母は少し眉を下げて心配そうに頷いた。
「そう……もしどうにもならなくなったら私達を頼ってね。約束よ」

「………はい」
(どうにもならなくなるって…どういう事よ?)


────翌朝
カイルからいつもの様に手紙が届いた。アランがカイルのウォラーレを何とか呼び寄せる。

「ったく!躾がなってねえな!」
カイル様のウォラーレはまだ慣れないのか
アランに体当たりして、手紙を奪うように剥がさないとすぐにイグニスの方角へ飛んで行ってしまう。
カイルからの手紙は相変わらず文字がひとつもなく、下手くそな絵が描かれているだけ。
幸せな気持ちに浸ると同時に心に影を落とすようになってしまった。

フレドリックのことが脳裏を掠める。

これから起こる出来事に大切な友人が傷つくのは間違いない。そして彼の気持ちに応えられない事に胸が痛んだ。

(今は何も明かせないけど……少しでも側にいよう)

ミルディリアは手紙をポケットにしまってソルムへ向かった。





─────二日後 

イグニス城にアランのウォラーレが来ると同時に執務室に二人の男が来た。

ヴェルサスとクロードはカイルが書簡を読み終えるのを今か今かと待ちわびている。

「それで?アラン様は何て?」

「ミアが来る」
それだけ言うとカイルは読み終えた手紙をクロードに差し出した。


『リアは婚約者候補の名前を既に聞いているはずだ。だけどここ最近どこか様子がおかしい。リアだけじゃなく、父も。
父が突然こんな事を言ってきたんだ。
『リアがソルムに行く際はディックを護衛につけるように』と。
今まで何度注意しても勝手に一人で出て行くリアに、護衛をつける隙なんて無かった。気付くといなくなってる。だからいつも一緒にいるガオルが密かに護衛をしていたんだ。
それがガオルでもなく、シファでもなく、わざわざディックを選ぶ理由も言わなければ、リアが断りを入れてから行くはずがないと言っても父は何も答えない。

その矢先、リアがソルムに行くから護衛をつけて欲しいと言い出したんだ。
その行動は父が一枚噛んでいると考えて間違いないだろう。

リアはフレドリックの気持ちに気付いていなかったはずだ。初めて婚約候補者として知らされて『そうでしたか』では終わらないだろう。動揺しているに違いない。
もしかしたら父は相変わらずフレドリックを立てて、カイルが不利になる事をリアに言った可能性がある。

俺にはどうも納得がいかないんだ。
だからカイルにも同等に機会をやるよ。
リアもウェントゥスもカイルには世話になったからな。リアを何とかしてイグニスに行かせる。後はどうするかお前が決めろ』


クロードは読み終えた手紙をヴェルサスに渡しながら視線をカイルに向けた。

「ここが勝負どころだな」

「一番広い客室を用意しろ」

「はあ?客室?姫が泊まるのはカイルの部屋に決まってんだろ!」

「それはミアが決める事だ。いいから用意しておけ」

ヴェルサスは読み終えた手紙を元の折り目で丁寧に折り畳んだ。
「カイル様、私はどのようにしたらいいでしょうか」

「なんでヴェルサスが動揺するんだよ」
クロードはヴェルサスを呆れた眼差しで見ている。

「いつも通りにしてろ。何も変える必要は無い」

「カイル、お前はいつも通りじゃいかねえからな」

「なんでだよ」

「とにかく姫に気持ちを伝えまくれよ。なんなら土下座してもいい。無意味だと思うが。それでも駄目なら力ずくで奪え!」

「お前は相変わらずデリカシーがねぇな」

「呑気にしてる場合じゃねえだろ!フレドリック様の気持ちを知ったからといって姫の気持ちは変わらねぇだろうが、問題なのはベルンハルド国王だ。姫に圧力をかけてるかもしれねえだろ!例えばソルムと交流が深まればウェントゥスは安泰だとか…」

「どうだろうな」

「お前、この期に及んで怖じ気付いてんじゃねえだろうな」

「そんなわけねぇだろ」

クロードは諭すようにカイルの肩を叩いた。
「カイル、女は少し強引な位でちょうどいいんだよ。姫なんてまさにそのタイプだ」

思わず呆れてしまった。
「力ずくでどうにかする事じゃないだろ。王妃として生きるのは簡単な事じゃない。イグニスかソルムか、若しくは違う生き方か。選べる道はひとつだけ。
この先の一生を左右する事だ。ミアの口からイグニスに居たいと聞くまでは何もできない」

ヴェルサスは「はぁっ」と息をついて仰け反る
「カイル様……ご立派になられました」

「………ヴェルサス…お前はいつまで俺を子供扱いするんだよ…」

納得していないクロードは苛立ちを隠そうとはしなかった
「じゃあ姫がいる間もぼーっと執務しながら過ごすのかよ」

「精一杯の気持ちは伝える。俺にできるのはそれだけだ。後はミアが決める事だろ」

「言ったな?ベルンハルド国王の圧を吹っ飛ばす位本気でやれよ。お前だけの未来じゃねぇぞ。イグニスの未来がかかってんだからな!」

うんうんと頷くヴェルサス。
「クロードも成長したな……」

「ヴェルサスのほのぼの成長日記に俺を巻き込むな!」


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