吹き抜けるは真紅の風

もちぷに

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第一章

男の正体

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男は城へ戻ると直ぐにヴェルサスを呼びつけた。思案していた件の手配を進めるよう指示を出す。
まず門番へミアが来たら入国料を半額にし、街で一番安い宿屋を紹介しろと。その宿屋へは通常の半額で部屋を提供するように言いつけ、商人には欠片の買い取りを高値で引き取るように根回しを。それぞれの場所にミアの特徴をしっかりと伝え金も充分に渡すようにと。
そこまで命ずるとヴェルサスは困惑の表情を浮かべた。

「カイル様…あの…一体何事でございましょうか…」

「黙って従え」

「っっ!!はい!」

ヴェルサスはできる男だ。歳は53になるが未だ衰えを知らない筋肉が繰り出す剣の腕前はイグニスでトップクラスを誇る。

イグニス国王である自分、カイルが幼い頃からイグニスに忠誠を誓い、全幅の信頼を寄せる相手だ。こうした変則的な事態においてもすぐに手配してくれるだろう。煩いことも言わないし。
カイルは執務室の大きな椅子に腰をかけ天井を仰ぎ煩い事を言う奴の対処を考える。

────コンコココン

不意に扉がノックされた。この音は対処を考えていた煩い奴が来たのだ。
扉を開くなり煩い奴ことクロードは不機嫌そうな顔を隠そうともせずに後ろ手で扉を閉めた。

「カイル、釣竿持って出掛けたと思ったらすぐに帰って来やがって。一体何をしている」

クロードはカイルと共に育った。血の繋がりは無いが物心ついた頃からずっと一緒にいる為カイルにとっては兄弟より信頼のおける相手だ。
クロードは敬語も使わないし言いたい事はずけずけと言ってくる。普段は特に気にならないが今日のような日は面倒だ。

「未来への投資だ」

クロードは鋭い目つきを更に鋭くした。
「具体的に言え」

(やっぱり通用しねぇか)
「面白い女がいたんだ。金は無いが腕は立つ。その女を兵士にする」

クロードは訝しげにカイルを見据える
「お前、利用されてるんじゃないか?」

「いや、俺が誰だか分かってない」

「そんな奴がこの国にいるわけ無いだろ」

「この国の人間じゃない。散々『カイル国王』の愚痴を聞かされて、挙げ句に俺を「兵士」呼ばわりだ」

クロードは一瞬目を見開いてニヤリと笑った。
「本当かよ。それは面白い」

(何とかなりそうだな)

ほっとひと安心したのも束の間クロードは腕組みをし睨みながら言った。

「それで、カイル。生け捕りはどうした?」

すっかり忘れていた。
モンスターの生け捕りは明日の兵士採用試験に使う為。
実践で腕を見てから合否を決定した方が手っ取り早いとカイルが決めた事だ。だが、誰もが生け捕りをできる訳ではない。熟練者の腕が必要だ。故に王であるカイルまでが駆り出される羽目になっている。

昨日から城周辺の大型モンスターは隊長達が次々に生け捕りにしている為、戦う時間よりもモンスターを探す方が労力を要していた。
カイルは深く溜息をつくと重い腰を上げた。









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