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三日目

覚醒

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歌が聞こえて来た。

モスリン讃美歌第103番
――ああ目醒めよ 醜き世界を 浄化せよ 同胞達の願い 業を払い 調和せよ ああ覚醒せよ そして目醒めよ 目醒めよ 目醒めよ 目醒めよ 目醒めよ 目醒めよ 目醒めよ 目醒めよ――

体内に響く言葉一つ一つが何度も何度も心臓をつく。
寸刻前に拍動をやめてしまったそれが、次第に青紫色へ変色していった。
銃弾が貫通して空いた赤い組織体が、見る見る内に青紫色のそれで埋まっていく。

ついに――脈動が始まった。
ゆっくりと、しかし確実に。そしてその速度を上げていく。
やがて心臓は早鐘をうち、その一つ一つが強く波動し、残響する。

■1番車両 特級客室

失われた意識から覚醒する。
目の前には小さい人間が二人いた。

一人は、もう一人の首元を掴み、身体を持ち上げている。

「目醒めねぇじゃねえかァァアア!テメェ、どこから喰ってホシイカ言ってみなァァアアアア!!!」

「ぐぅ……アン、落ち着きたまえ!」

周りを見ると他に銃を構えた小さい人間が五人、刀を構えた小さい人間が一人、怯えている小さい人間が一人。その全員がこちらを見上げている。

「あぁーっ!あなた!目醒めたのねぇええ!!」
女が小さい人間の身体を投げ下ろして、こちらに駆け寄る。その女から、ユーリャの花のにおいがした。同族。

「ああぁあ……。すごくいい匂いがするよぉ……。んふふ……。」
同族の女は腹に顔を押し付けてくる。

「はぁ……はぁ……。」
吐息のする方を見る。この小さい人間は、いや……この小さい人間は……。

――彼の者――

見つけた。気丈にもこちらを睨みつけている。
犠牲の証を刻みつけなくては。同族の女を押し退け、爪を鋭く伸ばす。
――彼の者――に向かって一歩進む。

「アン!奴をなだめよ!」

「いーや!」

「なんだと、そなた達の神を殺してやったではないか!」

――彼の者――に向かって一歩進む。
刻みつけなくては。

「いやー、本気でやるとは思わなかったし。馬鹿じゃないの?それよりぃ、このひとを殺そうとした事だけは許さない!」

「な……っ!」

「まぁでも、ちょっとの間だけでも楽しかったよー!」

――彼の者――の前に立つ。
刻みつけなくては。犠牲の証を。

目の前から銃の炸裂音がする。胸にチクリと痛みが走る。
刻みつけなくては。腕を振り上げる。

後ろから大量の銃からの炸裂音が鳴り、背中にチクチクと痛みが走る。

腕を振り下ろした。――彼の者――の脚をかすめる。悲痛の声がした。

「おいテメェら、撃つな!」
同族の女が言うと炸裂音が一瞬止まる。

それに気を取られている間に――彼の者――は片脚を引きずりながら窓に向かって逃げていた。
銃から炸裂音を鳴らして窓を破り、そこから飛び去った。
逃げられた。――彼の者――に。

追いかけようとするとまた銃からの炸裂音と共に痛みが走る。
鬱陶しいのでその小さい人間共に飛びかかる。
一人吹き飛び、窓の外へと放り出された。腕を振り回す。三人の首が飛んだ。脚で、最後の一人の頭を踏み砕いた。

「す、すごーい!」
同族の女の黄色い声がする。
無視。

残る小さい人間は二人。
一人は無防備、無視。
一人は刀を構えている。敵だ。

「おい、ルキ。落ち着け!」

無視。
腕を振り回す。刀で受け流される。
刀で切り返してくる。躱す。

「いや、やめて!お願い!」

人間の声がする。
無視。

「ルキ!いい加減にしろ!落ち着け!」
素早い人間。もどかしい。イライラする。

「アキ!お願い、やめて!」

――アキ――

人間の声。
無視――

――我が真名……

お願い、やめて……?

腕が上がらない。
だらんと立ち尽くす。

目の前の人間……人間……

コジロウ?

「私の声が……聞こえてる?」
女の声……

カチューシャ?

「どうしたの……もしかして、ルキくん?」
同族の女の声……

アン?

「あのアンって子のように、元の姿に戻れない?アキ?お願い、人間にもどって!」

女の声が残響する……。
力が……入らない。

我が真名を呼ぶのは誰だ……
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