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第二章

第38話 アイリスの化石

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 双方黙ったままで聞こえてくるのは、焚き火のパチパチと火が弾ける音と、時折聞こえる緊張感のないリップのいびき声だけだ。

 気まずさに耐えかね先に音を上げたのはカイトの方だった。
 「あのえーと……」でも喋りだしたはいいものの、おじさんの名前が出てこず、言葉を詰らせた末に「……あなたは」と言葉を絞りだすも、カイトはおじさんに「アルバだ」と訂正されてしまった。 

  まんまと赤っ恥をかかされたカイトだったが、改めて「コホン」と一度咳払いしアルバさんに聞いた。

 「アルバさんアイリスは本当に滅んでしまったんでしょうか?」

 アルバさんは腹も満たされ焚き火の前で寝転がるとカイトに言った。
 「そりゃわしも100%滅んだとは言い切れんよ。
 なんたってわしだってアイリスを別に探してた訳じゃないからな。
 おぬしらは、なにゆえにアイリスの花などを探すのだ?」

 「流行り病を治すのにアイリスの花がどうしても必要なんです」

 「なるほど。残念だったな、どうやらわしじゃ力になれんわい。雪が止んだらお主も村に帰るといい」

 「そうします」
 そう言ったカイトの横顔は目に焚火の火が揺れ動く様がうつり込みどこか物悲しげに見えた。

 「アイリスを最後に見たのはいずこのことだったか。記憶は曖昧だが蒼く美しかったのは確かに覚えておる。
 遠い記憶じゃ、そんなアイリス見つけ出そうなんぞ『化石』を探すようなもんじゃな」
 冗談交じりにアルバさんが言ったことではあったが、カイトには妙にその言葉が引っ掛かった。

 「化石……」
 言葉を反復させて自分に言い聞かせるとカイトはハっとし、何かに気が付いたように目の色を変えた。
 
 「そうだよおっさん、答えは化石だったんだ。これならもしかしたらアイリスが見つかるかもしれない」
 アルバさんにそう言うと、カイトは何かに突き動かされるようにリップを叩き起こして、雪が降る外にリップと共に駆け出した。
 
 「リップここよりさらに上を目指すんだ分かったな」
 カイトがリップにまたがって言うと、リップは「クルァークルァー」っとその言葉に応えて大空に翼を羽ばたかせた。
 
 山頂に近付いていく程に、どんどん雪が大地に降り積っていく量も多くなってゆく。
 そしてカイトは雪が降り積もる大地の上で立ち尽くす私の姿を見つけた。

 「アサ大丈夫か?アイリスのある場所が分かったかもしれない」
 カイトが叫んで私に近付いていったが、私は振り返る事はせずに目の前の光景にすっかり目を奪われてしまっていた。

 「アサこれって?」
 カイトも私のとなりでその光景を目の当たりにして、私はカイトに言った。

 「間違いないよ、これきっとアイリスだよ」
 私の目の前には沢山のアイリスが青い花を咲かせていた。でもそれは氷の底での話。
 アイリスは氷のブロックにカチコチに凍っており、まさに化石というのに相応しかった。
 
 「綺麗ねカイト」

 「ああ」
 私達は一面に広がる氷漬けにされたアイリスに心を奪われ長い時間アイリスの花を見続けた。

 「これ何年前から凍ってるんだろうね」

 「まぁこれが本当にアイリスなのか一欠片をグレース持って帰って、一度村長に確認してもらおう」
 
 「そうねあのおじさんにも挨拶しなきゃ」

 「アルバさんだとさ」
 私達は一度アルバさんに報告と別れの挨拶を済ますために山を下りて、洞穴に戻ることにした。
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