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ウィルとジョージの出会い
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あの子を拾った時のことは今でもよく覚えている。行き止まりの路地裏で、ゴミ捨て場の陰に隠れるように蹲っていた。お世辞にも綺麗とは言えない服を身に着けて、見下ろす俺を光のない瞳がぼんやりと見つめていた。
ぐぅ、空腹の音の後に小さな手が薄っぺらい腹を撫でる。よく見ると彼の周りには生ゴミが散乱していた。他人が捨てた物を漁って口にしていたのだろうことはすぐに分かった。
「おう、どうした坊主、帰らねえのか」
尋ねても真っ黒い瞳はただ俺の方を向いているだけ。
「家はどこだ?」
「……………」
彼は乾燥した唇を僅かに動かしたが、その唇からは何も発せられることはなかった。
「腹が減ってるならゴミなんか食ってないでちゃんとした飯を食わないとな」
そう言って俺が封を開けていない昼の残りのサンドイッチを鞄から取り出すと、彼の小さな喉がゴクリと上下した。何も映していなかった作り物のような瞳に少しだけ光が宿る。
「安心しろ、まだ開けてないやつだから」
ほら、と少年の目の前に差し出すと彼はサンドイッチをぎゅっと握るように受け取って、封を開けるとそれにかぶりついた。
落ちかけるレタスを慌てて摘んで口に入れるその姿に少しだけ胸が痛んだ。
「お前家来るか?」
気付くとそう口にしていた。どうだ?と顔色を窺うと少年は途端に怯えた表情になった。壁伝いに後ずさり首をふるふる横に振る。
これは……と彼が何に怯えているのかが何となく分かり俺は両手を上げた。
「あー悪い、急にビックリしたよな。安心しろ、俺は男色家じゃない。それに子ども相手にする輩はクソ野郎だと思ってる人間だ。……信用できないか?」
少年は恐る恐る近寄ってくると俯いた。
「……パン……ありがとう……」
「おう、ちゃんと礼が言えて偉いじゃねえか」
ポンと頭を撫でると少年はビクッと体を震わせたが、俺と目が合うと少しだけ頬を緩ませた。
*
青年は花屋で買った小さな花束を手にレンガ調の街並みを練り歩いた。細い路地を通り、そのまた奥へ進むと自宅兼の店が見えてくる。
チリリン、ドアを開けると可愛らしい鈴がなる。「いらっしゃい!今行きますんでー!」なんでも屋を営む店主の声が奥の方から聞こえてきた。
「ウィル!ただいま!」
「なんだ、ジョージか」
「なんだって酷い」
「はは、すまんすまん、客かと思ったんだ。配達ご苦労さん、ん?どうした花なんか持って」
受付から出てきたウィルはピンクガーベラの花束を指差す。
ジョージは恥ずかしそうに顔を赤く染めた。
「これ、ウィルに」
「俺に?」
誕生日でもないのにと困惑するウィルは首にかけていた汗の染み込んだタオルをとって椅子の背にかけた。
「今日はその……俺を拾ってくれた記念日だから……」
「今日?そうだったか?」
覚えてないなぁとウィルは頭を掻いて続けた。
「もう最初から居るもんだと思ってたよ。でもありがとう、貯めてた金で買ってくれたんだろう?嬉しいよ」
花束を受け取ったウィルはガーベラを見て微笑む。
「……うん、あのさ、ウィル」
「どうした?」
頭を撫でられたジョージはあの頃とは違う光の差した瞳をウィルに向けた。涙の膜が張って潤んだ瞳は、今にも泣いてしまいそうで、ウィルはジョージを抱き締めた。
「昔を思い出しちまったのか?」
腕の中でジョージは首を振った。
「ううん、ウィルが好き過ぎて泣いちゃった」
「好き過ぎて?」
ははは!とウィルは笑うと「可笑しな奴だ」と言いながらもジョージを抱き締める腕は弱まることは無かった。
「大好き」
「ああ、俺も愛してる」
ぐぅ、空腹の音の後に小さな手が薄っぺらい腹を撫でる。よく見ると彼の周りには生ゴミが散乱していた。他人が捨てた物を漁って口にしていたのだろうことはすぐに分かった。
「おう、どうした坊主、帰らねえのか」
尋ねても真っ黒い瞳はただ俺の方を向いているだけ。
「家はどこだ?」
「……………」
彼は乾燥した唇を僅かに動かしたが、その唇からは何も発せられることはなかった。
「腹が減ってるならゴミなんか食ってないでちゃんとした飯を食わないとな」
そう言って俺が封を開けていない昼の残りのサンドイッチを鞄から取り出すと、彼の小さな喉がゴクリと上下した。何も映していなかった作り物のような瞳に少しだけ光が宿る。
「安心しろ、まだ開けてないやつだから」
ほら、と少年の目の前に差し出すと彼はサンドイッチをぎゅっと握るように受け取って、封を開けるとそれにかぶりついた。
落ちかけるレタスを慌てて摘んで口に入れるその姿に少しだけ胸が痛んだ。
「お前家来るか?」
気付くとそう口にしていた。どうだ?と顔色を窺うと少年は途端に怯えた表情になった。壁伝いに後ずさり首をふるふる横に振る。
これは……と彼が何に怯えているのかが何となく分かり俺は両手を上げた。
「あー悪い、急にビックリしたよな。安心しろ、俺は男色家じゃない。それに子ども相手にする輩はクソ野郎だと思ってる人間だ。……信用できないか?」
少年は恐る恐る近寄ってくると俯いた。
「……パン……ありがとう……」
「おう、ちゃんと礼が言えて偉いじゃねえか」
ポンと頭を撫でると少年はビクッと体を震わせたが、俺と目が合うと少しだけ頬を緩ませた。
*
青年は花屋で買った小さな花束を手にレンガ調の街並みを練り歩いた。細い路地を通り、そのまた奥へ進むと自宅兼の店が見えてくる。
チリリン、ドアを開けると可愛らしい鈴がなる。「いらっしゃい!今行きますんでー!」なんでも屋を営む店主の声が奥の方から聞こえてきた。
「ウィル!ただいま!」
「なんだ、ジョージか」
「なんだって酷い」
「はは、すまんすまん、客かと思ったんだ。配達ご苦労さん、ん?どうした花なんか持って」
受付から出てきたウィルはピンクガーベラの花束を指差す。
ジョージは恥ずかしそうに顔を赤く染めた。
「これ、ウィルに」
「俺に?」
誕生日でもないのにと困惑するウィルは首にかけていた汗の染み込んだタオルをとって椅子の背にかけた。
「今日はその……俺を拾ってくれた記念日だから……」
「今日?そうだったか?」
覚えてないなぁとウィルは頭を掻いて続けた。
「もう最初から居るもんだと思ってたよ。でもありがとう、貯めてた金で買ってくれたんだろう?嬉しいよ」
花束を受け取ったウィルはガーベラを見て微笑む。
「……うん、あのさ、ウィル」
「どうした?」
頭を撫でられたジョージはあの頃とは違う光の差した瞳をウィルに向けた。涙の膜が張って潤んだ瞳は、今にも泣いてしまいそうで、ウィルはジョージを抱き締めた。
「昔を思い出しちまったのか?」
腕の中でジョージは首を振った。
「ううん、ウィルが好き過ぎて泣いちゃった」
「好き過ぎて?」
ははは!とウィルは笑うと「可笑しな奴だ」と言いながらもジョージを抱き締める腕は弱まることは無かった。
「大好き」
「ああ、俺も愛してる」
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