俺の友達

あたか

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「神田くんってかっこいいよね~、彼女いるのかなぁ」

 廊下からそんな声が聞こえてくる。
 俺は女子生徒たちの会話に聞き耳をたてた。

「三香子が告白したら断られたんだって!好きな人がいるからーって」
「マジ!?誰だろ~」
「あ!噂をすれば……」

 女子たちが小声になり遠ざかっていくのがわかる。ドアの方を見ると神田が「おはよう」と教室に入ってきた。

「はよ、今日遅いじゃん」
「そ?」
「女に告白でもされたか?」
「ええ?何突然」

 神田は鞄を置いて隣に座ると不思議そうな顔で俺を見た。
 いったい俺は何を聞いてるんだ。こいつが女と付き合おうが俺には関係ないことなのに。胸がもやもやする。眉間にシワが寄る。どうも落ち着かない。どうしちまったんだ俺は。

「あっ誰かに聞いたのか?なんか隣のクラスの何とかっていう女の子に告白されたんだよね」
「……」
「でも断ったよ、好きな人がいるからってね」
「ふうん」

 頬杖をつき膝を揺する。ああイライラする。いつも可愛いとさえ思う神田の顔まで、見てると腹が立ってくる。何ヘラヘラしてんだ。好きなやつって誰だよ殺すぞ。

「宮地、俺の好きな人、気になる?」

 神田が楽しそうに言う。

「……」
「ヒントは意外と可愛い、見た目は話し掛けづらいんだけど話してみると良い奴で」
「もういい」
「良くないよ、ちゃんと聞いて」
「聞きたくねーよ」
「……怒ったの?」
「怒ってねーし」
「キレてんじゃん」
「ああ?しつけーぞてめぇ」
「宮地、キレてるってことはお前も俺と同じ気持ちってことだよな」
「ああ?同じ気持ち?」
「俺の好きな人はお前だよバーカ」

 神田はそう言うと顔を真っ赤にして教室を出ていった。
 残された俺は一人固まる。
 同じ気持ち、好きな人はお前。

「はあ!?」

 教室を飛び出して神田を追いかける。

「待てよ神田!」
「やだ!待たない!」
「なんでだよ!」
「恥ずかしすぎて死ぬ!」
「ああ?てめーが自分で言ったんだろ!」

 言い合いをしながら追いかけ回すと体力のない神田が廊下にへにょりと倒れる。それを咄嗟に支えて「捕まえたぞ」と言うと、周りで見ていた生徒たちが「何?喧嘩?」「やばいよ宮地くんだよ」「とうとう神田くんも殺られるんだ」と騒ぎ出す。

「……場所変えんぞ」

 走り疲れて何も言わない神田を引っ張り旧校舎の渡り廊下に連れていく。ここまで来れば平気だろうと手を離すと、神田は顔を両手で覆った。

「言っておくけど俺はゲイじゃないからな!?」
「分かってるよ」
「でもお前を好きな気持ちに嘘はない!」
「声でか」
「ご、ごめん」
「俺も、お前のことが好きだ。お前が女と歩いてるとこ想像したら可笑しくなりそうだった」
「ぶちギレてたもんね」
「ぶちギレはしてねーよ」
「怖かったわ」
「……悪い」
「いいよ、俺のこと超大好きって証拠だもんね?」
「お前そういう言い方……うん、まあ、そういうことだけど」
「素直じゃん!可愛いなお前」

 頭をわしゃわしゃ撫でられる。

「……」
「……」
「……なんか言えよ」
「えっ、えっとじゃあチューしとく?」
「しとく」

 二人でキョロキョロして誰もいないのを確認すると、俺はぎこちない動きの神田を抱き締めて触れるだけのキスをした。

「……なんか宮地慣れてて嫌だ」
「慣れてねーよ、お前が初めてだわ」

 お互い顔を赤くして見つめ合う。
 そろそろ戻るぞと言う俺に神田が突拍子もなく言った。

「宮地のちんこでかそう」
「はあ?なんだよ急に」
「付き合ったらやっぱり俺が女役?入るかな宮地の……」
「お前俺に挿れたいのか?」
「えっ、うーん、分かんない。でも宮地ならなんでも勃つと思う」
「俺も、神田とならなんでもいい」
「激熱だね俺ら」
「ははっ、違いないな」

 もう授業が始まっていて廊下は静かだった。俺たちはどちらからともなく手を繋ぐと、自分たちの教室に近付いてきたところで手を離した。

「名残惜しい~」
「それな」

 教室に戻ると「なんだお前ら仲直りしたのかぁ良かった良かった」と教師のホッとした声に俺たちは顔を見合わせて笑った。
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