俺のストーカーくん

あたか

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「ねぇあれ誰?」
「やば、イケメン」
「かっこいい~、クールな感じが良いよね」
「あれ深見だって!」
「え!?マジで!?あの地味で根倉な深見!?」

 廊下ですれ違う女子たちが隣を歩く深見を見て騒ぎ立てる。
 深見はというと、相変わらずおどおどしていて注目されているのが嫌なのか、俺に隠れようとしている。
 俺より体がでかいんだから無理があるだろ。苦笑しながら深見に「大丈夫か?」と聞くと涙目で「大丈夫じゃないっ」と言って俺の制服の袖を引っ張った。

「そのうち慣れるよ、騒いでるのもお前がかっこいいからだし悪いことじゃない」
「う、うん……中村が言うなら……」
「今日一日頑張れ」
「わ、わかった……!」

 なんて会話をしたが、昼休みになると廊下で女子たちに囲まれて泣きそうになっている深見を見つけた。可哀想になり声をかけると、名前を呼ばれた飼い犬のように嬉しそうに俺の方へ走ってきた。一瞬可愛いと思ってしまったのが悔しい。相手はあの深見だぞ。俺の股間を撮ったり、他人から連絡先を買ったり、毎日こそこそ俺の顔を見に来たりしてるあの深見だ。

「中村……!助かった、ありがとう」
「昼一緒に食う?あ、それとも他のやつと約束してた?」
「ううん、俺友達いないから中村と食べる」
「……そうか」

 気にしていることを言わせてしまったようで申し訳なく思っていると、深見からの熱い視線を感じる。何?と聞くと「これが噂のランチデートってやつだ」とわくわくして言った。

「いや悪いけど二人きりじゃないから。おーい高橋、今日深見も一緒に食べていい?」
「んー、俺は別にいいけど……深見は大丈夫そう?」

 高橋に言われて深見を見ると、とても嫌そうな顔をしていた。眉間にシワを寄せて「えー……」と言う深見を肘で小突く。

「嫌そうにすんな、俺の友達だぞ」
「だって二人っきりだと思ったのに……」
「もしかして俺お邪魔?」

 高橋が深見に聞くと「うん」と即答する。

「こらっ深見!」
「ごめん」

 シュンと肩を落とす深見を見た高橋はケラケラ笑い出した。

「うける!マジで中村のこと好きじゃん!」
「面白がるなよ、結構困ってんだから」
「悪い悪い」

 高橋は深見に手を差し出す。

「んじゃ、よろしくね深見くん」
「……よろしく高橋」

 深見は不服そうに高橋の手を握り返した。

*

「深見っていつもそんなに食べるの?」

 俺と高橋は驚き顔を見合わせる。

「うん、まあ」

 コンビニのおにぎりを六個も食べた深見はまだ足りなさそうに腹を擦っている。「パンも買えば良かったな」と呟くと紙パックの牛乳をストローで啜った。

「ご飯に牛乳って合うの?」高橋は微妙そうな顔で言う。
「うん、俺は好き」
「へぇ、やっぱ変わってんなぁ、おもしれー」
「深見、パンあるけど食べるか?」

 小さなチョコパンが五つ入った袋を渡すと「えっ、いいの?」と途端に表情が明るくなる。

「うん、買ったけどやっぱ食べられそうにないからさ」
「あ、ありがとう……!まじで嬉しい!大切にする!」

 胸にぎゅうとパンを抱き締める深見に「いや今食えよ!」とつっこむと深見はイヤだと首を何度も振る。それを見て大爆笑する高橋の声が中庭に響き渡った。

「そんなに好きなんだ、中村のこと」
「うん、中村を好きな気持ちは高橋よりもでかいから」
「中学からの友人としてはそれは聞き捨てならないな」
「高橋って中村のこと好きなの?」
「もちろん」

 二人の間に不思議な雰囲気が流れ始める。

「おい、二人とも」
「中村は黙ってろ」と高橋。
「酷いぞ、今の言い方」と深見は高橋を睨んだ。
「俺たちの仲だからいいんだよ」
「マウントうざい」

 バチバチと火花でも出そうなほど睨み合う二人の顔を交互に見る。止めようとして口を開きかけるも、それよりも先に深見が言った。

「俺はラブの方だもん!」
「俺はライク」
「えっ、そうなの?」
「そうだけど?」
「てっきりラブの方だとばかり……」
「そんなわけあるか、俺彼女いるし」

 他校にだけどね、と高橋はスマートフォンを操作して彼女の写真を深見に見せた。

「ほ、本当?中村」

 深見は信じていいの?と俺の顔を見てくる。本当だと頷くと安心したのか、良かったぁと芝生に寝転がった。

「高橋お前性格悪いぞ、深見で遊ぶなよ」
「ごめん、面白くてつい。でも先にマウントとってきたのは深見の方だから。俺だってお前のこと好きなんだぜ?」
「ぷっ!き、きめ顔でこっち見んな!」

 耐えきれず深見の横に寝転がり腹を抱えて笑うと「イケメンだろ?」と高橋は声色を変えて「好きなんだぜ!」と何度も言ってくる。もうやめろと涙を流しながら笑っていると、隣からか細い声で「俺だって……」と聞こえた気がした。
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