受け継ぎし想い~彼と彼女の光の剣閃

ときしさ

文字の大きさ
上 下
35 / 52
第5章 学園騒乱

第32話 始動!マジックショップ

しおりを挟む
人気ひとけがないのを幸いに、二人きりの世界に入り込んでいたのをぶち壊したのは俺のよく知る人達だった。
俺とリアは状況が飲み込み切れず、互いに密着したままだ。二人して目をパチクリさせながら固まってしまっている。

「カズヤ君・・・、彼女さんが好きなのは分かるけど、場所は考えた方がいいよ」

膠着状態を嫌い、ナオヒトさんが口を開く。先程まで焚きつけようとしていたのは誰だったのか、もう忘れてしまったようだ。今は「やれやれ」といった呆れ顔の表情と仕草で俺達に訴えかける。

「ナオヒトさん・・・どうして?母さんも帰ったんじゃなかったの?」
「そ、そう!ママもなんでここにいるの?仕事のはずじゃ・・・」

凍りついた時間からようやく解放を果たした俺とリアはそれぞれ疑問を口にする。同時に、いまだ密着したままでいる俺達に、からかう視線が向けられていることに気付き慌てて互いの距離をとった。名残惜しそうにしている俺達をアリスさんが面白そうに目を細め笑みをこぼした。

「学園内でマジックショップを開くことになったのよ!協会の支援でね!」
「アリスと私はその準備でここにいるの。私も有給はあまり残っていないから、こうして後から仕事に入っているの」

アリスさんが最後に片目を閉じてウインクすると、その空気をそっと消すように母さんが付け加える。
納得はできるが謎はまだ残っている。本命の主の表情はみるみる内に暗くなっていくのがよくわかる。先程、からかってくれた礼はしても、バチは当たらないだろう。

「それで、ナオヒトさんはどうしてここにいるんですか?」
「ああ、ぼくはね・・・なんでだろうね。色々な人の思惑やら組織の都合やら様々な事情が複雑に絡み合ってね。気付いたらここで働くことになっていたんだ。ははは」

「正式な辞令も出ているんだよ・・・ほら」と色々なものを諦めたような顔をして哀愁を漂わせるナオヒトさん。その背中は社会人の厳しさの一端を語っているような気がした。

「あら、シラナギ君・・・何か不満があるの? ねぇ?」
「ひぃ!い、いえ、不満なんてありません。環境にも恵まれて自分は満足です」
「あら、てっきり私みたいな“オバサン”の下につくのが嫌とでもいうのかと思ったけど? クスクスっ」

『そういうことか』と納得すると同時に呆れと恐れを感じずにはいられなくなる。俺が保護された時にナオヒトさんが漏らした『オバサン』発言、他にも『上司になってほしくない』とも言っていた。アリスさんはそれを根に持って、あらゆる手段を用いナオヒトさんの上司になったということだろう。やりすぎではないだろうか?

「アリス、あまりからかうと『パワハラ』になるわよ!それからカズヤ達、少し誤解してるみたいね」
「「誤解?」」

アリスさんの行いに俺とリアが呆れていると母さんが色々と説明してくれた。

元々、学園内に協会の施設を設置する話が前からあったことが告げられた。話の発端は学園生の封鎖大陸内での過度な負傷に事故、遭難等が増加傾向にあることを問題視しての処置となる。
原因としては、学園の実技の特殊な制度及び方針にある。
実戦とかけ離れたダメージ判定の仕様での戦闘に慣れ過ぎているため、いざ本番となった時の判断ミスが多いこと。
魔力と装備品の優劣だけで全てが決まってしまう現行の評価制度では、学園生も特定の能力しか伸ばさなくなってしまっている。そのため同じような人しかいなくなってしまい様々な事態に対処ができないケースが多いそうだ。
事故が起きたあるパーティでは、全員が重装甲一撃必殺型だった例もあったとのこと。回復要因、罠解除・危険察知、支援どころか前衛と後衛の区別もない場合もあるとか・・・。
そこで、現役の探索者として活躍し、実際に学園生を多く救助した実績のあるナオヒトさんに白羽の矢が立った。学園に派遣して情報提供や現場の雰囲気を知るきっかけを作ろうとしたわけだ。
本来は講師としてという意見もあったそうだが、授業と言う形ではなく生の声をということで、情報の提供や学生が探索可能なエリア内で役に立つアイテムの販売を行う形で落ち着いた。ナオヒトさんが探索に同行するサービスも時折行う予定だという。なんだか面白そうだ。
ちなみに普段、常駐するのはナオヒトさんだけとなる。アリスさんが直属の上司となった理由は権力絡みの横やりの予防とのことだ。


「そうしたら、ママが暴走したわけではないんだ・・・、良かった」
「良かったな・・・、リア」
「アリス、娘からも信用ないのね?」
「サヤカ達が変な入れ知恵しているだけでしょ!」

安心した俺達二人に、母さんとアリスさんの掛け合いがこだまする。あの後母さんのことが心配だったけど大丈夫そうだ。そろそろ休み時間も終わるころだ。仕事の邪魔をしてはいけない。立ち去ることにしよう。リアに合図し、母さん達に話したところでアリスさんに引き留められる。

「そうだ、カズヤ君!」

噂の内容がすさまじいだけに委縮してしまうと「そんなに怖がらないで」といわれてしまった。真剣な顔でどこか優しい、そんな顔で見つめてくる。この世界に来て初めてあった時と同じ表情、それは・・・・。

「朝、校長室で色々あったんだって?」
「え、ええ」
「嫌なこと、これからもあるかもしれないけど自暴自棄にはならないでね。楽しいこともいっぱいあるはずだから」

アリスさんの今の顔・・・母さんもする「母親」の顔だ。

「少なくともカズヤ君の学園生活にはあの子が『リア』がいるでしょ?それは『リア』も同じなの。カズヤ君は学園に何も求めていないし必要ないかもしれない。でも、それであなたが学園での生活を捨てたら、リアはあなたのいない学園生活を送ることになるの。」

「アリスさん・・・俺は・・・」

「卑怯な言い方かもしれないね。カズヤ君とリアの・・・、二人がいる楽しい思い出を作るの。頑張れるよね?今日からは学園にはシラナギ君もいる。私やサヤカ達だっている。だから・・・ね?」

アリスさんはリアと俺のことを心配し、ただ幸せを願ってくれている。俺の答えは決まっている悩む必要もない。

「ありがとうございます。アリスさん!俺は大丈夫です。リアがいて不幸なんてことは絶対にないですから!」
「そうだよ、ママ!」

リアと並んではっきりと答えることにした。
温かい人達に囲まれている喜びを感じながら二人でその場を後にした。

☆★☆

幸せそうに仲良く立ち去る我が子の背を見送り母親二人は互いを見合わせ嬉しそうに話し出す。
ナオヒトの『しゃべってないで手伝ってくださいよ!』という目は当たり前の如く無視して話に花を咲かせた。

「アリスもようやくあの子のこと認めてくれたのね」
「わ、私は最初からカズヤ君はやれば出来る子だとは思っていたわよ」
「本当かしら・・・」

ジト~、とした目でアリスを睨むカズヤの母、サヤカ。こういう表情を彼女は滅多に人前では見せないこともあり、アリスは内心冷や汗をかく。
さすがの“黄金の腹黒魔女”もこういう場面では“沈黙の暗殺人形”にリードを許してしまうことが多い。

「ほっ、本当よ!あの子、トウマに似て剣の腕も確かで真面目だから・・・」
「ふ~ん?」
「そうでなければ引っ越しの時、リアを残したりしないわ。一緒に連れていったはずだもの」
「そう・・・、そうなると後は・・・」
「ウチの旦那ね。あの人、『自分より弱い男に娘はやれん!』って言ってるから・・・、娘達が一生、独身になりそうで心配なの。勝てるのってトウマくらいでしょ」

アリスは最後の難関の顔を思い浮かべると頭が痛くなり、思わずこめかみに手を当てて唸りだしてしまった。そんなアリスを見るサヤカの瞳は「その言葉を待ってました」と言いたげだ。

「カズヤ、トウマよりずっと強いわよ」
「嘘でしょ!あのトウマより強い生き物なんて、この世にいるの?」
「本当よ。この前、打ち合っている時は互角に見えたけど、隠している力はカズヤの方がずっと上・・・。もっとも『隠している』というより『今は出せない』が正しいかな」
「はっ、ははは・・・」

得意げに語るサヤカと驚きを通り越しているアリス、二人の表情は対照的だ。

「そっ、それなら問題なさそうね。あの子達には幸せになってほしいものね」
「そうね、なれるわ。私達の子だもの・・・私達も『おばあちゃん』になるのかな・・・」

クスクスと二人で笑い合い、その未来予想図が現実になることをただ願った。

その間、ナオヒトは二人のことはあきらめて、黙々と開店準備を進めるのであった。その背中にはひどく哀愁が漂っていたのであった。


















































しおりを挟む
ストーリー展開が三章以降、駆け足気味になります。お読みいただいている方が一人でもいらっしゃる以上、途中で投げ出さずに完結まで書きあげたいと思います。いつもお読みいただいている方、始めて読まれた方も本当にありがとうございます。
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

鍵の王~才能を奪うスキルを持って生まれた僕は才能を与える王族の王子だったので、裏から国を支配しようと思います~

真心糸
ファンタジー
【あらすじ】  ジュナリュシア・キーブレスは、キーブレス王国の第十七王子として生を受けた。  キーブレス王国は、スキル至上主義を掲げており、高ランクのスキルを持つ者が権力を持ち、低ランクの者はゴミのように虐げられる国だった。そして、ジュナの一族であるキーブレス王家は、魔法などのスキルを他人に授与することができる特殊能力者の一族で、ジュナも同様の能力が発現することが期待された。  しかし、スキル鑑定式の日、ジュナが鑑定士に言い渡された能力は《スキル無し》。これと同じ日に第五王女ピアーチェスに言い渡された能力は《Eランクのギフトキー》。  つまり、スキル至上主義のキーブレス王国では、死刑宣告にも等しい鑑定結果であった。他の王子たちは、Cランク以上のギフトキーを所持していることもあり、ジュナとピアーチェスはひどい差別を受けることになる。  お互いに近い境遇ということもあり、身を寄せ合うようになる2人。すぐに仲良くなった2人だったが、ある日、別の兄弟から命を狙われる事件が起き、窮地に立たされたジュナは、隠された能力《他人からスキルを奪う能力》が覚醒する。  この事件をきっかけに、ジュナは考えを改めた。この国で自分と姉が生きていくには、クズな王族たちからスキルを奪って裏から国を支配するしかない、と。  これは、スキル至上主義の王国で、自分たちが生き延びるために闇組織を結成し、裏から王国を支配していく物語。 【他サイトでの掲載状況】 本作は、カクヨム様、小説家になろう様、ノベルアップ+様でも掲載しています。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

モブ高校生、ダンジョンでは話題の冒険者【ブラック】として活動中。~転校生美少女がいきなり直属の部下とか言われても困るんだが~

エース皇命
ファンタジー
 学校では正体を隠し、普通の男子高校生を演じている黒瀬才斗。実は【ブラック】という活動名でダンジョンに潜っているAランク冒険者だった。  ダンジョンが世界に出現して30年後の東京。  モンスターを倒し、ダンジョンの攻略を目指す冒険者は、新しい職業として脚光を浴びるようになった。  黒瀬の通う高校に突如転校してきた白桃楓香。初対面なのにも関わらず、なぜかいきなり黒瀬に抱きつくという奇行に出る。果たして、白桃の正体は!?  「才斗先輩、これからよろしくお願いしますねっ」  これは、上級冒険者の黒瀬と、美少女転校生の純愛ラブコメディ――ではなく、ちゃんとしたダンジョン・ファンタジー(多分)。 ※序盤は結構ラブコメ感がありますが、ちゃんとファンタジーします。モンスターとも戦いますし、冒険者同士でも戦ったりします。ガチです。 ※小説家になろう、カクヨムでも連載しています。 ※お気に入り登録者2600人超えの人気作、『実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する』も大好評連載中です!

14歳までレベル1..なので1ルークなんて言われていました。だけど何でかスキルが自由に得られるので製作系スキルで楽して暮らしたいと思います

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕はルーク 普通の人は15歳までに3~5レベルになるはずなのに僕は14歳で1のまま、なので村の同い年のジグとザグにはいじめられてました。 だけど15歳の恩恵の儀で自分のスキルカードを得て人生が一転していきました。 洗濯しか取り柄のなかった僕が何とか楽して暮らしていきます。 ------ この子のおかげで作家デビューできました ありがとうルーク、いつか日の目を見れればいいのですが

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

処理中です...