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第4章 覚醒~受け継ぎし想い

第24話 彼女の降臨

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切っ先を爆煙の向こうの二匹に向けながら、これからが本番と覚悟を決める。
セオリーに従うならば当初、自分でも言っていた通りリアの戦闘準備完了までの時間を稼ぎ、合流後は彼女のサポートに徹して殲滅するのが無難。

『こいつら、恐らくただの“夢想獣むそうじゅう”ではないな』

その懸念が俺に警鐘となって危険を知らせる。リアは確かに急速的に力をつけてきてはいるが段階を踏まず、いくつかの通るべき工程を飛び越えている。新たに身に付けた力での実戦経験も無ければ、“夢想獣むそうじゅう”との戦闘経験もない。

夢想獣むそうじゅう”、魔物とは違い人工的に発生する獣。特殊な結晶体に生き物(主に人間)の恨み、妬み、悲しみ、といった負の感情エネルギーを貯め込んで実体化させることができる生物型人工魔法兵器。
人を含む他の生物を媒介にして更に強力な力を得る個体もいる。
過去に竜魔王がそれらの軍勢をカズヤとの決戦に投入するも打ち破られている。

竜の一族には完全には当てはまらないものの、リザードマンはそれに縁のある種族、単純に“夢想獣むそうじゅう”、化するだけでも強力だが、それ以上の何かがあるような風にカズヤは感じていた。


ギリギリと金属が擦れる音がかすかに聞こえてくる。
警戒を強めると、それは前触れもなく襲いかかって来た。

瞬時に左右の剣を交差して防ぎ直撃を免れるも、鈍い金属音がするや否や、勢いを殺しきれず後ろへ吹き飛ばされ地に叩きつけられる。

「ぐっ、鉄球?一体どこから・・・」

受け止めたのは人の頭の大きさより一回り大きい位、トゲの仕込まれた鎖付き鉄球。俺を吹き飛ばすと鎖は引き寄せられ煙の向こうに吸い込まれていく。
煙が晴れていく・・・、正体を目視できるはずだ。

「少しは想像していたが、ここまでとはな」

ドスッ、ドスッと地を踏みしめる重量感あふれた足音とともに現れる。内心、『勿体つけやがって』と舌打ちしたいところだが、あまり余裕はない。二体は先程戦っていたものと間違いない。異なるのは、その体――。

「機械の体か・・・」

思わずつぶやいてしまったように、先程までの攻撃で削り取られた体表からは固い金属の装甲が見え隠れしている。百パーセント機械というわけではないのだろう。生物としての機能を残した部位、主に首から上と内臓についてはそのままのようだ。頭部にはやや血が滴っている。

爬虫類独特の縦長の瞳孔が、眼前の獲物を捕捉する。その視線を感じた俺は即座に左右の剣に力を込め先手は譲らないとばかりに行動開始。
試さないといけないことがある。
地を蹴り、最速の剣技を放つ・・・。狙うは赤い方、装甲むき出しの右腕だ。

「閃光剣・壱の型、“新月”」

スピード重視で放った左の一閃は固い金属の装甲に阻まれる。続けて右の一閃も仕掛けるが同様に弾かれた。追撃を受けないよう後ろに下がろうとするが目論見が外れる。

『腕が生えた、だと・・・』

斬撃を受け止めた敵の腕から、機械のアームが出現し俺の腕を拘束するや否や、機械音とともに胸部装甲が開き先程の鉄球が俺の腹部めがけて突き刺さる。強烈な衝撃と痛みが俺の意識と体を揺さぶり、メキメキと嫌な音を聞かせてくる。

「ぐっはぁぁぁ!」

情けない声とともに血反吐を吐き、意識を失いかける。精霊闘衣を纏っていない今の俺に防御力はほぼ皆無。一撃で致命傷に相当する。欲を出して前に出過ぎた。完全に俺のミスだ。だが、まだ意識を失うわけにはいかない。敵はもう一人いる。
大きな口を開き魔力を集中させ俺に向けている。あれは間違いなくブレスだ。
あれを受けるわけにはいかない。こいつらには勿体ないが、死んでしまっては元も子もない。どうやら、切り札の一枚を切るしかない・・・のか。

「わたしがいること、忘れないで!」

上空から魔力弾が飛来し、俺の拘束と鉄球を撃ち抜く。地面に座り込む俺の目の前に女神が舞い降りた。絶体絶命の危機から俺を救い出した彼女の姿は実に神々しかった。

「ぶっつけ本番!行くよ!リフレクション・フェザー!」

翼をはばたかせ羽根を散らすと光の結界を作りブレス攻撃を遮断し跳ね返す。ブレスを放った緑の方の大きく開いた口めがけてモロに反射し、牙は抜け落ち顔は焼けただれ瞳は虚ろになった。

「大丈夫、カズヤ君!えっと、確か、ヒーリング・フェザー!」

癒しの聖なる光を受けた羽根が俺の患部に舞い降り、淡く輝くとやがて痛みが和らいでいく。

「流石というかなんというか・・・、もうそこまで使いこなすか!なんだか自信なくすな。だが助かった、ありがとう」
「待たせてゴメンね」
「いや、俺もミスった、助かる。それにしても、いきなり“ソウル・フェニックス”か・・・、これなら俺が無理する必要なかったかな?」
「本当にゴメンね、このために時間かかっちゃった」
「いや、それだけの価値はその形態にはある。少し休ませてもらう。目の保養もさせてもらったしな。回復も早そうだ!その・・・綺麗だよ」
「バカ・・・。それじゃ行ってくるね」
「ああ、存分に」

桜色の髪に薄い青の瞳。背には光の翼、白のインナーに髪の色とお揃いの色をしたミニスカート、気のせいかヒラヒラした何かが付いていたような気がする。鎧については先日作成した”女神の鎧”をさっそく使用している。確か使い手の能力に応じて形態を変えるみたいなことが鑑定文に記載されていた。出来上がった時は光輝く白一色の鎧、肌の露出も多くはない形だったハズなのだが・・・。

頭部の金色のサークレットは問題ない。左右に翼を模した飾り、中央に紅く煌めく宝珠、俺の青い宝珠を宿した銀のサークレットとほぼ色違いと言ってもいい。これはちょっと嬉しい。その手には同じく作成した日輪・烈光剣が握られている。

問題は首から下だ。突出していた肩当ては丸みを帯び、胸当て部分については女性のラインを強調した形に変貌している。腰回りや脚部についてはあまり変わらないが、全体的な色彩は白の中に薄い青や緑に金、銀、お約束の彼女の髪と同じ色と豊かに彩色されている。所々に光の粒子が煌めくリボンやフリルが見えたのは俺の気のせいだろうか、いやそれはない。
魔法剣士というより、天使や女神を模した魔法少女と口にした方が見たものの大半が納得するだろう。学園では見せるわけにはいかない格好だ。正直、お姫様だっこして、お持ち帰りしたいくらいだ。

『いかん、いかん』ごまかすように真面目に考え直す俺。
それにしても、“ソウル・フェニックス”か・・・。
精霊闘衣は自身の魔力を精霊に分け与えて武具を顕現または強化し纏う技と俺は解釈している。
一方、”ソウル・○○”または“○○・ソウル”と俺が呼ぶ技は精霊の力を解放すると共に魂状にして纏う術、ほとんど融合みたいなものなので自身の潜在能力まで解放・強化される、かなり高度で危険もある。有翼種の精霊でしか使えない俺の編み出した技、光の翼もこの技によって引き出している。

「お手並み拝見かな」

戦場を駆ける彼女の姿をただ、見つめていた。


――――

それにしても・・・。
「押してはいるが、少し気になるな」
それが俺の素直な感想だ。


「集中・・・、すること! 行って!シャインニング・アロー!」
飛行能力を有さぬ相手の上空から、銃形態に変形した武器から放たれる魔力弾で牽制し、二十本の聖なる魔法の矢を時間差で放ち遠距離攻撃ブレスによる反撃の隙を与えない。
二体の魔物は上空の狙撃手を忌々しげに睨み「キシェェェッ!」と叫びぶと左右に飛び回避を試みる。

「甘いわ!リフレクション・フェザー!」
「!?」

光の壁が、避けたはずの魔法の矢の角度を変えて反射させ、宙に浮かび避ける手段を持たぬ獲物を確実に捕える。「グギャッァ!」という悲鳴とともにたじろいだ。
その隙を逃すまいと、リアは上空から加速をつけて急下降、武器を剣形態に変形させ鋭い風を切る音とともに急接近。

「切り裂いて!シャイニング・ブレイド!」

渾身の光の剣が一閃し二体の敵の強固な装甲に斬撃を走らせる。

「かっ・・・固い! くっ!」

表面に傷をつけることには成功するが、致命傷には遠く及ばない。再度、上空に飛び先程同様の射撃戦が開始される。

『マズイな。リア、それでは駄目だ』

銃からの魔力弾は当然として、魔法も“シャイニング・ブレイド”さえも金属装甲に遮られている。今の彼女は精霊の力を借りて戦っている。精霊なしの俺より出力は上、ダメージは入っているが装甲が厚く決め手を欠いている。
一見、押しているように見えるが技の消費魔力を考えるとリアの方が消耗は遥かに大きい。彼女もそのことに気付いているからこそ、俺の技・・・を使って強力な攻撃を放ち短期決戦に持ち込もうとしている。
危険だ。俺も準備をした方がいい。だが、その前にあの金属装甲・・・、種はもう分かった。

「リアーーーー!二種類以上の属性を同時に撃てぇぇーーー!」

上空にいる彼女に届くよう全力で叫ぶ。

「えっ!」状況が分からないまま上空で構えるリアに対して彼女の相棒が口を開く。
『そういうことですか・・・、あの装甲を破る方法ですよ!カラクリは障壁系と同じです。攻撃の着弾の瞬間、金属に込められた魔力が反応して、反属性の皮膜を形成し属性攻撃を相殺している。彼はそう言っているんです』

「つまり、複数の属性を同時に一点に撃つと、対応しきれない――か、できても防御は弱くなる、ということ?」
『そういうことです』
「わかったわ!やってみる」

「カズヤ君、ありがとう」と最後に付けたし標的に狙いを定めた。


「クレス、こっちも始めるぞ」
驚き『どうして?』と聞きた気なカブトムシに俺は続けた。
「相手は二体がかりだ。決め切れずに彼女が勝負を焦って、落とし穴に気付かずに大技を撃とうとするかもしれない・・・、そのための保険だ」

彼女自身の技や魔法にあの二体を一撃のもとに葬り去る威力を持つものはない。
ならば使うのは俺の技。

「頼む・・・。それだけは使わないでくれよ」
そっと呟き手に力を込め準備に入る。

「クレス!精霊闘衣だ!」












































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