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第1章 白の世界

第8話 第1章 完 ~キスから始まる恋愛コンティニュー

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白い空間が薄らいでいき、俺たちは現実へと帰還すると同時に、激しい風圧がこの身を襲い、凄まじい勢いで風を切る轟音が耳に響く。

現在、地上へ向けて絶賛落下中だ。

『いきなりピンチだけど、どうするの?精霊さん達、ほとんど皆動けないんでしょ?』

俺の懐から顔を出しながら質問してくる彼女に悲痛な様子は全くない。心配はしていないが、手段が気になる様子だ。

「精霊召喚を行う。」
『もしかして召喚する精霊さんは・・・。』
「そうだ。一万回目の俺の傍にいたあの“機械仕掛けのカブトムシ”だ。もっとも今回は多少強引だが応用を加えて、俺達が出向く。いわば逆召喚といったところだ。時間もない。すぐに始めるぞ。」
『ええ』
「精霊闘衣“セレナ”!女神(俺にとっての)の加護よ!俺に力を!」

残りわずかとなった力にありったけの想いを込めて叫ぶ。消耗しているのはセレナも同じ。力が足りなければ想いで補う。それがこの世界で学んだ俺だけの勝利の方程式だ。
ルナウスカズヤセレナリア、二人の小さな力が大きな想いを受けて重なり合う。溶けるように混ざり合い互いの心が触れ合うのを感じる。力が湧きあがる・・・、生命の輝きが溢れんばかりの光を解き放ち二人を包み込む。

黄金色の光の中で唇に何かが触れたような気がした。『キス・・・だよな・・・。』と気づく頃には離れていたが、彼女に視線を合わせると恥じらいつつも微笑んでくれた。背中の羽根がパタパタしている。

俺たちは絶対に成功する。

「何せ女神様のお墨付きだからな!」

『恥ずかしいこといわないで!』と叫ぶ彼女の抗議を塞ぐように今度は俺の方から唇を重ねた。彼女も受け入れてくれている。してもらうだけでは不公平だ。口づけが終わるころには黄金に輝く光の鎧が完成する。背中の翼が展開し光の粒子が散る。

あれ・・も使わせてもらう。残しておいてもろくなことにならないからな。」

同じく地上へ落下する魔城を捕捉する。制御を失ったとはいえ建物そのものにも魔力が込められている。先ほど乗り込んだ際、屠った千体以上の魔物の骸も戦利品ドロップアイテムの素材ごとそのままになっている。魔力の補填としては十分だ。このあとの大仕事のためにも根こそぎ活用させてもらう。
目指す先はどこだ?“機械仕掛けのカブトムシ”の気配を探り捉える。

「向かう先はおよそ五百年後だ!」
『五百年後・・・。』
「さあ、行こう!」
『ええ!』

「『我掲げる、闇を照らす光の剣!』」
「『我望む・・・、時間を・・・空間を越える奇跡の翼!』」

声を重ね、掲げた光の剣を振りおろす。激しく光が拡散し大気が震え空間に亀裂が生じる。

「『行っけぇぇぇぇぇぇぇ!』」

俺達の体は一羽の光の神鳥の姿と化し大きく羽ばたくと、空間のひずみへと突入した。
辺りが・・・否、世界が光に包まれる。光が晴れる頃には、二人の姿も魔城もかけら一つ残らず消え空だけが広がっていた。
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