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第1章 白の世界

第6話 想いが紡ぐ奇跡

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『そんなこと・・・ないよ?』

その声の主は遠慮しがちに俺の肩口から顔を出す。
透明感ある声、腰までかかる桜色の艶やかな髪に優しい瞳、細身ながら出るところは出ている。その姿は正に俺が今一番会いたい人・・・・なのだが・・・。

「生きて・・・いてくれた。会いたかった。もう会えないと思っていた。・・・でも、その姿は一体?」

その姿を見れば誰もが俺のように口にしただろう。なぜなら、背中には妖精のような光の羽根が生えていて大きさが手の平サイズなのだから。まあ、小さくて可愛いのは事実だけど。

『わたしがこうして今話せているのはルウ・・・ううん、カズヤのおかげだよ。わたしが殺されかけた時、全力であがいてくれた。心にね、伝わってきたの。必死になってわたしを求めてくれる想いが・・・。だから強く想ったの『私も一緒にいたい』って・・・。わたし信じてた・・・、カズヤと二人ならどんな奇跡だって起こせるって・・・。つまりね、』

「『精霊召喚、だな(よ)。』」

二人の声が重なると、俺は憑き物が落ちたように晴れやかになり微笑み合った。
あの時、無我夢中でどうやったのかは記憶にないが、召喚と契約が成立したらしい。
小さいのはまあ、力の大半をクリスタルに持って行かれたからだろう。回復するまでは人間サイズにはなれないようだ。
最も薄氷を踏むような形でもぎ取ったギリギリの成功であることには変わらない。『守り方』と『守る優先順位』の忠告については素直に受け止めるべきだろう。笑みの裏で俺はそう決意した。

「嘘・・・よ。そんな・・・だって・・・。」

「俺もセレナも人の身ではなくなっている。一種の精霊みたいな存在だからな。ありえないことではない。でも、だったらもっと早く出て来てくれても良かったんじゃないか?」

ジト目で小さな彼女に視線を飛ばすと、頬を膨らませて反論が返ってきた。

『ついさっき気がついたばかりだったの!それにちょっと恥ずかしかったの!眠っていた時も伝わってきたよ。私のこと「一番会いたい人」、「最愛の人」、「最も大切な人」って想ってくれたでしょ?すごく嬉しかったけど恥ずかしくてすぐになんて出られないよ・・・。』

最後は赤くなってモジモジした後、顔を隠すようにしがみついてきた。一つ一つの仕草が本当に可愛い。最も金髪美人の方は余計に面白くないようだった。明らかに怒っている。少々、二人だけの世界に入り過ぎていたらしい。いつもはこんなことはしないのだが。

「ふざけないで!今回も守れなかったはずだったのに!あなたは一万回守れなくて、私に責められて終わるはずだったのに!『奇跡』ですって・・・、それならどうして・・・の時には・・って・・れ・・・いの。」
「なぜそう否定しようとする?一万回も見てきた中でこれは望んでいた結末ではないのか?」

責めるために俺をここに呼んだことはこの際目をつむろう。最後の部分は涙ぐみ言葉尻はよく聞こえなかったが俺は思った事を口にする。彼女の正体が想像通りなら癇癪を起こすことはないはずだ。それともまだ何か見落としていることがあるのだろうか。

「こんなの・・・違う・・・認めない。どうして『セレナ』なの。守ってほしかったのは、あなたが本当に守らなければならないのは・・・。」

『リア・・・、『セレナわたし』ではなく『リア』・・・そう言いたいのでしょ?』

先ほどまでの恥じらった顔とは別人のように真剣な表情で正面に立つセレナ。正直、混乱しているが、最後のピースが見え始めた。まもなく解に辿りつく。そんな予感がする。

「その名をどうして・・・?私は一度もその名を口にしていないのに・・・。」

『・・・わたしの本当の名前だから。『リア・シオウ』、『セレナ』になる前のわたしの名前。』
「嘘よ・・・、そんなこと・・・。」

女神様の動揺が隠せない。美人が台無しだ。当然、俺も混乱している。自然と額に手を当ててしまう。

「その話は俺も初耳だぞ。」

『忘れていたけど思い出したの・・・。生死の境目、この姿になる少し前に・・・、自分がどこから来て、本当は何者だったのか・・・、わたしはカズヤと同じ時代から来たの。数百年もの時を越えて未来からこの時代に・・・。着いた場所は違ったけど、わたしは確かにカズヤと一緒に転移したの。カズヤもおかしいと思わなかったの?わたし、ずっと『ルウスあだな』ではなく『カズヤ本名』で呼んでるよ。』

そうだったのか。セレナは『ルナウス』も『カズヤ』も知っていたから後回しにしていたが、彼女は俺のことをよく『ルウス』と呼んでいた。『ルナウス』は言いにくいとぼやいていた。本来突っ込むべきところは妙に納得したので俺は些細な方を気にしていた。

『だから、この世界で『カズヤ』は『リア』を守ったの。『カズヤ』が『リア』を守る・・・、『リアあなた』の願いは叶ったの。』
「願いが・・・叶った。本当に・・・。うっ・・ううっ。」

泣き崩れると同時に認識阻害の魔法が解かれる。予想通り、金髪美女の正体は俺のよく知る人だった。
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