虐待ストーカー

necropsy

文字の大きさ
上 下
23 / 25
最後の雨

最後の雨

しおりを挟む
 母は妹ともに旅立っていった。

 いつものように買い物に出かけて行く。

 

 仁はこれからの出来事を知らないでいる。

 

 

 酒浸りの父親が暴れる。

 優しかった頃の父親を仁は思い返す。

 機材の下敷きになった父親は不自由になった足を所構わず振り上げ転ぶ。

 再就職もままならない現実が貧困を生む。

「行ってくるからね」

 どんな時もにこやかな母親が買い物にでかけた。

 数時間後、高層マンションから飛び降りた連絡を警察から受けた父親はしばらく放心状態だった。

「仁」

 失望に満ちた瞳から涙が零れ落ちていった。

 仁は意味も分からず泣き崩れた父親の背中を黙ってみていた。

「お母さんが死んだ」

 長い沈黙が流れた。

「美幸は? 大丈夫なの?」

 項垂れる父親が一升瓶を壁に叩きつけた。

 

 

     *

 

 

 

 人間の汚いところを見て育った悠真《ゆうま》。

 ひとの優しさが怖い。

 金切り声を張り上げた母親を悠真は膝を抱え黙っていた。

 財布のなかから母親は現金を取り出すと父親に投げつける。

 満足に仕事もせずパチンコで生計を立てる。

 パチンコに勝つと食卓に刺身が並んだ。

 菓子はパチンコのあまり玉の菓子しかない。

 ノミ行為のたまり場と化した自宅で大人らが金の悶着を繰り返す。

「坊主、いい目をしてるな」

 ときに任客を思わせるひとが顔を出すこともあった。

 しかしあまりに集まる連中が底辺であっさりと切り捨てられる。

 警察から出頭を命じられると口裏をあわせ実刑を免れる。

 昭和の時代は犯罪の取り締まりに温い。誰も彼もがバブルに踊っていた。

 最下層の底辺。

 親戚連中は華やかだというのにこの違いに悠真はくちびるを噛みしめる。

 生活保護の不正受給。

 父親の代から崩れてしまったが血筋は議員を多く輩出していた。

 姪っ子は悠真と違い勉学に励んでいた。年齢が一つしか違わない二人を割くのは家庭環境。

 毎日、金の話でもめ事が起こる。

 悠真はうんざりであった。

「お兄ちゃんだから我慢しなさい!」

 なんで、どうして。

 弟は父親の一字が使われている。しかし悠真には使われていないでいた。

 なにを聞いてもバカバカしい答えしか返ってこない。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

自分の話

hitoshi
エッセイ・ノンフィクション
自分が子供の頃から体験したことや生きづらかったことなどを書いていこうと思います。

教え子に手を出した塾講師の話

神谷 愛
恋愛
バイトしている塾に通い始めた女生徒の担任になった私は授業をし、その中で一線を越えてしまう話

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

職場のパートのおばさん

Rollman
恋愛
職場のパートのおばさんと…

どうも、癌患者です。

エッセイ・ノンフィクション
2023年8月、癌告知を受けました。

処理中です...