狂い咲き

狂い咲き111

　私は周りに頭を下げる。今さらになって「オホホ」とばかりの上品な笑みを浮かべたつもりだが、さらに周りがドン引いた気がする。
　周りに気をとられていた私を男が力任せに突き飛ばした。
　窓際の席に座っていた私はガラス窓に体当たりした。
「痛いわね！」
　男は再び彼に頭を下げるとなんと私の隣に座った。
「あの」
　騒がしい私達はバカ騒ぎをする深夜にいそうな大学生風よりも迷惑だ。
　店員が愛想笑いを浮かべつつも困り果てた顔をしている。
　テーブルにオーダーしたものが運ばれても食べる気にすら私はならない。
　憮然としていると男が私の髪を引っ張った。
「痛いわね！」
　男に掴みかかろうとしたとき、男が私の額になにかを貼り付けるように叩きつけた。
　なんだろうと私は男が額に叩きつけた二枚折りにした紙を手にした。そのまま男は立ち去っていった。
　彼は「やれやれ」と私を見ている。もう少しあの男に媚びたところはないのかと思いながらもメモ用紙を私は広げた。
　メモ用紙には兄が収監されている刑務所の住所が書いてあった。
　彼は私に刑務所に宛てた手紙の出し方を教えてくれる。
　兄と生き別れてもう十年は経つ。
　兄からの返信は期待できないかも知れないと彼は私に言った。そうであっても私は手紙を出し続けるしかないと彼の話しをしっかりと聞き続ける。
　もし手紙の返信があったら兄と面会できるかも知れない。
　詳細なことはあの男が探ってくれている。私は明日早速、兄に手紙を書こうと彼の話しを聞き続けた。
　次の日、私は小百合さんが来るのを待ち構えていた。
　頭が冴え渡って眠れない私はずっとリビングに座ってまんじりともせず朝が明けるのを待ち続けた。
　彼は私が就寝しやすいようにアルコールを勧めてくれたがそんな気分ではなかった。
　彼に鍵が欲しいと私が言うと彼は鍵を差し出してくれた。ただ、一人の外出は交通が不便なところだから小百合さんと出かけるようにと言うと彼は出ていった。
　ただっ広い室内に一人、取り残された気に私はさせられる。
　私は玄関の前でどうしていいのかわからないままその場に座り込んだ。