狂い咲き

狂い咲き 89

「実は……」



　彼は私が話すのをじっと黙って待ってくれている。



　先ずは雇用が決まったことを伝え勤務先を伝えると彼はそこは「駄目だ」と言う。やはりと思うほどに評判はよくない。



　とにかくキャリアアップではないがサービス業の経験が欲しい。それを私がしっかりと伝えると彼はなにかを考えているのだろうか。押し黙った。



　雇用が決まったリサイクルショップは郊外に他にも二店舗ある。私は雇用先を伝え勤務時間を伝えるとまた彼が黙る。



　私の言いたいことがわかったのか彼は私を迎えに来てくれると言ってくれた。



「ありがとう」



　物々しい車で、まさに「ヤクザです」と言わんばかりの車で迎えに来なければいいが――。しかし。助けを求めておいてあれこれわがままを言うのはと私は思う。



　結局はこうなってしまった。



　溜息をつきながら私はぼんやりとする。こんなことでサービス業なんて続くのだろうか。



　いつだったか。会社の健康診断があった時、どの部署の上司だったか、看護師に「立ちっぱなしで倒れたりしない？」と話しかけていた。



　ハローワークで求人を眺めていたときでも頑なにサービス業を拒否していたひともいた。



　年齢はもう四十代半ばを過ぎていそうなのに若い頃の経歴ばかりを並べ立て「そんな仕事できるか！」と言っていたな。



　年齢からして、もう仕事を選んでいられないのに「住宅ローンが払えない。そんな賃金では働けない」



　言っていることと仕事の探し方が大きく違う。本当にお金が欲しかったら数千円でもいいから先ずは稼ごうと思わないのだろうか。



　経験もないのに幹部候補を選んで「紹介しろ！　腰が悪いから立ち仕事はできない」



　しばらく黙って聞いていたが、プライドばかりが高くて、とにかく働かせて頂く。その概念がまったくない。まるで働いてやると言わんばかりの口振り。



　バブル入社のほとんどが辞めて欲しくて仕方がない企業が多いとニュース記事を見たことがある。



　一昔前の人材はいらない。



　日本は不景気ではなく社会情勢に無関心なだけではないか。



　情報管理者が一人いればいい。



　途方に暮れる私はフェンスに凭れ、ぼんやりとしていた。