狂い咲き

狂い咲き 82

　私は彼に追い詰められ、泡のように消えてしまいそうになる。



　失意とともに岸壁に身を投じた麗しき人魚姫は悲しみの泡となって消えたのではない。慈しみ照らす陽光となって愛するものを照らすことを選んだ。



　ひとは眩さのなかで新しい命を育もうとする。見返りとしての代償を求める。人魚姫は、そんな軽薄な愛情ではなかったはず。







　シャボン玉の泡のように、人魚姫は七色の幸せとなって再び愛するもの達と再会できたとその物語を私は読み終えた。



　突き動こうとする彼の躍動すべてを受け止めようと私は彼に手を伸ばす。



　一度触れてしまった性の転倒。石が流れ木の葉が沈む異世界の出来事はベッドの中で戯れるひと時とは大きく違う。



　もう二度と触れたくはないと思いながらも私も異常性愛に目覚めようとしているのだろうか。



　彼の腕の中で溺れる愛欲を感じながら、堕落していくあの日の背徳的な出来事がどこか私を燃え上がらせないでいた。



　彼のすべてに私の身体が答えているのに、どこか、こころだけが離れていくような離人感。非現実的なすべてに逃げ出してしまいたい思いは日々の重圧によるものなのだろうか。



　意識が途切れ途切れになるほどの高波にさらわれながらも私はさらなる高波を待ち望んでいる気がしてならない。



　アブノーマルをどこか否定してながらもそれを求めようとする。すべてがアンビバレンス。彼も私の戸惑いに気づいているのだろうか。



　時々私を見つめる彼の眼差し。



　肉欲をとおしてさらに疼かされる。意識が弾け飛ぶほどの真っ白な世界。身体がいくら快楽を覚えようともあの日は訪れようとはしない。



　また彼に虜にされる。



　このまま泡となって消えてしまいたいほどに狂おしいのに私のこころだけが独り取り残されていく。



　彼は私の変化に気づいている。重圧なまでの日々の葛藤。空回りするばかりの再就職活動とこれからの不安。



　すべてのフラストレーションが激しい欲求となって爆発する。それは性欲ばかりでなく。食欲にしても衝動買いの物欲にしても自分を制御できない。