狂い咲き

狂い咲き76

　彼との鬼ごっこは楽しい。



　考えて込んでいた私の頭がいい意味でリフレッシュされていく。



　真っ暗闇のなかに迷い込んだ兄を私は助けたい。



　海辺で彼と私の笑い声が波間の音を跳ね返すような笑い声がある。私は彼の手から逃げ続ける。



　いつしか彼の腕から逃げることに夢中になっていた私は砂浜に足をとられた。



　うっかり転んでしまいそうな私を彼が受け止めてくれる。



　私は彼に抱かれ。夕焼けを覚えようとする海を二人で眺めた。



　彼はしばらくすると「帰ろうか」と言ったが私はかぶりを振った。



　もっと彼の腕のなかに抱かれていたい。



　私達はあらためて再び出会った気にさえなる。



　彼は私をどう次に誘うかを考えている。



「変なこと考えているでしょう。いやらしーい顔」



　私は彼をからかう。



　彼は「いや」とばかりの顔をする。



　あの時、彼を突き放していたら私達は違う時間を生き、生き別れた兄を案じることをしても私一人ではなにもできなかった。



　彼の手がふと私の手に触れた。



　数え切れないほど彼と肌を重ね続けてきたが、やはり当たり前にセックスをする。



　もったいぶっているつもりはないが、釣られた魚であっても時に餌は欲しいものだ。



　自分から積極的にアプローチをかけていた。彼はどうアプローチをかけてくるだろうか。彼なら一時の情事に不自由することはないだろう。



　彼がどう異性を口説くのかを知りたい。



　一年前なら彼とセックスをするのが当たり前であった。彼と淫らに過ごす日はすべての肉欲が満たされる。淫楽に満ちていた。



　彼は私の手をしっかりと握った。



　彼と向かい合いながら彼が私の目をしっかりと見た。



　私を見つめる彼の眼差しにこころを射抜かれる。



　ただ、「抱きたい」と言った。



　海外の映画を思わせる情熱的なアプローチ。



「離したくない」と彼は言葉を続ける。



　彼の瞳に私は息をするのも苦しい



　彼の情熱が彼の眼差しをとおして私は息もできないほどの情熱に包まれる。



　ただ私を抱きしめ。目を閉じる彼。ときおり私を見つめる彼の眼差しに、私の眼差しが思わず逃げてしまいそうになるほどに、すべての思いを投げかけてくる。その眼差しに私は縛られたように動けない。