狂い咲き

狂い咲き24

　彼の指先が懐かしいほどに動く。


　しっとりと、首筋をゆっくりなぞる動きは、セックスをしたいとき。


　彼の目に数え切れないほどの感情が錯綜しているのがわかる。


　狂気にも似た愛しさの中にある懐かしさと、嫉妬。


　言葉に出し尽くせぬほど抱え込んだ孤独を垣間見るような刹那。


　彼に贖罪を求める気はない。


　これが彼の愛し方なんだと思う。


　それは今だから思える。あの男の助言があったから思えることだ。


　まるで子供のように母親の愛情を我侭で推し量ろうとしているように思える。


　どこか兄に似ている。


　父親の愛情を求めるあまり罪を犯してしまった。


　あの男が言うように、本気で惚れる女に母親の面影があるのなら、女にもその一面があってもいいと思う。


　兄は父が好きだった。


　しかし父は男だからと兄を厳しく育ててしまったことが家庭崩壊へと繋がっていった。


　男だからと言って、誰も彼もが毅然としているわけではない。


　優柔不断な、どこか子供らしさも男性の隠れた側面であると思う反面、女と違って、決めたことを譲らない頑固さは男のほうが勝ると思う。


　ただ、男だからこう、女だから、そう。そうとは言い切れない。どこか血液型占いのような当たりそうで当たらない微妙な線引き。男が話した男性らしさは、言われてみればそうかも知れない。


　同僚を見ていても、現実に酔っているのが楽しく、悩んでいるのが楽しいのではないかと思うのが女だ。


　さっさと別れてしまえばいい不倫でさえ、言葉では別れたいと言いながらも、別れる気さえない。


　私だって、失恋したとき、もう彼以上の男性と巡りあうことなんてないと思い込んでしまう。とことん落ち込む癖に、新しく好きなひとができると、嘘のように落ち込んでいたことさえ忘れて夢中になってしまう。


　結婚を考えていた彼に振られたときは本当に死んでしまおうかと思った。


　何気に一人で立ち寄れるショットバーを見つけ、殺伐とした日々を過ごしていた。


　ＯＬの稼ぎなど、たかが知れている。


　預貯金を取り崩しても、どうせ死ぬんだから。


　そんなバカげた気持ちでいたのに、今の彼と出会うなり、運命の出会いだと舞い上がった。