狂い咲き

狂い咲き18

――――あんなことをされたと言うのに。


　なんてバカなんだろう。


「なに黙り込んでいるんだ。こんどは悲劇のヒロインにでもなったつもりか？！　貴様、ふざけるのもいい加減にしろよ」


　もうどうしていいのかわからない。


　彼と再会したら、なにをされるかわからない恐怖よりも、彼と過ごした日々が、ありありと蘇るほどに、なにもかもがわかなくなる。


「殴るぐらいなら殺しなさいよ。殺されたほうが幸せよ！」


　もうどうなってもいい。


　これほどに、まだ、彼のことが好きだとは思わなかった。


「なに甘え腐ったこと言ってんだ。好きなら、すべてを受け入れろよ。都合のいいところばかり求めやがって。だから女は救いようがないんだよ」


　男は私の髪を力任せに掴むと、「死ぬことはいつだってできる。殺すこともだ。だがな、現実から逃げることしか考えていないバカ女の手助けをする気などない」


　男は一呼吸おいた。頬に伝う涙を男は優しく指先で伝う。


「安心しな。嫌なら、あの男に「嫌いだ」と言えばいい。お前がＮＯを突きつけたら、二度と、あの男は、お前を求めたりしない。そこまで、あの男は女々しくはない。それだけは俺が保障する」


　男は静かに涙を拭ってくれる。


「でもこれだけは本当のことだ。あの男に忠誠を誓って、もう十年は軽く経つ。だけど、ペンションに連れ込んだのはお前が初めてだ。所詮は男。どこかで、欲求を満たしたければ、金さえあれば、欲求を満たすことはできる。だけど、満たされないんだ。それこそ、お前と同じだ。セックスが終わった後、自分を慰めるようなもんさ。すべてが満たされなんだよ。金さえ払えば、お前が驚くようなことをしても平然としていられる女はいる。でも、孤独なんだよ。心は。だからと言って、あの男は、寂しいを理由に、妥協はしない。自分を都合よく言い聞かせたりもできないガキんなんだ。それだけは、わかってやってくれ。お前が、どれだけ、今の彼氏に惚れているのかは知らないが、その気持ちは本当なのか。ただ、飾りのように彼氏が欲しかっただけじゃないのか。本当に心から満たされていたのか、よく考えてみろよ。恋愛は妥協する為にあるわけじゃない。寂しさを埋める為だけでもない。本当に抱かれたい、一緒にいたい。それが恋愛であって、その次にあるのが、もっと心の奥にある安らぎじゃないのか」