儚く堕ちる白椿かな

椿木ガラシャ

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 ――雪人がどこにもいない。

 七種家の男たちがそれを知ったのは、夕食時のことだった。
 誰も雪人を探そうとしなかったのではない。

 大概、誰か一人でも男たちが帰ってくれば、雪人は呼ばれ、その男が夕食時まで雪人を傍の置く事が多く、部屋にいなくとも、誰も気にしないからだ。
 それが仇となった。
 使用人たちも余り詮索せず、夕食時には食堂に来るだろうと思い込んでいたのだ。


 継直が、年老いた執事に告げられたとき、継直は笑い飛ばした。


「そんなわけがないだろう?雪人は、ひとりで屋敷を出たことがないんだぞ。いったい誰が」

「庭師の倅だよ、兄貴」


 当主の部屋に入ってきたのは、弟の直倫であった。
 直倫に後ろには、継直の息子・3人も入る。
 雪人がいないと一番最初に気付いたのは、夕食に誘われていた直倫であった。

 雪人の部屋に訪れるもののそこに姿がないのを見て、引き返そうとしたが、何故か違和を覚えた。
 昼食後まで、部屋で過ごしていたのは確かなのだろう。
 読みかけの本が置いてあり、雪人がそこにいた証拠だ。


 それだけではなかった。
 開け放たれた硝子障子に窓によってみれば、雪人愛用の下駄がなくなっていたのだ。
 そして、置かれたままになっている、庭師の道具。


 いやな予感がし、甥である3人に命じ、自身も屋敷をくまなく探したが、雪人は見つからなかった。


 直倫は、継直に近寄ると、胸倉をつかむ。


「俺は以前に忠告したよな。あいつの周りに、変な虫がいるって。気をつけろって。あんた、俺の忠告を無視したのか?」


 七種家の男たちの中で、こうして当主に詰め寄る事ができるのは、直倫ただひとりだろう。
 老いた執事も慌てた表情をするが、継直は手で制す。


「余りに追い詰めては、雪人が窒息するだろう。『雪子』の時のように」


 『雪子』という名に反応したのは、老いた執事のみだった。
 びくりと震えた老いた肩に、息子たち3人は、何事かと、顔を見合わせる。


「はっ。雪人が『雪子』姉さんに似てくるからって、それに怯えて、逃げ道を作ったっていうのか?けどそれも、逃げてしまったら一緒だろ?どうすんだよ、あんた」


 直倫が更に詰め寄るが、継直は難なく、胸倉を掴む手を離すと、弟に向き直った。


「心配しなくても良い。雪人は必ず見つけて、この屋敷に取り戻す。考えてみろ、単なる庭師の倅と、世間を何も知らない雪人だぞ。
 それに、お前はこの家の男だというのに、七種家の権力を舐めているのか?」


 当主らしい威厳を漂わせて、継直は言い放つ。


「継晴、分家にも連絡し、情報を集めさせろ。継貴、お前は使用人たちと一緒に、清一が行きそうなところを探すんだ。継保もついていけ」


 父の命令に、3人の息子たちは走り出す。
 直倫も、自身で探そうと想ったのか、部屋を出て行った。

 部屋には、継直だけが残る。


 継直の形相は恐ろしく歪み、握り締めた拳は小さく震えていた。
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