儚く堕ちる白椿かな

椿木ガラシャ

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 ――逃げる鳥は、羽を持っているから自由に飛び立てる。
 風を自ら操り、時に風に逆らわず自らを流し、共に生きるからこそ、自由に飛びたてるのだ。

 雪人は、何時から己が、自由を欲したのか覚えていない。
 幼い頃は、この屋敷で過ごすのが当たり前で、男たちが傍にいるのが当たり前だった。

 毎日、毎日、誰かを受け容れて…まるで、お前の価値は、それだけしかないのだよと、言われているような気分だった。
 雪人は、誰もいなくなった屋敷で、縁側に降り立ち、庭に咲いている落ちた白椿を集めていた。

 落ちた白椿は、まるで自分のようだ。
 咲いて、人を愉しませたら、落ちる。

 己だってそうだ。
 いつまで抱かれて、いつまで愛されて、いつになったら捨てられる?捨てられたらどうしたらいい?
 どうやって生きればいい?

「どうしたんだ、雪人?」


 清一は、珍しく庭に出ている雪人を見つけ、近寄った。

 先日、雪人の叔父である直倫に咎められてから距離を置いていたが、只ならぬ雪人の雰囲気に思わず声を掛けずに入られなかった。


「自由に、なりたい」


 雪人はぽつりと呟いた。
 いつもの諦めに似た声色とは違う。無色透明で何の感情も含まれていない。それが返って、どれだけ雪人が自由を欲しているか、解かった気がした。
 清一は決意した。
 七種家に代々仕えてきた庭師としての誇りはもう要らない。美しい雪人の幼馴染という思い出だけで充分だ。


「雪人、逃げよう」


 清一の言葉に、雪人は顔を上げた。先ほどまで泣いていたのか、赤くなっている眼元は期待に溢れている。


「俺が全て用意する。お前は何も、心配しなくていいから」


 力強い清一の声に、雪人は希望に頷いた。

 家に繋がれるという絶望から、自由という希望へ。
 屋敷で堕ちるしかなかった白椿は、鳥になり自由になろうとしていた。 

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