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伍
しおりを挟む――逃げる鳥は、羽を持っているから自由に飛び立てる。
風を自ら操り、時に風に逆らわず自らを流し、共に生きるからこそ、自由に飛びたてるのだ。
雪人は、何時から己が、自由を欲したのか覚えていない。
幼い頃は、この屋敷で過ごすのが当たり前で、男たちが傍にいるのが当たり前だった。
毎日、毎日、誰かを受け容れて…まるで、お前の価値は、それだけしかないのだよと、言われているような気分だった。
雪人は、誰もいなくなった屋敷で、縁側に降り立ち、庭に咲いている落ちた白椿を集めていた。
落ちた白椿は、まるで自分のようだ。
咲いて、人を愉しませたら、落ちる。
己だってそうだ。
いつまで抱かれて、いつまで愛されて、いつになったら捨てられる?捨てられたらどうしたらいい?
どうやって生きればいい?
「どうしたんだ、雪人?」
清一は、珍しく庭に出ている雪人を見つけ、近寄った。
先日、雪人の叔父である直倫に咎められてから距離を置いていたが、只ならぬ雪人の雰囲気に思わず声を掛けずに入られなかった。
「自由に、なりたい」
雪人はぽつりと呟いた。
いつもの諦めに似た声色とは違う。無色透明で何の感情も含まれていない。それが返って、どれだけ雪人が自由を欲しているか、解かった気がした。
清一は決意した。
七種家に代々仕えてきた庭師としての誇りはもう要らない。美しい雪人の幼馴染という思い出だけで充分だ。
「雪人、逃げよう」
清一の言葉に、雪人は顔を上げた。先ほどまで泣いていたのか、赤くなっている眼元は期待に溢れている。
「俺が全て用意する。お前は何も、心配しなくていいから」
力強い清一の声に、雪人は希望に頷いた。
家に繋がれるという絶望から、自由という希望へ。
屋敷で堕ちるしかなかった白椿は、鳥になり自由になろうとしていた。
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