1 / 22
零
しおりを挟む
――ある女がひとりの赤子を産んだ。
帝都郊外にある広い屋敷の中で、男たちの眼に晒されながら、ひとりの赤子を一族に生み落とした。
女は、その一族の唯一の女であった。
いや、唯一であったのではない、本来、その一族には女は生まれないのだ。
名門であったその一族には、開祖より、男児しか生まれない一族だった。
男により始まり、男により受け継がれる男子相続を固く誓ったかのように、男しか生まれなかったのに、突如、女が生まれた。
人々は、不吉だとも、奇跡だとも言った。
なぜ、女は生まれたか。
神の気紛れだったと、云う他ない。
しかし、女に自由は与えられなかった。
女の髪が、美しくなければ、或いは女は家に閉じ込められることはなかったかもしれない。
女の瞳が、しっとりと濡れていなければ、或いは女は、故意に瞳を傷つけられることはなかったかもしれない。
女の声が、甘く涼やかでなければ、或いは女は解放されたかも知れない。
女の躰が、白くなければ、或いは女は…幸せになれたのかもしれない。
女は、麗しいと呼ぶに相応しい、天性の美貌をもっていた。神の気紛れで一族に与えられた女は、一族の『奇跡』として寵愛された。
それ故に、女は幼い頃から、一族の男たちから凌辱を受けていた。
時の権力者であった実の父、聡明な兄、双子の弟や一族の慰み者として…。
愛と呼ぶには、重すぎる寵愛を、一身に受けていた。
女は寵愛を受けるが故に、一族の女たちに憎まれていた。実の母である女でさえ、実の娘である女を愛さなかった。
彼女たちの最愛の夫や息子の愛を奪ったのは、他なら女であったのだから。
女が自由を与えられたのは、広大な屋敷のみであった。
広大な屋敷の中で、世界を一度も見ることなく、女は生き、20の頃、子を孕んだ。
誰の子かは、解らない。
その当時、幾人もの一族の男たちの寵愛を受けていたからだ。
その事実を知ったとき、女の心と体は、あまりにも疲れて果てていた。
10ヵ月後、誰の子か知れぬ、赤子は生まれる。
赤子を産んだ途端、魂を使い果たしたかのように眠るように死んだ女の傍で、産声を上げた。
その子を最初に抱き上げたのは、一族の総領である。
女の父であったその男は、『雪人【ゆきと】』と、その子に名づけ、次期総領であった長男の子とした。
しかし、『雪人』は、一族の男としての扱いを受ける事はなかった。
『奇跡』の女の胎から出でた子は、やはり『奇跡』なのだと、皆が知っていたからだ。
『雪人』は、一族の男たちのものであった。
帝都郊外にある広い屋敷の中で、男たちの眼に晒されながら、ひとりの赤子を一族に生み落とした。
女は、その一族の唯一の女であった。
いや、唯一であったのではない、本来、その一族には女は生まれないのだ。
名門であったその一族には、開祖より、男児しか生まれない一族だった。
男により始まり、男により受け継がれる男子相続を固く誓ったかのように、男しか生まれなかったのに、突如、女が生まれた。
人々は、不吉だとも、奇跡だとも言った。
なぜ、女は生まれたか。
神の気紛れだったと、云う他ない。
しかし、女に自由は与えられなかった。
女の髪が、美しくなければ、或いは女は家に閉じ込められることはなかったかもしれない。
女の瞳が、しっとりと濡れていなければ、或いは女は、故意に瞳を傷つけられることはなかったかもしれない。
女の声が、甘く涼やかでなければ、或いは女は解放されたかも知れない。
女の躰が、白くなければ、或いは女は…幸せになれたのかもしれない。
女は、麗しいと呼ぶに相応しい、天性の美貌をもっていた。神の気紛れで一族に与えられた女は、一族の『奇跡』として寵愛された。
それ故に、女は幼い頃から、一族の男たちから凌辱を受けていた。
時の権力者であった実の父、聡明な兄、双子の弟や一族の慰み者として…。
愛と呼ぶには、重すぎる寵愛を、一身に受けていた。
女は寵愛を受けるが故に、一族の女たちに憎まれていた。実の母である女でさえ、実の娘である女を愛さなかった。
彼女たちの最愛の夫や息子の愛を奪ったのは、他なら女であったのだから。
女が自由を与えられたのは、広大な屋敷のみであった。
広大な屋敷の中で、世界を一度も見ることなく、女は生き、20の頃、子を孕んだ。
誰の子かは、解らない。
その当時、幾人もの一族の男たちの寵愛を受けていたからだ。
その事実を知ったとき、女の心と体は、あまりにも疲れて果てていた。
10ヵ月後、誰の子か知れぬ、赤子は生まれる。
赤子を産んだ途端、魂を使い果たしたかのように眠るように死んだ女の傍で、産声を上げた。
その子を最初に抱き上げたのは、一族の総領である。
女の父であったその男は、『雪人【ゆきと】』と、その子に名づけ、次期総領であった長男の子とした。
しかし、『雪人』は、一族の男としての扱いを受ける事はなかった。
『奇跡』の女の胎から出でた子は、やはり『奇跡』なのだと、皆が知っていたからだ。
『雪人』は、一族の男たちのものであった。
1
お気に入りに追加
86
あなたにおすすめの小説


変態高校生♂〜俺、親友やめます!〜
ゆきみまんじゅう
BL
学校中の男子たちから、俺、狙われちゃいます!?
※この小説は『変態村♂〜俺、やられます!〜』の続編です。
いろいろあって、何とか村から脱出できた翔馬。
しかしまだ問題が残っていた。
その問題を解決しようとした結果、学校中の男子たちに身体を狙われてしまう事に。
果たして翔馬は、無事、平穏を取り戻せるのか?
また、恋の行方は如何に。




ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる