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討伐編

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 ガルシアのことは愛しているが、こうやって方向性が違うこともある。今回の旅も、自分なりに気持ちを整理したかったのだ。
 狩人たちが集まればどんな魔獣を倒しただの、どこの村の宿屋が良かっただの、話は尽きない。出産を終え、王城に帰ってきてから子育てに邁進していたこともあり、人と関わる時間はなかった。何よりもガルシアが嫉妬深く、他の人間と喋っているだけでも夜の求めが激しくなるので大っぴらに交友を持つことができなかった。
 次期皇帝の伴侶として公務として人々の前にでるものの、その他は王城で子育てをしていただけなのだ。お飾りの伴侶と言われても仕方がないかもしれない。
 ――その時、狩人たちに緊張が奔った。ルーシェもシュリアーノを抱きしめて、側に置いていたレイピアを手にした。
 自分たちが来た方向から、かなりの速さで何かが近づいてくるのだ。魔獣ではないようだが、尋常でない速さでルーシェたちのもとへ近づいてくる。
「あ、あのお方は」
 双眼鏡で見定めていたケーシーが、驚いた声を上げる。
「ルーシェ様、どうぞ」
 受け取ったルーシェも覗き込むが、映ったのはよく知っている人物だった。
「あいつ…!」
 ルーシェは絶句する。なぜ、あいつがここにいるのだろうか。敵ではないと分かったので気は緩むが、別の意味で気が重い。
 深々とため息をついて、何事かとルーシェを見ている狩人たちに説明するのだった。
 ――ダダダン、ダダダン、ダダダン…ヒヒヒーン!
 重い馬の蹄の音が近づいてくる。その男が馬を止め、ルーシェの前に降り立った時、狩人たちは一斉に片膝をついた。
 それを悠然と見下ろし、ガルシア・キングスレーは伴侶に向かって腕を広げた。
「ルー会いたかった」
「俺は…そうでもないかな」
「つれないなあ。8日ぶりの再会なのに」
「とうちゃん!」
 ルーシェの代わりに抱き着いてきたのはシュリアーノだった。父の登場に驚きながらも、抱きつくのを我慢していたようでうずうずしていたのを勿論ガルシアは知っている。
 抱きあげて思いっきりそのプラチナブロンドの髪に顔を埋めると、我が子の匂いを堪能した。
「シュリ。ちょっと見ない間に、重くなったな」
「いやいや、8日ぶりだから」
 と言ったが、この旅の間シュリアーノはよく食べるようになったから、体重はやや増えたかもしれない。
 シュリアーノを抱きかかえながら、ガルシアは広がっているものを見る。
「ピクニック中だったのか。うらやましい、俺は執務室に籠りっきりだったというのに…」
 恨みがましそうに言っているのを、狩人たちも冷や汗をかく。その裏には『俺のルーシェと食事を楽しみやがって』との声がついてきそうだ。
 ルーシェはパンをもち、ガルシアに尋ねる。
「――食べる?」
「いいのか?」
 伴侶の雑な扱いにも、次期皇帝であるガルシアは気にしない。ルーシェの隣にシュリアーノを抱いたまま陣取った。
「お前たちも楽にするといい」
「はっ」
 膝をついていた面々も、ガルシアの許しを得て、各々立ち上がる。
「あれみんな、もう食べないのか?珈琲のおかわりは?」
 先ほどまで賑やかに食事をとっていたが、狩人たちはそれぞれ別の方向へ向かおうとする。
「我々はもう腹が満たされましたから。どうぞ、お気遣いなく…」
「ルーシェ様は、ガルシア様のお相手をして差し上げてください」
 どこか引きつった顔をしながらその場を離れると、狩人たちは馬の世話や、馬車の点検を行っている。
「ルー、俺にも珈琲を」
「はいはい」
「ルー、あ~ん」
「もう、外でそんなことねだるなよ」
「かあちゃん、おれも!」
「はいはい」
 ここは王城の東塔ではない。親子三人だけならばいくらでも甘えさせてやるが、近くには自分の臣下もいるのに、ガルシアは頓着しない。
 次期皇帝の威厳もあったものではない。ルーシェは自分の腰を抱いたまま離れないガルシアにため息をついた。

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