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参
しおりを挟む――四拾九日が明けた頃、継直と百合子の結婚式が行なわれた。
早いのではないかとの声もあったが、二人の婚姻は亡き人が望んだことであり、双方の家の合意によって行なわれた。
式は白無垢を纏ったが、続いて行われた披露宴は盛大に帝国ホテルで執り行われた。
七種家と青山家。両家とも大財閥であるため、出席した人々の数を厳選し、それでも500人を超えた。
この時代にはまだ珍しい純白ウエディングドレスを纏った百合子は美しかった。人々は褒めたたえ、賛辞の言葉を次々と口にした。
百合子を褒めたたえるのと同じく、注目を集めたものがある。雪子と直倫という双子の姉弟だった。
親族であるため末席であるにもかかわらず、そこだけ光が差しているような二人がいた。
直倫はブラックスーツにまだ幼い四肢を包んでいたが、数年後には女性の羨望の的となる美男子になることは見て取れた。
百合子はこの日、桃色の愛らしいドレスを纏っていた。細い腕と肩、膨らみ始めた胸を強調するような細いシルエットと、チュールが幾重にも重ねられた下肢部分が、雪子を更に美しくした。
まるで妖精のような可憐な姿であった。薄らとした化粧も、雪子を大人びて見させ、誰もがため息をついた。
大臣を務める継一郎にお近づきの挨拶がてら、雪子の婚約者はいるのかと尋ねる者も多かった。
しかし、雪子にはなかなか話しかけられない。直倫が誰にも触れさせまいと、牽制していたのだ。
大輪のように美しく花開いた百合子と、まだ固い蕾を思わせる雪子…七種家には二つの華があるのだと、人々は噂した。
百合子は誇らしかった。あの可愛らしい少女は百合子の義妹になったのだから。
初夜を帝国ホテルで迎えた百合子は翌日には継直と共に、新婚旅行へ出かけた。行先は熱海だ。
二人きりの時間を過ごし、東京に戻った翌日、七種本家に移り住み、百合子は実質的な女主人となった。
幸せの絶頂にいた。誰からも祝福される結婚をし、愛する継直とひとつになったのだ。百合子は献身的に継直に尽くし、雪子の世話も自らかってでた。使用人たちにも優しく接し、百合子は継直の妻として七種家のために立ち歩いていたのだった。
――そんな幸せな日々が2ヶ月ほど続いたある日、百合子は何時までたっても寝室にやってこない継直を案じ、ベッドに横たえていた体を起こした。
先に休むように言われているが、最近は仕事が忙しく、夜遅く帰ってくる継直と少しでも長く過ごしたかったのだ。
百合子はレースのショールを纏い、若夫婦の寝室から出た。継直には、他に書斎とベッドルームがある。そちらの方で仕事をしているのだろうと思い、百合子は向かった。
「あなた?」
百合子はそっと顔を覗かせるが、明かりはついているものの書斎に継直の姿はない。デスクには書類が残っているが、万年筆などは片づけられている。
しかし、ベッドルームに続く扉が開いている。そちらからも光が漏れている。疲れて休んでいるのだろうと、百合子は思った。
継直を驚かせようと足音を忍ばせてベッドルームの扉に近寄る。
「やめて…」
ベッドルームから雪子の声が響き、百合子は足を止めた。雪子がここにいるのは何も珍しいことではない。
溺愛する妹を、時に継直は書斎に呼び寄せ、自分の話し相手にさせていた。雪子には家庭教師がつけられている者の、目が見えないことで教師もどう教えたらよいものか考えあぐねていた。
継直はそんな雪子に、幼い頃より絵本や小説を読み聞かせていたという。文字を音として覚えさせるために、膝に抱いて、よくいろんな話をしていたと。
流石に12歳になった雪子を膝に抱くことはないようだが、読み聞かせる週間は続いているようだ。
「そんなこと…なさらない、で。おねがい…」
しかし、雪子の声は震えていた。
百合子にとって、雪子は庇護すべき相手だ。目が見えない雪子の世話は、百合子にとって日課であった。お人形遊びのように、毎日のように華麗な服を纏わせ、髪を結いあげるのは、百合子の楽しみなのだ。
雪子も百合子の手を求めた。今まで母から受けることのなかった愛情を、百合子に求めたのだ。
その可愛い義妹である雪子に何かあったのだろうか、急いでベッドルームを覗き込んだ百合子は、衝撃的な光景に動きが止まった。
見てはいけない光景だった。
そこにいるのは愛する継直と、可愛い雪子だ。だが、異様だった。雪子は裸体だったのだ。白い白い、雪のように白い躰がそこにある。
その肢体に覆いかぶさっているのは、スラックス姿の継直だった。いつもきっちり止まったシャツのボタンが二つほど外れている。
「愛しているよ、雪子」
甘く低い声で囁きながら、雪子の膨らみ始めた胸に手を添えて、掌で撫ぜていた。雪子はまだ12歳だ。男を受け入れる体ではない。幼気な乙女を、実の兄が弄っているのだ。
「やめて…やめてっ」
「なぜだい?俺の部屋に来た時点で、こうなることは分かっていただろう?」
からかう様に首筋にキスを落とし、雪子に囁きかける。
「違うわ。お兄さまが、珍しいお菓子をくださるっていうから…!」
「仕方ないだろう?お前の部屋には直倫がいるのだから。いい加減、ふたりで眠るのはよしなさい」
言いながらも、継直の手は止まらなかった。雪子の可憐な突起に吸い付き、指で弄っているのだ。
「いやよ、お兄様…いやっ」
雪子は絹のような髪を振り乱し拒んでいたが、継直は雪子の太ももを抱えた。毛などほとんど生えていない雪子の部分が、百合子の目にも映る。
美しい雪子の、その色に染まっていない部分を継直は指でなぞる。百合子に触れたあの指で、少女の淡い部分をなぞり、指を差し込んだ。
「いや…!」
可憐な割れ目が、男の指によって割り開かれる。以外にも中は、充血し、寒椿のように色づいていた。
継直は雪子のそこに顔を埋め、唇を当てて吸った。その度に、雪子は全身を震わせ、シーツに指先を滑らせていた。その細く頼りない腕を、継直が取り、そっと口づけた。
継直は纏っていたシャツはそのままに、己の一物を取り出して、雪子の手に握らせた。雪子は仰け反って、継直から逃れようとしている。
「お兄様…!やめて…!」
その雪子を見下ろして、継直は言った。
「何を嫌がることがある雪子。小さい頃から、しているだろう?」
羞恥に染まった頬を、継直が唇でなぞる。そのまま、紅い唇に口づけを落とし、雪子が息を次げないほどの荒々しい接吻をした。
継直は口づけたまま、雪子の掌に一物を擦り付ける。雪子は必死に言葉を紡いだ。
「だって…お兄さまには、お義姉さまが…っ」
「だから、もう俺とはしないと思っていたのかい?馬鹿だね、お前は。あの女は、単に七種家を存続出せるための腹をもっているだけであって、お前とは違うのだよ」
百合子は、継直の冷たい声、冷たい科白に全身を貫かれた。あんなに優しかった継直は一体何なのだ?ここにいる継直は一体何者だ?
百合子の背に、冷たいものが通り過ぎていく。
「ひっく…ひっ。そんなの、お義姉さまが…」
雪子は泣き始める。雪子は、百合子のことを案じていた。
「優しい子だね、お前は。あの女のために、泣いているのかい?」
継直はその目元を舌で舐め上げた。そのまま再び滑らかな頬を伝い、紅い唇を塞ぐ。
「近頃、構って上げられなくて悪かったね、雪子。父上の相手ばかりで、大変だっただろう?今晩からは、俺も抱いてあげるから」
継直の声が遠ざかっていく。
どうやって寝室に帰ったのかは覚えていない。ベッドに横になるが、瞼の裏にあの光景が張り付いてはなれない。
眠れずにいる百合子の隣に継直が戻ってきたのは、それから2時間ほどあとのことだった。
何事もなかったかのようにベッドに入ってきた継直を呼ぶと、継直は雪子を抱いていた手で、百合子の肩を抱いてきた。
継直の腕に抱かれ、百合子は何時しか眠っていた。次に目覚めたときには朝になっていた。継直はいない。とっくに起きる時間は過ぎているのだ。
百合子は慌てて支度を済ませると、食堂に足早に入っていく。
何も変わることのない朝食の時間…美しい七種の人々は、常と変わらず食事を摂っている。
大理石の長いテーブルの上座に継一郎がすわり、右斜めには長男の継直、左斜めには雪子と直倫がいる。
昌江の席には、雪子が自然と座っていた。百合子は呆然とその光景を見つめていた。
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