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ユウトはすぐにヴァルの元へと向かう。それほど距離を取っていなかったためすぐにヴァルはユウトの視界でとらえることができた。
ヴァルはすり鉢状に掘った穴の中心の接地して待っている。ヴァルの金属の身体には霜が降りうっすらと白んで冷気が漂っていた。
「これは、触っても大丈夫なのか?」
異様なヴァルの様子にユウトは思わず尋ねてしまう。
「問題無イ。蓄積ハ済ンデイル」
そうヴァルが返答するとまとっていた霜は消え、水滴へと変わった。
ユウトは黙ってヴァルの頂点に脚をたたんで座り込むように乗る。ヴァルの表面に吸い付くような感覚があった。そしてセブルがユウトの身体とヴァルの表面に密着するようにしてまとわりつき補強する。そしてラトムはユウトの兜から離れて腰の革帯に上を向いて掴んだ。
「よし、それじゃあ最終確認だ。目標は大魔獣の核。推進力はヴァル」
「了解シタ」
ヴァルがそっけない返事をして返す。
「姿勢制御と方向変更をラトム」
「まかせてくださいっス!」
ラトムは張り切るように翼を広げる。普段よりその翼は大きくなっているように見えた。
「セブルは全員がばらけないようにつないでいてくれ」
「はいッ!」
セブルは全員の身体をぎゅっと締め付ける。
「そしてオレが大魔獣の核の場所を示す」
そう言ってユウトは大魔剣を両手で持ち、切っ先を空に向けた。そして身体と首をひねり、後方の護衛部隊を見上げてつぶやく。
「頼むぞ・・・みんな」
その声と同時に空から一筋の光が巨石へ直撃し、拡散させながら巨石の表面を焼いた。
ヨーレンは歯を食いしばりながら、両手で強く握り締めた輝く杖を掲げ続けている。そこに声がかけられた。
「ヨー兄さん!手助けにきたわ。状況は?」
声のする方向にヨーレンは目だけを動かし坂を登ってきたカーレンを見る。
「助かるよ。正直、あまりよくない。衝撃に耐えるのが精いっぱいだ。いつ崩れ落ちてもおかしくはないんだけど、なんとか誤魔化してる」
額に汗を浮かべ、ヨーレンは苦しそうな声で自嘲するように語った。
カーレンは自身の兜の留め具を緩めて脱ぎ去ると上空の巨石に目をやってじっと見つめる。巨石はところどころ欠け始めていた。視線を動かし、さらに巨石の全体を見渡す。その間にもまた、光線の一撃が加えられ巨石は震えた。
「私がこの石の動きを調整をします。兄さんは安定させることに集中して」
カーレンは振り返ってヨーレンにそう伝えると備えているだけの短剣を次々に投げる。
「同期できるのか?」
ヨーレンは驚きの声を上げて聞き返した。
「出来るわ。それが私たちの家系の強みでしょ?私は忘れてなんかいないんだから」
「そうか・・・わかった、カーに任せるよ」
そう言ってヨーレンは瞳を閉じた。それに合わせるようにして握っていた杖の先に備え付けられた結晶の輝きが増して瞬きがなくなり安定する。すると巨石は一段高く上昇して止まり、揺らぎが収まった。
カーレンの投げた短剣は一旦その勢いを落としたあと柄に仕込まれた鉱石に光が灯る。そして勢いを取り戻すと空を上っていった。
いくつもの短剣が列を成して巨石に向かう。短剣を放り終えたカーレンは両手の指を広げて前に突き出した。
巨石に到着した短剣たちは巨石の周りに拡散していき、刀身を巨石に向けて静止する。カーレンは広げた両手を目の前でぎゅっと閉じた。すると制止していた短剣は一斉に巨石に向かうと巨石に張り付かせる。カーレンは閉じた両手をゆっくりと力を込めるように震えながら開いた。目の前で透明な球を持ったような格好になる。そのとき、また光線が巨石に向かって落とされた。
カーレンはしっかりと巨石を見つめながら挟み上げるような形をした両手を大胆に捻る。するとそれに連動して巨石は大きくその態勢を変えた。
それまでせいぜい回転させる程度の動きだった巨石が上面、下面とお構いなく滑らかな挙動で動く。三軸で回転させる巨石は損傷の少ない面を光線に晒しながら動き、受け止めた。
大質量の巨石が宙に浮きながら際限なく回転し向きを変える。星の大釜をのぞき込む人々は皆その光景に目を奪われた。
戦いの中、巨石の風を切る音が響く。眉間にしわを寄せるほど強く目を閉じていたヨーレンは力んできた全身を少し楽にさせ、ゆっくりと瞼を開いた。
「なんとか、安定したか」
ヨーレンはそうつぶやき少し坂を下ったところで両手を動かしているカーレンの後姿を見つめる。それから少し声を張り上げながら声を掛けた。
「助かったよカー。これでもうしばらくは持ちこたえられそうだ」
カーレンは頭を少しだけ振りヨーレンの声にこたえる。
「どういたしまして。でも・・・たぶんそれほど長くもちこたえられそうにはない、かな」
カーレンの声には楽観できない緊張感が漂っている。
「ああ、そうだね。でもレナと・・・ユウトが何とかしてくれるはずだ。私達も全力を尽くそう」
「ええ、もちろん!」
ヨーレンの言葉にカーレンは力強く笑顔で答えた。
ヴァルはすり鉢状に掘った穴の中心の接地して待っている。ヴァルの金属の身体には霜が降りうっすらと白んで冷気が漂っていた。
「これは、触っても大丈夫なのか?」
異様なヴァルの様子にユウトは思わず尋ねてしまう。
「問題無イ。蓄積ハ済ンデイル」
そうヴァルが返答するとまとっていた霜は消え、水滴へと変わった。
ユウトは黙ってヴァルの頂点に脚をたたんで座り込むように乗る。ヴァルの表面に吸い付くような感覚があった。そしてセブルがユウトの身体とヴァルの表面に密着するようにしてまとわりつき補強する。そしてラトムはユウトの兜から離れて腰の革帯に上を向いて掴んだ。
「よし、それじゃあ最終確認だ。目標は大魔獣の核。推進力はヴァル」
「了解シタ」
ヴァルがそっけない返事をして返す。
「姿勢制御と方向変更をラトム」
「まかせてくださいっス!」
ラトムは張り切るように翼を広げる。普段よりその翼は大きくなっているように見えた。
「セブルは全員がばらけないようにつないでいてくれ」
「はいッ!」
セブルは全員の身体をぎゅっと締め付ける。
「そしてオレが大魔獣の核の場所を示す」
そう言ってユウトは大魔剣を両手で持ち、切っ先を空に向けた。そして身体と首をひねり、後方の護衛部隊を見上げてつぶやく。
「頼むぞ・・・みんな」
その声と同時に空から一筋の光が巨石へ直撃し、拡散させながら巨石の表面を焼いた。
ヨーレンは歯を食いしばりながら、両手で強く握り締めた輝く杖を掲げ続けている。そこに声がかけられた。
「ヨー兄さん!手助けにきたわ。状況は?」
声のする方向にヨーレンは目だけを動かし坂を登ってきたカーレンを見る。
「助かるよ。正直、あまりよくない。衝撃に耐えるのが精いっぱいだ。いつ崩れ落ちてもおかしくはないんだけど、なんとか誤魔化してる」
額に汗を浮かべ、ヨーレンは苦しそうな声で自嘲するように語った。
カーレンは自身の兜の留め具を緩めて脱ぎ去ると上空の巨石に目をやってじっと見つめる。巨石はところどころ欠け始めていた。視線を動かし、さらに巨石の全体を見渡す。その間にもまた、光線の一撃が加えられ巨石は震えた。
「私がこの石の動きを調整をします。兄さんは安定させることに集中して」
カーレンは振り返ってヨーレンにそう伝えると備えているだけの短剣を次々に投げる。
「同期できるのか?」
ヨーレンは驚きの声を上げて聞き返した。
「出来るわ。それが私たちの家系の強みでしょ?私は忘れてなんかいないんだから」
「そうか・・・わかった、カーに任せるよ」
そう言ってヨーレンは瞳を閉じた。それに合わせるようにして握っていた杖の先に備え付けられた結晶の輝きが増して瞬きがなくなり安定する。すると巨石は一段高く上昇して止まり、揺らぎが収まった。
カーレンの投げた短剣は一旦その勢いを落としたあと柄に仕込まれた鉱石に光が灯る。そして勢いを取り戻すと空を上っていった。
いくつもの短剣が列を成して巨石に向かう。短剣を放り終えたカーレンは両手の指を広げて前に突き出した。
巨石に到着した短剣たちは巨石の周りに拡散していき、刀身を巨石に向けて静止する。カーレンは広げた両手を目の前でぎゅっと閉じた。すると制止していた短剣は一斉に巨石に向かうと巨石に張り付かせる。カーレンは閉じた両手をゆっくりと力を込めるように震えながら開いた。目の前で透明な球を持ったような格好になる。そのとき、また光線が巨石に向かって落とされた。
カーレンはしっかりと巨石を見つめながら挟み上げるような形をした両手を大胆に捻る。するとそれに連動して巨石は大きくその態勢を変えた。
それまでせいぜい回転させる程度の動きだった巨石が上面、下面とお構いなく滑らかな挙動で動く。三軸で回転させる巨石は損傷の少ない面を光線に晒しながら動き、受け止めた。
大質量の巨石が宙に浮きながら際限なく回転し向きを変える。星の大釜をのぞき込む人々は皆その光景に目を奪われた。
戦いの中、巨石の風を切る音が響く。眉間にしわを寄せるほど強く目を閉じていたヨーレンは力んできた全身を少し楽にさせ、ゆっくりと瞼を開いた。
「なんとか、安定したか」
ヨーレンはそうつぶやき少し坂を下ったところで両手を動かしているカーレンの後姿を見つめる。それから少し声を張り上げながら声を掛けた。
「助かったよカー。これでもうしばらくは持ちこたえられそうだ」
カーレンは頭を少しだけ振りヨーレンの声にこたえる。
「どういたしまして。でも・・・たぶんそれほど長くもちこたえられそうにはない、かな」
カーレンの声には楽観できない緊張感が漂っている。
「ああ、そうだね。でもレナと・・・ユウトが何とかしてくれるはずだ。私達も全力を尽くそう」
「ええ、もちろん!」
ヨーレンの言葉にカーレンは力強く笑顔で答えた。
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