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修理
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夜を迎えた街道を慌ただしく人々が行き来する。魔術灯の光が連なって線のようになった景色を荷馬車の荷台からマレイはぼんやりと眺めていた。
間もなく荷馬車は停車する。すぐさま降車したマレイは馬車の前方へと大股で荒々しく歩き進んだ。
「レイノス副隊長はどこにいる?」
マレイはせわしなく行き来する兵士の一人を強引に捕まえて尋ねる。
「こ、工房長。レイノス副隊長はあちらに」
兵士は少し焦りながらも直ちに問いに答え歩みを止めないマレイの簡素なお礼を受け取るとすぐに元の作業に戻っていった。
「レイノス副隊長。状況は聞いている。荷馬車はまだあるな」
「荷馬車はあちらに。積み荷が荒らされた形跡はないそうです。もしやあれが?」
挨拶もなしにレイノスはマレイから声をかけられるものの特に焦ることなくすぐさま返答する。
「そうだ。持ち出すのに苦労した先からこれだ。魔獣も鼻が利くものだよ」
「原因はあれだと?」
「確証はない。が、高価な代物だからな。
まぁとりあえず荷馬車の様子を見て応急処置で動かせそうか見てみよう」
マレイはそう言ってレイノスの返事も聞かずにその場を後にした。
うず高く積み上げられた黒い毛の横を抜けて進むと傾いた荷馬車が見えてくる。その時マレイを後ろから追い越すように男が一人馬車に向かって走っていった。
その男を視界にとらえた放置された荷馬車の馬がいななく。馬に駆け寄った男は入念に馬の様子を声を掛けながら確かめていた。
「ケラン。馬はどうだ」
追いついたマレイが男に声を掛ける。
「ええ、大丈夫です。まだ少し興奮していますが走れます」
「わかった。荷車を見てみよう」
歩みを緩めずマレイは荷車の後輪へと進み傾きの原因を身体を屈ませ取り出した魔術灯で様子を確認する。そのころにはマレイの周辺には数人の男たちが集まりマレイの所見を待っていた。
「よし、後輪の車軸が折れているだけだ。他の損傷もない。基地まで持てばいいから補助輪で対応するとしよう。あとは頼んだ」
マレイは後ろで控える数人に手早く指示を出してその場を離れると、荷車の後方に回って垂れ幕の結びを解いて中を覗く。そこにはいくつもの木箱と麻袋がった。魔獣に襲われたせいかずれ動き、倒れて中身が出てしまっているものもある。その中に一つだけロープで厳重に固定されている豪奢で大きな箱があった。
マレイは荷台に飛び乗りその箱の元へ近づく。マレイの胸元ほどの高さがある箱の中央には紋章が描かれていた。その箱を入念に確認して小さくため息を漏らすと荷台から降りる。荷車の後輪ではマレイの指示を受けた数人の男たちが流れるような手際で台をや起重機を設置せて荷車へ応急処置を行っていた。
その様子を確認してマレイは荷馬車の先頭に向かうと、変わらず馬の様子を見ているケランへ声を掛ける。
「荷車はもうすぐ動かせるようになる。すまないがそのまま荷を基地まで運んでくれ。応急処置だから速くは走れないが護衛はつける」
「わかりました。しっかり最後までやらせてもらいますよ」
「修理費は大工房が全額持つ。請求してくれ」
「助かります」
ケランの返事を聞いてマレイはその場を後にした。
レナの治療を終え、広げていた道具をしまい終えたノノがレナとカーレンと一緒に談笑している。ユウトは二匹のクロネコテンを抱えながらヨーレンと共に談笑する三人と少し離れたところに立っていた。
「聞きたいことってなんだい?」
ヨーレンは不思議そうにユウトに尋ねる。ユウトは神妙な様子で話し始めた。
「実はセブルのことで少し聞きたいことがある。今、戦った魔獣の核をオレ達はどうにか破壊することができた」
「うん、見事だよ。簡単にできることじゃない。誇れることだ」
ユウトにはヨーレンは少し高揚して見える。
「それでその後、切り離されていた頭の核にセブルが魔力を分け与えたんだけど・・・」
「魔獣に魔力を送った!?」
ユウトの話しをさえぎってヨーレンは驚いた。
「わかってる。カーレンにも反対された。けどオレのわがままでそうさせてもらった」
「はぁ。ほんとユウトの行動にはいつも驚かされる。それでどうなったんだい?」
「その結果、魔力を得た魔獣のもう一つの核はクロネコテンに姿を変えた」
そう言いながらユウトは抱きかかえている黒い塊に手を添える。すると黄色い瞳が瞬きして身体を起こして「な~ぅ」一声鳴いた。
「えっ。抱きかかえていたのはセブルだけじゃなかったのかい?つまり魔獣の核の内一つはクロネコテンだったということなのか」
ヨーレンは目を見張って驚き黄色い眼をしたクロネコテンを凝視する。そしてうつむいて視線を落とし考え込んだ。
「そう、今抱いているのはセブルとさっきまで魔獣だった二匹のクロネコテンなんだ」
「と、言うことはあの野営地でユウトが倒した魔獣がセブルだったということか」
「その通り。セブルにはオレの魔力で助かっている。
そして本題はここからなんだけど、このクロネコテン、会話ができない。ヨーレンは指輪を外した魔女の館の帰り道で普通にセブル達と会話をしていただろう。セブルとこのクロネコテンとの違いについて何か知っているじゃないかと思ったんだけど、どうだろう?」
ユウトはこの二匹のクロネコテンの違いを実感した瞬間、何か胸がざわついたことを思い出す。魔獣を見るセブルの雰囲気が何か引っかかっていた。
間もなく荷馬車は停車する。すぐさま降車したマレイは馬車の前方へと大股で荒々しく歩き進んだ。
「レイノス副隊長はどこにいる?」
マレイはせわしなく行き来する兵士の一人を強引に捕まえて尋ねる。
「こ、工房長。レイノス副隊長はあちらに」
兵士は少し焦りながらも直ちに問いに答え歩みを止めないマレイの簡素なお礼を受け取るとすぐに元の作業に戻っていった。
「レイノス副隊長。状況は聞いている。荷馬車はまだあるな」
「荷馬車はあちらに。積み荷が荒らされた形跡はないそうです。もしやあれが?」
挨拶もなしにレイノスはマレイから声をかけられるものの特に焦ることなくすぐさま返答する。
「そうだ。持ち出すのに苦労した先からこれだ。魔獣も鼻が利くものだよ」
「原因はあれだと?」
「確証はない。が、高価な代物だからな。
まぁとりあえず荷馬車の様子を見て応急処置で動かせそうか見てみよう」
マレイはそう言ってレイノスの返事も聞かずにその場を後にした。
うず高く積み上げられた黒い毛の横を抜けて進むと傾いた荷馬車が見えてくる。その時マレイを後ろから追い越すように男が一人馬車に向かって走っていった。
その男を視界にとらえた放置された荷馬車の馬がいななく。馬に駆け寄った男は入念に馬の様子を声を掛けながら確かめていた。
「ケラン。馬はどうだ」
追いついたマレイが男に声を掛ける。
「ええ、大丈夫です。まだ少し興奮していますが走れます」
「わかった。荷車を見てみよう」
歩みを緩めずマレイは荷車の後輪へと進み傾きの原因を身体を屈ませ取り出した魔術灯で様子を確認する。そのころにはマレイの周辺には数人の男たちが集まりマレイの所見を待っていた。
「よし、後輪の車軸が折れているだけだ。他の損傷もない。基地まで持てばいいから補助輪で対応するとしよう。あとは頼んだ」
マレイは後ろで控える数人に手早く指示を出してその場を離れると、荷車の後方に回って垂れ幕の結びを解いて中を覗く。そこにはいくつもの木箱と麻袋がった。魔獣に襲われたせいかずれ動き、倒れて中身が出てしまっているものもある。その中に一つだけロープで厳重に固定されている豪奢で大きな箱があった。
マレイは荷台に飛び乗りその箱の元へ近づく。マレイの胸元ほどの高さがある箱の中央には紋章が描かれていた。その箱を入念に確認して小さくため息を漏らすと荷台から降りる。荷車の後輪ではマレイの指示を受けた数人の男たちが流れるような手際で台をや起重機を設置せて荷車へ応急処置を行っていた。
その様子を確認してマレイは荷馬車の先頭に向かうと、変わらず馬の様子を見ているケランへ声を掛ける。
「荷車はもうすぐ動かせるようになる。すまないがそのまま荷を基地まで運んでくれ。応急処置だから速くは走れないが護衛はつける」
「わかりました。しっかり最後までやらせてもらいますよ」
「修理費は大工房が全額持つ。請求してくれ」
「助かります」
ケランの返事を聞いてマレイはその場を後にした。
レナの治療を終え、広げていた道具をしまい終えたノノがレナとカーレンと一緒に談笑している。ユウトは二匹のクロネコテンを抱えながらヨーレンと共に談笑する三人と少し離れたところに立っていた。
「聞きたいことってなんだい?」
ヨーレンは不思議そうにユウトに尋ねる。ユウトは神妙な様子で話し始めた。
「実はセブルのことで少し聞きたいことがある。今、戦った魔獣の核をオレ達はどうにか破壊することができた」
「うん、見事だよ。簡単にできることじゃない。誇れることだ」
ユウトにはヨーレンは少し高揚して見える。
「それでその後、切り離されていた頭の核にセブルが魔力を分け与えたんだけど・・・」
「魔獣に魔力を送った!?」
ユウトの話しをさえぎってヨーレンは驚いた。
「わかってる。カーレンにも反対された。けどオレのわがままでそうさせてもらった」
「はぁ。ほんとユウトの行動にはいつも驚かされる。それでどうなったんだい?」
「その結果、魔力を得た魔獣のもう一つの核はクロネコテンに姿を変えた」
そう言いながらユウトは抱きかかえている黒い塊に手を添える。すると黄色い瞳が瞬きして身体を起こして「な~ぅ」一声鳴いた。
「えっ。抱きかかえていたのはセブルだけじゃなかったのかい?つまり魔獣の核の内一つはクロネコテンだったということなのか」
ヨーレンは目を見張って驚き黄色い眼をしたクロネコテンを凝視する。そしてうつむいて視線を落とし考え込んだ。
「そう、今抱いているのはセブルとさっきまで魔獣だった二匹のクロネコテンなんだ」
「と、言うことはあの野営地でユウトが倒した魔獣がセブルだったということか」
「その通り。セブルにはオレの魔力で助かっている。
そして本題はここからなんだけど、このクロネコテン、会話ができない。ヨーレンは指輪を外した魔女の館の帰り道で普通にセブル達と会話をしていただろう。セブルとこのクロネコテンとの違いについて何か知っているじゃないかと思ったんだけど、どうだろう?」
ユウトはこの二匹のクロネコテンの違いを実感した瞬間、何か胸がざわついたことを思い出す。魔獣を見るセブルの雰囲気が何か引っかかっていた。
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