115 / 213
説明
しおりを挟む
ユウト達は大工房の街並みの中を歩く。人通りも多くなってきた通りでは異質な存在であるヴァルが人々の目を引いていた。最初ユウトは得体の知れないヴァルの容姿と宙に浮いて移動する様子に恐怖感を与えてしまうのではないかと心配していたが、花冠で飾った巨大な金属の浮いた卵を面白がってくれているように感じる。そうしているうちに大通りの分かれ道に差し掛かり一行は足を止めた。
ユウトはヨーレンに向かって話しかける。
「それじゃあヨーレン。レイノス副隊長への連絡を頼むよ。ガラルドのこともあるからなかなか文面は難しいと思うけれど・・・」
「ああ、わかっている。任せてくれ」
不安げなユウトと反対にヨーレンは頼もしく答えた。
「ユウトはモリードの工房に行くんだったね」
「大魔獣に対して最も有効打になりえそうなあの大剣を何とか数十日で実戦に使えるところまで仕上げてもらえるよう頼んでくるよ。モリードなら何とか間に合わせてくれると思う。ただ問題は資金だな。どうもあの魔術大剣は値段の高い素材を多用するらしい」
本来であれば試作型がいくつも存在するはずが、一つ目をひたすら改良し続けているせいでお披露目で使用した一本しか存在しない現状にユウトは一抹の不安を抱く。
「お披露目で無事に効果を実証できたなら支援者がついた可能性は高いよ。もしダメでも私の方からいくらかは工面しよう」
「ありがとうヨーレン。今はなりふり構ったられないから助かる。それじゃ、まずはモリード達に話をしてくるよ」
そう言ってユウトはヨーレンと別れ、モリードの工房を目指して進みだした。
ほどなくしてモリードの工房が見えてくる。日はすでに高く上りさすがのモリードもすでに起きているだろうとユウトは考えながら戸を叩いた。扉の向こうから歩み寄る気配がわかる。ユウトが思っていたよりもすぐに扉は開けられ、モリードが顔を覗かせた。
「ああよかった。待ってたんだよユウト。お客さんだ。商人の方が昨日のお披露目を見て話を聞きにきてくれて、ユウトを待ってたんだよ」
モリードの表情は様々な感情が複雑に入り混じっている。それは喜びだったり焦り、不安、緊張のようにユウトには受け取れた。
「・・・うん、わかった。一緒に話を聞くよ。
あとこっちにも連れがいるんだ。モリード、ちょっと後ろに引いてくれないか」
ユウトは落ち着いた声でモリードを下がらせ、扉を大きく開ける。そしてヴァルに目線をやり先に工房内に通した。花冠の金属塊が難なく段差を乗り越えて突然、扉をくぐってきたことにモリードは声を上げずに驚きで身体が硬直する。そんなモリードを気にすることなくヴァルは進み、ユウトも続いて扉をくぐった。
ユウトは工房に入って周りを見回す。そこにいた人物たちはヴァルに対しての反応を隠し切れないでいるように見えた。身体を硬直させたモリード、組んでいた腕を解いて興味深そうに眺めるデイタスに加えて二人、普段この工房で見かけることのない人物がいる。優雅に椅子に腰かけつつも見定めるような厳しい視線でヴァルを見つめる女性と、その女性の盾になるように構えを取った大柄な男性だった。
その二人にユウトは見覚えがある。大石橋での魔鳥との戦いの後、砦で食堂で挨拶してきた商人ラーラであったことを想い出した。もう一人の男の方も同じ人物か自信はなかったがラーラの護衛と背格好からほぼ間違いないと判断する。
「驚かせてしまってすまない。知り合いから一時的に預かっているんだ。名前はヴァル」
「ドウゾ、ヨロシク」
突如ヴァルが言葉を発したことでさらに周りを驚かせた。
「それで、確か・・・ポートネス商会のラーラさんでよかったかな。今日はどんな用でモリード工房に?」
ユウトに声を掛けられるとラーラはすぐさま平静さを取り戻したように微笑を浮かべ立ち上がる。構えていた男はすっとラーラの後ろに下がった。
「お久しぶりですね、ユウト様。覚えていただいて光栄です。本日は昨日お披露目いただいた新型の魔術式大剣について取引いただけないかと参りました」
「そうか。わかった。オレからもちょうど話したいことがあるんだ。まずは座らないか?」
ユウトは手の平を差し出してにこやかに提案する。それは立ち尽くしたモリードとデイタスにも同じように声を掛け手早く用意した椅子に座った。ラーラの護衛だけはラーラの傍に立ちユウト達に目を光らせている。まず、口を開いたのはユウトだった。
「さて、と。まずはオレから話をさせてもらいたいけどいいかな。えっとラーラと呼んでいいかな、オレのこともユウトと呼んでくれ」
「承知しました。ユウト、どうぞ話を進めてください」
ラーラはにこやかに了承する。ユウトの表情はラーラとは逆に真剣さを増し、場の空気に緊張感が漂った。
「今からする話は内密にして欲しい。このゴブリンの身体、これから起こる事態。これらを隠さず皆に伝える」
それからユウトはハイゴブリンとの取引の内容、迫る大魔獣、その大魔獣を利用した作戦を順を追って説明する。ガラルドとの決闘の理由も含まれ、その一つ一つの内容をこの場に揃う者たちはじっと黙って聞き続けた。
ユウトはヨーレンに向かって話しかける。
「それじゃあヨーレン。レイノス副隊長への連絡を頼むよ。ガラルドのこともあるからなかなか文面は難しいと思うけれど・・・」
「ああ、わかっている。任せてくれ」
不安げなユウトと反対にヨーレンは頼もしく答えた。
「ユウトはモリードの工房に行くんだったね」
「大魔獣に対して最も有効打になりえそうなあの大剣を何とか数十日で実戦に使えるところまで仕上げてもらえるよう頼んでくるよ。モリードなら何とか間に合わせてくれると思う。ただ問題は資金だな。どうもあの魔術大剣は値段の高い素材を多用するらしい」
本来であれば試作型がいくつも存在するはずが、一つ目をひたすら改良し続けているせいでお披露目で使用した一本しか存在しない現状にユウトは一抹の不安を抱く。
「お披露目で無事に効果を実証できたなら支援者がついた可能性は高いよ。もしダメでも私の方からいくらかは工面しよう」
「ありがとうヨーレン。今はなりふり構ったられないから助かる。それじゃ、まずはモリード達に話をしてくるよ」
そう言ってユウトはヨーレンと別れ、モリードの工房を目指して進みだした。
ほどなくしてモリードの工房が見えてくる。日はすでに高く上りさすがのモリードもすでに起きているだろうとユウトは考えながら戸を叩いた。扉の向こうから歩み寄る気配がわかる。ユウトが思っていたよりもすぐに扉は開けられ、モリードが顔を覗かせた。
「ああよかった。待ってたんだよユウト。お客さんだ。商人の方が昨日のお披露目を見て話を聞きにきてくれて、ユウトを待ってたんだよ」
モリードの表情は様々な感情が複雑に入り混じっている。それは喜びだったり焦り、不安、緊張のようにユウトには受け取れた。
「・・・うん、わかった。一緒に話を聞くよ。
あとこっちにも連れがいるんだ。モリード、ちょっと後ろに引いてくれないか」
ユウトは落ち着いた声でモリードを下がらせ、扉を大きく開ける。そしてヴァルに目線をやり先に工房内に通した。花冠の金属塊が難なく段差を乗り越えて突然、扉をくぐってきたことにモリードは声を上げずに驚きで身体が硬直する。そんなモリードを気にすることなくヴァルは進み、ユウトも続いて扉をくぐった。
ユウトは工房に入って周りを見回す。そこにいた人物たちはヴァルに対しての反応を隠し切れないでいるように見えた。身体を硬直させたモリード、組んでいた腕を解いて興味深そうに眺めるデイタスに加えて二人、普段この工房で見かけることのない人物がいる。優雅に椅子に腰かけつつも見定めるような厳しい視線でヴァルを見つめる女性と、その女性の盾になるように構えを取った大柄な男性だった。
その二人にユウトは見覚えがある。大石橋での魔鳥との戦いの後、砦で食堂で挨拶してきた商人ラーラであったことを想い出した。もう一人の男の方も同じ人物か自信はなかったがラーラの護衛と背格好からほぼ間違いないと判断する。
「驚かせてしまってすまない。知り合いから一時的に預かっているんだ。名前はヴァル」
「ドウゾ、ヨロシク」
突如ヴァルが言葉を発したことでさらに周りを驚かせた。
「それで、確か・・・ポートネス商会のラーラさんでよかったかな。今日はどんな用でモリード工房に?」
ユウトに声を掛けられるとラーラはすぐさま平静さを取り戻したように微笑を浮かべ立ち上がる。構えていた男はすっとラーラの後ろに下がった。
「お久しぶりですね、ユウト様。覚えていただいて光栄です。本日は昨日お披露目いただいた新型の魔術式大剣について取引いただけないかと参りました」
「そうか。わかった。オレからもちょうど話したいことがあるんだ。まずは座らないか?」
ユウトは手の平を差し出してにこやかに提案する。それは立ち尽くしたモリードとデイタスにも同じように声を掛け手早く用意した椅子に座った。ラーラの護衛だけはラーラの傍に立ちユウト達に目を光らせている。まず、口を開いたのはユウトだった。
「さて、と。まずはオレから話をさせてもらいたいけどいいかな。えっとラーラと呼んでいいかな、オレのこともユウトと呼んでくれ」
「承知しました。ユウト、どうぞ話を進めてください」
ラーラはにこやかに了承する。ユウトの表情はラーラとは逆に真剣さを増し、場の空気に緊張感が漂った。
「今からする話は内密にして欲しい。このゴブリンの身体、これから起こる事態。これらを隠さず皆に伝える」
それからユウトはハイゴブリンとの取引の内容、迫る大魔獣、その大魔獣を利用した作戦を順を追って説明する。ガラルドとの決闘の理由も含まれ、その一つ一つの内容をこの場に揃う者たちはじっと黙って聞き続けた。
0
お気に入りに追加
33
あなたにおすすめの小説
あれ?なんでこうなった?
志位斗 茂家波
ファンタジー
ある日、正妃教育をしていたルミアナは、婚約者であった王子の堂々とした浮気の現場を見て、ここが前世でやった乙女ゲームの中であり、そして自分は悪役令嬢という立場にあることを思い出した。
…‥って、最終的に国外追放になるのはまぁいいとして、あの超屑王子が国王になったら、この国終わるよね?ならば、絶対に国外追放されないと!!
そう意気込み、彼女は国外追放後も生きていけるように色々とやって、ついに婚約破棄を迎える・・・・はずだった。
‥‥‥あれ?なんでこうなった?
愛していました。待っていました。でもさようなら。
彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。
やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。
魔道具作ってたら断罪回避できてたわw
かぜかおる
ファンタジー
転生して魔法があったからそっちを楽しんで生きてます!
って、あれまあ私悪役令嬢だったんですか(笑)
フワッと設定、ざまあなし、落ちなし、軽〜く読んでくださいな。
【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました
ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。
[完結]思い出せませんので
シマ
恋愛
「早急にサインして返却する事」
父親から届いた手紙には婚約解消の書類と共に、その一言だけが書かれていた。
同じ学園で学び一年後には卒業早々、入籍し式を挙げるはずだったのに。急になぜ?訳が分からない。
直接会って訳を聞かねば
注)女性が怪我してます。苦手な方は回避でお願いします。
男性視点
四話完結済み。毎日、一話更新
ドアマットヒロインはごめん被るので、元凶を蹴落とすことにした
月白ヤトヒコ
ファンタジー
お母様が亡くなった。
それから程なくして――――
お父様が屋敷に見知らぬ母子を連れて来た。
「はじめまして! あなたが、あたしのおねえちゃんになるの?」
にっこりとわたくしを見やるその瞳と髪は、お父様とそっくりな色をしている。
「わ~、おねえちゃんキレイなブローチしてるのね! いいなぁ」
そう、新しい妹? が、言った瞬間・・・
頭の中を、凄まじい情報が巡った。
これ、なんでも奪って行く異母妹と家族に虐げられるドアマット主人公の話じゃね?
ドアマットヒロイン……物語の主人公としての、奪われる人生の、最初の一手。
だから、わたしは・・・よし、とりあえず馬鹿なことを言い出したこのアホをぶん殴っておこう。
ドアマットヒロインはごめん被るので、これからビシバシ躾けてやるか。
ついでに、「政略に使うための駒として娘を必要とし、そのついでに母親を、娘の世話係としてただで扱き使える女として連れて来たものかと」
そう言って、ヒロインのクズ親父と異母妹の母親との間に亀裂を入れることにする。
フハハハハハハハ! これで、異母妹の母親とこの男が仲良くわたしを虐げることはないだろう。ドアマットフラグを一つ折ってやったわっ!
うん? ドアマットヒロインを拾って溺愛するヒーローはどうなったかって?
そんなの知らん。
設定はふわっと。
王家も我が家を馬鹿にしてますわよね
章槻雅希
ファンタジー
よくある婚約者が護衛対象の王女を優先して婚約破棄になるパターンのお話。あの手の話を読んで、『なんで王家は王女の醜聞になりかねない噂を放置してるんだろう』『てか、これ、王家が婚約者の家蔑ろにしてるよね?』と思った結果できた話。ひそかなサブタイは『うちも王家を馬鹿にしてますけど』かもしれません。
『小説家になろう』『アルファポリス』(敬称略)に重複投稿、自サイトにも掲載しています。
【完結】そして、誰もいなくなった
杜野秋人
ファンタジー
「そなたは私の妻として、侯爵夫人として相応しくない!よって婚約を破棄する!」
愛する令嬢を傍らに声高にそう叫ぶ婚約者イグナシオに伯爵家令嬢セリアは誤解だと訴えるが、イグナシオは聞く耳を持たない。それどころか明らかに犯してもいない罪を挙げられ糾弾され、彼女は思わず彼に手を伸ばして取り縋ろうとした。
「触るな!」
だがその手をイグナシオは大きく振り払った。振り払われよろめいたセリアは、受け身も取れないまま仰向けに倒れ、頭を打って昏倒した。
「突き飛ばしたぞ」
「彼が手を上げた」
「誰か衛兵を呼べ!」
騒然となるパーティー会場。すぐさま会場警護の騎士たちに取り囲まれ、彼は「違うんだ、話を聞いてくれ!」と叫びながら愛人の令嬢とともに連行されていった。
そして倒れたセリアもすぐさま人が集められ運び出されていった。
そして誰もいなくなった。
彼女と彼と愛人と、果たして誰が悪かったのか。
これはとある悲しい、婚約破棄の物語である。
◆小説家になろう様でも公開しています。話数の関係上あちらの方が進みが早いです。
3/27、なろう版完結。あちらは全8話です。
3/30、小説家になろうヒューマンドラマランキング日間1位になりました!
4/1、完結しました。全14話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる