ゴブリンロード

水鳥天

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 ユウト達は大工房の街並みの中を歩く。人通りも多くなってきた通りでは異質な存在であるヴァルが人々の目を引いていた。最初ユウトは得体の知れないヴァルの容姿と宙に浮いて移動する様子に恐怖感を与えてしまうのではないかと心配していたが、花冠で飾った巨大な金属の浮いた卵を面白がってくれているように感じる。そうしているうちに大通りの分かれ道に差し掛かり一行は足を止めた。

 ユウトはヨーレンに向かって話しかける。

「それじゃあヨーレン。レイノス副隊長への連絡を頼むよ。ガラルドのこともあるからなかなか文面は難しいと思うけれど・・・」
「ああ、わかっている。任せてくれ」

 不安げなユウトと反対にヨーレンは頼もしく答えた。

「ユウトはモリードの工房に行くんだったね」
「大魔獣に対して最も有効打になりえそうなあの大剣を何とか数十日で実戦に使えるところまで仕上げてもらえるよう頼んでくるよ。モリードなら何とか間に合わせてくれると思う。ただ問題は資金だな。どうもあの魔術大剣は値段の高い素材を多用するらしい」

 本来であれば試作型がいくつも存在するはずが、一つ目をひたすら改良し続けているせいでお披露目で使用した一本しか存在しない現状にユウトは一抹の不安を抱く。

「お披露目で無事に効果を実証できたなら支援者がついた可能性は高いよ。もしダメでも私の方からいくらかは工面しよう」
「ありがとうヨーレン。今はなりふり構ったられないから助かる。それじゃ、まずはモリード達に話をしてくるよ」

 そう言ってユウトはヨーレンと別れ、モリードの工房を目指して進みだした。

 ほどなくしてモリードの工房が見えてくる。日はすでに高く上りさすがのモリードもすでに起きているだろうとユウトは考えながら戸を叩いた。扉の向こうから歩み寄る気配がわかる。ユウトが思っていたよりもすぐに扉は開けられ、モリードが顔を覗かせた。

「ああよかった。待ってたんだよユウト。お客さんだ。商人の方が昨日のお披露目を見て話を聞きにきてくれて、ユウトを待ってたんだよ」

 モリードの表情は様々な感情が複雑に入り混じっている。それは喜びだったり焦り、不安、緊張のようにユウトには受け取れた。

「・・・うん、わかった。一緒に話を聞くよ。
 あとこっちにも連れがいるんだ。モリード、ちょっと後ろに引いてくれないか」

 ユウトは落ち着いた声でモリードを下がらせ、扉を大きく開ける。そしてヴァルに目線をやり先に工房内に通した。花冠の金属塊が難なく段差を乗り越えて突然、扉をくぐってきたことにモリードは声を上げずに驚きで身体が硬直する。そんなモリードを気にすることなくヴァルは進み、ユウトも続いて扉をくぐった。

 ユウトは工房に入って周りを見回す。そこにいた人物たちはヴァルに対しての反応を隠し切れないでいるように見えた。身体を硬直させたモリード、組んでいた腕を解いて興味深そうに眺めるデイタスに加えて二人、普段この工房で見かけることのない人物がいる。優雅に椅子に腰かけつつも見定めるような厳しい視線でヴァルを見つめる女性と、その女性の盾になるように構えを取った大柄な男性だった。

 その二人にユウトは見覚えがある。大石橋での魔鳥との戦いの後、砦で食堂で挨拶してきた商人ラーラであったことを想い出した。もう一人の男の方も同じ人物か自信はなかったがラーラの護衛と背格好からほぼ間違いないと判断する。

「驚かせてしまってすまない。知り合いから一時的に預かっているんだ。名前はヴァル」
「ドウゾ、ヨロシク」

 突如ヴァルが言葉を発したことでさらに周りを驚かせた。

「それで、確か・・・ポートネス商会のラーラさんでよかったかな。今日はどんな用でモリード工房に?」

 ユウトに声を掛けられるとラーラはすぐさま平静さを取り戻したように微笑を浮かべ立ち上がる。構えていた男はすっとラーラの後ろに下がった。

「お久しぶりですね、ユウト様。覚えていただいて光栄です。本日は昨日お披露目いただいた新型の魔術式大剣について取引いただけないかと参りました」
「そうか。わかった。オレからもちょうど話したいことがあるんだ。まずは座らないか?」

 ユウトは手の平を差し出してにこやかに提案する。それは立ち尽くしたモリードとデイタスにも同じように声を掛け手早く用意した椅子に座った。ラーラの護衛だけはラーラの傍に立ちユウト達に目を光らせている。まず、口を開いたのはユウトだった。

「さて、と。まずはオレから話をさせてもらいたいけどいいかな。えっとラーラと呼んでいいかな、オレのこともユウトと呼んでくれ」
「承知しました。ユウト、どうぞ話を進めてください」

 ラーラはにこやかに了承する。ユウトの表情はラーラとは逆に真剣さを増し、場の空気に緊張感が漂った。

「今からする話は内密にして欲しい。このゴブリンの身体、これから起こる事態。これらを隠さず皆に伝える」

 それからユウトはハイゴブリンとの取引の内容、迫る大魔獣、その大魔獣を利用した作戦を順を追って説明する。ガラルドとの決闘の理由も含まれ、その一つ一つの内容をこの場に揃う者たちはじっと黙って聞き続けた。
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