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雨は止みあたりは光が差し始めた広場を黒い影が駆ける。人々はすでに散り始め、セブルはその間を縫うように左右に振りながら高速で駆け抜けていた。
ノノはセブルにしがみつくように身をかがめ、瞳をぎゅっと閉じている。セブルが通り過ぎた後には跳ね上がる水しぶきだけが残った。
散っていく人の中に足早に移動する集団をセブルは視界の隅でとらえる。横たわる人物を一人運んでいることが分かった。ラトムがついていない時点でそれがユウトでないとセブルにはすぐわかる。セブルはさらに速度を上げノノは小さく悲鳴を上げた。
ユウトの元にヨーレンがたどり着く。肩で息をしながら荒い呼吸のままヨーレンはユウトに質問を投げかける。
「身体の痛み、不調はどうだい?」
「痛みはまだ小さい。徐々にだけど腕を含めて全身の痛みが増してきている気がするかな」
ユウトは落ち着いて答える。
「魔膜での止血はできているね。今魔力はどれほどある?」
「まだ丸薬で一時的に増えている分がまだある。それが切れるとどれほど残っているかはわからない」
「そうか。今、ノノと道具を持ってきてもらっている。それが間に合えばすぐにこの腕をつなぎ直す治癒魔術を行うつもりだ。ぶっつけ本番だがかまわないかい?」
ヨーレンは息を整えながら自身も膝をつきユウトと正面に目を合わせながら尋ねる。
「ああ、頼むよ。正直もうあきらめはついていたんだけど手段があるならなんだってやっておきたい」
ユウトは肩の力を抜いてほっとするような笑顔で答えた。
「心配するな。失敗しても私が見事な義手を作ってやるさ」
ガラルドを見送ってその場にとどまっていたマレイが語り掛けてくる。ヨーレンは無言でマレイをにらみつけた。マレイはふふっと小さく笑うと背後へ振り返る。高く跳んでいたラトムが合図をするように鳴き声をあげた。
マレイの向いた方向にユウトも意識を向ける。遠巻きにユウト達を見ていた人々を大きく飛び越えて黒々としたものが迫ってきていた。ユウトにはそれがセブルとすぐにわかる。セブルはユウトを見つけると全身で踏ん張りながらその速度を徐々に落とす。そして流れるようい歩き、背中に乗せていたノノをユウトの手前まで丁寧に届けた。
セブルはノノを地に下ろして体をすり抜けさせる。それと同時にセブルの身体はもとのネコテンの姿へ戻った。
ヨーレンは身体を硬直させたノノに駆け寄り空いている手でノノの肩を掴んで声を掛ける。
「ノノ、ノノ!しっかり!」
「は、はい!」
ビクッとノノは体を震わせ固く硬直していた身体と瞳の力を抜いて慌てて答えた。
「今から魔鋼帯を使用してユウトの前腕を再接着させる。準備を急いでくれ」
「はいっ!」
はっきりとした返事と真剣な表情にすぐさま変わったノノの手際は素早い。持ってきていた鞄からてきぱきと道具を取り出し始めた。ヨーレンは道具の内、同じ大きさの箱をノノに指示して座っているユウトのそばに設置する。そしてユウトにその箱の上に切れた腕を置くように促した。
もう一つの箱にヨーレンが手に持っている切れた腕を置く。切り口は宙に浮いて切断面に間を持たせて向かい合わせた。切断された腕には薄っすらと白く霜が降りたように見え、それを持っていたヨーレンの手は赤くなっている。ヨーレンはその手を自身の手で握り小さく輝かせて準備運動をするように手を動かした。おそらくユウトの腕を冷やすために無理をした手を簡単に簡単な治癒魔術を使用したのだろうとその様子を見ていたユウトは予想する。
設置された腕を挟むようにヨーレンとノノが向かい合う。ユウト、マレイ、セブル、ラトムは二人をじっと見つめていた。
「準備はできた始めるよ。ユウト、私が指示を出すからその時は傷口を覆った魔膜を解除してくれ」
「わかった」
「ではノノ。魔鋼帯を出して」
「はい」
促されたノノは角を金属で補強された頑丈そうな平たい箱を開きそこから黄金に輝いてたわむ膜が張ったような四角い額縁のような枠を両手で慎重に取り出す。そしてそれをヨーレンへと渡した。
両手で金属製の枠を掴むようにして受け取ったヨーレンはそれを立てるとユウトの傷口に平行になるように配置する。
「ユウト。魔膜を解いてくれ」
ユウトはヨーレンの指示に従って魔膜を解いた。
流れ出る血の勢いは増したがヨーレンが枠を横へ滑らせ膜を傷口に密着させると血は止まる。ヨーレンはノノに指示して枠の片方を持たせた。
ヨーレンは空いた左手でもう一度切断されたユウトの腕を箱ごと動かしてギリギリまで近づけ最後は手をつかみ、慎重に横方向に動かすと膜を挟みこむようにして傷口同士を接着させる。
「ユウト、今からいろいろなところをつなぎ直す。激痛を伴う可能性が高い。けど我慢して動かさないようにしてくれ。工房長、
ユウトの腕が動かないように身体を固定させてください」
「いいだろう。引き受ける」
マレイはユウトの身体を右側からがっちりと固定させる。密着するマレイから意識をそらす方がユウトに取っては目の前の治療の不安より由々しき問題だったが身を任せるしかなかった。
ヨーレンはじっと集中を高める。そしてぶつぶつとつぶやき始めた。
「魔鋼の万能変化活動を開始。第一骨接続、よし。第二骨接続、よし。腱接続・・・よし。神経接続・・・よし」
その瞬間ユウトは腕に激痛を含んだ様々な感覚が神経をつたってくるのを感じて思わずからだが跳ねそうになる。しかし、それを予測するかのようにマレイは絶妙な間でユウトの身体をきつく締めあげユウトの腕はピクリとも動くことはなかった。
さらにヨーレンは額に汗を浮かび上がらせながら続ける。
「血管接続・・・よし。筋繊維接続・・・よし。あとは仕上げ・・・よし」
ヨーレンは最後の言葉をため息をつくように吐き出すと全身の緊張を解いたように見える。山場は越えたのだろうとユウトは予想した。膜はユウトの腕に沿って千切れ始め、舞うように落ち始めている。ヨーレンは枠を解体してユウトの腕から取り外した。
「ユウト。指先を少しだけ動かしてみてくれ」
ヨーレンにそう言われ、ユウトは身長に指先を動かしてみる。すると五指全てが問題なく動いた。
「よし。魔膜はどうだい」
今度は手を覆うように魔膜を張ってみる。これも問題なく展開することができた。
「問題なさそうだ。しばらくは腕を動かすのは控えてもらわないといけないけど今のところ成功したと言えるよ
ノノ。ユウトの腕を添え木と包帯で固定してくれ」
そう言うとヨーレンは身体をのけぞらせて身体が濡れることもいとわず石畳にあおむけで横たわる。その表情は安堵と達成感が入り乱れたような清々しさがユウトには見て取れた。
ヨーレンの様子を見てマレイはユウトの身体から離れ、セブルとラトムが駆け寄ってくる。
「ありがとうヨーレン。これで十分戦えそうだよ」
そう礼を言ってユウトは空を見上げる。雨が止んだ空からは光の帯が差し込み、温かい日差しがユウト達を照らし出した。
ノノはセブルにしがみつくように身をかがめ、瞳をぎゅっと閉じている。セブルが通り過ぎた後には跳ね上がる水しぶきだけが残った。
散っていく人の中に足早に移動する集団をセブルは視界の隅でとらえる。横たわる人物を一人運んでいることが分かった。ラトムがついていない時点でそれがユウトでないとセブルにはすぐわかる。セブルはさらに速度を上げノノは小さく悲鳴を上げた。
ユウトの元にヨーレンがたどり着く。肩で息をしながら荒い呼吸のままヨーレンはユウトに質問を投げかける。
「身体の痛み、不調はどうだい?」
「痛みはまだ小さい。徐々にだけど腕を含めて全身の痛みが増してきている気がするかな」
ユウトは落ち着いて答える。
「魔膜での止血はできているね。今魔力はどれほどある?」
「まだ丸薬で一時的に増えている分がまだある。それが切れるとどれほど残っているかはわからない」
「そうか。今、ノノと道具を持ってきてもらっている。それが間に合えばすぐにこの腕をつなぎ直す治癒魔術を行うつもりだ。ぶっつけ本番だがかまわないかい?」
ヨーレンは息を整えながら自身も膝をつきユウトと正面に目を合わせながら尋ねる。
「ああ、頼むよ。正直もうあきらめはついていたんだけど手段があるならなんだってやっておきたい」
ユウトは肩の力を抜いてほっとするような笑顔で答えた。
「心配するな。失敗しても私が見事な義手を作ってやるさ」
ガラルドを見送ってその場にとどまっていたマレイが語り掛けてくる。ヨーレンは無言でマレイをにらみつけた。マレイはふふっと小さく笑うと背後へ振り返る。高く跳んでいたラトムが合図をするように鳴き声をあげた。
マレイの向いた方向にユウトも意識を向ける。遠巻きにユウト達を見ていた人々を大きく飛び越えて黒々としたものが迫ってきていた。ユウトにはそれがセブルとすぐにわかる。セブルはユウトを見つけると全身で踏ん張りながらその速度を徐々に落とす。そして流れるようい歩き、背中に乗せていたノノをユウトの手前まで丁寧に届けた。
セブルはノノを地に下ろして体をすり抜けさせる。それと同時にセブルの身体はもとのネコテンの姿へ戻った。
ヨーレンは身体を硬直させたノノに駆け寄り空いている手でノノの肩を掴んで声を掛ける。
「ノノ、ノノ!しっかり!」
「は、はい!」
ビクッとノノは体を震わせ固く硬直していた身体と瞳の力を抜いて慌てて答えた。
「今から魔鋼帯を使用してユウトの前腕を再接着させる。準備を急いでくれ」
「はいっ!」
はっきりとした返事と真剣な表情にすぐさま変わったノノの手際は素早い。持ってきていた鞄からてきぱきと道具を取り出し始めた。ヨーレンは道具の内、同じ大きさの箱をノノに指示して座っているユウトのそばに設置する。そしてユウトにその箱の上に切れた腕を置くように促した。
もう一つの箱にヨーレンが手に持っている切れた腕を置く。切り口は宙に浮いて切断面に間を持たせて向かい合わせた。切断された腕には薄っすらと白く霜が降りたように見え、それを持っていたヨーレンの手は赤くなっている。ヨーレンはその手を自身の手で握り小さく輝かせて準備運動をするように手を動かした。おそらくユウトの腕を冷やすために無理をした手を簡単に簡単な治癒魔術を使用したのだろうとその様子を見ていたユウトは予想する。
設置された腕を挟むようにヨーレンとノノが向かい合う。ユウト、マレイ、セブル、ラトムは二人をじっと見つめていた。
「準備はできた始めるよ。ユウト、私が指示を出すからその時は傷口を覆った魔膜を解除してくれ」
「わかった」
「ではノノ。魔鋼帯を出して」
「はい」
促されたノノは角を金属で補強された頑丈そうな平たい箱を開きそこから黄金に輝いてたわむ膜が張ったような四角い額縁のような枠を両手で慎重に取り出す。そしてそれをヨーレンへと渡した。
両手で金属製の枠を掴むようにして受け取ったヨーレンはそれを立てるとユウトの傷口に平行になるように配置する。
「ユウト。魔膜を解いてくれ」
ユウトはヨーレンの指示に従って魔膜を解いた。
流れ出る血の勢いは増したがヨーレンが枠を横へ滑らせ膜を傷口に密着させると血は止まる。ヨーレンはノノに指示して枠の片方を持たせた。
ヨーレンは空いた左手でもう一度切断されたユウトの腕を箱ごと動かしてギリギリまで近づけ最後は手をつかみ、慎重に横方向に動かすと膜を挟みこむようにして傷口同士を接着させる。
「ユウト、今からいろいろなところをつなぎ直す。激痛を伴う可能性が高い。けど我慢して動かさないようにしてくれ。工房長、
ユウトの腕が動かないように身体を固定させてください」
「いいだろう。引き受ける」
マレイはユウトの身体を右側からがっちりと固定させる。密着するマレイから意識をそらす方がユウトに取っては目の前の治療の不安より由々しき問題だったが身を任せるしかなかった。
ヨーレンはじっと集中を高める。そしてぶつぶつとつぶやき始めた。
「魔鋼の万能変化活動を開始。第一骨接続、よし。第二骨接続、よし。腱接続・・・よし。神経接続・・・よし」
その瞬間ユウトは腕に激痛を含んだ様々な感覚が神経をつたってくるのを感じて思わずからだが跳ねそうになる。しかし、それを予測するかのようにマレイは絶妙な間でユウトの身体をきつく締めあげユウトの腕はピクリとも動くことはなかった。
さらにヨーレンは額に汗を浮かび上がらせながら続ける。
「血管接続・・・よし。筋繊維接続・・・よし。あとは仕上げ・・・よし」
ヨーレンは最後の言葉をため息をつくように吐き出すと全身の緊張を解いたように見える。山場は越えたのだろうとユウトは予想した。膜はユウトの腕に沿って千切れ始め、舞うように落ち始めている。ヨーレンは枠を解体してユウトの腕から取り外した。
「ユウト。指先を少しだけ動かしてみてくれ」
ヨーレンにそう言われ、ユウトは身長に指先を動かしてみる。すると五指全てが問題なく動いた。
「よし。魔膜はどうだい」
今度は手を覆うように魔膜を張ってみる。これも問題なく展開することができた。
「問題なさそうだ。しばらくは腕を動かすのは控えてもらわないといけないけど今のところ成功したと言えるよ
ノノ。ユウトの腕を添え木と包帯で固定してくれ」
そう言うとヨーレンは身体をのけぞらせて身体が濡れることもいとわず石畳にあおむけで横たわる。その表情は安堵と達成感が入り乱れたような清々しさがユウトには見て取れた。
ヨーレンの様子を見てマレイはユウトの身体から離れ、セブルとラトムが駆け寄ってくる。
「ありがとうヨーレン。これで十分戦えそうだよ」
そう礼を言ってユウトは空を見上げる。雨が止んだ空からは光の帯が差し込み、温かい日差しがユウト達を照らし出した。
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