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家政婦
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丁度その時、奥の方から声が聞こえる。
「おーい、ノノー。帰ったぞー」
声色を聞くに女性のようでユウトはそれまで以上の緊張が背筋に走る。足音が近づき長身の女性が奥から姿を現すと集まっていたユウト達を一通り見渡した。
「おや、お客さん?ヨーレンさんはもう帰ったのか」
「やぁネイラ。ちょっと用事ができてね。早めに帰ってきたんだ。
紹介するよ。彼女はネイラ。この工房で家政婦として家事全般を担っている。住み込みで働いてもらっているんだ」
ネイラはレナよりも身長が高い。長く黒いロングスカートがすらりとした印象を際立たせ、黒い髪は後頭部にまとめ上げて白い布に包まれている。細く切れ長の目の眼光は鋭く腰に手を当てた仁王立ちのいでたちには家政婦というより武人のようにユウトからは見える。そして何より長くとがった耳にユウトは注視した。
「それでネイラ。こちらがユウト。事情があってゴブリンのような姿になってしまっているんだけど確かに人間だ。えっと彼もしばらくここに滞在することになるんだけど・・・」
ユウトは先ほどのノノとのやり取りを思い出して胸が圧迫される感覚がよみがえる。
「あんたか!市場で話題になってた変化人というのは!
どれ、ちょっとよく見せてくれないか?」
ネイラはヨーレンの言葉をさえぎりつつそう言うや否や、つかつかと軽快に靴を鳴らしてユウトに近づく。腰をぐっと曲げてユウトの眼前にネイラの顔が迫り視線が交わった。ユウトからは皴のない張りのある肌とともに薄く小さい傷跡のようなものが見える。ネイラは顔を左右に振りつつまじまじとユウトの顔を観察した。
吐息も感じられそうなぐらいの顔の近さと突然の出来事にユウトは硬直して動けない。それを察してかセブルがネイラにとびかかろうとぬるりと波打ち跳ねた。
「待てっ、セブル」
セブルが傷つけるようなことはあっていけないとユウトは咄嗟に声を出して制止する。しかしセブルはネイラへ到達しようとした瞬間、ネイラに素早くとらえられてしまった。
「おや。その毛皮は生きてたのか。驚かせてしまったかな。おお!上等な触り心地じゃないか」
ネイラは全く動じることもなくわしゃわしゃとセブルをこねくり回したのちユウトに返す。その様子を唖然と見ていたレナが声を上げた。
「ちょっとネイラ!いきなり失礼でしょうが!」
「ほう、レナ。あんたが礼儀を語るのかい。あの頃のあんたと比べたら・・・ねぇ?」
「ぐっ」
ネイラは意地悪な笑顔でレナを見下ろしレナは一言も言い返せない。
「まっ、確かにいきなりは悪かったか。了承を得るべきだったな。すまないユウト。
ともあれここにしばらく泊まるのだろう?快適な生活はわたしが保証しよう。くつろいでくれ」
そう言うとネイラは素早く振り返りスカートをたなびかせてヨーレンの方へ戻っていった。
「あ、ありがとう」
ユウトは一言お礼を言うのが精いっぱいだった。
「それで滞在中の予算はどうなってる?ヨーレンさん」
ヨーレンの斜め後ろで立ち止まって回れ右すると両手を背中に回して立ち、ネイラはヨーレンに小さく声を掛けた。
「滞在費は工房長が持ってくれるそうですよ」
「なるほどね。久々に豪勢にやるかな。ふふふ」
「ほどほどにしといてくださいよ。小言を言われるのは私なんですから」
不敵に笑うネイラにヨーレンは心配そうに釘を刺す。ヨーレンは気持ちを切り替えるように声を張って語りだした。
「えっと、これでこの工房の人員は全員だ。どのくらいの期間の滞在になるかはわからないけれどくつろいで欲しい。
それで明日のことだけどガラルド隊長とレナはチョーカーの製造と認証に立ち会ってもらってユウトは私と私の師匠に会いに出かける。大工房を出て徒歩で向かうからからそのつもりでいてくれ」
「ああ、わかった」
ユウトが返事をしたその時、ユウト達が入ってきた大扉の金具を叩く音が響くと外から声がする。
「お荷物をお届けでーす」
ネイラがすぐに動いて扉を開けるとそこには小さめの荷馬車が留まっておりその御者と思われる年配の男性が立っていた。
それをかわきりにユウト達は慌ただしくなる。届けられたのはケランの馬車に乗せていた荷物だった。ネイラはてきぱきと動き回ってその場にいる全員に指示を出し、荷ほどきした荷物の運搬、部屋の割り振り、寝具を整え、人数が増えた夕食の材料を買い出し、そして調理を全員の協力によってこなされていく。ヨーレンやガラルドにもネイラは躊躇なく指示を出し、抜かりなく活用していた。
家事においてネイラは自身も戦場で戦う指揮官のようにこの場を支配している。慌ただしい時間が過ぎユウトは気づくと全員が居間の食卓の席に着き夕食の支度を終えたところだった。ユウトのそばの敷物の上ではセブルとラトムにも食事が別に用意されている。
「えっと、それでは皆、いただこうか」
ヨーレンが一声かけて食卓を囲んだ皆が食事をとり始める。食事中は賑やかで主にレナとネイラの会話のやり取りが中心で団らんの中で取る食事にユウトは安心感を覚えた。ユウトはその感覚を得るのに以前の世界からどれほどの月日がたったのだろうかと思いをはせる。女性の多さに緊張を隠しきれないがこの世界にきて最も楽しい食卓になった。
「おーい、ノノー。帰ったぞー」
声色を聞くに女性のようでユウトはそれまで以上の緊張が背筋に走る。足音が近づき長身の女性が奥から姿を現すと集まっていたユウト達を一通り見渡した。
「おや、お客さん?ヨーレンさんはもう帰ったのか」
「やぁネイラ。ちょっと用事ができてね。早めに帰ってきたんだ。
紹介するよ。彼女はネイラ。この工房で家政婦として家事全般を担っている。住み込みで働いてもらっているんだ」
ネイラはレナよりも身長が高い。長く黒いロングスカートがすらりとした印象を際立たせ、黒い髪は後頭部にまとめ上げて白い布に包まれている。細く切れ長の目の眼光は鋭く腰に手を当てた仁王立ちのいでたちには家政婦というより武人のようにユウトからは見える。そして何より長くとがった耳にユウトは注視した。
「それでネイラ。こちらがユウト。事情があってゴブリンのような姿になってしまっているんだけど確かに人間だ。えっと彼もしばらくここに滞在することになるんだけど・・・」
ユウトは先ほどのノノとのやり取りを思い出して胸が圧迫される感覚がよみがえる。
「あんたか!市場で話題になってた変化人というのは!
どれ、ちょっとよく見せてくれないか?」
ネイラはヨーレンの言葉をさえぎりつつそう言うや否や、つかつかと軽快に靴を鳴らしてユウトに近づく。腰をぐっと曲げてユウトの眼前にネイラの顔が迫り視線が交わった。ユウトからは皴のない張りのある肌とともに薄く小さい傷跡のようなものが見える。ネイラは顔を左右に振りつつまじまじとユウトの顔を観察した。
吐息も感じられそうなぐらいの顔の近さと突然の出来事にユウトは硬直して動けない。それを察してかセブルがネイラにとびかかろうとぬるりと波打ち跳ねた。
「待てっ、セブル」
セブルが傷つけるようなことはあっていけないとユウトは咄嗟に声を出して制止する。しかしセブルはネイラへ到達しようとした瞬間、ネイラに素早くとらえられてしまった。
「おや。その毛皮は生きてたのか。驚かせてしまったかな。おお!上等な触り心地じゃないか」
ネイラは全く動じることもなくわしゃわしゃとセブルをこねくり回したのちユウトに返す。その様子を唖然と見ていたレナが声を上げた。
「ちょっとネイラ!いきなり失礼でしょうが!」
「ほう、レナ。あんたが礼儀を語るのかい。あの頃のあんたと比べたら・・・ねぇ?」
「ぐっ」
ネイラは意地悪な笑顔でレナを見下ろしレナは一言も言い返せない。
「まっ、確かにいきなりは悪かったか。了承を得るべきだったな。すまないユウト。
ともあれここにしばらく泊まるのだろう?快適な生活はわたしが保証しよう。くつろいでくれ」
そう言うとネイラは素早く振り返りスカートをたなびかせてヨーレンの方へ戻っていった。
「あ、ありがとう」
ユウトは一言お礼を言うのが精いっぱいだった。
「それで滞在中の予算はどうなってる?ヨーレンさん」
ヨーレンの斜め後ろで立ち止まって回れ右すると両手を背中に回して立ち、ネイラはヨーレンに小さく声を掛けた。
「滞在費は工房長が持ってくれるそうですよ」
「なるほどね。久々に豪勢にやるかな。ふふふ」
「ほどほどにしといてくださいよ。小言を言われるのは私なんですから」
不敵に笑うネイラにヨーレンは心配そうに釘を刺す。ヨーレンは気持ちを切り替えるように声を張って語りだした。
「えっと、これでこの工房の人員は全員だ。どのくらいの期間の滞在になるかはわからないけれどくつろいで欲しい。
それで明日のことだけどガラルド隊長とレナはチョーカーの製造と認証に立ち会ってもらってユウトは私と私の師匠に会いに出かける。大工房を出て徒歩で向かうからからそのつもりでいてくれ」
「ああ、わかった」
ユウトが返事をしたその時、ユウト達が入ってきた大扉の金具を叩く音が響くと外から声がする。
「お荷物をお届けでーす」
ネイラがすぐに動いて扉を開けるとそこには小さめの荷馬車が留まっておりその御者と思われる年配の男性が立っていた。
それをかわきりにユウト達は慌ただしくなる。届けられたのはケランの馬車に乗せていた荷物だった。ネイラはてきぱきと動き回ってその場にいる全員に指示を出し、荷ほどきした荷物の運搬、部屋の割り振り、寝具を整え、人数が増えた夕食の材料を買い出し、そして調理を全員の協力によってこなされていく。ヨーレンやガラルドにもネイラは躊躇なく指示を出し、抜かりなく活用していた。
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「えっと、それでは皆、いただこうか」
ヨーレンが一声かけて食卓を囲んだ皆が食事をとり始める。食事中は賑やかで主にレナとネイラの会話のやり取りが中心で団らんの中で取る食事にユウトは安心感を覚えた。ユウトはその感覚を得るのに以前の世界からどれほどの月日がたったのだろうかと思いをはせる。女性の多さに緊張を隠しきれないがこの世界にきて最も楽しい食卓になった。
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