生贄の娘と水神様〜厄介事も神とならば〜

沙耶味茜

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第二章

36 風神の協力

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「久しぶりだなぁ、ナギ」
「そちらも相変わらず元気そうでよかった」

 客間に招待された風神の志那都しなつはどかっと盛大に畳の上に胡座で座ると手元にあった湯呑茶碗を取り、一気に飲み干した。品のない行動はいつものことなのでナギは特に気にした様子を見せない。
 礼花れいかはというとナギの隣に正座で座っている。耳打ちで聞いたところ花雨を志那都に見られたという。なぜこの屋敷に人間がいるのか説明した上で邪神のことも触れつつ、今の問題である邪神側の人間について情報収集の協力を得られないか聞いてみることにした。

「さてと、聞きたいことがありすぎてどれから言うべきか迷うな。とりあえず、この屋敷に何故人間がいるのか教えてくれ」
「言われなくても説明するつもりだ」

 ナギは何故花雨がこの屋敷にいるのか、生贄の儀式から今まで何があったのかを話した。志那都はそれを聞き終えると感慨深けに頷いている。

「なるほどな。んで、その収めた邪神は今どうしているんだ?」
比売ひめが札に封印して肌身離さず持っている。邪神の霊力が強力すぎるためか結界を張っていても札が暴れ出す」
「あの霊力お化けが持っていれば安心だな」

 「はっはっはっ!」と面白おかしく笑っているが比売本人が聞いていたら生きては帰れないだろう。ナギが礼花をちらりと見ると大袈裟に目線を逸らしていた。
 話を切り替えるため咳払いをし、本題の協力を得ることについて志那都に話した。

「邪神がこちらの手中にあるのはひとまず安心なのだが、それを取り戻すために信仰していた人間達が動き始めている。1番怪しいのは花雨がいた村なのだがどうやら村以外の者もいるようだ」
「あの邪神を信仰している人間なんざ土地神とか言って拝んでたあの村ぐらいかと思ったけどよ、邪神にそこまで影響力があんのか?」
「それを調べるために支那都にも協力願いたい。風の噂というもので情報収集して貰えないか?」
「上手いこと言うじゃねえか。風神と水神の仲だ、協力してやるよ。その代わりといっちゃなんだが1つ聞いていいか?」
「言ってみろ」
「お前あの人間のこと好きだろ?」

 あまりの急な質問に言葉を失う。すぐに反論しなかったのを肯定とみなしたのか志那都は口角を上げてナギに詰め寄ってくる。

「お前の弱点はあの人間が傷つくことだ。弱点を突きに邪神側の人間達はあの弱っちい娘を殺しにくるかもな」
「話は済んだ。お引き取り願う」
「おっと、そんな怖い顔すんなって。礼花、当主さんの機嫌が悪くなっちゃったようなんで俺は帰るぜ。案内してくれ」
「はいはい」

 礼花が立ち上がり志那都を玄関へと案内する。2人が出ると客間はしんと静まり返り、ナギの緊張感は一気に脱力感へと変わった。
 屋敷にいる水神達には花雨との関係を内緒にしておくよう泣沢女に言ったはずなのだが口の軽い女はすぐにペラペラと周りに話す。それともナギ自身が表情に出ていてわかりやすい反応をしているのだろうか。そうだとするならより一層けじめをつけなければと思う。
 足音が客間へと近づいてくる。志那都を送り出した礼花が客間へと戻ってくると、湯呑み茶碗など片付け始めた。

「志那都にもバレちゃったじゃんか」
「俺はそんなにわかりやすいか?」
「花雨っていう名前が他人の口から出るだけで少しだけ霊力が揺らいでる」

 ナギはため息をつくと立ち上がり「部屋に戻る」と言うと、客間を出た。去り際に礼花がにやにや笑っているのを無視して縁側を歩いていると、反対側から珍しく御津羽が歩いてきた。目が合うと丁度良かったと言わんばかりに御津羽がこちらに寄ってくる。

「伝えたいことがあったから丁度良かった」
「珍しく屋敷にいると思ったら、どうした?」
「沼の周辺に怪しい影がちらほらといたもんだから邪神側の人間かなって思って追ってみたんだけど…」
「何日も見かけないと思ったらまた現世に行っていたのか」
「いや、まぁそうなんだけど…。どうやら都にいるらしいんだよね」
「都と言ったら……江戸か?」
「そう、徳川家が本拠としてるところ。人間がいっぱいいるよ」

御津羽は不敵な笑みを見せて笑うとナギの横を通り過ぎていく。

「今度はみんなで江戸の町に行かないとね」

 そう言い残すと御津羽は去っていった。ナギはこれから大変なことになると思うと眉間に皺を寄せて考え込む。
 花雨を危険に晒すのは避けて通りたい。江戸に行くとしたらナギと礼花と比売だけで行けば何があってもすぐに対処できる。屋敷には御津羽と泣沢女がいれば大丈夫だろう。そう考えていると先ほど去っていったばかりの御津羽が足早に戻ってきて言った。

「そういえば言い忘れてた。花雨ちゃんにもこのこと言っておいたから」

 何故御津羽が不敵な笑みを浮かべていたのよく分かった気がする。御津羽は「今度こそじゃあね」というと口笛を吹きながらどこへと行った。
 花雨に知られたとなると絶対行きたいというだろう。村娘であった花雨は行ったこともない江戸の話をよくしている。明らかに面倒ごとになりそうな雰囲気にため息をつくとナギは部屋へと戻る。
 
 江戸の町、水神達は人間に混じって調べることとなった。




 
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