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19 水の神
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娘は礼花と一緒に居間へと行くと、国と天が先にくつろいでいた。二人ともおはじきをしてあそんでいる。とても仲の良い微笑ましい光景だが今はそれどころではなかった。礼花は国と天の前に座ると事情を話す。
「ナギが帰ってきていないんだ、国と天は何か知ってる?」
「知らないなぁ、てっきりもう帰ってきてるのかと思ってたのに」
「沼で何かあったのですか?」
天はのんびり屋のところが大幅に出ていたが、国は察しが良く娘と礼花の様子に少しだけ眉根を寄せる。礼花はナギが帰ってきてない現状とあの生贄の沼で何かが起きているかもしれないから国と天にも協力してほしい旨を伝えた。
娘は今すぐにでも助けに行きたい衝動とナギの安否が気になってしょうがなかった。若干だが、手が震えている。水の神、水神が滅多に死にはしないだろうと思ってはいるが、あの怨念が強い生贄の沼の邪神相手だったらナギだって流石に怯むかもしれない。
国と天がおはじきを懐に仕舞い立ち上がると紐を取り出してたすき掛けをする。
その姿が普段の穏やかな二人とは違う、どこか緊張感が伝わってきた。
「この屋敷の当主様は、ナギ様でいらっしゃいますから死んでもらっては困るんですよ」
「前の当主様は人間に殺されちゃったけどね………とりあえず早くナギの様子を見に行こう。嫌な予感がしてならないんだ。天候が荒れてる」
娘は外を見ると、目を丸くする。先程の霧雨のような雨から桶をひっくり返したような雨が降っていた。黒い雲が空に渦巻いて遠くの方では光っている。
礼花は外の様子を目を細めながら見ている。
「稲が収穫できないほど雨は降らせないはずだ。何かがおかしい」
そういうと礼花は玄関の方へと足を向ける。国と天、そして娘もそれについていく。
どうか。
どうか死ぬのだけはやめて。
貴方は私を沼から助け出してくれたじゃない。
礼花は玄関の前で止まると懐から札を取り出した。そしてそれを床に貼る。
礼花は深呼吸をすると呪文を唱えた。
「現世へと繋げよ」
そう言うと札は光を放ちながら浮かび上がり鳥の形になると玄関の扉を通り抜けていった。幻想的な光景に娘がぽかんとしていると天に手を引かれる。
「絶対に手を離さないでね」
そして娘の手を引っ張って行く。
扉を抜けると最初に強い雨風が娘達を襲った。体に打ち付けられるような雨に進めないでいると天が娘のことを支えてくれる。久しぶりの人間の住む地上に降り立ち少しだけ息がしづらかった。
「沼から少し離れたところに出た。少し歩くと結界が張られてて怨念も強いから花雨ちゃんにとっては辛いかも。それでも行く?」
娘は礼花のことを強い眼差しで見つめるとしっかりした口調で言う。
「後になんて引けない!絶対行く」
礼花は苦笑すると結界の中へと足を踏み入れる。
娘も足を一歩踏み入れると体が一気に重たくなり、激しい頭痛が襲った。色々な声が聞こえてくる。きっと過去に生贄に捧げられてきた娘の怨念が今の娘を襲っている。
娘の異変に気がつき天が力強く手を握りしめてくれる。それだけで、ほんの少しだけでも身が軽くなる。
沼に近づくにつれ足がぬかるみ始めた。娘も息切れが激しくなっている。
そして沼にもうそろそろで到着しそうな時。
空が青く光り、目の前に一筋の雷が落ちた。
鼓膜が破れてしまいそうな程の音と地響きに娘は飛び上がった。けれど水神達は皆平気そうにそこに佇んでいる。まるでその雷鳴の正体を知っているかのような顔をしていた。いや、それはもう目の前を見れば一目瞭然だった。
鷹よりも立派な爪、鹿のような角に長い長い蛇のような胴体。喉の下には逆さに生えた鱗がある。
水神の龍。ナギ。
闇淤加美ナギである。
「ナギが帰ってきていないんだ、国と天は何か知ってる?」
「知らないなぁ、てっきりもう帰ってきてるのかと思ってたのに」
「沼で何かあったのですか?」
天はのんびり屋のところが大幅に出ていたが、国は察しが良く娘と礼花の様子に少しだけ眉根を寄せる。礼花はナギが帰ってきてない現状とあの生贄の沼で何かが起きているかもしれないから国と天にも協力してほしい旨を伝えた。
娘は今すぐにでも助けに行きたい衝動とナギの安否が気になってしょうがなかった。若干だが、手が震えている。水の神、水神が滅多に死にはしないだろうと思ってはいるが、あの怨念が強い生贄の沼の邪神相手だったらナギだって流石に怯むかもしれない。
国と天がおはじきを懐に仕舞い立ち上がると紐を取り出してたすき掛けをする。
その姿が普段の穏やかな二人とは違う、どこか緊張感が伝わってきた。
「この屋敷の当主様は、ナギ様でいらっしゃいますから死んでもらっては困るんですよ」
「前の当主様は人間に殺されちゃったけどね………とりあえず早くナギの様子を見に行こう。嫌な予感がしてならないんだ。天候が荒れてる」
娘は外を見ると、目を丸くする。先程の霧雨のような雨から桶をひっくり返したような雨が降っていた。黒い雲が空に渦巻いて遠くの方では光っている。
礼花は外の様子を目を細めながら見ている。
「稲が収穫できないほど雨は降らせないはずだ。何かがおかしい」
そういうと礼花は玄関の方へと足を向ける。国と天、そして娘もそれについていく。
どうか。
どうか死ぬのだけはやめて。
貴方は私を沼から助け出してくれたじゃない。
礼花は玄関の前で止まると懐から札を取り出した。そしてそれを床に貼る。
礼花は深呼吸をすると呪文を唱えた。
「現世へと繋げよ」
そう言うと札は光を放ちながら浮かび上がり鳥の形になると玄関の扉を通り抜けていった。幻想的な光景に娘がぽかんとしていると天に手を引かれる。
「絶対に手を離さないでね」
そして娘の手を引っ張って行く。
扉を抜けると最初に強い雨風が娘達を襲った。体に打ち付けられるような雨に進めないでいると天が娘のことを支えてくれる。久しぶりの人間の住む地上に降り立ち少しだけ息がしづらかった。
「沼から少し離れたところに出た。少し歩くと結界が張られてて怨念も強いから花雨ちゃんにとっては辛いかも。それでも行く?」
娘は礼花のことを強い眼差しで見つめるとしっかりした口調で言う。
「後になんて引けない!絶対行く」
礼花は苦笑すると結界の中へと足を踏み入れる。
娘も足を一歩踏み入れると体が一気に重たくなり、激しい頭痛が襲った。色々な声が聞こえてくる。きっと過去に生贄に捧げられてきた娘の怨念が今の娘を襲っている。
娘の異変に気がつき天が力強く手を握りしめてくれる。それだけで、ほんの少しだけでも身が軽くなる。
沼に近づくにつれ足がぬかるみ始めた。娘も息切れが激しくなっている。
そして沼にもうそろそろで到着しそうな時。
空が青く光り、目の前に一筋の雷が落ちた。
鼓膜が破れてしまいそうな程の音と地響きに娘は飛び上がった。けれど水神達は皆平気そうにそこに佇んでいる。まるでその雷鳴の正体を知っているかのような顔をしていた。いや、それはもう目の前を見れば一目瞭然だった。
鷹よりも立派な爪、鹿のような角に長い長い蛇のような胴体。喉の下には逆さに生えた鱗がある。
水神の龍。ナギ。
闇淤加美ナギである。
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