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18 欲望
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娘は泣沢女と少し会話をしてから屋敷へと戻った。
屋敷にはすでに国と天が帰ってきており、ナギの姿だけ見当たらない。
「国、天。おかえり」
「ただいま戻りました花雨さん」
「ただいまぁ~、疲れた……」
国と天はとても疲れた様子だった。村の様子を見に行くのは大変なのだろうか。
「どこか行かれていたのですか?」
「うん。泣沢女に会ってきたの」
国と天は少し驚いた表情をしたがすぐに何かを察した様に微笑む。
「これからもっと仲良くなりそうですね」
「あいつ人間大好きだもんね~」
そう言うと国と天は居間へと行ってしまった。
娘は屋敷内を見渡したがナギと姿だけ見当たらない。いつもこのぐらい帰りが遅くなるものなのだろうか…。
礼花に聞いてみようと思い娘は礼花の自室へと足を運んだ。そっと障子を開けると礼花は畳の上で寝転んでいた。
「寝ているの…………?」
声をかけても何も返事がなく、娘はそっと礼花へと近づいた。近くから見る礼花の顔はとても整っていて綺麗な白い肌をしている。まつ毛も長くて、おまけに少しだけウェーブのかかった淡く金色に輝く髪はとても触りたくなる。
そっと手を伸ばした時………誰かに腕を掴まれた。
誰かというとこの場に娘と礼花しかいないので、もちろん礼花である。
「女の子に寝込みを襲われるのは望んでないんだけどなぁ……」
そう言うと礼花は起き上がる。腕は離してくれない。
とりあえず娘は用件を言おうと口を開いた。
「ナギが帰ってきてないの。礼花は何か知ってる………?」
「寝起きそうそうナギの話か………」
少しがっかりした様子を見せた後、気を取り直して考え込んでいた。
「ナギが帰ってきてないのか………邪神がいるあの沼には必ず行ってると思うから、帰ってこない原因としてはあの沼で何かあったっていうのが1番可能性が高いかも……」
「沼ってあの儀式があった沼のことだよね?ナギはいつも早く帰ってくるの?大丈夫なの?」
「そう、花雨ちゃんが生贄として沈みそうになったあの沼だよ。ナギはいつも夕方ぐらいに帰ってくるんだけどね、考えてみれば今日は少し遅いかも…………」
質問攻めにしてしまったのに、礼花は丁寧にそれに答えてくれた。礼花が言う通り、やはりいつもより帰りが遅いらしい。まだこの屋敷に来たばっかりの娘は水神がいつ、何をしているのか全くわからない。けれど、もしナギの身に何かあったら心配でしょうがなかった。この気持ちが何から来ているのかも分からないまま。
「何か私に出来る事ってある?」
「花雨ちゃんは人間だから、沼に行くのは危険だよ。それに生贄の娘っていうだけで怨念に狙われやすいし、ましてや邪神にもだからね」
「でもっ………!」
「そんなに行きたいのなら僕が同行する。国と天も協力してもらう様に言うから」
腕を掴んでいる力が強まった。
決して行ってはいけないと言わないところが水神の特徴かもしれない、皆優しいのだ。とても。
自分がどれだけ甘えたことを言っているのか理解している。けれど沼から助け出してくれた命の恩人を失うわけにはいかなかった。
「…………それでいい?」
「ありがとう礼花……………」
娘は急に申し訳なくなり、顔を伏せる。けれど礼花が娘の髪に触れ、一房とる仕草をしたので目を見開き礼花をみた。
「君は……ナギのことが好きなの?」
「…………………え?」
急な質問に娘は顔を赤らめた。好きなのかはわからない、けれどそんなことを言われたら誰でも恥ずかしいはずだ。
「図星?だから助けに行きたいの?」
「いや…でも命の恩人だし…………」
「じゃあ僕が君のことを沼から助けに行ってたら今みたいに必死になって命の恩人を助けようとしてくれてたかな……」
そう言うと髪から手を離し、掴んでいた腕を口元へと寄せる。
そして手首へと口付けした。
娘は最初何をされているのか分からなかったが理解した途端顔をさらに赤らめた。口付けされたところがむず痒い。
「あはは、真っ赤。…………さてと、ナギのところに行くとしますか」
「な、な、何だったの今の?!?!」
礼花は腕を離すと立ち上がり伸びをして娘の方を振り向いた。
「ご褒美もらわないとやる気起きないからね」
そう言うと礼花は国と天のところへと行ってしまった。娘は心臓の音がうるさいのを必死に抑えながら、立ち上がり、礼花の後をついていった。
屋敷にはすでに国と天が帰ってきており、ナギの姿だけ見当たらない。
「国、天。おかえり」
「ただいま戻りました花雨さん」
「ただいまぁ~、疲れた……」
国と天はとても疲れた様子だった。村の様子を見に行くのは大変なのだろうか。
「どこか行かれていたのですか?」
「うん。泣沢女に会ってきたの」
国と天は少し驚いた表情をしたがすぐに何かを察した様に微笑む。
「これからもっと仲良くなりそうですね」
「あいつ人間大好きだもんね~」
そう言うと国と天は居間へと行ってしまった。
娘は屋敷内を見渡したがナギと姿だけ見当たらない。いつもこのぐらい帰りが遅くなるものなのだろうか…。
礼花に聞いてみようと思い娘は礼花の自室へと足を運んだ。そっと障子を開けると礼花は畳の上で寝転んでいた。
「寝ているの…………?」
声をかけても何も返事がなく、娘はそっと礼花へと近づいた。近くから見る礼花の顔はとても整っていて綺麗な白い肌をしている。まつ毛も長くて、おまけに少しだけウェーブのかかった淡く金色に輝く髪はとても触りたくなる。
そっと手を伸ばした時………誰かに腕を掴まれた。
誰かというとこの場に娘と礼花しかいないので、もちろん礼花である。
「女の子に寝込みを襲われるのは望んでないんだけどなぁ……」
そう言うと礼花は起き上がる。腕は離してくれない。
とりあえず娘は用件を言おうと口を開いた。
「ナギが帰ってきてないの。礼花は何か知ってる………?」
「寝起きそうそうナギの話か………」
少しがっかりした様子を見せた後、気を取り直して考え込んでいた。
「ナギが帰ってきてないのか………邪神がいるあの沼には必ず行ってると思うから、帰ってこない原因としてはあの沼で何かあったっていうのが1番可能性が高いかも……」
「沼ってあの儀式があった沼のことだよね?ナギはいつも早く帰ってくるの?大丈夫なの?」
「そう、花雨ちゃんが生贄として沈みそうになったあの沼だよ。ナギはいつも夕方ぐらいに帰ってくるんだけどね、考えてみれば今日は少し遅いかも…………」
質問攻めにしてしまったのに、礼花は丁寧にそれに答えてくれた。礼花が言う通り、やはりいつもより帰りが遅いらしい。まだこの屋敷に来たばっかりの娘は水神がいつ、何をしているのか全くわからない。けれど、もしナギの身に何かあったら心配でしょうがなかった。この気持ちが何から来ているのかも分からないまま。
「何か私に出来る事ってある?」
「花雨ちゃんは人間だから、沼に行くのは危険だよ。それに生贄の娘っていうだけで怨念に狙われやすいし、ましてや邪神にもだからね」
「でもっ………!」
「そんなに行きたいのなら僕が同行する。国と天も協力してもらう様に言うから」
腕を掴んでいる力が強まった。
決して行ってはいけないと言わないところが水神の特徴かもしれない、皆優しいのだ。とても。
自分がどれだけ甘えたことを言っているのか理解している。けれど沼から助け出してくれた命の恩人を失うわけにはいかなかった。
「…………それでいい?」
「ありがとう礼花……………」
娘は急に申し訳なくなり、顔を伏せる。けれど礼花が娘の髪に触れ、一房とる仕草をしたので目を見開き礼花をみた。
「君は……ナギのことが好きなの?」
「…………………え?」
急な質問に娘は顔を赤らめた。好きなのかはわからない、けれどそんなことを言われたら誰でも恥ずかしいはずだ。
「図星?だから助けに行きたいの?」
「いや…でも命の恩人だし…………」
「じゃあ僕が君のことを沼から助けに行ってたら今みたいに必死になって命の恩人を助けようとしてくれてたかな……」
そう言うと髪から手を離し、掴んでいた腕を口元へと寄せる。
そして手首へと口付けした。
娘は最初何をされているのか分からなかったが理解した途端顔をさらに赤らめた。口付けされたところがむず痒い。
「あはは、真っ赤。…………さてと、ナギのところに行くとしますか」
「な、な、何だったの今の?!?!」
礼花は腕を離すと立ち上がり伸びをして娘の方を振り向いた。
「ご褒美もらわないとやる気起きないからね」
そう言うと礼花は国と天のところへと行ってしまった。娘は心臓の音がうるさいのを必死に抑えながら、立ち上がり、礼花の後をついていった。
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