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15 悪夢
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娘は夕飯を食べた後、自室に戻り畳の上で寝っ転がっていた。
特にやることもなく天井をじっと見つめ、今日あった出来事を思い出してはため息をついていた。
今日で沢山の花を見たし、名前も貰った。
文机に置いてある青い朝顔を手に取ると娘はそれに口付ける。
朝顔の青色をみているとナギの瞳の色を思い出す。
このわくわくするような嬉しいような感情を何と言うのか娘にはまだ理解できない。
「また明日も幸せに生きられますように」
文机に朝顔を置くと娘は寝巻きに着替え生地の薄い布団を手繰り寄せて寝る。
側に両親がいないのがとても心細かった。寒い夜は家族でくっついて寝ていた。今はその温もりすら感じられない。
瞼をゆっくりと閉じると娘は眠りへとついた。
そして娘は悪夢を見る。
「返せ…………返せ……」
何者かの声が聞こえてきた。
娘は急に息苦しくなり咳き込む。
誰かに首を絞められている。
「くるっ……し……!」
「返せ……戻ってこい………」
薄ら目を開けると黒い靄が渦巻いていて2つの赤い目がこちらを覗き込んでいた。
目が合うと黒い靄は首を絞める力を強める。
「生贄……生贄………」
無機質な声が娘に何か言っているのが聞こえる。
苦しくて目の前が霞んでくる。
「だ……れかっ…………!!」
すると障子が勢いよく開く音と共に誰かが部屋へと入ってくる。
「清めよ」
首から黒い靄の手が離れると共に強い光が部屋に溢れる。
黒い靄は光に耐えられず霧散していった。
酸素を与えられた娘は必死に吸い込もうとして咳き込む。
顔を上げると天が目の前に立っていた。
天が心配そうに娘の背をさする。
「大丈夫?」
普段国にくっついて歩いている天が今は1人で娘のそばにいる。
珍しい人物に驚いていると天が口を開く。
「怨念がすごかったから様子見にきたー」
先程の黒い靄は怨念だったらしい。
ナギが言っていたように沼に一回沈むと穢れがついてきてしまう。沼の怨念が娘にくっついてきてもおかしくはないと天が言った。
「花雨ちゃん気をつけてね」
「うん………ありがとう……それよりも天は1人で大丈夫なの……?」
「俺はいつでも国と一緒ってわけじゃないよ。夜中のお散歩。俺が気づいてなかったら大変なことになってたよ~、怨念は体を乗っ取ろうとするからね」
日常的に見えなかったものが見えるようになる恐怖は多少なりともあった。
それが今では普通なのだ。慣れるしかない。
娘は震える手を温めるようにさする。
赤い目がこちらをじっと見ていた。思い出すだけでとても怖い。
「毎晩つづくの……?」
「今祓ったからさっきの怨念はもういないけど、また違うやつが出てくるかもね」
「………どうしたらなくなるのかな」
「慣れだよねぇ」
怖いのは極力避けたい。改善策を探さなければならない。
天の白髪が月夜に光り輝いている。金色の目は月を見ていた。
国とそっくりの容姿だが国よりもすこし癖っ毛な髪は夜風に揺れて儚く見える。
「……天はなんの水神なの……?」
ふと疑問に思ったことを言う。
天が娘に目線を向けた。
「人間は田の神とか山の神とか言うよ。国もそう」
そういうと天が手のひらに水を出現させる。
水はゆらゆらと揺れて行き庭先へと落ちた。
「人間が祈雨すると雨を降らせる。まぁ気分で雨降らせてるけどね~」
「気分………」
娘の村にも雨は降っていた。決して水が足りなくて稲が枯れて収穫できないとかそういう問題ではなかった。村の人たちが悪い。
「雨が降って子供が水溜りで遊んでる姿を見るのも好き」
「子供?」
「純粋で無邪気で見てて飽きない」
「子供……可愛いよね。だからこそ大きくなって辛い目にあって欲しくない……」
美しい娘になったとして生贄になるのはとても辛い。
この娘のように生贄になどならないでと願う。
「もう眠いでしょ?側にいるから寝なよ」
「でも………」
「俺は寝なくても大丈夫~夜空でも見ながらのんびりしてるから、ほらほらおやすみ!」
天に背中を押され強制的に布団をかけられる。
「花雨ちゃんが幸せに生きられますように」
天がそういうと娘に眠気が襲ってきた。
ゆっくりと目を閉じると深い眠りへとつく。
皆、娘の幸せを願っている。今も昔も。
特にやることもなく天井をじっと見つめ、今日あった出来事を思い出してはため息をついていた。
今日で沢山の花を見たし、名前も貰った。
文机に置いてある青い朝顔を手に取ると娘はそれに口付ける。
朝顔の青色をみているとナギの瞳の色を思い出す。
このわくわくするような嬉しいような感情を何と言うのか娘にはまだ理解できない。
「また明日も幸せに生きられますように」
文机に朝顔を置くと娘は寝巻きに着替え生地の薄い布団を手繰り寄せて寝る。
側に両親がいないのがとても心細かった。寒い夜は家族でくっついて寝ていた。今はその温もりすら感じられない。
瞼をゆっくりと閉じると娘は眠りへとついた。
そして娘は悪夢を見る。
「返せ…………返せ……」
何者かの声が聞こえてきた。
娘は急に息苦しくなり咳き込む。
誰かに首を絞められている。
「くるっ……し……!」
「返せ……戻ってこい………」
薄ら目を開けると黒い靄が渦巻いていて2つの赤い目がこちらを覗き込んでいた。
目が合うと黒い靄は首を絞める力を強める。
「生贄……生贄………」
無機質な声が娘に何か言っているのが聞こえる。
苦しくて目の前が霞んでくる。
「だ……れかっ…………!!」
すると障子が勢いよく開く音と共に誰かが部屋へと入ってくる。
「清めよ」
首から黒い靄の手が離れると共に強い光が部屋に溢れる。
黒い靄は光に耐えられず霧散していった。
酸素を与えられた娘は必死に吸い込もうとして咳き込む。
顔を上げると天が目の前に立っていた。
天が心配そうに娘の背をさする。
「大丈夫?」
普段国にくっついて歩いている天が今は1人で娘のそばにいる。
珍しい人物に驚いていると天が口を開く。
「怨念がすごかったから様子見にきたー」
先程の黒い靄は怨念だったらしい。
ナギが言っていたように沼に一回沈むと穢れがついてきてしまう。沼の怨念が娘にくっついてきてもおかしくはないと天が言った。
「花雨ちゃん気をつけてね」
「うん………ありがとう……それよりも天は1人で大丈夫なの……?」
「俺はいつでも国と一緒ってわけじゃないよ。夜中のお散歩。俺が気づいてなかったら大変なことになってたよ~、怨念は体を乗っ取ろうとするからね」
日常的に見えなかったものが見えるようになる恐怖は多少なりともあった。
それが今では普通なのだ。慣れるしかない。
娘は震える手を温めるようにさする。
赤い目がこちらをじっと見ていた。思い出すだけでとても怖い。
「毎晩つづくの……?」
「今祓ったからさっきの怨念はもういないけど、また違うやつが出てくるかもね」
「………どうしたらなくなるのかな」
「慣れだよねぇ」
怖いのは極力避けたい。改善策を探さなければならない。
天の白髪が月夜に光り輝いている。金色の目は月を見ていた。
国とそっくりの容姿だが国よりもすこし癖っ毛な髪は夜風に揺れて儚く見える。
「……天はなんの水神なの……?」
ふと疑問に思ったことを言う。
天が娘に目線を向けた。
「人間は田の神とか山の神とか言うよ。国もそう」
そういうと天が手のひらに水を出現させる。
水はゆらゆらと揺れて行き庭先へと落ちた。
「人間が祈雨すると雨を降らせる。まぁ気分で雨降らせてるけどね~」
「気分………」
娘の村にも雨は降っていた。決して水が足りなくて稲が枯れて収穫できないとかそういう問題ではなかった。村の人たちが悪い。
「雨が降って子供が水溜りで遊んでる姿を見るのも好き」
「子供?」
「純粋で無邪気で見てて飽きない」
「子供……可愛いよね。だからこそ大きくなって辛い目にあって欲しくない……」
美しい娘になったとして生贄になるのはとても辛い。
この娘のように生贄になどならないでと願う。
「もう眠いでしょ?側にいるから寝なよ」
「でも………」
「俺は寝なくても大丈夫~夜空でも見ながらのんびりしてるから、ほらほらおやすみ!」
天に背中を押され強制的に布団をかけられる。
「花雨ちゃんが幸せに生きられますように」
天がそういうと娘に眠気が襲ってきた。
ゆっくりと目を閉じると深い眠りへとつく。
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