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14 居場所
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「ちょ、なんでそんなに濡れてるの!!ナギはともかくなんでこの子まで!?!」
屋敷に戻るとなかなか帰ってこないナギと娘を心配していたのかすぐに礼花が玄関にやってきた。
騒ぎを聞きつけて国と天もやってくる。
国が瞬時に手ぬぐいを取り出し、娘の頭を拭いてきた。天はというと娘の耳にかけられた朝顔を摘みクルクル回して見ている。
ナギが羽織を脱ぎながら言う。
「花を見てきた」
「花を見るだけでなんでこんなに濡れてるのか意味がわからないんだけど…」
礼花はため息をつくと娘の方を見る。
「変なことなんもされてない?」
「されてないです、それよりも朝顔がとっても綺麗だった!それに水神って雨を降らすことも出来るんだね」
礼花はよほどの心配をしていたのか、娘のとても明るい調子に少しだけ驚き、けれど元気そうな様子に微笑む。
国が髪を拭く手を止めると娘の顔を覗き込む。
「朝顔を見に行かれたのですか?」
「うん、青い朝顔がたくさん咲いてた」
「あそこまで行かれたんですね。途中比売に出会いませんでしたか?」
「比売?……………あ」
深緑色の長い髪が特徴的なあの美しい水神を思い出した。
娘のことを散々罵っていたが本当のところは正直なことしか言えないと言うのがなんとも憎めないあの水神。
けれどナギが庇ってくれたことが娘にとって何よりも嬉しかった。
「緑色の髪色に琥珀色の目をした水神のこと?」
「その様子だと出会ったのですね、何か気に触るようなことを言っていなかったですか?」
「言われましたけども………でもそこまで気にならなかった……」
「そうですか………変人だらけで申し訳ないです」
娘が謝るほどでもないのにと思っていると、突如ナギが娘の代わりに重要なことを言った。
「名前が決まった」
「「「え?」」」
礼花、国、天の声が揃った。
皆んなで考えてくる約束だったのにいきなり名前が決まったとなればもちろん驚くだろう。
「皆んなで決めるんじゃ……」
「こいつが花雨が良いと言った」
「この少女がそう言ったのですか?」
「ナギが決めてくれたの。私、花雨っていう名前の響き好きだなって思ったから」
はっきりとそう言った。
礼花と国が渋い顔をしたが最終的には娘の意見なので承諾してくれる。
そして天が嬉しそうに笑った。
「俺の天と花雨の雨で似てるね~」
ナギに言われて思ったことがある。
礼花と国は前の奥方様と娘を照らし合わせている傾向があると言っていたが、天は違うのではないかと。
どこか幼さがある天は本当は物事をよく考えていたりするのかもしれないとか…。
あまり勝手に考えるのはよくないかもしれない。
「それにしても花雨か……可愛い名前だね」
「そんな意味でつけたんじゃない」
「花の咲く頃に降る雨。そういう意味合いなのかな?」
「……………教えてやらん」
「えぇ、なんでよ」
礼花とナギが何やら言い合っているのが聞こえる。
娘は国に「体を温めてきてください」と言われ風呂へと連行された。
風呂場にて娘は身ぐるみを剥がされ湯船へと入れられる。
「ちょっ………!」
「すみません、少し考え事をしてまして……」
娘が肩まで湯船に浸かっている間、国は水を宙に浮かしたりそれを落としたりを繰り返している。
「考え事って……何?」
「………………」
国は少し考えるそぶりをした後、口を開いた。
「天に指摘されて、少し考えていたんです。私は貴方を……花雨様を今は亡き奥方様と照らし合わせているって」
娘はそのことに驚き目を丸くする。
先程娘が思っていたことが的中したからだ。
「もし不快な思いをさせていたら申し訳ないのです。初めて会った時、本当に似ていらしたので………」
娘はそんな国の様子を見て微笑んだ。
そして手を伸ばし国の頬に触れる。
「不快な思いなんてしてないよ…………ただ、私のことを1人の人間として見てほしいなって思ってただけ……。ありがとう国」
「……………」
娘が微笑むとそれが手から伝わっていったのか国も自然な笑みをこぼしていた。
「お言葉誠に嬉しいのですが、服を着て言ってくれたらもっと響いてました」
「今それを言っちゃダメ」
2人の笑い声が風呂場に響いた。
娘は湯船から出ると新しい小袖に着替え、国と居間へと行く。
居間には夕飯が置かれていて、天が待ちくたびれた様子だった。
「遅いよ2人とも!!」
「さほど待ってもいないでしょう」
「俺もうお腹すいて死にそう!」
朝食を食べた時と同じ位置に座ると皆んなで声を揃えて言う
『いただきます』
水神と人間。
朝よりも居心地が良くなった気がした。
屋敷に戻るとなかなか帰ってこないナギと娘を心配していたのかすぐに礼花が玄関にやってきた。
騒ぎを聞きつけて国と天もやってくる。
国が瞬時に手ぬぐいを取り出し、娘の頭を拭いてきた。天はというと娘の耳にかけられた朝顔を摘みクルクル回して見ている。
ナギが羽織を脱ぎながら言う。
「花を見てきた」
「花を見るだけでなんでこんなに濡れてるのか意味がわからないんだけど…」
礼花はため息をつくと娘の方を見る。
「変なことなんもされてない?」
「されてないです、それよりも朝顔がとっても綺麗だった!それに水神って雨を降らすことも出来るんだね」
礼花はよほどの心配をしていたのか、娘のとても明るい調子に少しだけ驚き、けれど元気そうな様子に微笑む。
国が髪を拭く手を止めると娘の顔を覗き込む。
「朝顔を見に行かれたのですか?」
「うん、青い朝顔がたくさん咲いてた」
「あそこまで行かれたんですね。途中比売に出会いませんでしたか?」
「比売?……………あ」
深緑色の長い髪が特徴的なあの美しい水神を思い出した。
娘のことを散々罵っていたが本当のところは正直なことしか言えないと言うのがなんとも憎めないあの水神。
けれどナギが庇ってくれたことが娘にとって何よりも嬉しかった。
「緑色の髪色に琥珀色の目をした水神のこと?」
「その様子だと出会ったのですね、何か気に触るようなことを言っていなかったですか?」
「言われましたけども………でもそこまで気にならなかった……」
「そうですか………変人だらけで申し訳ないです」
娘が謝るほどでもないのにと思っていると、突如ナギが娘の代わりに重要なことを言った。
「名前が決まった」
「「「え?」」」
礼花、国、天の声が揃った。
皆んなで考えてくる約束だったのにいきなり名前が決まったとなればもちろん驚くだろう。
「皆んなで決めるんじゃ……」
「こいつが花雨が良いと言った」
「この少女がそう言ったのですか?」
「ナギが決めてくれたの。私、花雨っていう名前の響き好きだなって思ったから」
はっきりとそう言った。
礼花と国が渋い顔をしたが最終的には娘の意見なので承諾してくれる。
そして天が嬉しそうに笑った。
「俺の天と花雨の雨で似てるね~」
ナギに言われて思ったことがある。
礼花と国は前の奥方様と娘を照らし合わせている傾向があると言っていたが、天は違うのではないかと。
どこか幼さがある天は本当は物事をよく考えていたりするのかもしれないとか…。
あまり勝手に考えるのはよくないかもしれない。
「それにしても花雨か……可愛い名前だね」
「そんな意味でつけたんじゃない」
「花の咲く頃に降る雨。そういう意味合いなのかな?」
「……………教えてやらん」
「えぇ、なんでよ」
礼花とナギが何やら言い合っているのが聞こえる。
娘は国に「体を温めてきてください」と言われ風呂へと連行された。
風呂場にて娘は身ぐるみを剥がされ湯船へと入れられる。
「ちょっ………!」
「すみません、少し考え事をしてまして……」
娘が肩まで湯船に浸かっている間、国は水を宙に浮かしたりそれを落としたりを繰り返している。
「考え事って……何?」
「………………」
国は少し考えるそぶりをした後、口を開いた。
「天に指摘されて、少し考えていたんです。私は貴方を……花雨様を今は亡き奥方様と照らし合わせているって」
娘はそのことに驚き目を丸くする。
先程娘が思っていたことが的中したからだ。
「もし不快な思いをさせていたら申し訳ないのです。初めて会った時、本当に似ていらしたので………」
娘はそんな国の様子を見て微笑んだ。
そして手を伸ばし国の頬に触れる。
「不快な思いなんてしてないよ…………ただ、私のことを1人の人間として見てほしいなって思ってただけ……。ありがとう国」
「……………」
娘が微笑むとそれが手から伝わっていったのか国も自然な笑みをこぼしていた。
「お言葉誠に嬉しいのですが、服を着て言ってくれたらもっと響いてました」
「今それを言っちゃダメ」
2人の笑い声が風呂場に響いた。
娘は湯船から出ると新しい小袖に着替え、国と居間へと行く。
居間には夕飯が置かれていて、天が待ちくたびれた様子だった。
「遅いよ2人とも!!」
「さほど待ってもいないでしょう」
「俺もうお腹すいて死にそう!」
朝食を食べた時と同じ位置に座ると皆んなで声を揃えて言う
『いただきます』
水神と人間。
朝よりも居心地が良くなった気がした。
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