生贄の娘と水神様〜厄介事も神とならば〜

沙耶味茜

文字の大きさ
上 下
17 / 48

14 居場所

しおりを挟む
「ちょ、なんでそんなに濡れてるの!!ナギはともかくなんでこの子まで!?!」

屋敷に戻るとなかなか帰ってこないナギと娘を心配していたのかすぐに礼花れいかが玄関にやってきた。
騒ぎを聞きつけてくにあめもやってくる。
くにが瞬時に手ぬぐいを取り出し、娘の頭を拭いてきた。あめはというと娘の耳にかけられた朝顔を摘みクルクル回して見ている。
ナギが羽織を脱ぎながら言う。

「花を見てきた」
「花を見るだけでなんでこんなに濡れてるのか意味がわからないんだけど…」

礼花れいかはため息をつくと娘の方を見る。

「変なことなんもされてない?」
「されてないです、それよりも朝顔がとっても綺麗だった!それに水神すいじんって雨を降らすことも出来るんだね」

礼花はよほどの心配をしていたのか、娘のとても明るい調子に少しだけ驚き、けれど元気そうな様子に微笑む。
国が髪を拭く手を止めると娘の顔を覗き込む。

「朝顔を見に行かれたのですか?」
「うん、青い朝顔がたくさん咲いてた」
「あそこまで行かれたんですね。途中比売ひめに出会いませんでしたか?」
「比売?……………あ」

深緑色の長い髪が特徴的なあの美しい水神を思い出した。
娘のことを散々罵っていたが本当のところは正直なことしか言えないと言うのがなんとも憎めないあの水神すいじん
けれどナギが庇ってくれたことが娘にとって何よりも嬉しかった。

「緑色の髪色に琥珀色の目をした水神のこと?」
「その様子だと出会ったのですね、何か気に触るようなことを言っていなかったですか?」
「言われましたけども………でもそこまで気にならなかった……」
「そうですか………変人だらけで申し訳ないです」

娘が謝るほどでもないのにと思っていると、突如ナギが娘の代わりに重要なことを言った。

「名前が決まった」
「「「え?」」」

礼花れいかくにあめの声が揃った。
皆んなで考えてくる約束だったのにいきなり名前が決まったとなればもちろん驚くだろう。

「皆んなで決めるんじゃ……」
「こいつが花雨かうが良いと言った」
「この少女がそう言ったのですか?」
「ナギが決めてくれたの。私、花雨っていう名前の響き好きだなって思ったから」

はっきりとそう言った。
礼花と国が渋い顔をしたが最終的には娘の意見なので承諾してくれる。
そして天が嬉しそうに笑った。

「俺のあめと花雨の雨で似てるね~」

ナギに言われて思ったことがある。
礼花と国は前の奥方様と娘を照らし合わせている傾向があると言っていたが、天は違うのではないかと。
どこか幼さがある天は本当は物事をよく考えていたりするのかもしれないとか…。
あまり勝手に考えるのはよくないかもしれない。

「それにしても花雨か……可愛い名前だね」
「そんな意味でつけたんじゃない」
「花の咲く頃に降る雨。そういう意味合いなのかな?」
「……………教えてやらん」
「えぇ、なんでよ」

礼花とナギが何やら言い合っているのが聞こえる。
娘は国に「体を温めてきてください」と言われ風呂へと連行された。
風呂場にて娘は身ぐるみを剥がされ湯船へと入れられる。

「ちょっ………!」
「すみません、少し考え事をしてまして……」

娘が肩まで湯船に浸かっている間、国は水を宙に浮かしたりそれを落としたりを繰り返している。

「考え事って……何?」
「………………」

国は少し考えるそぶりをした後、口を開いた。

「天に指摘されて、少し考えていたんです。私は貴方を……花雨かう様を今は亡き奥方様と照らし合わせているって」

娘はそのことに驚き目を丸くする。
先程娘が思っていたことが的中したからだ。

「もし不快な思いをさせていたら申し訳ないのです。初めて会った時、本当に似ていらしたので………」

娘はそんな国の様子を見て微笑んだ。
そして手を伸ばし国の頬に触れる。

「不快な思いなんてしてないよ…………ただ、私のことを1人の人間として見てほしいなって思ってただけ……。ありがとう国」
「……………」

娘が微笑むとそれが手から伝わっていったのか国も自然な笑みをこぼしていた。

「お言葉誠に嬉しいのですが、服を着て言ってくれたらもっと響いてました」
「今それを言っちゃダメ」

2人の笑い声が風呂場に響いた。
娘は湯船から出ると新しい小袖に着替え、国と居間へと行く。
居間には夕飯が置かれていて、天が待ちくたびれた様子だった。

「遅いよ2人とも!!」
「さほど待ってもいないでしょう」
「俺もうお腹すいて死にそう!」

朝食を食べた時と同じ位置に座ると皆んなで声を揃えて言う

『いただきます』

水神と人間。
朝よりも居心地が良くなった気がした。

















しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

骸骨と呼ばれ、生贄になった王妃のカタの付け方

ウサギテイマーTK
恋愛
骸骨娘と揶揄され、家で酷い扱いを受けていたマリーヌは、国王の正妃として嫁いだ。だが結婚後、国王に愛されることなく、ここでも幽閉に近い扱いを受ける。側妃はマリーヌの義姉で、公式行事も側妃が請け負っている。マリーヌに与えられた最後の役割は、海の神への生贄だった。 注意:地震や津波の描写があります。ご注意を。やや残酷な描写もあります。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

五歳の時から、側にいた

田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。 それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。 グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。 前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

だいたい全部、聖女のせい。

荒瀬ヤヒロ
恋愛
「どうして、こんなことに……」 異世界よりやってきた聖女と出会い、王太子は変わってしまった。 いや、王太子の側近の令息達まで、変わってしまったのだ。 すでに彼らには、婚約者である令嬢達の声も届かない。 これはとある王国に降り立った聖女との出会いで見る影もなく変わってしまった男達に苦しめられる少女達の、嘆きの物語。

その手で、愛して。ー 空飛ぶイルカの恋物語 ー

ユーリ(佐伯瑠璃)
キャラ文芸
T-4ブルーインパルスとして生を受けた#725は専任整備士の青井翼に恋をした。彼の手の温もりが好き、その手が私に愛を教えてくれた。その手の温もりが私を人にした。 機械にだって心がある。引退を迎えて初めて知る青井への想い。 #725が引退した理由は作者の勝手な想像であり、退役後の扱いも全てフィクションです。 その後の二人で整備員を束ねている坂東三佐は、鏡野ゆう様の「今日も青空、イルカ日和」に出ておられます。お名前お借りしました。ご許可いただきありがとうございました。 ※小説化になろうにも投稿しております。

処理中です...