生贄の娘と水神様〜厄介事も神とならば〜

沙耶味茜

文字の大きさ
上 下
13 / 48

12 娘

しおりを挟む
しばらくナギについて歩いていると開けた土地に出た。
娘は目を見開き目の前の光景を凝視する。
そこには視界いっぱいに青色の花が咲いていた。

「この青い花は何……?」
「朝顔だ」
「朝顔?」
「知らないのか……?」

娘は滅多に都に降りないのでもしかしなら都では人気の花なのかもしれない。

「人間の間では流行りだと聞いたが……俺の聞き間違いか…」
「いや、もしかしたら私が知らないだけで流行ってるのかも…………」

謎の沈黙が続く。
風が娘の黒髪を靡かせていく。
沈黙を破ったのは……娘の方だった。

「あの………人間の間で流行ってるって、誰に聞いたの………?」
「前の当主の奥方様からだ」

奥方様。
今日起きてから何度も聞いた人物だ。
その人物が出ると皆一様にして悲しい表情をする。
娘はとても気になっていた。

「その奥方様ってどんな人だったの…?」

思わず聞いてしまった。
ナギはとくに悲しい表情はしなかったが娘のことをじっと見つめ教えてくれた。

「女性にしては気が強く、鮮やかな花がよく似合う女……か?」

なぜか疑問系。
皆性格や外見ばかり教えてくれるが誰も奥方様の出自は教えてくれない。何故人間が水神と婚姻することになったのか、この手の話題になるとなぜ皆悲しい表情をするのか、娘はとても気になっていた。
でも、いざ聞こうとすると戸惑ってしまう。

「気の強い女性だったんですね……」

その疑問を飲み込みんでしまう。娘は奥方様の外見についてしか触れられない。
けれどナギはそれを読み取ったのかは知らないが教えてくれる。

「奥方様が人間だと言うことは知っているな?」
「………ええ」
「お前と同じで村の生贄として儀式に捧げられる娘だった」

衝撃の事実に目を丸くする。
私と同じ生贄の娘。
けれど思い当たる節があった。
生贄として娘が捧げられる数分前。村長が言っていた言葉。

『その贄は嫁入りしたと噂だ』

この言葉の贄とは奥方様だったのかもしれない。

「村にお忍びで行っていた当主様が奥方様のことを好きになってしまったらしく、生贄に捧げられると聞いて激怒したそうだ」
「お、怒ったの…?誰に?」
「さぁな、他人の色恋沙汰など興味がなかったからそこまでは知らん」

ナギは朝顔をひとつ摘むと娘の耳元にそれを飾った。
1番しないであろう行動に驚いているとナギが言った。

「お前は前の奥方様に似ている。屋敷にいる礼花も国も、今は亡き奥方様とお前を照らし合わせている傾向がある。…………けれど俺はお前を1人の人間としてみる。いいな?」
「は、はい……?」

なぜかそう宣言されて、少しだけ戸惑ったがとても嬉しかった。
1人の人間として見てくれるナギに娘はこう言う。

「ありがとう」

ナギは満足げな表情を見せると空に手を翳した。
するとポツポツと雨粒が降ってくる。

「雨もいいものだろう?」

目の前に広がっている青い朝顔には雨粒がついて光り輝いて見えた。
そして娘の心にも色づいていくものがあった。

それの名前はーーーー








しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

骸骨と呼ばれ、生贄になった王妃のカタの付け方

ウサギテイマーTK
恋愛
骸骨娘と揶揄され、家で酷い扱いを受けていたマリーヌは、国王の正妃として嫁いだ。だが結婚後、国王に愛されることなく、ここでも幽閉に近い扱いを受ける。側妃はマリーヌの義姉で、公式行事も側妃が請け負っている。マリーヌに与えられた最後の役割は、海の神への生贄だった。 注意:地震や津波の描写があります。ご注意を。やや残酷な描写もあります。

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

五歳の時から、側にいた

田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。 それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。 グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。 前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

だいたい全部、聖女のせい。

荒瀬ヤヒロ
恋愛
「どうして、こんなことに……」 異世界よりやってきた聖女と出会い、王太子は変わってしまった。 いや、王太子の側近の令息達まで、変わってしまったのだ。 すでに彼らには、婚約者である令嬢達の声も届かない。 これはとある王国に降り立った聖女との出会いで見る影もなく変わってしまった男達に苦しめられる少女達の、嘆きの物語。

その手で、愛して。ー 空飛ぶイルカの恋物語 ー

ユーリ(佐伯瑠璃)
キャラ文芸
T-4ブルーインパルスとして生を受けた#725は専任整備士の青井翼に恋をした。彼の手の温もりが好き、その手が私に愛を教えてくれた。その手の温もりが私を人にした。 機械にだって心がある。引退を迎えて初めて知る青井への想い。 #725が引退した理由は作者の勝手な想像であり、退役後の扱いも全てフィクションです。 その後の二人で整備員を束ねている坂東三佐は、鏡野ゆう様の「今日も青空、イルカ日和」に出ておられます。お名前お借りしました。ご許可いただきありがとうございました。 ※小説化になろうにも投稿しております。

処理中です...