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容疑者たち
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「おお、さすがは名探偵。もう事件の真相に辿り着いたんですかな?」
「…え?」
「今、微笑んだでしょう。決まって犯人に繋がる糸口をつかんだときに見せる微笑みを」
「…犯人に繋がる糸口? それはまだ… もう少し情報を集めてからでないと」
必死にヒカリ・エヴァンスハムの記憶を掘り起こし、彼女が事件を調査する際にしていたことを思い出して答えた。
「まぁ、それはそうだろうね。では、容疑者と重要参考人のリストを用意してワトソンくんに届けておこう。名探偵が聞き込みに来たら、警察に話したことでももう一度話すように伝えておくから、訊きたいことがあれば好きなだけ自由に聞き込みしてくれて構わない」
「あ、ありがとうございます」
「それじゃあ、これから捜査会議があるから、これで失礼するよ。朝早くにわるかったね」
そういうと、警部は寝不足にもかかわらず爽やかに見える笑顔を残して去って行った。
どうしよう… 今更、推理なんてできないとは言えない雰囲気だった。かと言って、切り裂きジャックの事件をそのままにしていたら、次々と被害者が増え続けることになる。ヒカリ・エヴァンスハムだったら、見事な洞察力と推理力で切り裂きジャックを突き止めることができるかもしれないのに…
「切り裂きジャック事件ですか… また、難しい事件を依頼されたものですね」
「依頼されたのは、ヒカリ・エヴァンスハム。望月ひかりに頼まれても困るんだけど…」
「こっちの世界の日本で起きた重大事件は、約1か月後に我々が生まれ育った日本でも起こる。つまりは、こっちの世界のロンドンで起きた重大事件は、約1か月後に我々が生まれ育った時代のロンドンでも起こるということになりますからね」
「こっちの世界で殺されたら、向こうの世界でも殺される…?」
「望月さんと調査したところによると、切り裂きジャックと思われる人物に殺された被害者の名前は違うけれど、殺され方、殺された場所、おおよその年齢と性別は同じでした…まるで、ここは予知夢の世界のようですね」
「うん…」
一般的に予知夢というのは、ハッキリと夢で見る人もいれば、断片的に見る人、イメージとして見る人など様々だという。もし、この世界で見た重大事件や重大事故が現実でも起きていたら… たしかに、ここは「予知夢の世界」という言い方がしっくりきた。
「日本で起こる重大事件だけ防げればいいってものではないですからね。遠く離れたイギリスだからって高い確率で起こるとわかっている事件を放っておくわけにはいきません。ここで防げるなら、防いで被害者を救わないと…」
「そうね…」
「とにかく、一度レストレードから聞いた話を整理してみましょう」
和戸くんは、テーブルの上に真っ白な用紙を広げ、そこに先ほど取っていたメモの内容をわかりやすく整理しながら書き起こし始めてくれた。
「切り裂きジャック事件と呼ばれているのは、実際に19世紀後半のロンドンで起きた連続殺人犯による事件で、ホワイトチャペルとその周辺で犯行を繰り返していた正体不明の殺人鬼による一連の犯行がそう呼ばれています。僕の知っている知識では、イーストエンドに住む娼婦を狙って喉を深く切り裂いて殺害するという同様の手口で犯行を行っていたようで、確実に切り裂きジャックの事件とされているのは5件で、そのすべては未解決事件のまま、犯人の特定に至っていません」
「切り裂きジャック… 聞いたことあるけど、私は映画の話か現実の話か詳しくは知らないくらいの知識しかないかな…」
「僕は、たまたま都市伝説やこういった未解決事件みたいなのに興味があったからで、普通の人はそうなんじゃないですかね」
「話の邪魔してごめんね。続けて」
「はい。とはいえ僕も、こっちの世界で切り裂きジャックについての話を聞いた後、21世紀に戻った時にケータイで調べて知った部分も結構あります」
「待って、でも被害者は5人とされているのに、たしかこっちでは6人目の被害者が出たって言われてない?」
「そうなんです… 僕や望月さんがこっちの世界の重大事件に関与してしまったせいでもあるのか、無効とこっちの状況は微妙に違った部分があるようですね」
「うん、事件だけじゃなくて、文化とか技術とかも違ってると感じることがあるよね」
「犯行の手口は、向こうもこっちも同じで、喉へ深い切り傷を与えた後、腹部周辺の肉を切除して内臓を取り出しているそうです」
「…………」
話を半分も聞いていなかった私と違って、和戸くんは警部が説明してくれたことを事細かに把握してくれていた。現役高校生とは思えないくらい、頼りになる和戸くんに関心しきりだった。
「これまで容疑者を絞り込むことも物的証拠を見つけ出すこともできずにいたそうですが、今回6人目にして初めて尻尾を掴むことに成功したそうです」
「えっ、それじゃあ… 未解決になった事件を解決できる可能性が高くなったってこと?」
「どうでしょう、それはこれからの捜査次第になるとは思いますが… 不可能ではないと思っています。犯人を特定して逮捕できたら、これ以上の被害者を出さずに済みますからね。なんとか解決できたらいいんですけど…」
「うん…」
「その向こうの世界では発生しなかった6人目の被害者の事件ですが、犯行現場は先日妹さんもかかっていたセントバーソロミュー病院の入院病棟にある関係者以外立ち入り禁止エリアで、被害者の死亡推定時刻前後に出入りした記録があるのは、5名だけだったということでした」
「その5人の誰かが、切り裂きジャック…」
「内1人は被害者ですので、実際は4人だそうです。その実行犯である可能性のある容疑者は… 内科医のヘンリー・ウェストン、法医学医のウィリアム・モートン、神父のチャールズ・ウィンスロー、ロンドン裏社会の新鋭、ハーキュリーズ・ブラックウッド…」
和戸くんが、警部から預かった容疑者たちの写真をテーブルの上に1枚1枚置きながら、その名前を読み上げていく。その写真が1枚ずつ置かれる度に、私は自分の目を疑った。その全員と私は… こっちに来てから会ったことがあった。
「…え?」
「今、微笑んだでしょう。決まって犯人に繋がる糸口をつかんだときに見せる微笑みを」
「…犯人に繋がる糸口? それはまだ… もう少し情報を集めてからでないと」
必死にヒカリ・エヴァンスハムの記憶を掘り起こし、彼女が事件を調査する際にしていたことを思い出して答えた。
「まぁ、それはそうだろうね。では、容疑者と重要参考人のリストを用意してワトソンくんに届けておこう。名探偵が聞き込みに来たら、警察に話したことでももう一度話すように伝えておくから、訊きたいことがあれば好きなだけ自由に聞き込みしてくれて構わない」
「あ、ありがとうございます」
「それじゃあ、これから捜査会議があるから、これで失礼するよ。朝早くにわるかったね」
そういうと、警部は寝不足にもかかわらず爽やかに見える笑顔を残して去って行った。
どうしよう… 今更、推理なんてできないとは言えない雰囲気だった。かと言って、切り裂きジャックの事件をそのままにしていたら、次々と被害者が増え続けることになる。ヒカリ・エヴァンスハムだったら、見事な洞察力と推理力で切り裂きジャックを突き止めることができるかもしれないのに…
「切り裂きジャック事件ですか… また、難しい事件を依頼されたものですね」
「依頼されたのは、ヒカリ・エヴァンスハム。望月ひかりに頼まれても困るんだけど…」
「こっちの世界の日本で起きた重大事件は、約1か月後に我々が生まれ育った日本でも起こる。つまりは、こっちの世界のロンドンで起きた重大事件は、約1か月後に我々が生まれ育った時代のロンドンでも起こるということになりますからね」
「こっちの世界で殺されたら、向こうの世界でも殺される…?」
「望月さんと調査したところによると、切り裂きジャックと思われる人物に殺された被害者の名前は違うけれど、殺され方、殺された場所、おおよその年齢と性別は同じでした…まるで、ここは予知夢の世界のようですね」
「うん…」
一般的に予知夢というのは、ハッキリと夢で見る人もいれば、断片的に見る人、イメージとして見る人など様々だという。もし、この世界で見た重大事件や重大事故が現実でも起きていたら… たしかに、ここは「予知夢の世界」という言い方がしっくりきた。
「日本で起こる重大事件だけ防げればいいってものではないですからね。遠く離れたイギリスだからって高い確率で起こるとわかっている事件を放っておくわけにはいきません。ここで防げるなら、防いで被害者を救わないと…」
「そうね…」
「とにかく、一度レストレードから聞いた話を整理してみましょう」
和戸くんは、テーブルの上に真っ白な用紙を広げ、そこに先ほど取っていたメモの内容をわかりやすく整理しながら書き起こし始めてくれた。
「切り裂きジャック事件と呼ばれているのは、実際に19世紀後半のロンドンで起きた連続殺人犯による事件で、ホワイトチャペルとその周辺で犯行を繰り返していた正体不明の殺人鬼による一連の犯行がそう呼ばれています。僕の知っている知識では、イーストエンドに住む娼婦を狙って喉を深く切り裂いて殺害するという同様の手口で犯行を行っていたようで、確実に切り裂きジャックの事件とされているのは5件で、そのすべては未解決事件のまま、犯人の特定に至っていません」
「切り裂きジャック… 聞いたことあるけど、私は映画の話か現実の話か詳しくは知らないくらいの知識しかないかな…」
「僕は、たまたま都市伝説やこういった未解決事件みたいなのに興味があったからで、普通の人はそうなんじゃないですかね」
「話の邪魔してごめんね。続けて」
「はい。とはいえ僕も、こっちの世界で切り裂きジャックについての話を聞いた後、21世紀に戻った時にケータイで調べて知った部分も結構あります」
「待って、でも被害者は5人とされているのに、たしかこっちでは6人目の被害者が出たって言われてない?」
「そうなんです… 僕や望月さんがこっちの世界の重大事件に関与してしまったせいでもあるのか、無効とこっちの状況は微妙に違った部分があるようですね」
「うん、事件だけじゃなくて、文化とか技術とかも違ってると感じることがあるよね」
「犯行の手口は、向こうもこっちも同じで、喉へ深い切り傷を与えた後、腹部周辺の肉を切除して内臓を取り出しているそうです」
「…………」
話を半分も聞いていなかった私と違って、和戸くんは警部が説明してくれたことを事細かに把握してくれていた。現役高校生とは思えないくらい、頼りになる和戸くんに関心しきりだった。
「これまで容疑者を絞り込むことも物的証拠を見つけ出すこともできずにいたそうですが、今回6人目にして初めて尻尾を掴むことに成功したそうです」
「えっ、それじゃあ… 未解決になった事件を解決できる可能性が高くなったってこと?」
「どうでしょう、それはこれからの捜査次第になるとは思いますが… 不可能ではないと思っています。犯人を特定して逮捕できたら、これ以上の被害者を出さずに済みますからね。なんとか解決できたらいいんですけど…」
「うん…」
「その向こうの世界では発生しなかった6人目の被害者の事件ですが、犯行現場は先日妹さんもかかっていたセントバーソロミュー病院の入院病棟にある関係者以外立ち入り禁止エリアで、被害者の死亡推定時刻前後に出入りした記録があるのは、5名だけだったということでした」
「その5人の誰かが、切り裂きジャック…」
「内1人は被害者ですので、実際は4人だそうです。その実行犯である可能性のある容疑者は… 内科医のヘンリー・ウェストン、法医学医のウィリアム・モートン、神父のチャールズ・ウィンスロー、ロンドン裏社会の新鋭、ハーキュリーズ・ブラックウッド…」
和戸くんが、警部から預かった容疑者たちの写真をテーブルの上に1枚1枚置きながら、その名前を読み上げていく。その写真が1枚ずつ置かれる度に、私は自分の目を疑った。その全員と私は… こっちに来てから会ったことがあった。
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