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妻がいない日
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アリスティアが実家に帰省し、一泊する当日の朝。アレクセイは何度も妻に向かって「本当に一日だけなのか」「ちゃんと戻ってくるんだろうな」などしつこく問い詰めて、遅刻寸前となった。
そんな夫に向けて、アリスティアは諭すようにいう。
「何日も実家に身を寄せるのは、両家にとってあまり好ましい行為ではありません。
わたくしがそのような、軽率な行動に出る訳がないでしょう」
今は感情で返すよりも、貴族内における常識の上で説く方が効果的。アリスティアはそう判断したので、この言い方を取ることにしている。これではアレクセイも引き下がるしかなかった。
「……分かった。行ってくる」
「行ってらっしゃいませ」
しぶしぶといった感じで馬車に乗り、出仕した日の夜は、当然屋敷では一人で晩餐を取らねばならなかった。
結婚以来、屋敷内の食卓に一人で着く事はなかったのに。この日はアリスティアのいない晩餐の虚しさを痛感していた。
無表情である事が標準仕様であったアレクセイだからこそ、アリスティアが側にいる時の、穏やかな表情も際立つ。
そして現在、以前にも増して仏頂面を崩す事なく食事を摂っているが、纏うオーラには哀愁が加算されている。
執事のモーリスが、アレクセイのグラスにワインを継ぎ足した直後、口を開く。
「旦那様。奥様は明日、午後のお茶会の後すぐお戻りになられる予定です」
「ああ……」
「心配なさる事は御座いません。今朝の旦那様がとてもしつこく、一度許可した事についてうじうじとなさっていたからといって、奥様は女主人としての役割を放棄なさるようなお方ではございません」
アレクセイを、可哀想な子を見るような顔で言ってくるモーリスは、相変わらず表情がそこはかとなくウザかった。
◇
最近のシュテドニア宮廷内の忙しさの原因は、最近手狭となってきた貿易港に加え、新たな貿易港として機能する拠点決め。そしてそれに伴う予算の捻出など、幾度となく会議が開かれていた事にある。
ついに拠点が決まったが、整備には膨大な費用と月日がかかる。それでも昨今の海路貿易の重要性を鑑みても、決して軽視出来るものではなく、慎重な話し合われた。
そしてアレクセイが多忙な一番の原因が、海路貿易の新たな貿易協定について、宰相である叔父が奔走されている事だった。
叔父の仕事を補佐するアレクセイはその間、代わりにいくつかの仕事を引き受けている。
そんな夫に向けて、アリスティアは諭すようにいう。
「何日も実家に身を寄せるのは、両家にとってあまり好ましい行為ではありません。
わたくしがそのような、軽率な行動に出る訳がないでしょう」
今は感情で返すよりも、貴族内における常識の上で説く方が効果的。アリスティアはそう判断したので、この言い方を取ることにしている。これではアレクセイも引き下がるしかなかった。
「……分かった。行ってくる」
「行ってらっしゃいませ」
しぶしぶといった感じで馬車に乗り、出仕した日の夜は、当然屋敷では一人で晩餐を取らねばならなかった。
結婚以来、屋敷内の食卓に一人で着く事はなかったのに。この日はアリスティアのいない晩餐の虚しさを痛感していた。
無表情である事が標準仕様であったアレクセイだからこそ、アリスティアが側にいる時の、穏やかな表情も際立つ。
そして現在、以前にも増して仏頂面を崩す事なく食事を摂っているが、纏うオーラには哀愁が加算されている。
執事のモーリスが、アレクセイのグラスにワインを継ぎ足した直後、口を開く。
「旦那様。奥様は明日、午後のお茶会の後すぐお戻りになられる予定です」
「ああ……」
「心配なさる事は御座いません。今朝の旦那様がとてもしつこく、一度許可した事についてうじうじとなさっていたからといって、奥様は女主人としての役割を放棄なさるようなお方ではございません」
アレクセイを、可哀想な子を見るような顔で言ってくるモーリスは、相変わらず表情がそこはかとなくウザかった。
◇
最近のシュテドニア宮廷内の忙しさの原因は、最近手狭となってきた貿易港に加え、新たな貿易港として機能する拠点決め。そしてそれに伴う予算の捻出など、幾度となく会議が開かれていた事にある。
ついに拠点が決まったが、整備には膨大な費用と月日がかかる。それでも昨今の海路貿易の重要性を鑑みても、決して軽視出来るものではなく、慎重な話し合われた。
そしてアレクセイが多忙な一番の原因が、海路貿易の新たな貿易協定について、宰相である叔父が奔走されている事だった。
叔父の仕事を補佐するアレクセイはその間、代わりにいくつかの仕事を引き受けている。
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