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判定器
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宮廷魔術師に用意された職務室の奥には螺旋階段があり、階段を登った先が研究室となっている。
アレクセイは長椅子に腰掛け、マルセフを待つと、螺旋階段から降りてきた彼は木箱を抱えて戻って来た。下の階は書類整理などをこなす部屋になっており、各人の机の上には書類の束が重なっている。
「これです!」
アレクセイの真正面の長椅子に腰掛けた彼は木箱をテーブルの上へと置いた。マルセフが抱えてきた木箱には厳重に鍵が掛けられており、解錠して中から取り出したのは拳二つ分程の大きさの女神象。その女神は両手に透明なオーブを掲げている。
「何だそれは?」
「何だと思います?」
「分かる訳がないだろう。分からないから聞いている」
「はぁ~殿下はご結婚されても、相変わらずユーモアの一つもないですねぇ」
わざとらしく嘆息して見せるマルセフを無視したアレクセイは、視線を女神に向けたままだった。
「これは、乙女の純潔を判定出来る魔導具です。清い身の女性が触れると、このオーブが光る仕様になっております。かの国の王が妃を娶る際に造らせたのが始まりだとか」
「始まりという事は、既にいくつも同じ物が存在しているのか。まさかそれを貴族用に流通させるつもりか?」
「いえいえ、純潔を調べるために、これにはユニコーンの角が使われております。故にそれはそれは貴重な物な訳です。いかに貴族間といえど出回る事などはありません」
では王族用なのだろうか。この国では既に王は妃を娶り、その妃は子を産んでいるのでしばらくこの魔導具は必要なさそうだと、アレクセイは考える。
「しかしこれは改良版でして」
「改良?」
「なんとこれは女性のみならず、男性の事も測定出来るのです!」
「お、男…?男の純潔?何を言っている…」
アレクセイは怪訝にマルセフを見やる。
「違いますよ!同性愛判定機ではありません、確かに国教では同性愛は罪ですが」
国教では同性愛、近親婚などは固く禁じられている。だがそれとは別に、アレクセイは更に拭い切れない不信感を滲ませた。
どうしてマルセフが喜色を浮かべて、披露したがる魔導具はこうも胡散臭いものばかりなのか。
「男の場合は童貞かどうかですよ」
「…なに?そんな物、製作者は何の意図があって作ったというのだ」
僅かに心拍数が上がっていくのを感じ、平静を装うように平坦な声色でアレクセイは問う。
「さあ?聖職者用とかですかね?でも原理とか気になるじゃないですか。取り敢えず手当たり次第本当か試してみたいんです、よかったら殿下もサンプルの一人として協力して下さい。殿下は既婚者だから光らないようですが」
「いや、待て。お前のよく分からない怪しげな魔導具になど関わりたくは無い、今迄も碌な事が無かったからな」
「え~大丈夫ですよ、爆発なんてしないですから」
「そんな事を言われると、余計触れたくなくなるのだが?」
マルセフが女神像を差し出してくる。最初は神聖な物を象ったかのように思えた女神像も、今では悪魔の化身にすら見えてくる。
「お願いしますよ~」
何故、処女は神聖視されるのに対し、男はそうでもないのか。何故恥じなければいけないのか。いやそもそも少し前まで微塵も恥だとは思わなかった。そうだ、既婚の身でありながらオーブが光ってしまうのは、全部自分のせいだった。
死ぬ訳では無いのに様々な事が、走馬灯のように頭の中を駆け巡ってゆく。
しつこいマルセフの追随に、アレクセイの脳裏に最後に浮かんだのは、美しい妻の顔と『助けてアリスティア』と言う言葉だった。
アレクセイは長椅子に腰掛け、マルセフを待つと、螺旋階段から降りてきた彼は木箱を抱えて戻って来た。下の階は書類整理などをこなす部屋になっており、各人の机の上には書類の束が重なっている。
「これです!」
アレクセイの真正面の長椅子に腰掛けた彼は木箱をテーブルの上へと置いた。マルセフが抱えてきた木箱には厳重に鍵が掛けられており、解錠して中から取り出したのは拳二つ分程の大きさの女神象。その女神は両手に透明なオーブを掲げている。
「何だそれは?」
「何だと思います?」
「分かる訳がないだろう。分からないから聞いている」
「はぁ~殿下はご結婚されても、相変わらずユーモアの一つもないですねぇ」
わざとらしく嘆息して見せるマルセフを無視したアレクセイは、視線を女神に向けたままだった。
「これは、乙女の純潔を判定出来る魔導具です。清い身の女性が触れると、このオーブが光る仕様になっております。かの国の王が妃を娶る際に造らせたのが始まりだとか」
「始まりという事は、既にいくつも同じ物が存在しているのか。まさかそれを貴族用に流通させるつもりか?」
「いえいえ、純潔を調べるために、これにはユニコーンの角が使われております。故にそれはそれは貴重な物な訳です。いかに貴族間といえど出回る事などはありません」
では王族用なのだろうか。この国では既に王は妃を娶り、その妃は子を産んでいるのでしばらくこの魔導具は必要なさそうだと、アレクセイは考える。
「しかしこれは改良版でして」
「改良?」
「なんとこれは女性のみならず、男性の事も測定出来るのです!」
「お、男…?男の純潔?何を言っている…」
アレクセイは怪訝にマルセフを見やる。
「違いますよ!同性愛判定機ではありません、確かに国教では同性愛は罪ですが」
国教では同性愛、近親婚などは固く禁じられている。だがそれとは別に、アレクセイは更に拭い切れない不信感を滲ませた。
どうしてマルセフが喜色を浮かべて、披露したがる魔導具はこうも胡散臭いものばかりなのか。
「男の場合は童貞かどうかですよ」
「…なに?そんな物、製作者は何の意図があって作ったというのだ」
僅かに心拍数が上がっていくのを感じ、平静を装うように平坦な声色でアレクセイは問う。
「さあ?聖職者用とかですかね?でも原理とか気になるじゃないですか。取り敢えず手当たり次第本当か試してみたいんです、よかったら殿下もサンプルの一人として協力して下さい。殿下は既婚者だから光らないようですが」
「いや、待て。お前のよく分からない怪しげな魔導具になど関わりたくは無い、今迄も碌な事が無かったからな」
「え~大丈夫ですよ、爆発なんてしないですから」
「そんな事を言われると、余計触れたくなくなるのだが?」
マルセフが女神像を差し出してくる。最初は神聖な物を象ったかのように思えた女神像も、今では悪魔の化身にすら見えてくる。
「お願いしますよ~」
何故、処女は神聖視されるのに対し、男はそうでもないのか。何故恥じなければいけないのか。いやそもそも少し前まで微塵も恥だとは思わなかった。そうだ、既婚の身でありながらオーブが光ってしまうのは、全部自分のせいだった。
死ぬ訳では無いのに様々な事が、走馬灯のように頭の中を駆け巡ってゆく。
しつこいマルセフの追随に、アレクセイの脳裏に最後に浮かんだのは、美しい妻の顔と『助けてアリスティア』と言う言葉だった。
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