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乾き

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日中に名前で呼んで欲しいと言いかけ、遮られてしまったお願いが、このような形で叶うとは。アレクセイは思い掛けないサプライズに、頭が麻痺したようにしばらく痺れていたが、アリスティアは急かす事なく待ち、それから着替えなども手伝った。

そんな妻をじっと見つめるアレクセイは、意を決してもう一つのお願いを口にしようとした。

「アリスティア、今夜は一緒に…」

そこまで言って一旦言葉を区切り、まずは先に伝えなければいけない事がある、と思い留まる。
名前を呼んでもらえた事に浮かれてしまったが、それよりも先に伝えるべき言葉がある。


「…以前してしまった発言については本当に」

アレクセイが心から謝罪して思いを伝えようとした瞬間、「そうですわ」とアリスティアは何か思い出したように遮った。

「わたくし言い忘れていたのですが。実は明日、王妃様に王宮へと呼ばれておりますの」

思い掛けない話題にアレクセイの思考は停止した。

「その呼ばれている理由というのが、王妃様主催のお茶会が明日王宮にて開かれるのです。ですので、今夜は早めにゆっくりと休ませて頂こうかと思います」

「そ、そうか…」

先程までとは一変し、今日は寝室で共に朝まで休みたいなどという、空気ではなくなってしまった。

一瞬また躱されてしまったのだろうかと思ったが、王妃に呼ばれて王宮に赴くのは本当なのだろう。
このような嘘を付く筈はなく、それならばきっと自分のタイミングが悪かったのだと、自身を納得させて寝室を退室する事にした。

今まで寝台を別にしていたにも関わらず、大事な用事がある前日に、いきなり寝室を共にする様に迫るのは悪い気がする。また日を改めればいい。

「私も明日は仕事だが、王宮には何時くらいに行く予定何だ?」
「お昼過ぎですわ」
「そうか。お休み、アリスティア」
「お休みなさいませ旦那様」

白を基調とした家具を揃え、調度品や庭の花などを飾り、洗練された中にも温かみのある寝室。
そこからダークブラウンの家具で統一された、シンプルな私室へとアレクセイは戻っていった。

幸せな時間は振り返ればほんの、瞬きをするほどの感覚だった。先程までの共にいた時間は、あんなにも幸福で満たされていたというのに、離れた瞬間乾きに似た感覚に陥る。

私室が冷たい印象に感じられたのはきっと色味や家具のせいではない。アリスティアがいれば自分はどこでも満たされる気がした。

アリスティアにはゆっくり休んで欲しいが、まだ寝れそうにないアレクセイは再び執務を再開する事にした。
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