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お茶を飲みながら
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王宮から持ち帰った仕事を片付け、湯浴みで入念に身体の隅々を洗い終えたアレクセイは、支度を急ぐ。仕事の疲れを愛しい妻に癒してもらおうと、私室と隣接している夫婦の寝室へと早急に向かった。
私室と寝室を繋ぐ扉を叩くと、すぐに彼女はアレクセイを部屋へと通した。そして二人並んで長椅子に腰かける。
アレクセイは以前夜に一度、アリスティアに仕事の話をしてみたら、次の日の夜からハーブティーが用意されるようになった。
普通のお茶より、ハーブティーの方が神経を和らげるから夜はこちらの方がいいのだとか。
そしてよく寝れるようにと、就寝前に飲むと効果的だと言われるハーブティーが、いくつかブレンドされている物をアリスティアは出すようにしている。
それを自らの手で注ぎおえた、白磁のカップを差し出す。
「どうぞ」と言う一言が掛けられ、アレクセイは温かいお茶が入ったカップに口を付けた。
優しい香り付けに心が安らいでいくのが分かる。最近では行為が終わった後も、アリスティアの入れたお茶を飲みながら、話す時間も得られるようになった。
お陰で前より睡眠の質が良くなったと、アレクセイ自身も実感している。
さり気ない気遣いにいつも癒されていた。
ハーブティーを飲み終え、二人寝台に移動すると「では、脱いでもいいですよ」とアリスティアからのお許しが出た。
アレクセイは「分かった」と一言言うと、指示通り、シャツのボタンを順に外していく。妻のお許しが出てから衣服を脱ぐ。
自分からは抜いだりはしない。それは紳士として当然の事。といっても以前に、一度妻アリスティアの可愛さに我慢が出来なくなり、自主的に脱ごうとしたら怒られてしまった。『勝手に脱ぐな』と。確かに、妻に了承も得ずに強制的に夜伽の相手をさせるなど、相手への思いやりに欠けていた。
体調面や精神面などさまざまな問題から、気乗りしない時もあるだろう。妻へは決して強要してはいけない。
ちなみにアレクセイは結婚以来、気乗りしない日など一日足りともなかった。
「良く出来ましたわね、旦那様。ご褒美に、今日は最初から拘束して差し上げますわね?」
シャツのボタンを外し終わるのを見届けると、彼女は楽し気に声を弾ませて言うが、アレクセイは微かに柳眉を寄せた。
「何故それが褒美なんだ?褒めてくれるなら、拘束せずに抱き締めさせて欲しい…私はアリスティアをこの手で触れたり抱き締めるだけで満たされ…何だそれは?」
アレクセイの言葉を聞いているのか興味がないのか、アリスティアは寝台近くの棚を開け、黒い布を取り出した。
「これで旦那様の目を隠してみようかと」
「なに…?見えなければ、アリスティアの姿をこの目に映すことが出来ないではないかっ」
妻の信じられない発言に、アレクセイは虚を突かれ目を瞬いた。
「…喜んで拘束されたまま目隠しされたがると思って、ご用意致しましたのに…」
「…喜ぶ訳が………何だと?拘束したまま目隠しだと…?」
何かを想像したのか、アレクセイはゴクリと生唾を飲み込み、アリスティアはそれを見逃さずクスリと笑みを浮かべた。
「お嫌でしたのね?ではこれはもう必要ないですわね。捨てておきます」
「待て、せっかくだから一度試してみても良いとは思うが?まずは使用してみてから、判断はそれからだ」
◇
「……アリスティア?」
アレクセイはボタンを全て開け放ったシャツを、片方の肩が露出された脱ぎかけの上から紐で縛られていた。更に目隠しされた状態で、寝台に一人ポツーンと座り、不安に苛まれながら呟いた。
「どうかなさいました?旦那様」
返答をくれた可愛らしい声が何故だか割と遠くから聞こえてきた。
「何処にいるアリスティアっ。何故離れた所から声が聞こえるんだ。何故放置するっ」
「何だか喉が渇いてしまいまして、お茶を飲んでおります。この一杯を飲み終えてからでも宜しいですか?」
アリスティアの洗練された美しい所作により、再びポットからカップにお茶を入れて飲んでいるなど気付かなかった。
「何故いきなり、喉が渇いた!?先程既に呑んでいただろう、どうしてこのタイミングでそうなるっ」
「生理現象ですから、申し訳ございません。今縛られて目隠しされた旦那様を見ながらお茶を楽しんでいますので、ほんの少しだけお待ち下さい。お時間は取らせませんので」
「そ、そうか……生理現象だしな。喉が乾くのも仕方がない…」
少し腑に落ちないが、お茶を飲むなとは言えない。納得しかけた所で、アレクセイはもう一つの事に思い当たる。
「いや、ちょっと待て。本当に見ているんだろうなっ?実は見ていなくて、全然違う方向を見てお茶を飲んでいるとかないな?ちゃんとこちらを向いているんだな?…放置だけは絶対に駄目だ。アリスティアっ、返事をしてくれ」
氷の王子の異名は何処に行ったのか、目隠しして縛られたアレクセイは普段の三倍やかましかった。
私室と寝室を繋ぐ扉を叩くと、すぐに彼女はアレクセイを部屋へと通した。そして二人並んで長椅子に腰かける。
アレクセイは以前夜に一度、アリスティアに仕事の話をしてみたら、次の日の夜からハーブティーが用意されるようになった。
普通のお茶より、ハーブティーの方が神経を和らげるから夜はこちらの方がいいのだとか。
そしてよく寝れるようにと、就寝前に飲むと効果的だと言われるハーブティーが、いくつかブレンドされている物をアリスティアは出すようにしている。
それを自らの手で注ぎおえた、白磁のカップを差し出す。
「どうぞ」と言う一言が掛けられ、アレクセイは温かいお茶が入ったカップに口を付けた。
優しい香り付けに心が安らいでいくのが分かる。最近では行為が終わった後も、アリスティアの入れたお茶を飲みながら、話す時間も得られるようになった。
お陰で前より睡眠の質が良くなったと、アレクセイ自身も実感している。
さり気ない気遣いにいつも癒されていた。
ハーブティーを飲み終え、二人寝台に移動すると「では、脱いでもいいですよ」とアリスティアからのお許しが出た。
アレクセイは「分かった」と一言言うと、指示通り、シャツのボタンを順に外していく。妻のお許しが出てから衣服を脱ぐ。
自分からは抜いだりはしない。それは紳士として当然の事。といっても以前に、一度妻アリスティアの可愛さに我慢が出来なくなり、自主的に脱ごうとしたら怒られてしまった。『勝手に脱ぐな』と。確かに、妻に了承も得ずに強制的に夜伽の相手をさせるなど、相手への思いやりに欠けていた。
体調面や精神面などさまざまな問題から、気乗りしない時もあるだろう。妻へは決して強要してはいけない。
ちなみにアレクセイは結婚以来、気乗りしない日など一日足りともなかった。
「良く出来ましたわね、旦那様。ご褒美に、今日は最初から拘束して差し上げますわね?」
シャツのボタンを外し終わるのを見届けると、彼女は楽し気に声を弾ませて言うが、アレクセイは微かに柳眉を寄せた。
「何故それが褒美なんだ?褒めてくれるなら、拘束せずに抱き締めさせて欲しい…私はアリスティアをこの手で触れたり抱き締めるだけで満たされ…何だそれは?」
アレクセイの言葉を聞いているのか興味がないのか、アリスティアは寝台近くの棚を開け、黒い布を取り出した。
「これで旦那様の目を隠してみようかと」
「なに…?見えなければ、アリスティアの姿をこの目に映すことが出来ないではないかっ」
妻の信じられない発言に、アレクセイは虚を突かれ目を瞬いた。
「…喜んで拘束されたまま目隠しされたがると思って、ご用意致しましたのに…」
「…喜ぶ訳が………何だと?拘束したまま目隠しだと…?」
何かを想像したのか、アレクセイはゴクリと生唾を飲み込み、アリスティアはそれを見逃さずクスリと笑みを浮かべた。
「お嫌でしたのね?ではこれはもう必要ないですわね。捨てておきます」
「待て、せっかくだから一度試してみても良いとは思うが?まずは使用してみてから、判断はそれからだ」
◇
「……アリスティア?」
アレクセイはボタンを全て開け放ったシャツを、片方の肩が露出された脱ぎかけの上から紐で縛られていた。更に目隠しされた状態で、寝台に一人ポツーンと座り、不安に苛まれながら呟いた。
「どうかなさいました?旦那様」
返答をくれた可愛らしい声が何故だか割と遠くから聞こえてきた。
「何処にいるアリスティアっ。何故離れた所から声が聞こえるんだ。何故放置するっ」
「何だか喉が渇いてしまいまして、お茶を飲んでおります。この一杯を飲み終えてからでも宜しいですか?」
アリスティアの洗練された美しい所作により、再びポットからカップにお茶を入れて飲んでいるなど気付かなかった。
「何故いきなり、喉が渇いた!?先程既に呑んでいただろう、どうしてこのタイミングでそうなるっ」
「生理現象ですから、申し訳ございません。今縛られて目隠しされた旦那様を見ながらお茶を楽しんでいますので、ほんの少しだけお待ち下さい。お時間は取らせませんので」
「そ、そうか……生理現象だしな。喉が乾くのも仕方がない…」
少し腑に落ちないが、お茶を飲むなとは言えない。納得しかけた所で、アレクセイはもう一つの事に思い当たる。
「いや、ちょっと待て。本当に見ているんだろうなっ?実は見ていなくて、全然違う方向を見てお茶を飲んでいるとかないな?ちゃんとこちらを向いているんだな?…放置だけは絶対に駄目だ。アリスティアっ、返事をしてくれ」
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